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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
いざ冒険者へ…
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第四十六話 孝雄実悪夢の再来を危惧する…

『日本人、相田愛理が記す』

 孝雄実は二人にそう読み上げた。そこには懐かしい字体がと書き連ねてある。彼は当初日記帳と話したが、始めからそれを目的とした仕様では無かった。あくまでもそう見えただけで中は白紙の、一切の区切りが為されていない紙であった。

 そこには最初に日付が書き込まれ、その後に細々と文章が書かれているタイプである。そこにはこの世界へとやって来てからの出来事が嬉々として書かれているのが分かった。


「これには彼女が此処へと来た日からの事が書かれています」

 ヒュールの顔を見てそう話す。

「つまり君は彼女と同じ言語圏から来たということか?」

「そうです。これは俺の国の文字です」

 孝雄実はその様に述べると日記帳をテーブルに置いて二人に見えるようにする。そこにはやはり漢字と平仮名にカタカナが織り交ぜられた文字で文章が構成されている。だが二人には全く理解できないでいる。この世界も多少違った言語、文字を使用する国家はあれどこのような字体を見た事が無かったからだ。

「何とも奇怪な文章だな。しかし、これがコンドウ君の知る文字なんだな?」

「はい。此処にはこの世界に来てからの事が書かれています」

 そう言って冒頭を少し読み上げて行く。そこにはやはり、孝雄実と同じように目を覚ましたら見知らぬ場所で寝ていたのだと書かれてある。彼女には大きなクマが使い魔的な存在で付き従っていた。このクマがいなければ生き残れなかったとも書かれてあった。加えて彼女の武器はアルミ製の定規であったのだそうだ。


「アルミと言うのは分からんが、定規は分かるぞ。成程、彼女が持ち込んだものなのか…」

 ヒュールはそう言って自分の中で納得してしまった。定規とはこの世界で共通の言葉になっている。それがさす物がどう言ったものかもである。

「それにしてもこの字と、この字…それからこれも文字の形が違う様に見えるけど。どう言うことなの?」

 エレオノーラが気になったのは先程の三つの文字だ。少なからず彼女には共通点の様なものが分かる様であった。

「ああ、俺の国では三つの文字を用いて文章を作るんだよ。これは漢字と言って字自体に意味が込められている便利な文字だな。それでこれは平仮名と片仮名って言うんだ」

「複雑なのね。それでこの国の文字が理解でき始めている孝雄実は結構頭が良いのかしらね」

 彼女は孝雄実が英語という似通ったものを習っている事は知らないから、全く形の異なる文章を見てそう思ったのだ。






「さて、そこでコンドウ君にお願いがあるのだが聞いてもらえるかな?」

 ヒュールがそう言うと読んでいた孝雄実は顔を上げる。

「何でしょうか?」

「この本を翻訳して貰いたい。何も全てを翻訳して貰いたい訳ではない。日記と言うならば個人的な話しもあるだろう。そうではなくて魔法に関する物でいいのだ。どうだろうか?」

 彼にしてみれば歴史書に匹敵する書物に見えてもいる。当然読めない文字で書かれている為に諦めるだろうが、鍵を簡単に解除しあまつさえ母国語だと言う孝雄実を前にすればそう言わざるを得ない。


「ヒュールさん、貴方を信じて話します。この著者は俺の姉に当たる人の物です。名前は相田愛理。姉とは言え血のつながりがある訳ではありません。家庭環境の為によく彼女に面倒を見て貰っていた人物です。しかし、ある時彼女は行方不明となりました。当時は事件であった為に有名な物でしたよ。ですが、漸く彼女の足取りを掴めた。ですので、喜んで協力させていただきます…」

