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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
いざ冒険者へ…
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第四十話 ば、ばればれじゃねーか!

「な、何を仰っているのでしょうか…?」

 そうフェーバル王に尋ねるのはエレオノーラであった。五人は確かに王家含め王宮貴族らへの報告を抑えたはずであった。協力した者は近衛騎士団のフレテスト・ホートマンであった。彼は軍部の報告会にて男爵位を授けられている。

「何簡単な話しだ。ブラスト辺境伯、エルサンド侯爵共にそう報告を受けているからな」

 フェーバル王はそう言って淡々と説明をする。その言葉に余りいい印象を抱かなかったのが孝雄実たちである。それをいち早く察したのがアレンゼントルであった。


「義父上どうやら彼等に勘違いを為されている様ですぞ」

「むっ、そうか。それはいかんな!」

 二人とレテシィアを含めた三人は笑い出した。その光景にまたしても驚かされる五人であった。

「ほらお父様、確りと説明為さらないと」

 その様に話すのがレテシィアである。


「そうだな。コンドウ、それにロースロンド男爵等も済まぬな」

 そう言って一度気持ちを落ちつけるためにお茶に口を着ける。

「いえ、お気に為さらないでください。それで、どう言うことなのでしょうか?」

 孝雄実がそう尋ねるとレテシィアが指で近付けと指示を出す。それが分かった彼は彼女の指示に従う。すると彼女は両手で頬を挟みこむとさらに顔を近づける。まるでキスをするかの様な勢いであった。これにはエレオノーラ達が反応する。

 だが、レテシィアは動じることなく近くまで寄せると彼の瞳を覗き見る。


「安心なさい別にあなたたちの男を取ろうとは思っていません」

 彼女たちの反応に気が付いていた彼女はエレオノーラたちを見ることなくそう話しをした。その間もレテシィアは孝雄実の瞳を見ている。

「やはり似ているのでしょうか……」

 彼女は呟く。これは孝雄実だけに聞こえていた。


「何が似ているのでしょうか?」

 未だ四十代には届かぬ女性である。元が良いのか美しさが保たれている目の前の女性に、動揺が隠しきれなくなる。

「そろそろよかろう…レテシィア」

 フェーバル王がその様に言うと彼女は手を離し元の位置へと戻る。未だに五人はどう言う事かが分からないでいた。


「お主らはコンドウ事をよく知っておるな?」

 フェーバル王はエレオノーラたち全員の顔を見てそう尋ねる。

「はい。私が最初に彼と出会いました。御存じでありましょうが『呼ばれた者』で在る事も私たちは存じ上げております」

「そうかならばよい。今から余が述べる事はこの場限りとせよ」

 そう言うと室内の空気が張り詰めて行くのが分かる。それだけで今から話す事の重大さが彼等に示される。


「簡潔に言おう。我がドットゥーセの祖先はお主と同じ『呼ばれた者』である」

 彼が言うのはあくまでもこの世界の者ではないという事である。だがそれでも孝雄実にとっては重要な話である。それは他の者も同じであった。

「驚くのも無理は無いな。だが真実である。コンドウの髪、瞳の色は黒々としている。余の一族も嘗てはそうであったと伝え聞く。余の子供らではこのレテシィアが一番色濃くその血を受け継いでいるのだ」

 フェーバル王の言葉で漸く先程の行為が納得できた。加えて孝雄実も彼女の呟きが理解できたのだ。


「詳しくお話しをお伺いしても宜しいですか?」

「勿論と言いたいところだが、そうもいかぬ…」

 エレオノーラの言葉に対し、本当は快諾したかったフェーバル王である。だが、彼の表情は苦虫を噛み潰した様な表情で答えた。

「どう言うことでしょうか?」

 そのサラの問い掛けにはアレンゼントルが言葉を返す。


「サラ・ロースロンド男爵、君もカラドヌルクの持ち主ならば知っていよう。例え祖先に『呼ばれた者』が居ようとも書物等を残す事は禁止されている事は知っていよう」

 その様に言われたサラはそう言えばと旧フロランス家の事を思い出した。彼女の家も開祖となる人間は『呼ばれた者』である。だがその彼の事でさえ名前以外は既に分からない状況である。代々の当主だけが知る事の出来る家宝カラドヌルクに関連したことのみが、唯一の手掛かりとなる。

