第四十二話 レイスレットの強さとは…
レイスレットのウォーハンマーは見事に対戦相手の盾を砕いた。激しい形容しがたい音と共に…
呆然とする相手はセーミュン・メルソテン子爵家令嬢である。
「これで勝負ありですね」
レイスレットはその様に言いながらハンマーを彼女の咽元に近付ける。これで勝負が決まった。
「それまで、勝者レイスレット!」
ケールはその様に述べて摸擬戦闘を決着させた。
「ありがとうございました!」
レイスレットはそう述べると孝雄実たちの元へと戻って行った。
ケールは信じられなかった。戦闘技術で言えば近衛騎士団でも中の上であるセーミュンは防具、盾によって実力を上の中へと押し上げている。この場に詰める騎士団員で言えば中堅どころである。それを知る団長のケール・ドロステント男爵は二つの点で驚いていた。
一つは彼女が負けた事、もう一つが彼女の持つ盾が砕けた事であった。これは騎士団の人間全員が思っていた。
「両者見事であった」
軍務大臣を務めるアレンゼントル・デレッロ・ストランデス・フロランス侯爵はその様に二人を労った。
「はっ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
二人はそう言葉を返すが、表情は対照的だ。前者は体に沁み込んでいるから直ぐに反応していたが、その顔は未だに信じられないと言ってものである。後者は勝ったことで嬉しそうなものであった。
「セーミュン、君には申し訳ない事をしてしまったな。この弁済は私が行う。確りと申請しなさい」
このように言うのは、無理矢理に摸擬戦闘を彼がねじ込んだからだ。剣も盾も本物を用いると言う条件を付けたのも彼である。であればその処置は当然かもしれない。
「は、閣下のご厚意には大変有り難く存じます!!」
そうは言うが多少表情が戻っただけで、根本は解決していない。だが、今はそれを求める事は出来なかった。
「レイスレット、君の実力は確かめさせて貰った。上手く武器を使いこなしている事が特に良い。これからも鍛錬を怠ることなく続けてくれ」
アレンゼントルがそう言うと、今度はこの場に居る全員へと言葉を発する。
「私の都合で訓練を止めて済まなかった。君たちへは別途何かをすることを約束しよう。解散だ!!」
その言葉の後にケールが続いて解散を宣言して騎士たちはこの場を後にした。残るのはケールとセーミュンの二人とアレンゼントルだった。孝雄実たちは先にレイスレットと共に部屋へと戻る様に指示を出していた。
「閣下お聞きしても?」
ケールは畏まって彼に尋ねる。どうしても彼には聞かなければならなかった。
「なんだね、ケール」
そうなる事は彼も分かり切っている事である。
「レイスレット君の強さです。彼の強さは何か別にあると感じましたが…」
「済まないがその事だけは話せないのだ。すまんなケール…」
核心部分の話しである。アレンゼントルも決してこの話しだけは出来ない。墓まで持って行かねばならぬ物であり、どんなに信頼していても話せないものであった。
「それでは閣下」
今度はセーミュンが尋ねる。
「なんだセーミュン?」
「対戦した私が質問致します。彼は、本当は魔法を常時使用しているのではないのでか?」
彼女の言葉にアレンゼントルは返す言葉が見つからない。
此処で話しは過去へと遡る。
レイスレットがチャレンとして幽閉先へとやって来た頃の事だ。詠唱破棄を禁じられ、どうしてこうなったのか、何が悪かったのかをみっちりと教わっているなかでの事だ。
彼はふと考える。表に出せないなら中で使えば良いじゃない。彼の言う中とは体内の事である。一歩間違えれば処刑された王妃のような発言になるが、彼の考えは画期的なものであった。
第一に詠唱破棄をしているようでしていない。単に体内で魔力を流す量を倍にすると言うものであったからだ。これは詠唱中もそうだが、魔法を使用するときは必ず、体内を魔力が駆け巡り発現する。この流れを外に放出しないことで力に変えていると言うものなのだ。
一緒に付いて来た者で、魔法を使用出来る者はいない。また、それによって魔法の授業と言うものが無くなっていたのが幽閉先での特徴だ。教えられるのは一般的な教養科目と武器を用いた戦闘訓練である。
だがそれの事が余計に彼を魔法と言う物へと進ませる契機となった。
チャレンと共にこの地へと来た貴族はフェータという若い女性であった。
この時はチャレンであるが、扱いは一貴族の子息として行うようにと上層部、いやフェーバル王自ら彼女を呼びだして下命したのであった。こう言われては心を鬼にして行わざるを得ない。
