第四十八話 祝冒険者になりました!!
受験者にとっては熱い一日が終わりを迎えた。合格者は七割である。あくまで資格であり、これからが彼等の試練の始まりである。
閑話休題、試験で摸擬戦闘を行った現役冒険者たちはギルド職員へ報告書を提出している。これは受験番号と合否が書かれ、その後に勝ち負けの欄が設けられておりそのどちらかにチェックを入れると言うものだ。
「はい、これが私の受験者たちのだ」
「お疲れ様です、リィーナさん!!」
レーナの様な元気いっぱいな男性職員である。孝雄実との戦闘中、彼女の言葉を覚えておられるであろうか、彼女たちは受験者を平等に受け持つ訳ではない。彼等は今回に当たり当然報酬が出されることになっている。それも受験者一人当たりと言う歩合制になっている。全員で百八十一名が参加している中で冒険者は十名である。平均すれば十八名を相手にすることになるが、それでもバラつきが出る。
「えーっと…わっ凄いですね。二十五名ですか。……それではこれが報酬です。ご確認ください」
彼はその様に話すと彼女に報酬を渡す。渡したのは袋に入れられた金銭とそれらの内訳が記入された明細である。
「ありがとさん。また今度も頼むよ」
「いえいえ、リィーナさんが合格を認めた方の質が高く評判なんです。ですので、こちらがお願いをしなければなりませんよ」
お世辞ではないが彼女には当たりまえのことをしているのに等しい。別にそれ以上を言われることではない。その様に彼女は思っている。
「そうなのか、ありがとな。それじゃあ今日はこれで」
「ありがとうございましたー」
彼の言葉を背にリィーナは窓口を後に、手に入れた報酬でギルド内にある食堂へと足を向ける。
「よう、リィーナお疲れさん!」
「お疲れー」
食堂には彼女と共に試験官役として参加した冒険者である。さながら打ち上げの感が滲み出ている。
「ああ、お疲れさんゲリット、マクルエ」
彼女は彼等の席にどかりと座ると大きく息を吐き出す。緊張感から解放された彼女はとたんに疲労感が襲いだす。だが気持ちの良いものであったと彼女は感じている。
「なんだ、随分と疲れている様だな」
そう尋ねたのはゲリットだった。
「まあね、初めてだよこれに参加して負けた相手が出たのは…」
その言葉でこの場にいた人間は驚きに包まれる。と言うのも彼女は冒険者の中でも有名な女性である。加えて冒険者ギルド側から乞われて試験官になって以来無敗記録が続いていたのだ。
「何っ、お前さんも負けたのか!?」
「ん、なんだゲリットも負けたのか?」
「ああ、俺だけじゃねえぞ。マクルエとセルトにカナだろそれにジャールだ。全部で六名だな」
十名いる中でこれだけ負けた冒険者がいるとは驚きであった。そもそも実戦経験の乏しい相手に現役のそれも名の通った冒険者である。それらが負けると言うのが信じられないのである。
試験官が見るべき点は受験者の本気度と将来性である。あくまでも将来性と言うのは感覚であるが、彼等十名はそれにも信頼されての指名である。
「結構今回は質が高いと言うことか、皆は何人負けたんだ。私は一人だが…」
そう言うと残り五人は二人である。
「俺たちの話しを合わせると、近衛騎士団の人間が受けに来ていたようだぜ。俺たち五人がそうだった。リィーナは違うのか?」
「そうだな、私は違うな。平民の様だったが随分と良い剣を持っていたな。それに強かったぜ」
「へーリィーナがそう褒めるなんてよっぽどなんだな」
そう言葉を発したのはジャールである。彼は彼女に気が有る男である。
「まあな、あれほどに気合の入った剣撃は久しぶりだったよ。たしかコンドウ・タカオミと言ったな」
「そうか、俺のところは女だぜ。名前はなんだったかな…そうだ、マリアンって言っていたな。大剣を軽々と振り回していな。あんな女初めてだったぜ」
マリアンと対戦したのはマクルエである。大柄な男で、よく焼けた肌にスキンヘッドと髭がポイントである。彼は斧を振り回す怪力の持ち主であった。
「へー俺も女だぜ。キャメルって名前だったな。鋼が織り込まれた鞭での攻撃はやばかった…」
「僕も女の人だったよ。ガルミナ製の投剣だったけど投げるし斬り付けるし、俺の武器ぼろぼろだよ…」
キャメルはセルトが、フェータはカナが相手をしていた。二人の武器は剣と弓である。
特にカナの場合弓であっても接近戦で戦えるような仕様に造られた物を使用している。
