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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
いざ冒険者へ…
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第四十五話 新たな疑念

 さて、話しはマリアンが屋敷へと戻った後に残された孝雄実とエレオノーラはと言うと、当初の目的地である魔導書のお店にいた。此処は王国最大手の書店という謳い文句であるが、孝雄実はどう見ても個人商店の本屋さんであると心の中で呟いた。だが無理も無い、貴族の人数は王国内では一万人も行かない。顧客はその大半が彼等である。幾ら単価の高い本でも限界と言うものがある。

 店内はランプの灯が幻想的に照らし出す、薄暗さが何ともそれらしい雰囲気を創り出している。店主は居らず、ご自由にお読みくださいと言う張り紙を出してあった。これはエレオノーラが読んだ物である。


「随分と不用心なんだな」

 孝雄実の感想である。治安の良いと言われる日本ですらこのように高価な物を扱う場所では有り得ないだろう。

「そうでもないわよ。魔導書はね。店主の許可が無いとお店から持ち出せないのよ。どんな者も決してね。だからこの様にしても問題ないのよ」

「ふーん、便利なんだな…」

 そう言って孝雄実は目に留まった一冊の本を取り出す。背に書かれた文字をゆっくりと読む。

「魔法、と元素か…」

「あら、読めるようになったのね」

 彼女は嬉しそうに孝雄実を褒める。この国はラテン文字に近い文体が用いられている。だから彼が何とか読めるようになり始めているのだ。あくまでも近い物であり、英語を習って来た彼からすればフランス語やドイツ語を習うようなものだ。


「まあ簡単なものだな。それでもこれぐらいが精一杯だな」

「何々、魔法と元素ね…ウロット男爵ね」

 よく分からないと言った感じで彼女は話す。書籍は基本的に自費出版である。貴賎なくお金があれば本を出しても構わないのだ。魔導書以外にも多くの本が出版されているが、この国、世界には出版社と言うものが無い。

「知っているのか?」

「いいえ、全く知らない人だわ」

 その様に言って中を読み出す。彼女はある程度呼んでは孝雄実に説明をする。しかし、特筆にすべき内容では無かった。彼女が以前から話していた内容が証明されただけである。

「こんなものね…」

「そうか。それよりもさ、この長いのが詠唱なんだよな?」


「そうよ。これが詠唱魔法を行う文言よ。どうかしら?」

 エレオノーラ取っては既にどうでもいい内容である。変われば変わるものだと自身で感じていた。今までは水と火の元素で可能な魔法を求めて詠唱を手に入れようと思っていたのだ。しかし、今はもうその気にすらならないのである。

「どうって……長々とこんなに読まなきゃいけないなんて、どんなに無駄なんだ?」

「それが詠唱なのよ…」

 そう言ってもう一冊の本を取り出す。そう言って最後のページを開く。

「ほら孝雄実、その本とこの本を比べてみて」

 そう言って示すのは同じ文言であった。たとえ字が読めず意味が分からなくとも、字体が分かれば構わないのだ。


「同じ文字だな。若しかしてこれが、エレオノーラが話していた文言か?」

「そうよ。これが、私が話していたもの『詠唱破棄は不可能だ』ね」

 その様に話していると奥から声が聞こえる。

「随分批判的な雰囲気だな、お客さん」

 二人が振り向くと何時の間にか店の奥に人が座っていた。店舗内は入り口から真正面にカウンターがありそこで物の取引を行う。特に魔導書は特異な取引が求められる。魔導書が何故必要なのか、それは詠唱を手に入れる為には魔導書との契約が必要なのだ。

 エレオノーラが話したこのお店から本を持ち出す事が出来ない理由は、店主がこのお店にある魔導書と契約をしているからだ。その契約先を購入者に移すのだ。ここで疑問に思うのが詠唱であろう。契約と詠唱はイコールではない。あくまでも魔導書を手に入れ詠唱を読む為に契約が必要なだけである。何も契約をしたから詠唱を読まなければいけないと言うものではないのだ。つまりは所有権の移譲である。


「ああっ、警戒するなよ。別に今話していた事を咎めようと思っていないんだ。だがそうだな、興味だ。どうしてそう思ったのかなっていな」

 店主は年若い男である。それでも孝雄実よりは一回りは上である。歳が近い者で言えばエルサンドのデンであろう。見た目は少し軽そうな男だがイケメンである。

「俺はこの店の店主でヒュールってもんだ。これでも三つの元素を持つ魔法使いだ。さあ話しを聞かせてくれ」

「話って言ってもどう話せば…」

 エレオノーラ困った様に話す。そもそも詠唱破棄はが出来ます、なんて話しをこの場で出来る筈が無いからだ。

「申し訳ないが話しは奥でも聞こえていてな。そこから察するにお前さんたちは詠唱に対して抵抗があるってことだよな。俺はな、そこを聞きたいんだよ。どうしてそこに至ったかをな」

