表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
「幕間その一」 オリマッテ・ロットロン編
6/107

オリマッテ・ロットロン領地開発記 その4

 オリマッテ・ロットロンが領民に宣言した通りこの地域を支配するレイバーグ・コレスタント・ブラスト辺境伯は一日半の後に騎兵だけで駆け付けた。その時までにオリマッテは緊急処置として自身の領地から食べ物を供出させていた。勿論この領地、モノースル家の蓄えも強制的に解放しての事だ。これに従事したのは精子とまだ満足に体を動かせる領民である。さらにはロットロン領へと移住を決めている者たちもこれに参加する。

「オリマッテ!無事であったか!!」

 忙しく動き回るオリマッテに騎兵で颯爽と駆け付けたレイバーグが近付いてその様に言葉を掛ける。

「ブラスト辺境伯様!はい、お陰さまでこの様に元気で御座います」

 周囲に居た者たちはオリマッテ同様に頭を下げて彼に礼を取る。

「ああいい、楽にせよ。それで、現状の話しを聞きたいのだが大丈夫か?」

 レイバーグはオリマッテの忙しそうな状況にその様に尋ねる。

「はい。ロドム、アレバレルと共に任せて大丈夫だな?」

「お任せ下さい。既に大抵の事は完了しております」

 ロドムの言葉でオリマッテはこの場を後にする。


 レイバーグを伴いやって来たのはモノースル家の屋敷である。此処には当然元凶のグーテコバ・モノースルを始めとした、モノースル一家が軟禁されている。グーテコバだけで在れば良かったのだが、家族全員が彼の様な振る舞いであった。その為に屋敷に押し込めて軟禁する形を取った。

「まったく信じられんな、これがあいつの倅の実体か…」

 移動する最中オリマッテは領民から聴取を救済活動と並行して行わせていた。そして聴き取りした内容を纏めて説明をしていたのだ。

「私からは何とも申し上げられませんが、早急にこの領地をどうにかしなければ、領民は暴発致します事は明白です」

 オリマッテとモノースル家前当主とは少しだけ関係が在った。それは彼が商人であり、レイバーグの御用商人であったときに次いでの商いとして行っていたと言うものだ。そしてレイバーグと前当主ドロネンとは幼い頃からの親友に等しい間柄であった。その為にオリマッテは何かを言う事に憚れたのである。

「そうだな、今アシュリが必要な物資を手配しておる。済まないがもう暫くそちらから供出してくれ。後日穴埋めはするから必ず私に報告書を出すようにな」

「はい、誠にありがとうございます。そして、此処は如何なさる予定ですか?」

 オリマッテは再度彼にとって中の悪い人間が領主になる事は御免被りたいと言う気持ちである。そして、出来ればレイバーグの住まう街、ブラストルアイクとの風通しを良くしたいと言う考えを持っていた。


「そうだな。ドロネンには申し訳ないが、此処まで酷い統治を行っているのであればお家取り潰しにするしかない。そして此処はお前に任せたいのだが」

 レイバーグは何気なくオリマッテに話しかける。

「へっ?わ、私ですか!?」

「ふっ、何だそんな変な声を出して。そうだ、どうせならばこの村を合わせて一緒に開発を行ってはどうかね?」

 レイバーグは思い付きで話していたが、だんだんとその提案が最善策の様に思えてきた。何と言っても右腕と目されていたドロネンが早くに亡くなりオリマッテを後釜と考えていたのだ。いきなりではあるが実力を試す上でも丁度良い機会と考える様になる。彼はオリマッテを息子の右腕にと考えているのだ。やはり歳が近いと問題が少なからず存在していた為、彼なりの方策であった。

「共同開発ですか……確かにそれは魅力的なお話しではありますが…」

 オリマッテも共同開発には大いに賛成なのだ。何と言ってもモノースルの領地を抜けなければ自領へと辿り着く事は出来ないのだ。だからこそ、オリマッテは今この場に居り、物資を放出し商人を救出していたのである。しかし、自分の領地開発でも自身で振り返りギリギリな経営であると考えている彼にとって、規模が倍にもなる村を任されては動けなくなる可能性を心配していた。