「俺はレイスレットって言う貴族様だったな…あのハンマーは異常だぜ……」
六人は反省会の様な負けっぷりの自慢大会の様な場になっていた。
「まあ、私たちは全員が負けたってことが分かったんだ。よかったじゃないか、これでまた上が目指せる。最近刺激が少なかったからな、私は今回の事は収穫が大きかったぜ」
リィーナは新たな目標を得ている様に話している。それは五人も同じであった。
「だな、俺はこれから辺境へと向かうぜ。もっと強くなる」
「俺もゲリットについて辺境に向かうよ」
マクルエはそう言って隣にいるゲリットとコップを合わせて打ち鳴らす。
「僕は洞窟へ向かうことにするよ。辺境へ行くと弓では不利だからね…」
「俺はブラスト辺境伯領へ行くことにしている。あそこは結構事件が起こっているからな、意外と空白地帯が生まれて新たな事象が発生しているかもしれないからな」
鬼、賊の襲撃、ゴブリンの話しは此処でも伝わっている。セルトはそこで何かが起こるかもしれないと睨んでいるのだ。
「俺はどうするかな…リィーナはどうするんだ?」
ジャールはその様に話して期待を込めて彼女へと話しを振る。
「私かそれは秘密だ。それよりも私に聞いてどうするんだジャール!?」
彼女にとっては今の質問は不味かった。特に彼女の嫌いなタイプとして自分で考えようとしない人間である。それが今のジャールであった…
(なあこれって脈あるのか?)
(バカ野郎俺に聞くなよ。見れば分かるだろうが…)
(リィーナが鈍感なの?)
(見向きもされていないだけだろ…)
関係の無い四人は二人を見てそう話しをしている事は知る由も無かった。
「さて、そろそろ私は帰るよ」
リィーナは注文していた食事を食べ終わり、ゆっくりとした後席を立った。
「なんだ、もう飲まないのか?」
「悪いなゲリット、少し考えたい事もあるからな。それじゃあなみんなまた会えたらよろしくな」
リィーナはそう言ってギルドを去って行った。彼ら六人はソロで冒険者をやっている。別に仲間でも無いのだ。
「なあジャール、お前さんもう諦めたらどうなんだ?」
マクルエはその様に彼に問い掛ける。誰がどう見ても脈の無い彼女の態度に諭そうと試みる。
「いや、俺は諦めない。絶対にリィーナを落として見せる!!」
どこから来るのかジャールはその様に話して次に向けて頑張ろうと酒を飲み干すのであった…
受験者は合格した者と落ちた者は向かう先が別れている。当然落選者は怪我をしていなければ木札を職員へと返却し、冒険者ギルドを後にするのであった。
「皆さん合格おめでとうございます!!」
そう言って合格者が待機する部屋に現れたのはレーナであった。朝から遅くまでこのテンションを維持するのは流石と言う声が上がる。
「今回百八十一名中百二十七名の方が合格なされました。これで冒険者への第一歩が始まりました。これより説明に入りますが、皆さま宜しいですか?」
そう言って一同を見回し了解を得る。彼等にしても早く先へと行きたいのか意義を口にする者は現れなかった。
「それでは説明に参ります。これより冒険者ギルドの内容をご説明いたします。皆さまは新規の冒険者として登録をしていただきます。冒険者にはランクが御座いまして今の皆さまが十級です。そこから上に上がる事を昇級と言います。ランクは最大一級までとなります。例外として段が設けられておりますが、本当に稀なことですので頭の隅に入れておいてくださる程度で構いません。ランクを上げられる場合は昇級試験を受けていただきますが、それまでに皆さまは条件を満たして頂かなければ、昇級試験を受けていただくことはかないません。条件はお配りしました資料に書いて御座いますのでご確認くださるようお願い申し上げます」
そこで彼女は一度話しを区切る。長く離した為に水を含み、口を湿らせる。
「失礼いたしました。説明を続けさせて頂きます。仕事をなさる場合、ギルドでは全てを依頼と呼ぶことになっております。皆さまが依頼を行う場合は必ず受付で手続きを取っていただきますのでお気を付け下さい。これに関しましても資料に詳しく記入されておりますのでご確認くださいますようお願い申し上げます。では次に皆さまは新人でありますので、経験者と共にレクチャーを受けて戴かなくてはなりません。これは窓口で申請してください。その後職員が数名の方をご紹介いたしますので、お好きな方をお選びください。既にお仲間に冒険者が居られる場合はその方にお願いして頂いても構いません。必ずその旨の知らせは受付にて登録をしていただきますのでお忘れなく。簡単ではありますが皆さまに必要な事はこれぐらいとなります。何かご質問ありますか?」