実は彼女、彼との結婚相手として教育を受けて来ていた。王位継承権十位であるがものの大公位を授けられること間違いなく、魔法に関して才能ありという好条件である。年齢も近く、王家側から持ちかけられた話で彼女の家は大盛り上がりであった。そこから彼女はチャレン王子のお嫁となるべく教育が始まったのだ。二人は三歳差である。姉さん女房と成るが、この世界ではそこまでこだわりが無いのが特徴だ。
彼女が行ったのは体力作りからである。幸い自然豊かな場所である。その中にぽつんと佇むお城が彼らの住居である。周辺を走るだけで、自然の負荷と言う物を一心に受ける事が出来る。
「チャレン様、これぐらいでへばってはこの先持ちませんよ!」
フェータは前を走り後ろを確認すると、今にも死にそうな表情で後を付ける彼に話しかけた。
「こんな…に、は、走る…こと…」
チャレンはこの時十歳、フェータが十三歳という間柄である。流石に体力では全く叶うものでは無かった。
「話せるだけまだ行けますね。ほらもう直ぐお城ですから頑張りますよ!!」
彼女はそう言うと彼を置いて行く様な勢いで駆け出して行った。
お城に住んでいるのは全部で十名となる。基本チャレンの世話を一手に任せられていた人間である。彼等は王都を出るに当たり、意思確認を経てこの地へと赴いている。それと所謂身体検査である。利害関係やその人物がどう言ったものか、特にチャレンの話しを漏らすかである。王家としてもその様な人物を連れて行かせて、態々殺したくは無いとの考えから調査は徹底されていた。
結果選ばれた人物はフェータと以外五十を超えた者ばかりである。自然と二人が一緒に居る時間は大きな物となる事は決まっていた。
フェータの実家ヘイリスト子爵家は周囲に喧伝しまくった手前、今更彼女を家に置いて別の相手を、と出来る状況では無かった。その様になるであろうと前以って睨んでいた王家の情報部隊は直ぐに王へと進言した。この情報を聞き入れた王は直ちに使いをヘイリスト子爵家へと向かわせ、直ぐに了承を受けることになった。この話しを聞いた時フェーバル王は少し悲しい顔をしたと言う。貴族とは言え、親である現当主の人間性を憐れんだのであった。
と、このような家で育った彼女は喜び勇んでチャレンの供をすることを受け入れていた。此のまま居ても碌な事にはならないと幼いながらも将来を見据えていたのだ。
彼女はフェーバル王直々に話しがあると王宮へと呼びだされていた。勿論彼女だけを呼ぶわけにもいかず、父親で当主のヘイリスト子爵も同席しての事である。
「陛下!この度は娘をご指名下さり感謝の極みで御座います」
子爵はそう口上のを述べると頭を低くさせた。この後にフェーバル王から言葉を貰う為である。
「うむ、ヘイリスト子爵。誠にご苦労である。余の我が儘と申せ、大事な娘を手放すことになる事誠に無念であると思う」
このように言うのは、これが今生の別れに成る可能性があると事前に申し伝えていたからだ。この言葉を聞いても否を唱えることなく即決したことで、フェーバルはあの様な顔をしたのだ。
「いえ、陛下お気に為さいますな。ヘイリスト子爵家は代々王家を、ドットゥーセ王国を守護し奉る事が家命で御座います。娘にもそれを教え込みました。私も悲しゅうございますが、それはそれ、王家の為を思えば娘の一人や二人差し出す覚悟でございます!」
熱を帯びて彼は話しをするが血の繋がった娘に聞かせる話しでは無い。そこで、フェーバルは彼の話しをそこで切らせる。
「うむ、子爵の心意気に余は感銘を受けた。コルトー」
傍に控える男を呼ぶと彼は恭しくフェーバル王へ言葉を返す。
「はっ、わたくしめも陛下の仰る言葉御尤もと愚考致します。つきましては子爵に対して加増をお認めに為られてはいかがかと存じ上げます」
その言葉にヘイリスト子爵は目を輝かせる。これを海千山千の謀略に長ける王たちの前で見せては終わりである。以後この家が輝く事は無いのであった…
「さて、改めて言葉を述べさせて貰おう。この度の決断誠に感謝する。フェーバル王としてではなく、一人の父親として言わせてもらう。本当に済まない」
この場には二人が残るだけである。フェーバルが態々彼女と二人に成るように命令を下したからだ。こう言われては誰もが否とは言えず玉座の間から退出していったのであった。
「陛下、わたくしは今回の事全謝られる事ではないと考えております。当家の恥を晒すことになりますが、感謝を述べるべくはわたくしに在ります」
フェータはそう言って現在の家の状況を包み隠さずに話しをした。元から人格に疑問符が付くヘイリスト子爵である。それを聞いたところでとも思ったが、想像以上の酷さに頭を抱える始末であった。
「成程、フェータが述べた事を信じて行動してみよう。それで良いな?」
「はっ、小娘のわたくしのお言葉をお聞き下さり誠にありがとうございます!!」