「やはり人が足らんか?」

 レイバーグはその様に彼に問い掛ける。するとオリマッテは言葉なく頷く。

「はい、それに此処の領民がどれほど協力して下さいますか…」

 手酷い領地経営を行っていたモノースル家によって領民の心は離なれている。それを先ずは戻すところから始めなければならないのだ。そして信頼出来るオリマッテの家臣が居ないのだ。ロットロン領だけで在れば村は一ヶ所だけを統治すれば良かった。しかし、それが二つともなれば話しは別となる。村同士の距離は約一日で行き来できる距離だ。

「そうか、確かにドロネンには優秀な家臣が多数存在していたからな…」

「はい、ですので最初はグーテコバが追放した家臣の呼び戻しから始めなければなりません」

 実際領地経営は領主の手腕も必要だが有能な官吏たちが居て初めて上手くいくのだ。グーテコバはその様な得難い人材を事如く切り捨てていた。その為に細部にまで手が及ばず、さらに無闇矢鱈に徴発する始末。その為、次第に経営が悪化していたのだ。


「そうだな。話しではその中の家臣も斬られてしまった者も居ると聞く。全てを集める事は不可能ではあるが、出来る限り行おう。それ前は当面君にこの領地の維持を頼む。これならばどうだ?」

「はい、それならば為してみせましょう」

 こうして当面の処置は決まった。そう二人の心の中で思い、さあ次が本題であると言う認識であった。

 二人がそう思っている件の人物が居る場所へと移動を行うと、既に大声が彼等のある廊下へと漏れ伝わって来ていた。

「まったく子供だな…」

「誠ですな…」

 二人は心底嫌々な思いを胸にしまい込み、扉の外で見張っている兵士に開けさせる。


「ブラスト辺境伯様!お前はオリマッテ!!」

 グーテコバは先頭のレイバーグには愛想良くしようとしたが、後ろに憎き男が居た事で見事表情が崩れた。この場にはモノースル家の全員が押し込められている。占めて二十五名が約二十帖の部屋に置かれている。

「反省はしたかなモノースル男爵?」

 レイバーグはそう優しく彼に問い掛ける。するとこれを赦してもらえると勘違いをしたグーテコバはしきりに反省の弁を表面上言いつくろって話し始める。

「勿論で御座います。私、グーテコバ・モノースルは大いに反省しております!」

 彼はその様に言葉を発すると深々と頭を下げる。それに続き家族たちも同様に頭を下げる。

「ふむ、何に対して反省をしているのかね?」

「勿論全てにで御座います!」

「全てとな。済まないがモノースル男爵その全てと言う事柄を話してくれないか」

 そうレイバーグが述べると突如グーテコバから汗が噴き出す。そして反応の良かった言葉も次第に縮こまっていく。

「そ、それは…そうです。先ず領内の統治を怠りました事で御座います!次に私に五月蠅く言葉を述べていた家臣どもの対処です。そして此の度の発端となりました商人を拘束した事で御座います」

 大まかに彼は三つを述べた。当然これらは重要な事柄であるが掘り下げればそれどころの話しではない。


「成程。確かに今君が述べた事は大いに反省をして貰わねばならぬな。しかし、些か大雑把に過ぎるな。モノースル男爵家として三百年の歴史が在るが、貴族とは何であると教わっている?」

「き、貴族とは、ですか?」

「そうだ、貴族たる者何をしても許される存在ではあるまい。貴族と言う特殊な存在、それらに与えられる権利が在ると言う事は責任も当然付随する。やったことに対する責任と言うものはどの様な者にでもあるのだ。それで、モノースル男爵家はどの様な物と教えを受けている」

 レイバーグはその様にグーテコバへと再度問い掛ける。すると彼は焦りからかさらに汗を噴出させる。

 今になってレイバーグの話す内容を理解し始めている様であった。体を振るわせ始め、歯を打ちつける。それを見て彼の家族も同様に焦りの色を見せ始める。それを見てレイバーグとオリマッテは本当に好き勝手なことをしていたのだと痛感した。そしてレイバーグは此処まで酷い事を放置した自身を恥じるとともに二度とこの様な事を起こさせないようにしなければと切実に考えている。