「確かに失念いたしておりました。我が祖先も『呼ばれた者』でありました」

 この発言は恐らく孝雄実たちも初耳であったようだ。その言葉に衝撃を受けている様子であった。


「王家のルーツも記録が残されるようになったのは三代目からだ。何故と問われるとそうせざるを得ない状況であったからとしか言えないのだ」

 その言葉に対しては孝雄実が反応する。

「若しかして魔法との関係でしょうか?」

 その彼の言葉に室内の全員がハッとした様な表情になる。エレオノーラたちは前に彼から聞かされていた内容を思い出していた。

「どうしてそう思うかな?」

「簡単です。恐らく王様が考えている事はその内容を含んでいると思ったからです」

「その話を聞かせてもらおうかコンドウ」

 フェーバル王はその言葉に真剣な面持ちとなった。彼だけでは無いアレンゼントルとレテシィアもである。


「詠唱破棄です。もう私の事をご存知であればその話しも聞き及んでいるはずです。私も彼女たちにも教えましたがみんな使用できます。この世界での…いやこの国の話しはエレオノーラとサラから確りと聞きました。そしてキャメルからはホルト王国の話しもです。意図的に詠唱破棄の話しと私たちの事を記録に残さない事が感じられるのです」

 孝雄実の言葉は室内を静まりかえらせるのに十分な話であった。フェーバル王はたしかに報告で孝雄実等が行う魔法で詠唱破棄を匂わせる文言が書かれていた。しかし、彼もまたこの世界の人間である。眉唾な物と特に気にも留めていなかった。

「本当に詠唱破棄が可能であるのか…?」

 そう尋ねなければならないほどに信憑性が薄いのだ。


「可能です!」

 孝雄実は確信を持ってフェーバル王に話す。もう何度も経験している事である。論より証拠、断りを入れた孝雄実は早速三人へと魔法を見せる。彼には造作も無い事に為っていた魔法を披露されるとやはり一様に驚きの声を上げる。

「これがそうなのか…」

「凄いわね…」

「……」

 フェーバル王は感動し、レテシィアはその速さと火の魔法の輝きに感想を漏らし、アレンゼントルは黙りこくってしまった。余りにもあっさりとしていると言うのもあるが、彼は軍務大臣と言う肩書もある。一瞬でその有効性を見出していたのだ。


「ですが、これを広めることを私は止めようと提案しました」

「ふむ、それは何故だね?」

 フェーバル王は答えが分かっていながらも敢えて彼に話させようとする。

「それが先程の記録に残さないという言葉に繋がります。この国の状況を聞いて感じた事は魔法即ち詠唱という等式が思い浮かびます。それを補っているのが魔導書の存在等です。これによって詠唱破棄が行えないという考えが常態化しています。もしかすると詠唱破棄は出来ないものだと最初から諦める者だっているでしょう。私はそれを主導しているのが国であると考えております」

 そう言うと孝雄実はフェーバル王等を見やる。


「たしかに…たしかにコンドウの言う言葉は正しい。そこまで分かるならば今の状況を話そう。第一に魔法と言う物はある意味権力の象徴である。詠唱は覚えなければならない。加えて字を読めなければならず、自ずと財力がものを言い出す。これでは平民などは一生平民のまま、貴族は貴族のままである。中にはまあ没落する者がおるがそれは自然淘汰された結果である」

 その言葉にサラが少し反応する。まさに自分の兄と父の話しであるからだ。自業自得とは言えそれを為政者から言われると彼女も縮みこんでしまう。


「そうです。当然魔法元素をどれだけ所有するか、それは本人の才能です。しかし、才能があっても財力が伴わなければ芽が出無い。そう言う社会構造を敢えて構築している様に見えるのです」

