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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
気が付けば魔族が!編
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第五十四話 エレオノーラの復活、ティーナ躍進の始まり…

 商機を逸したポーレスト商店一行は泣く泣く指定された宿へと肩を落として戻って来た。

「私はなんて運の悪い女のだろう…」

 店長を務めるティーナは失意のうちに二階へと上り自室へと移動する。そこで丁度キャメルと出会う。

「お帰りなさい、ティーナさん。さぞ大変でしたでしょう」

 彼女としても嘗ては商人の娘であった事から、今回の事がどれほどの痛手であるかを多少なりとも理解できている。それ故にこの言葉からティーナに対する慈愛の様なものを醸し出していた。それを察する事が出来たのか、失意に打ちひしがれていた彼女には止めとなる。目元から大粒の涙を溢れさせ始めた。ティーナにしても我慢に我慢を重ねて来ての事だ。従業員の前では決してなく事は許されない。上の者が自身の事で泣く事は下の者の士気に影響を及ぼす。たとえ女性であろうとも許される事では無い。この世界ではやはり女性の地位と言うものは低く見られているから尚更だ。

「うっ、うう…」

 そう呻き声を上げながら彼女は叫び出す。


「ええ、私は商売に失敗したわよ!何よ、王都でも若いからってギルドから仲間はずれにされる、女だからと言って相手にして貰えない。次第に商いも縮小しなければならず、あと数カ月もすれば店を畳まなければならないかもしれない!そんなとき巡って来たチャンスをこんな、こんなことで…」

 最後は彼女も不謹慎であると考えたのであろう。だが彼女とて苦労に苦労を重ねてきた人生である。藁をも掴む思い、一獲千金の輸送ルートを無傷で運ぶ事が出来たのだ。その未来は眩いほどの道が開けていたはずなのだ。それがどうであろうか、崩落事故により人は蜘蛛の子を散らすように居なくなり、絶望の淵へと追いやられているのだ。上げて落とす、これをされると人の心は簡単に折れる場合が在る。

 今の彼女はその一歩手前であったが、キャメルに対して腹の底に溜めていた思いを一気に吐き出したことで、スッキリしていた。


「そうですか、苦労為されたのですね…」

 自身も十代前半で全てを失った中からワレンスナに救われこの道へと進んでいた。しかし言葉では簡単に過去の話として語れるが苦労は並大抵の物では無い。

「ええ、分かってくれるの…?」

 ティーナも苦労してきた人生の中で、歳の近い同性の友人と言うものは皆無であった。それ故思っている事を吐きだすことなく生きて来た彼女は、心底すっきりとしていた。

「全てとは申しませんが私の父も商人でした。ですが…」

 彼女はティーナに過去の話しをする。

「貴方も苦労しているのね…」

 辿って来た人生は違えども、何処か共感出来る二人は連帯感が生まれた瞬間であった。


 とまれキャメルが此の宿に残っているのはエレオノーラの看病のためだ。余り部屋を空ける訳にはいかない。彼女はティーナを伴い部屋へと戻った。彼女としても依頼主として心配をしているからだ。

 キャメルを先頭に扉を開けると、件のエレオノーラは目を覚ましていて上半身を起こし、外を眺めていた。

「エレオノーラ、よかった。目を覚ましたのですね。体調はいかがですか?」

「キャメル、それにティーナさん。申し訳ありません、護衛の任務の最中に倒れてしまって」

 ベッドの上からであるが彼女はその様に謝罪の言葉を述べる。


「構わないわ。結果として輸送十割を達成しているのよ。あなたは任務を確りとやり遂げたじゃない。だから貴方は気にせずに休んでいて」

 その様に気遣うティーナの言葉尻や雰囲気などが、がらりと変わっている事に気が付いた。だが此処で言うべき事ではないと彼女は思った。

「ありがとうございます、ティーナさん。それでキャメルこの騒がしさは何が起こったの?」

「そうでしたね。これは崩落事故が起こっての騒ぎです」

 キャメルはこの村の中で起こった崩落事故の話しを始める。彼女とティーナは詳しい事は聞かされていないが、孝雄実たちが鉱山内に現れた魔物を倒すべく冒険者として向かった事を話した。


「そう、私のせいで一緒に行けなかったのね。ありがとうキャメル」

「気に為さらないでください。それよりもどうしますか、エレオノーラ?」

 こう言ってマリアンが尋ねたいことを理解出来る当たり仲間と言えるのだろう。

「先ずは現状がどうなっているかを知らなくてはいけないわね」

「外に出てみるか?」

 二人が悩んでいるとティーナが提案する。

「ならばセムレス男爵様のお屋敷へと向かってはどうかしら。緊急依頼ならば男爵様の権限なのだから追い払われる事はないと思うのだけれど…」

 彼女の言葉は値千金であった。準備を行い三人は屋敷へと移動するのだった。






「ああ君たちか…」

 セムレス男爵の屋敷へと移動すると屋敷は多くの人間が出入りしていた。兵士が忙しなく屋敷を出入りしていた。門番だけは必ず二名立っているが身分さえわかれば中へと入る事が出来ていた。三人は開け放たれている正門を通り屋敷内へと入る。使用人へと面会願いを告げていたところ直ぐに会う事が許可された。