 ヒュールは楽しそうな顔で二人に話す。

「それではお尋ねします。魔法って絶対に詠唱を行わなければならないのでしょうか?」

「おいおい、随分直球で来るな。此処は貴族様も多く訪れる場所で詠唱破棄を匂わせるなんて…って普通の店主は言うんだろうが俺は違う。そうだな…ちょっと待ってろ。お前たちはこの奥に上がって待っててくれ」

 ヒュールはそう言って指でカウンターの奥を指す。そう言いながら彼は出口へと向かい店を閉め始める。二人には否を言う事が出来ず彼の言葉に素直に従うことにした。






「さて、今日はこれでもう客は来ない。好きに話して貰って構わないぜ…」

 ヒュールは店仕舞いを行い二人が居る奥の部屋へと戻って来た。しかし、二人は彼に対して信用と言うものがなかった。その為にどう話すかをあぐねているのだった。

「……まあ怪しむのは仕方無いか、だが安心して欲しいとは言えないな…」

 その様にどうにか彼等に話して貰おうと困っている姿を見て二人は話そうと目で合図を出して決めるのであった。そこで、エレオノーラが話す。

「私は以前から不思議に思っていました。何故魔法は詠唱を唱えないといけないのか。魔導書を手に入れ契約して詠唱を手に入れる。そうして手に入れた魔法も時間が掛かる。それでも魔法と言うものが特別な物である。私にはどうしても納得が出来ないのです」

「成程、どうやら結構な悩みなようだな。魔法は詠唱が無ければ使用できない。これはどの様な魔導書に書かれている。それは二人も知っているな。だが、おかしいと思わないか。本当に詠唱なしで魔法が出来なかったのか。答えはそんなことは無いと言うことだ。まあ魔導書を売る俺が言うとおかしいかもしれないけどな」

 彼はそう言って笑いだす。しかし、笑って話す様な会話では無い。


「つまり詠唱破棄は可能だと言うことですか?」

「まあな、それにもう出来るんじゃないのかな?若しくは見た事がある。そうでなければその言葉が出る訳が無い」

 ヒュールはニヤリとした口をして話す。彼には詠唱至上主義ではないが、魔導書に書かれる事を信じる者では決して見せない物が在ったのだ。その言葉に孝雄実たちの顔が強張る。

「どうして…」

 彼女はこのように発するのが精一杯であった。


「簡単だ。二人の態度だよ。そもそも詠唱を唱える奴はな、本を手にとって長々と読む場所は決まっているんだよ。それが詠唱の文言だ。だけどな、二人はページをめくり、どんな魔法が出来るかを見た後何処を見た?最後に書かれてある文章を見ていたろ。普通詠唱を覚えたい奴はそんなことはしないのさ」

 二人は彼の話しに最もだと思わざるを得ない事をしていたと思いだす。しかし、その話からすると最初から二人を見ていたと言うことになる。エレオノーラはそう考えた。

「つまりは最初から私たちがそうであったと思っていたと?」

「まあ勘だな。多くの人間を見て来たが皆一様に同じ表情なんだよ。それがな、二人は全く詠唱を信じていない様な醒めた目で魔導書を見ていたからな」

 彼には二人がこの店を訪れる客では異質に見えたのだ。信じていない者がこのお店を訪れるはずが無いのだ。


「どうする孝雄実?」

「もう話してもいいのかもな…」

 そう話す理由は彼の言葉と表情だ。特に言葉の端々に『もうばれているんだぞ』と言うのが見え隠れしているからである。それに見た目からではあるが、彼は話してみないと分からない人物であった。次第に信じてもいいかなと言う気にも二人は思わされていたのだ。

「そうだ。思っている事を話してくれ。俺は絶対にこの場で話した事は外には漏らさない。これは俺の神に誓うぜ」

 目は口ほどに物言うとはよく言うが、ヒュールの今がまさにそうだ。口調もあって信じがたいかもしれないが二人の目には真剣そのものであると信じるようになっていた。


「ヒュールさんは先程仰いましたね。私たちが、詠唱破棄が出来るか、若しくは見たかと」

「ああ、そうだな。たしかにその言葉を喋ったな」

「俺たちはそれが出来るのです」

 孝雄実の言葉に一瞬何を言っているかがヒュール分からなかった。出来るとは何かを問い質したくなったが、そこまで頭の回転が悪い彼では無い。

「そうか…詠唱破棄が出来るのか」

「はい、…こうです」

 孝雄実はそう言って今迄に見せて来た物を簡単に見せる。


「成程な、やはり詠唱破棄は正しかったのか」

 そう言うとヒュールが座る椅子に深くもたれ掛かる。彼が見た驚き方ではないが、それでもヒュールの中で何かが変わったと思った。やはり、これを見せると何かしらの反応を見せる。

「まあ、こんなもんですよ」

「そうか、だがこれで俺考えは正しかった。俺はなこの店を任されて長い事詠唱について疑問を抱いていた者だ。だがな、魔導書を売る手前大っぴらに詠唱破棄の研究を出来る事が無かった。それを君は何てことは無く簡単にやってしまった」