 このような場合孝雄実は涙を流し、感情をむき出しにするのが常であろう。だがしかし、彼の表情はどうだろうか、顔面蒼白で体が震えているではないか。

「本当か!!本当に助かる。期限は俺が生きている間で頼むぞ。まあ俺の方が早く死ぬだろうがな!」

 ヒュールはそう言って笑いだした。あくまでも今喋ったのは冗談である。後で確りと期日と報酬を決めるのであった。


「それで、これはいただけるのでしょうか?」

「勿論だ。それは君に上げよう。だから翻訳は頼むぞ。いやーこれで死蔵となることなく処理できるってもんだ」

 彼のその言葉でエレオノーラが反応する。

「これは契約を必要とする魔導書なのですか!?」

「ああそうだ。本来俺から契約を移譲するのだが、これは鍵を解除した者が契約者と成るんだ。ほら此処に小さく書いてあるだろ」

 表紙をよく目を凝らして見ると確かにその様な文章が書いてあった。表紙上部に小さなこの世界の字で『鍵を解除した者に私の契約者(下僕)となる事を許そう』そう書いてあった。但し、下僕と言う字は漢字表記であった。だからヒュールは契約者という文字しか読む事が出来なかったのだ。


 だが、孝雄実は違った。彼が言った様に目を凝らして見ると他の字は分からなかったが『下僕』と言う字だけははっきりと理解できた。そしてヒュールの読み上げた言葉で文章が出来上がったのだ。

 その瞬間マッドなサイエンティストでもある彼女の姿が鮮明に孝雄実の脳裏に浮かぶのであった。彼はよく実験と称して色々なことに付き合わされていたな、という淡い想い出を浮かべていた。それは下僕と言う字を読むまでである。しかし、それを見た瞬間、走馬灯の如く脳裏に受けて来た行為が溢れ出て来ていた。

 まさにトラウマと言ってもいいほどの物である。彼は彼女が行方不明となった瞬間、歓喜に震えていたのだ。これで彼女から解放される。そう思ったのも無理らしからぬ話しであった。

 決して虐待だの、いじめだのと言うものではない。彼女なりに孝雄実を可愛がり、愛してもいた。勿論慈愛の方である。彼と彼女は十五歳の差がある。彼女にしてみれば歳の離れた弟の様なものである。

 だが受けてきた方はその様には思わなかったのだ。よく生きていたと今更ながらに思う彼であった。


「ほら此処を見てくれ」

 そう言ってヒュールは一度日記帳を受け取ると、本を裏返して裏表紙にその印が浮かんでいるのを見せた。それを見た時、孝雄実は悟った。ああこれで俺はあの時の関係に戻るのかなと…

 そこには当時、相田愛理が気に行っていたロゴマークが浮かび上がっていたからだ。

「それじゃあ、私たちはこれで失礼いたします」

「ああ、此方もありがとな。コンドウ君翻訳の件頼んだよ。エレオノーラ君もよろしく頼む」

「分かりました。これ本当にありがとうございます」

 孝雄実は過去の思い出を封印し、前を向いて行こうと気持ちを切り替えた。

 そして、二人はそう言ってお礼を述べると魔導書店を後にするのであった……







「それにしても凄い縁ね。まさかあなたのお姉さんの様な存在が此方に来ていたなんてね」

 エレオノーラは街中で話す為にぼかして話しかける。

「ああ、俺も驚いたよ。ヒュールさんが持って来たものを見た時は背筋が凍ったよ」

「プッ何を言っているのよ。その言葉使い間違っているわよ」

 彼女にしてみればあの話しの内容から中の良い姉弟として考えていた。認識の違いと言えばそこまでだが、どうして孝雄実がその様に話すのかが理解できなかったのだ。

「いいんだよ、それで。あの姉にはその言葉で十分なんだ…」

 そう言って遠い目を彼はしたのであった。でも、少し昔を思い出したのか極僅かでも在った楽しい事を絞り出して思い出すのであった。

 だがその時彼は気を付けなければいけなかった、と述懐することになるのだが、それは後に判明することになる。


 二人は王国軍の訓練を見る予定では無かった為に少し早いが、マリアンも屋敷に戻っていると言うことで帰る事にした。途中で菓子を購入してみんなで食べようと言う気の使いようであった。