 孝雄実の言葉は正鵠を射るものである。この魔法イコール詠唱という巨大な利権構造に国家そのものが食い込んでいると言ってもいい。孝雄実は漠然とした考えであるが、国そのものを知るフェーバル王とアレンゼントルは余計に深刻そうな表情になる。


「お父様宜しいかしら?」

 レテシィアは話しに割り込むと半ば強引にエレオノーラ達へと話しかける。

「あなたたちに尋ねます。詠唱破棄とはどれほどのものなのです?」

 四人はそう尋ねられて困惑する。はっきりと言えば簡単な話であるが、誰がどのような言葉を持って話せばいいのかが分からなかった。

「どうしたのです?さあお話しなさい!」

 これを止めようとしない王等は確かに尋ねたいものだったと思っていた。


「はっきりと申せば世界観が変わります。今までの事は何であったのかと、フェーバル王始め中枢の方を前にして話し辛いものですが、恨みと言うものが芽生えた事もあります」

 エレオノーラが代表して彼女自身の気持ちを吐露した。あの時の悔しさは今でも彼女の中では忘れる事の出来ないものであるのだ。

「……成程、それほどのものですか。ありがとうございます」

 レテシィアはそれきり話す事は無かった。


「今のこれこそが貴族などが恐れるものだな…」

「その通りですな。しかし、これが成功すればドットゥーセ王国は飛躍出来ましょう」

 二人の中では何某かの考えが出来上がっていた。

「であろうな…コンドウ、君はこの状況をどう考える。遠慮せずに君の考えを述べてくれ」

 フェーバル王はそう言って彼の目を見て語りかけた。


「以前彼女たちに話しをしました。私が居た世界では、統治に不満を持った民衆が立ち上がり、統治機構を一変させたという出来事がありました。貴族が政治を行い民衆はそのもとで暮らしておりました。しかし、民衆は、その日生きて行くのがやっとという者が多く現れるようになりました。その傍らで、貴族は贅沢な暮しをしている。それは民衆から絞るだけ絞ったもので生活していたからです。この国がそうとは申しません。領地を与えられた貴族も頑張っている様に私は思いました」

 それはオリマッテやロームルンの事を思い出しての話しである。僅か二人とはいえ彼の見た人物は確りと統治を考えていると思っていた。


「上手くいっていると仮定して、仮に詠唱破棄を広めた場合の影響がどれほどか全く見えてきません。もし私の世界の様に不満を募らせたものがどう行動するか、その先に何があるのか、恐らく革命と呼べる物に為るのでしょう。しかし、それで混乱させては本末転倒であると私は考えています」

 孝雄実は一市民である。世の中に影響を与える様な人間では無い。それ故に、詠唱破棄を広めた結果どうなるのかが僅かにでも見えた時、物凄く恐ろしい思いに襲われたのだ。






「そうか。やはり民衆は立ち上がるか…」

 フェーバル王はそう言うと大きく息を吐き出した。隣に座るアレンゼントルも同様である。二人にすればそれは悪夢である。この暮らしを失うのは勿論であるが国家そのものを破壊しかねないと考えれば尚の事である。

「しかし、エレオノーラの申す事がヒントでしょうな。詠唱破棄を成功させた時の感情、これこそが偽らざるものでしょう。『呼ばれた者』の記録を残せなかったのも頷けますな…」

 アレンゼントルはそうフェーバル王に答える。二人はその様に話すと顔を見合わせてもう一度溜め息を吐く。


「ところで、コンドウたちは冒険者となるのであるな?」

 話しを急に切り替えるフェーバル王に困惑気味に孝雄実がそうだと答える。すると彼は徐に鈴を鳴らす。すると一人の男が入室してきた。

「紹介しよう。余の息子チャレンと言う。一番下の子供でな、歳は十五になる」

「チャレンです。初めまして、よろしくお願いいたします!!」

 彼は元気よくみんなに挨拶をする。


「突然で申し訳ないが、チャレンを皆の中に入れて貰いたいのだ」

 フェーバル王がそう言うと彼は頭を下げる。

「一体どう言うことでしょうか?」

「そうだな。これを見てもらえれば分かるだろう」

 フェーバル王が言うとチャレンは早速孝雄実たちにとあるものを見せる。


『詠唱破棄!!』

 彼が見せたのは水の元素を用いた魔法であった。単に手の上で水の玉を発生させただけではあるが、これが凄いこととして見られるのである。

「分かったかね。詠唱破棄を王家の者が率先して使用することなど許されない。それこそ教会にばれることとなれば王家そのものが吹っ飛びかねない問題なのだ。だからこそコンドウの元に置いて貰いたいのだ」