 このお店は代々続けて来た魔導書店である。彼も先代も血の繋がりはない。孝雄実の様に『呼ばれた者』ではないが此処では招かれた者と呼べばいい人間が次の店主となるのだ。店主を引き継ぐときに全ての魔導書と契約を行う。そうやって様々な人間が店主となっていた。


「私たちは確かに詠唱破棄が使えますが、暫くは封印しようと考えています」

 エレオノーラがそう話すとヒュールは納得したような顔になる。

「成程賢明な判断だな。それが良い特に貴族の多いこの街ではな。これは俺の情報網で入手した話しだが、王族の人間もそれをして存在を無い者にされたって話しだからな」

 レイスレットの話しに思わず驚くが、その事に彼は気が付かなかった。だが、少なからず情報が漏れていることに気が付いた事は孝雄実たちには収穫であった。気が付かれない様に二人は会話を続ける。


「そうですか、やはり危険なんですね?」

 孝雄実は知らない体で彼に尋ねる。この話しはヒュールの方が詳しいと考えた。

「そうだな。別に殺されはしないだろうが、日は拝めないかもしれないぜ。まあ詠唱破棄なんてする奴はいないからどうなるかは分からないからな。それでもだ、もう一度言うぜ。この街では使うのを止めた方が良い。貴族にばれればどうなるかは分からないからな」

「そうですか、ありがとうございます。申し遅れましたが私はエレオノーラと申します」

 此処で漸く彼女は名を名乗る。忘れていた、タイミングが悪かったと言うのもあるが、本当に彼を信じることにしたのだ。

「俺は近藤孝雄実と申します」

 孝雄実がそう名乗った時、店主の顔が変わる。


「タカオミと言ったか?」

「ええ、そうですが…?」

 孝雄実がそう言うと徐にヒュールが立ち上がりさらに奥の部屋へと入って行った。二人はどうした事かと不思議そうに顔を見た。

 それも束の間、ヒュールが戻った時、手には不釣り合いな本の様な物を持っていた。彼の様な男性が持つように作られていないそれは、別人のものであると判断できる物である。

「済まないな、突然席を立って。コンドウ・タカオミその名で間違いないな?」

「はい。俺の名は近藤孝雄実です」

 再度確認するヒュールに訝しんだ孝雄実であったが、彼が差し出したそれを見て顔面蒼白になる。見た目は花柄のブックカバーであるが留め具が施されていることから本では無い。日記帳やスケジュール帳の類のものだ。だが考えて欲しい、どうしてこのような物があるのか。孝雄実の様な『呼ばれた者』は百年以上も前に現れた以来存在していないとされている。しかし、孝雄実の目にはそれが懐かしくも感じさせる品であった。


「そ、それは…」

「コンドウ君は『呼ばれた者』でいいんだな」

 そう言うと孝雄実は頷く。彼に渡されたそれを持つ両手は震えている。

「これはな、今から九百年も前に現れた『呼ばれた者』の伝記と言われている」

「言われている?」

 エレオノーラがその様に尋ねる。孝雄実の状況が気になるが、話しも気になる為にそちらを優先する。

「ああそうだ。これはな、俺たちの言語では全く解読できない書物なのだ。分かるのは名前だけ」

 表紙にはこちらの言語で名前が記入されていた。彼等が分かったのはその名前だけであったのだ。他にも文字が書かれていたが全く分からなかった。


「中を見ようにもこの鍵が邪魔してな、どう解除しようとも全く反応しない。実はこの女性はホルト王国の国母として名を残したそうだ。勿論王族では無いぞ、今この国にも流れている魔道具だ。これを発明したのがアイリャ・アイーダと言う女性だ」

 此処にキャメルがいない事が悔やまれるとエレオノーラは思った。彼女の出身国を知っているからだ。

「これは魔導書の類と見られてな、長い年月を掛けてうちにやって来たんだ。九百年も経つのにこの保存状態だ。信じるしかねーわな。でだ、コンドウこの字は読めるのか?」

 最大の関心事はそこである。これを解除して中の書かれている文章を読み解くことで何かがあると思っている。


「はい、分かります。これは日記と書かれているんです…」

 過呼吸気味に話す孝雄実の異変にエレオノーラは気が付いたが、ヒュールは全く気が付いていない。孝雄実自身も気が付いていないが呼吸の早さが彼女には目立って聞こえている。それでも彼は話しを続ける。

「これは日記帳と言って日々の出来事を記す物です」

 孝雄実がそう言って番号を入力する。六桁の数字を押して一発で解除に成功する。

「あ、開いた!?」

 ヒュールはそう言って席を立ちあがる。彼にしてもまさか解除できるとは思っても居なかった。『呼ばれた者』ならば、と一縷の望みを掛けて渡したに過ぎない。


 孝雄実は表紙を捲る。そこには在る名前が書かれていて、それを彼は読み上げる。

「此処にはこう書かれています。『日本人、相田愛理が記す』と…」


 最後までお読みいただき有難う御座いました


 前話との繋がりが無くて申し訳ありません。あの話しは別の機会に幕間で書こうと考えております。

 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字在りましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

              今野常春

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