レーナの言葉に数名が質問をして確りと答弁を行いと言う事を繰り返した後、受付場所へと移動する。此処で話しをしたりしていたのは登録証を作成する時間を稼いでいたのだ。これはキャメルが説明していた。
「コンドウ・タカオミ様、此方が冒険者カードとなります。決して失くさない様にしてください」
「ありがとうございます」
受付の女性に礼を述べて長い事待っていたエレオノーラの元へと戻った。
「お帰りなさい。合格おめでとう孝雄実」
「ありがとうエレオノーラ。長い事待たせてごめん」
彼女は試験を受けに行ってから今まで食堂で待っていたのだ。暇つぶしとして本を数冊持ち込んでいたからそうでもなかったが、それでも彼には罪悪感が有る。
「気にしないでいいわ。溜まっていた本を読むのには丁度いい時間だったわ」
「おまたせーエレオノーラ!!」
「またせたわね」
「お待たせしました」
三人も同様に彼女の元へと戻る。
「おめでとう、三人とも」
そう言って再び席について、彼等は食事を取り始める。後は二人を待つばかりである。何故か時間が掛かっている事が気になるが、戻らないと言うことはないだろうと先に食べ始めるのだった。
「これで俺たちは冒険者になったんだな」
「そうね、でもこれからよ。それでレクチャーは私でいいのよね?」
エレオノーラはその様に孝雄実に尋ねる。
「勿論だよ。エレオノーラじゃなくて誰に頼むんだよ」
「そうだぜ。エレオノーラ以外はいないよな」
そうやって話していると漸く二人は戻って来た。
「済みませんお待たせしました」
「申し訳ありません」
妙に密着した二人に何が在ったのかを言う程野暮ではない。あくまで一線を越えることはないと思ってはいるが、全員は心の中でレイスレットの姉ヴェルテーナに謝るのであった。だが、そう見せつけられては、彼女たちは堪ったものではないだろう。十分な刺激を受けていた。
彼等はエレオノーラをレクチャー役として登録を行って家路に着いたのであった。
翌日は早速ギルドへと赴いて依頼を受けることにした孝雄実はエレオノーラとキャメルから説明を受けながら選んでいた。
「うーん、沢山あるんだな…」
「目移りするよな、ご主人様」
彼等が見ているのは十級の掲示板である。本来は一つ上を選んでも構わないのだが、初めての場合は必ずこの掲示板に張られている依頼を受けなければならない。これは余りにも簡単すぎるがどうしても必要な仕事が割り振られている。それでも目移りするほどの依頼が張られている。それは国内最大の人口を抱えるが故の恩恵である。その中でも一番厳しいのは護衛の仕事であった。
「やっぱりこれかな」
そう言って孝雄実は一枚の紙を指差す。
「ピュータ村までの護衛ね…」
エレオノーラが説明した中で一番厳しいと話した依頼内容である。彼にしても何時までもブラックとホワイトを屋敷に残したままでは可哀想だと思う部分があったのだ。ここへと来てから二頭は屋敷内の庭で駆ける程度であったのだ。それはあの世界の中でも不満が漏れていた。
「私はそれで良いわよ」
「俺たちもそれで構いません」
これで依頼は決まった。
「そう、それじゃあこれを孝雄実が受付で手続きをしてちょうだい」
「ああ、分かった」
この七人は一つのチームとして登録している。リーダーは勿論孝雄実が務めることになった。彼とエレオノーラは一階に備え付けてある多くの受付窓口へと向かい列に並んで順番を待つのであった。
「次の方どうぞ」
職員がそう述べてから孝雄実は依頼の用紙を提出し、新品のギルドカードを渡す。
「おはようございます。コンドウ・タカオミ様ですね。初めての依頼ですが此方でよろしいですね?」
「はい。これでお願いします」
そう言うと彼女は所定の手続きを淡々と行っている。既に説明話されているという前提で彼女は行っているのだ。
「それでは此方をお返しいたします。裏面をご確認ください。そちらには今回の依頼内容が記されるとともに依頼回数などが書かれてあります。其方は後でご確認ください。重要なのはこちらです。必ず依頼主からサインをいただいてくださいね。それが無いと依頼達成となりませんのでご注意ください」
「分かりました」