 オリマッテも幾ら仲の良くない者とは言え、領民には罪は無い。無理矢理にでも介入するべきでは無かったかと反省するのである。


「貴族とは領民・平民在って初めて貴族となれるのだ。彼等が生産した作物を我らは税としていただき、それを領内の発展、領民の為に使用し守る義務が在る。我らは彼等に養って貰っているだけに過ぎないのだぞ。それを勘違いして自分は偉いと考える等愚か過ぎると言うものだ!」

 嘗て五月蠅いほどに父ドロネンから言われた言葉であり、その当時煩わしいと思う程にどうでもよかったと話しだとグーテコバは考えていた。そしてドロネンが亡くなり、家督を継いでからの彼は酷いと言わざるを得ない統治を行う。それに対してアレバレルが手を拱いては居なかった。執拗にドロネンと同じ言葉を彼に言い聞かせようと努力に努力を重ねていたのだ。

 だが、相手が悪すぎた。グーテコバの生い立ちは何処にでもある貴族のそれと変わりが無かったが、ドロネンにとって遅くに生まれた跡取りであった。その為に余計に可愛く感じ甘やかして育ててしまったのだ。勿論怒る場面では確りと怒るのだが、下々の人間から見れば貴族は偉い者であると感じている。特に当主の意見に逆らうことはしない。ドロネンが甘やかせば、それに倣う様にグーテコバへと接してしまうのだ。その事が災いし、彼が当主となり最悪な形となって現れてしまった。しつこいと感じるほどの言葉を受けたアレバレルを周囲の反対をものともせずに使用人にまで落としてしまう。それ以外にも耳触りの悪い言葉を発する家臣を追放、処刑などとんでもない行為を平気で行っていた。それらはレイバーグへと届いていたが、彼の家臣であろうとも家臣の家臣に対する処罰を咎める事は出来なかった。それがドットゥーセ王国の決まりであったからだ。グーテコバは裁量権の範囲内で処理を行っているに過ぎなかった。


「た、確かにその言葉は父より聞かされておりました!」

「ではなぜ此処まで酷い事になった?いいかねモノースル男爵。私は君に期待をしている訳ではない。残念だがドロネンの様な才を発揮できるとは思っていなかった。しかし、ドロネンの事だ教育は確りと施したと考えていた。聞けばその環境は確りと整えていたそうではないか。だが君はそれを怠っていたと言う事だ。当時の教育係を教え方が悪いと一方的にクビにし、成績を改竄させ政務に忙しいドロネンを騙していたそうだな」

 レイバーグがそう言うとグーテコバの態度が真実を物語る様に怪しくなる。数々の愚行はレイバーグの密偵がつぶさに情報を上げている。それらを精査するのは腹心のアシュリ・ホルクス子爵である。アシュリ、ドロネンは互いに切磋琢磨しレイバーグが当主となるブラスト辺境伯家を盛りたてて行くことを誓い合っていた。それを以ってレイバーグに絶対的な忠誠を誓っていたのだ。その息子の行動にやりきれない気持ちになりながらもアシュリはレイバーグへと情報を届けていた。

「そ、それは…」

「まあそれも過ぎた事だ。これよりモノースル男爵に対する処罰を命ず。レイバーグ・コレスタント・ブラストの名によってモノースル男爵家は断絶、当主は死刑とする。子供に関しては王都へと送ることが決定している。ただし、十歳までの子である。それ以外は国外追放と言う処分を下す。なお反論は許さん!以上だ」

 レイバーグの言葉にグーテコバ以外のモノースル家の人間は大きく項垂れる。子供は訳が分からず泣き叫ぶが、それ以上に酷かったのがグーテコバである。


「何故です!何故私が死なねばならぬのです!?私はモノースル男爵ですぞ!二百年続く家柄にしてれっきとした貴族の私を死刑?在り得ません!!」

 反論ではない。既に彼の話している言葉は支離滅裂な言葉の羅列でしかない。

「君はそれだけの振る舞いをしていたのだ。分かるかね、君は兵士に命じ無辜の民を殺害させていたそうだな。其れだけでも君は男爵と言う地位を追われてもおかしくは無かったのだ。だが、私も甘かったのだ。ドロネンの息子だと思い何処かで更生すると思っていた。しかし、行動は酷くなる一方だった…」