「ん、あの馬車は?」

 二人が屋敷へと戻ると門の前に一台の馬車が停まっていた。

「あれは王家のものね…」

 彼女は嘗て一度だけ見た記憶を掘り起こしていた。それはサラの実家で見た時の話しである。その時に一台の馬車が在り、王家の家紋と馬車を確りと見ていたのだ。


「ただいまー」

 孝雄実は屋敷へと入ると奥から駆けてくる音が聞こえてくる。

「ごっ、ご主人様ー」

 そう言ってやって来たのはマリアンであった。

「ただいまマリアン。これお土産ね」

「ああ、ありがとうってそうじゃないよ。今王宮から人が来ていてさ…」

 彼女が焦る様に彼の元に来るなどそうある事では無い。


「漸く話しが出来る者が戻ってきましたのね」

 その様な言葉が奥から聞こえてくる。それと同時に人が出て来た。煌びやかなドレスを着たその女性は装飾も豪華な物を身に着けている。

「えっと、あなたは?」

 孝雄実が戸惑いながら目の前の女性に問い掛ける。彼女の圧倒的な存在感に押され気味になっている。

「まあわたくしをご存知ないなんて、一体どういうことでしょ」

 そこで後ろに控える女性が耳打ちを行う。慎ましやかな見た目と雰囲気を兼ね備える彼女は隙を見せることは無い。

「ああ、彼が『呼ばれた者』ですのね。それならばわたくしを知らなくても仕方ありませんわね」


「そう貴方が、お父様がお話しされていた方ですの。申し遅れました。わたくしヴェルテーナと申しましてチャレンの姉です」

「えっ、お姉さま?」

 二人はその様に言葉がハモってしまうほどであった。

「そうです。いきなり押し掛けた事は申し訳なくありますが、わたくしも時間が無い身です。今弟はどちらにいますの?」

 これをマリアンは知っているはずだが、どうやら彼女もこの姉に圧倒されていたらしく話しをしていなかったのだ。今は外出中である旨を告げたがそれで帰す訳にはいかないと、この場ではなんだと奥の部屋へと五人は向かった。


「それでは、私はエレオノーラと申します。此方がコンドウ・タカオミです」

 口調は気にするなと言う彼女の言葉に甘えさせて貰ったエレオノーラはそれでも丁寧に話しをする。

「そうですか。先ずはお礼を申し上げねばなりません。弟を受け入れていただき有難う御座いました。もし、あなた方が現れなければ弟は一生幽閉先で暮らすことになったかもしれません」

 その様に述べて彼女と後ろに控える女性は頭を下げた。これは王族では無く、一人の姉としての思いである。滲み出るような高圧的な雰囲気はなりを潜め言葉も丁寧に話している。


「ま、まあその様に頭を下げないでください。俺たちとしても頼もしい仲間が増えたと思っておりますから」

 孝雄実の言葉はお世辞で話をしてはいない。事実近衛騎士団の人間との摸擬戦闘で見せた戦い方は凄いの一言である。少しドーピングをしてはいたが、それは彼の実力の範疇に入る物であると孝雄実は考えている。これから冒険者としてやって行こうと決めている手前、実力のある者が加わることは歓迎であった。

 加えてウマが合う様に孝雄実とレイスレットは仲が良い。これもよい心情を彼に与えている。






 マリアンがさりげなくお茶と、孝雄実たちが購入して来たお菓子をテーブルに置いて和やかな歓談の場が続いていた。しかし、それが続いたのも此処までであった。後ろにいた女性がヴェルテーナに耳打ちを行う。此処では予定時間がと彼女は告げたのだ。するとヴェルテーナは女性に礼を述べて、気持ちを切り替えて孝雄実たちを見る。