その後、彼女は既に用意してあった荷物を王家所有の長距離移動用ドラゴンに取り付けられていた籠へと移してチャレンが居る場所へと移動していったのであった。
二人は体力づくりを始め勉強と戦闘訓練などを切磋琢磨して行う日々を続けるのであった。これは逐一フェーバル王へと報告がなされている。フェータの実家へも報告は為されているが、加増を受けて以来関心が無くなっている節があると報告が為されていた。
そうとは知らない、思うことも無いフェータは日夜チャレンとの訓練などで成長を遂げていた。二次性徴に入っていた彼女はより女性らしさに磨きが掛かっていた。この時十六歳、気が付けばチャレンとの生活も四年目を迎えるのである。
チャレンもあれから急激な成長を続けていた。此処へ来た当初は魔法を除いて全てにおいて負けていたがそれが逆転するまでに成っていたのだ。
「よし、これで俺の勝ちだな!!」
刃を潰した剣での戦いはチャレンがフェータの剣を弾き飛ばしたことで終了した。
「あーあ、また負けちゃったわ…」
余り悔しそうに見せない彼女はそう言いながら剣を拾う。今から一年前に力が拮抗し、半年前には敵わないほどにチャレンは成長していた。此処では彼女が全ての師である。他の者は身の回りの世話だけで二人に教えるだけの事は出来ない。
「ふー何かこの生活にも慣れちゃったなー」
チャレンは原っぱに寝転がる。それに倣い彼女もチャレンの横によりそうように寝転がる。今では戦いの後は必ずこの様に二人で寝転がり空を眺めるのが日課となっていた。
「そうね、前は泣いていたものね」
フェータがそう言うのはこの場所へと来た当時の話しである。訳も分からずこの地へと連れられて来たチャレンは夜になるとすすり泣く日々が続いていた。使用人はこれに対してどうする事も出来ないのが現状であった。と言うのも身分が余りにも違いすぎて畏れ多いと言う考えが生まれたのである。
だが、彼女が来てからはそれが少なくなった。彼女も初めての事に戸惑うことも多々あったが、気丈に振舞い夜になると一緒に寝るようにして彼が寝付くのを補佐していたのだ。これによってチャレンの夜泣きが無くなった。此処から二人の生活が始まったと言っても言い。時には師として、時には姉として彼女は懸命にチャレンと共にあった。
「なっ、あの時の事は忘れろよ、フェータ!」
その様に言って状態を起こす。
「無理よ、無理。だってあれが無ければ今の私たちは無いもの…」
そう言われてしまえば何にも言えなくなるチャレンであった。二人は気が付けば恋仲に成っていたのだ。チャレンはそこらの十三歳では無い。見た目からすれば十七、十八位の青年に見えるのである。精神年齢から行っても問題ない様な雰囲気であった。とは言え未だキスまでが限界であった所に可愛げがある。
二人が幽閉先から戻るまでにそこから二年を要するのだが、それまでにチャレンはより強さを増していた。これの最大の要因が魔力を体内で倍増させて巡らせる事である。細胞活性化と言えばいいだろうか、本来人間の行動は知らずに制限が掛けられていると言う。本能的に危ないと行ったときに発揮される力が本当の力なのだそうだ。逸話かどうか、火事などで非力な女性が大きな箪笥を持ち出して逃げる、など普通では起こり得ない事が起こりうると言うのだ。これが火事場の馬鹿力と言う。
本来脳が力を抑えていると言われるが、彼はそれを意識して、負担に成らない範囲で行っていた。それが成長を促進していたと考えるのが妥当である。
体が魔力と呼応して、彼の体をより大きな魔力を受け入れるべく成長を促していたのだ。寝る子は育つと言うがチャレンは一日十時間睡眠を取るのだ。しかも一度寝たら朝まで起きないと言うから驚きである。成長期も相まって、背丈は百八十五センチまでに成っていた。
此処に至り遂にフェータは限界を宣言する。武器を使用しての戦闘も徒手空拳の戦闘もどちらも体がぼろぼろになりかねないほどにまで差が開いていたのだ。
また精神的にも落ち着きが出てきたことで漸く、王都への帰還が許されるのであった。そこに運よく、また示し合わせたように孝雄実が現れたのは何かを示しているのであろうか……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
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それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春
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