 

 チャレンは生まれた時から少し他の者とは違っていた。特に魔法元素の種類が違っていた。この世界では多くて三つ。それを持つ者で有れば有名な魔法使いと成る事が嘱望される。しかし、彼はその上の四つを持つ者であった。当初は王家の人間全てがこれを喜んだ。だが彼の成長と共に事態が変化する。

 王家ともなれば財力は抜きん出ている。それ故に彼に付けられた教師は高名な魔法使いであった。彼等が教えるのは勿論詠唱の文言を始めとした魔法の理論、知識である。五歳から始められた英才教育は僅か一年で花を開かせ始める。これに伴いフェーバル王も彼に期待を寄せ始める。


 フェーバル王には全部で十八名の子供が居る。息子十、娘八と言う構成である。長男で王位継承権一位のアレイセンは今年二十五となる。王妃を始め側室を含めて七名となる奥を持つ。チャレンは最後の側室が生んだ子供である。王妃の産んだ子供は五名、上四人は全部が娘であった。藁をも掴む思いで臨んだ五人目で遂に後継ぎが誕生するのであった。ドットゥーセは女性の王位継承は許されない。故に彼の娘には王位継承権は与えられていない。


 アレイセンは人望、能力共に次期統治者としての才能を持っている。これは英才教育もさることながら、本人の努力の賜物である。現在は義兄のアレンゼントルの元で軍事について学んでいるところである。先のヘイレスにおける賊襲撃事件査問兼報告会での出席もその一連である。

彼には統治者として必要な畏怖が備わっている。領地持ち貴族、王宮内で闘争に明け暮れながら国を支える貴族、どちらも隙を見せればあっと言う間に喰われてしまうのが貴族社会である。そんな中を生き残り国家の中枢に居る貴族が彼を前にすると自然と頭を垂れるのである。中には汗を掻きだす者も居るほどだ。これを持って、彼が次代の王と成るべき人物であると貴族の中では周知されている。


 そんな彼にも欠点は在る。それが兄弟には甘いというものだ。身内贔屓とは異なるが、とにかく兄弟には優しく接してしまう。それこそ周囲には畏怖として映る物も兄弟を前にするとそれが無くなっているのだ。特にチャレンに対しては大甘と言ってもいい。

 だが、それが普通の兄弟間の事で有ればそれもまた人間らしいとアレイセンを認める話しと成る。だが、そのチャレンが普通では無かったのだ。






 チャレン・ドットゥーセが十歳のときに事件は起こる。

 切っ掛けは些細なことであった。この年齢ともなれば魔導書も多くを読み解く彼である。既に教師が教えることも少なく、来年には学術院(学校)へと入学する予定である。この日、チャレンは教師に尋ねる。

「どうして詠唱破棄が出来ないの?」

 それに教師は在り来りな返答しか出来なかった。まさか王家の人間に対して、出来ないものは出来ないなどと口が裂けても言えない。だからこそ曖昧にお茶を濁して答えたのだ。それで納得するのが子供であるとその教師は考えていたが、チャレンは違った。好奇心旺盛で、色々な物に興味を示した。特に納得いかなければ自分でとことん調べるという研究者気質な面が彼には在った。


 その日の夜、彼は悩んだ末に行動に移す。何故出来ないかでは無くどうしてやらないの、と言う考えで詠唱破棄を試してみたのだ。結果は成功してしまった。

 未だ、詠唱破棄がもたらす結果を知らないチャレンは早速親兄弟へ披露しようと移動を始める。そこで最初に捕まえたのがアレイセンであった……


最後までお読みいただき有難う御座いました。


 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字有りましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話でお会い致しましょう!

          今野常春

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