「あなたを信用してこれからの事をお話しさせてください。よろしくて?」

 雰囲気は最初に逆戻りである。あの高圧的な物が再びヴェルテーナを包み込む。どちらが本当の彼女なのか三人は分からなくなりそうであった。

「よろしくて。これはお願いでありますが、あの雌狐からチャレンを守って貰いたいのです!」

 彼女は声を強くして言い放つ。勿論雌狐が誰かは直ぐに予想が付いた。だが、彼女が言う二人の関係がどうしても腑に落ちないと言うものだ。


「宜しいですか、ヴェルテーナ様?」

「何でしょうかエレオノーラ」

 恐る恐ると言った感じでエレオノーラが尋ねる。相手はあくまでも王族だ。ほんの数か月前まで王族と言うものには全くの縁が無い生活を送って来た彼女である。多少、畏れ多い相手だと言う認識が残っている。

「ありがとうございます。ヴェルテーナ様が仰る雌狐とは、フェータでよろしいですね?」

 彼女の口からその名が飛び出した時のヴェルテーナの瞳で正解だと瞬時に判断する。


「勿論です!あの目狐はあろうことか幽閉先で誘惑何ぞしおって!!まだ幼い可愛いチャレンを……」

 ヴェルテーナは忌々しげに言葉を吐き出す。その時手にしていたコップは可哀想なものであった。その時三人は思った『これは不味い展開だ』と彼女の目を見て感じ取る。

「全く!久しぶりに会ってみればあの女が彼女であると!!信じられる訳が在りません。そこであなたたちにお願いです。あの雌狐がこれ以上チャレンを誘惑しない様に気を付けていただきたいのです」

 彼女の目にはレイスレットとフェータの関係をその様に見ているのだ。


(おい、ご主人様どうするんだよ!?)

(俺に聞くなよ、マリアン…エレオノーラ?)

(む、無理よ!私に聞かないでよ!!)

 三人は演説の如くにヴェルテーナは弟の可愛さと雌狐の悪行についての講演を行っている。既に三人が内緒話をしている事にも気にすることなく話しは続いている。後ろの女性も悦に入って彼女の話しを聞き入っている。

(だけどよーどう見てもあの二人は愛し合っているだろ?)

(まあ、マリアンの言う通りだけどな)

(だけど、ヴェルテーナ様の仰る言葉を無碍には出来ないわよ?)

(それじゃあ此処は聞いておくと言うことでお茶を濁そう)

 問題は先送り、孝雄実は日本で暮らしていた時に国を動かそうとする人間から学んだ手法を取り入れることにする。

(……分かったわ。それしか方法は無いものね)

(ああ、そうだな。どうせヴェルテーナ様はいないんだから此処は頷いておこうぜ!!)


「承知いたしました、ヴェルテーナ様。お二人の事は確りと見守りまして心穏やかに過ごされますように努めて参ります」

 エレオノーラが畏まった言葉で彼女に話しかける。未だに演説は続いていたがその言葉でぴたりと止まる。

「まあ!本当ですのエレオノーラ!!」

「え、ええ…ヴェルテーナ様。なるべく御意に沿う様に行動致します」

「そうですか、そうです!タカオミさんとマリアンも頼みますよ!?」

「は、はい!!」

 こうして結局はヴェルテーナの雰囲気に圧倒されたなかで彼女は帰った。彼女自身最大の目的を達したのか満足そうにして屋敷を出るのであった。


『つ、疲れた…』

 三人は見送る傍らでヴェルテーナが見えなくなるとへたり込むように崩れ落ちるのであった。後に帰って来たレイスレット等に今までの事を話すと困惑した表情で話しを聞くのであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 最近魔法に関した展開が減ってきたかなと考える今野常春で御座います。 

 思い切り暴れさせたいなと考えておりますがどうしてもこのようなほのぼのとした展開が続いてまいります…


 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字が在りましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!!

                今野常春

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