 そう話すレイバーグの瞳は冷徹なものであった。






 かくしてグーテコバはレイバーグの兵士等に連れて行かれ、処刑の日まで牢獄へと繋がれるのである。

 連れて行かれる間も自分は悪くないと言う様な趣旨の支離滅裂な言葉を吐き、さらにはオリマッテへの罵詈雑言は甚だ聞いていられないほどである。グーテコバ・モノースル家の人間は十歳以上の者が二十名居る。男性十二、女性八名と言う内訳である。彼等全員が国外追放となるのだが、一名だけ赦された者が居た。十四歳の女性である。彼女はそれ以外の者とは八歳も違い、さらには横柄な振る舞いを良しとせず家族に対して慎むように諭していたのだ。それ故に彼女は家族で疎まれる存在であった。それをモノースル家の人間であるからと処断することは、レイバーグには出来なかった。

 この女性の名はファーと言う。グーテコバの妹であり、ドロネンの一番下に当たる娘であった。ドロネンには本来三人の息子に四人の娘が居た。しかし、息子は家督争いを恐れたグーテコバが二人の弟を殺してしまった。この時、ドロネンは疑いもせず、自身が遅くに作った子供であるが故と諦めていたのだ。

 娘はファー以外全て嫁いでいる。その為彼女たちは一切の咎めが無かった。


「初めて御会い致します。わたくしはファーと申します」

 そう彼女は膝をついてレイバーグへと言葉を述べる。既に彼女の家族は全員が連行されている。今や天涯孤独の身になったも同然である。

「うむ。ドロネンの娘であったな」

「はい、残念ながら父の顔を知らない身ではありますが…」

 彼女はまだ母親の胎内に居る時にドロネンが亡くなっている。その為に話しで聞くだけであった。

「そうか、それで、君はどうしたい?出来る事は何でもしようと私は考えている」

 やはりレイバーグはドロネンを通して彼女を見ているのである。だが、それ以上に彼女の振る舞いが彼をその様な考えにさせてもいた。

「暫くは勉学に励み、旅に出たいと考えております」

「旅?」

「はい、私は兄にとり最後の駒の様なものでした。恐らく何処かと婚姻を結ぶ為の、そう考えていたのでしょう。その辺りの教育は受けて参りましたが、外へは自由に出る事が敵いませんでした。ですので、これからファーと言うだけの女性になったのです。自由に旅に出たいと考えております」

 彼女はその様に述べるがレイバーグはそれだけでは足りないと考える。と言うのも、この国では領民の移動は基本領主の許可なしには行えからである。同じ領主が統治する場所ならば問題が無いが、それ以外であれば必ず通行所を提示しなければならない。自由に移動を許される平民は商人と冒険者だけである。


「そうか、しかしそれでは駄目だな。ファー君は通航制限と言う言葉を知っているかね?」

「い、いいえ存じ上げません」

「であろうな。いいかね、領民は基本的に領主の許可なくば違う場所へと移動が出来ない仕組みになっている。これは、言い方は悪いが領民を一財産と見做しているためだ。今の君はモノースル家の人間ではない。そうなるとこの地の領民となり、何れ就任する領主の許可を受けねば何処にも行けない」

 そう言われファーはがっくりと肩を落とす。この辺りの事はまったく知らなかったのである。そもそも知る必要が無い事と教えられていなかった。

「そこでだ、ファーこのオリマッテに付き従いなさい。彼にこの村の統治を任せる事になっている」

 そう言うとファーはレイバーグの後ろに立つオリマッテを見やる。

「彼に従い、教育を受けるのだ。何も本に書いてある事だけが勉学ではない。生きて行く為の方法もまた勉強である。それらを確りと学び、彼が良しと認めた場合自由に行動出来る冒険者になりなさい」

 レイバーグはそう言って彼女に近づくと頭を撫でる。今迄人の優しさと言うものを味わってこなかった彼女にとり、初めて頭を撫でられたこともありぼろぼろと涙を流してレイバーグの処置に感謝をするのであった。


 新年明けましておめでとうございます。

 皆さまにとりまして素晴らしい一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。


 と言うことで新年一発目の投稿で御座います。

 さらに精進してと気合を新たに作品を書き上げて参ります。どうぞ本年もよろしくお願い申し上げます!

              今野常春

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