「初めましてセムレス男爵様。わたくしエレオノーラと申します。此方はキャメルと申します」

 年齢ではキャメルが上であるがエレオノーラは孝雄実の副隊長的な位置づけとして認識されている。だからこの場では彼女が先頭に立って話しを行う。

「うむ、君たちは冒険者なんだね」

 彼は多くの報告書を読みながら口だけで三人と会話している。


「そうです。私は気を失っておりまして、今までの状況を把握しておりません。よろしければお教え願えませんか?」

「そうか、まあ良いだろう。さあそちらへお掛けなさい」

 セムレスは書類や報告書を数点持って移動する。それと共にお茶を使用人に準備させていた。


「それでは始めよう。鉱山の崩落した事は知っているね。既に第三段までの報告が入っている。最新の情報では魔物を倒した。だが問題が生じていな…」

 報告書ではフレテストがその話を持って屋敷へとやって来ると言うのだ。

「そうですか、セムレス男爵様お教えいただき有難う御座いました」

「何構わんよ。知らずして不利益を被られては敵わんからな。それで君たちはどうする?特にティーナ、君はどうする?この状況では物は売れないだろう」

 セムレス男爵はティーナの現状を理解している。この村の長官である彼は村人がどの様な行動をするかと言う事を定めた張本人である。それ故に販売しようと燃えていた彼女の落胆する気持ちが分かっている。


「はい、出来る事ならば一週間以内に品物を販売しなければ運び入れた品がありますので、どうにかして頂きたいのです」

「ふむ、商品を見てからになるが購入すべきものであれば当家で買い入れよう。それで問題ないかね?」

 彼女の現状を心配する彼はその様に提案する。ただ人情で購入を打診しているだけでは無い。当座で必要な物資を所持しているのはティーナであると彼は考えるからだ。鉱山崩落で被る被害の予算を王家から支払われるのである。必要とされる予算は莫大な額になる。だが敢えてそれを話さず提案する彼はやはり貴族である。

「ほ、本当で御座いますか!?是非お願いします!!」






「旦那様、フレテスト・ホートマン男爵様がお越しになりました」

 使用人の一人がその様に告げる。セムレス男爵は部屋に通すようにと告げると、必要な書類を一つの封筒を用意して待つことになった。その際三人も同席するようになる。

「失礼いたします。セムレス男爵」

「無事の帰還おめでとう。ホートマン男爵」

 二人は同じ爵位の為に握手で敬意を示し合う。セムレス男爵は三人が居る席へと案内する。


「大丈夫なのかエレオノーラ?」

 第一声はそれである。臨時編成のチームであるが、嘗ては視線を共に切り抜けた仲間と言う認識が彼にはあるからだ。仲間を思う心が人一倍にある彼はその様な配慮と言うものは欠かせない。

「ええ大丈夫よ、ありがとうフレテストさん」


「話しは一応カースレアから知らせを受けているが、男爵の口からも聞かせて貰えないか?」

 セムレスは絶大な信頼を寄せるカースレアであるが、自分で確認出来るのであれば話しは別である。彼の話しとカースレアの手紙の内容を照らし合わせるのだ。

「分かりました。それでは…」

 彼はセムレスの言葉に従い坑道内での出来事をカースレア達に話した事を再度話し始める。それを聞いたセムレスは納得したように何度も頷きながら、三人は初めて知る内容に雄泥いながら話しを聞いていた。


「以上、私が知る内容で御座います」

「わかった、説明有難う男爵。カースレアの書いてある内容の通りであるな。それで直ぐに王都へと向かえるのかね?」

 これはフェーバル王へと直に会いこの現象を報告する為に向かうことになっている話しだ。その為に歳ほど書類を用意しているのだ。

「はっ、船をご用意して頂けるとのことですが、私は直ぐにでも」

「そうか、ならば済まないが直ぐにでも立って貰おう。船にはこれを示してくれ、これは当家所有の船が在る。それに乗る事が出来るのだ」

 そう言って書類と印となるカードを受け取った。


「それでは早速参りましょう。男爵失礼いたします!」

「気を付けてな。くれぐれもそれを頼むぞ」

 セムレスが話した船は片道切符である。以前書いた事ではあるが、この村は標高二千メートルの位置にあり、アレンセント川へと繋がる川が存在する。しかし、流れが急で物資を村から運び出す時だけ使用されるのだ。言わば木材を流す様なものである。つまりこの船は緊急脱出用に設えてあるものであった。それを使用させねばならないほどにこの村は危機的状況であるのだ。


「セムレス男爵済みません」

 二人に入る様に話し始めたのはティーナである。

「なんだね、ティーナ?」

「今回運んできた物資を即購入して頂けませんでしょうか?」

「なぜだね?その話は確認した後でと言ったはずだが…」

「その上でお願いが在るのです。私をホートマン男爵と共に王都へと向かわせて欲しいのです。恐らく男爵は物資の要請を出されておられるのでしょう。ならば此処へと辿り着いた私に再度物資を運ぶ役目を、王都で願い出ようと考えております」

 その言葉にセムレスは思案することになる。


 確かにこの村への輸送は危険を承知でやって来なくてはならない。余裕のある商人ではまず此処へはやってこないほどに命の危険があるからだ。ティーナの様に一か八かと言う者が訪れる様な場所であることを考えると、彼女ほど適任な者はいないのかもしれないと考えるのだった。

「成程君が責任者となり物資を運んでくる。そう言いたいのであるな」

「はいそうです。恐らく他の商人では首を縦には振らないでしょう。しかし、私が各商店から馬車を借り出し引き攣れるとあれば彼らも納得すると思うのです」


 彼女は頭の中で凄まじい速さで金の算段を着けていた。取り分を三割ないし四割でも十分な利益が出ると彼女は考えている。当然馬車を借りる事は借金であるが、それを支払うことを頭に入れても元が取れると踏んでいたのだ。

「そうか…… まあ良いだろう。但しエレオノーラとキャメルも一緒に向かうのが条件だが良いかな?」

「はい、是非お願いいたします!」

 これによって一時間ほど出発が遅れることとなるが、掛けるに値するほどの効果を発揮するのであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 前話で新たな展開を匂わせておきながらエレオノーラの事を忘れておりました。

 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字時ありましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

              今野常春

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