「それでは初めての依頼、頑張ってくださいね!!」
そう職員に見送られて初めての受付を終わりみんなの場所へと戻った。
「お帰りご主人様」
「お帰りなさい」
「凄いものですね。このギルドカードは…」
キャメルはそう言うと孝雄実たちにそれを見せる。それを見ると確りと孝雄実と同じ様に依頼内容などが書き込まれていた。
「おお、凄いなこれ…」
同じチームで登録し、リーダーが依頼受付手続きを終えると仲間も同じ様にギルドカードに書き込まれるシステムになっているのだ。それをエレオノーラが説明し、ホルト王国製のシステムだとキャメルが話す。
皆は凄いと話しをしていたが、孝雄実は少し違う視点で見ていたのだがそれは別の話しである。
内容ではこのグローリンバリー入り口集合になっている。時間的には翌日の朝集合となっている為に余裕を持って準備を行うことになった。そこでこの日はみんな自由に行動をすることに決まった。当然レイスレットとフェータは二人でデート兼準備と言う目的が明らかに違う様な感で出掛けて行った。
残った五人は特にすることも無いと一度屋敷へと戻ることにした。
「旦那!!明日の護衛が決まりました!」
此処はグローリンバリーに店を構える一商会、ポーレスト商店と言う場所である。一人の男性が喜んだように駆けこんでくる。この日も昼を過ぎる頃、ギルド職員が決まった人員の報告へ訪れたのである。
「そう。ようやく決まったのね。それでどの様な人員なのかしら?」
「はい。此方をご覧ください!!」
彼は依然として嬉しそうな顔である。何と言ってもこの依頼を出したのは二週間前である。恐らく一週間もあれば依頼に飛びつくだろうと予想していたが、何時まで経っても連絡が無くやきもきしていた。それが漸く職員が来て護衛が決まったと言われれば嬉しさも一入である。
だが、会頭と呼ばれた女性は大きなため息を吐き出す。
「はぁー」
「ど、どうしました旦那?」
彼の感情とは反対に彼女は陰鬱そうな雰囲気である。余りの落胆で在る彼女に彼は驚いている。
「ドレイル、あなたこの内容見たのかしら?」
「いいえ、全く確認しておりません。最初は旦那に見ていただかないと、と思いまして…」
ドレイルは思わず怒られると勘違いして声が縮こまる。
「そう、此処には十級の冒険者を派遣するそうよ。二チームで合計は十二名だそうよ。一人は九級だそうだけれどこれで大丈夫だと思う?」
「いいえ。全く思えませんよ…」
彼女の言葉に漸くどうしてそうなっているかが分かった。
「やはり足元を見られたのかしらね…」
彼女は若くして店を継いだ為にどうしても周囲の商人よりも低く見られてしまう。冒険者ギルドもそれの煽りを受けているのだが理由を彼女は知らない。
「仕方ありませんよ。やっていただくしかありません。これを成功させれば店を盛り返す事が出来ますから」
ドレイルが言うのは千載一遇である。もうじきお店が潰れるかもしれないと悩んでいるところで大口の商いが飛び込んで来たのだ。
これは大店からの依頼であった。藁にもすがる思いで依頼を受けたはいいがピュータ村への荷物の輸送と販売委託である。馬車は幸いなことに彼女の店に残されている数少ない資産である。幸運なことに売り上げの七割を受け取れると言う破格の条件であった。
当然最初は怪しんだが、背に腹は代えられないということで受けざるを得なかった。
「そうね。もう荷物は届いているし、詰み込みも終わっているから諦めるしかないわね」
馬車は全部で五台である。二台は輸送目的の荷物を満載し、残り二台は販売用の物資で最後の一台はみんなの生活用物資であった。これは依頼者が出す決まりである。これの影響で冒険者ギルドへ依頼を出す際に報酬を低く設定してしまったのだ。彼女はこれが原因で新人がやって来ると勘違いをしていたのだ。
しかし、これでも出せる限界の中で準備をしたのだ。彼女としてもお店を潰す訳にはいかないし、従業員の給料やましてや路頭に迷わすわけにもいかない。まさにこの輸送に人生の全てを掛けて臨んでいるのだった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
ご感想お待ちしております。
誤字脱字ありましたらご報告いただけると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう!!
今野常春




