第三十九話 一難去ってまた一難、では無いな…
結果を見れば守備隊が圧倒的勝利を収めていた。
東部にあるヘイレスでの被害判定は軽微と言うものであった。但しそれは建造物においてと言う言葉が付く。人的被害は相当なものである。
先ずは賊の足取りを追った兵士が報告を上げる。
約一月前から俄かに増え始めていた、という事を第一に挙げている。続いてそれを取り締まる王家軍の兵士と幹部の堕落、これには近衛騎士団も盛り込まれるはずであったが無いものとして報告がなされる。
次に襲撃までの間にそう言った情報が無かったかについては、別の兵士が話し始めた。これは話しを聞いている者の表情が強張る。
近衛、王家軍両方とも上官へと情報を上げていたのだ。証拠に無傷で残った上官等の部屋からその報告書、要請、嘆願と言った文言がある書類が出て来ていた。つまりは分かっていながら放置していたのだ。
次に襲撃時の報告である。
賊の合計は実に五百三十九名にも登る数であった。この数字はあくまでもヘイレス内で倒れている数である。恐らく逃げ出した者も居るであろうが、結果として此処のボスのガルイナが倒れたおかげで、集団としての機能は無いであろうという判断を下していた。
侵入経路はヘイレス入り口の二か所から、土塁などを乗り越えた形跡はなし。但し、逃げようとする際に数名が中から外へと脱出を図るが住民に殺される。
その時報告を聞いていた者が兵士の話しを遮り問い掛ける。
「近衛騎士団の人間は何をしていた?」
勿論これが話しを聞いていた側が最も知りたい話しである。ヘイレス配置の人員五十名中生き残りは僅か五名である九割が亡くなるという悲惨な結果となったのである。あくまでも数字上ではさぞ壮烈な戦いをしていたと思われていたのだ。本当にそうであれば一月前からの事は不問と成る筈であった。しかし、此処からはフレテスト・ホートマン近衛騎士が報告を行う。
「君は?」
彼の目の前には十名の高官が座っている。軍の重鎮等である。その内の一人がそう尋ねる。
「ハッ!自分はフレテスト・ホートマンと申します!」
そう言って形式に則った敬礼を行う。
「ああ、ホートマン男爵家の者であるか…それでは報告を続けたまえ」
答礼した男はそういって先を促す。
「襲撃時、近衛騎士団は就寝中でありました。私は証拠として提出いたしましたが上官へと意見具申しておりました。しかし、受け入れてもらえませんでした。その日は寝苦しさと街中の雰囲気が怪しいものでした。ふと眼を覚ましますと宿舎の前は賊が十人外で待機しておりました。何かの合図で行動を起こそうというものであったと愚考します!」
フレテストははきはきと報告を行う。目の前の男たちの表情は宜しくない。何と言っても夜、就寝時であれば交代で寝ずの番を行うのが当たり前であった。それをまずフレテストは知らないかのように話しをしているのだ。
「ホートマン、済まないがちと聞かせてくれ。君は何時入隊し、寝ずの番と言うものが無かったのか、この二点だ」
先程尋ねた男では無く、隣の者が尋ねる。
「今年入隊いたしました。卒業時は次席であります。寝ずの番については在りませんでした。学校で在ったにも拘らず、それがありませんので上官に質問しましたところ……」
「質問したところ何だ!?」
その怒声にフレテストは驚いたようにして話し始める。
「襲撃などありはしないのだから、そんなものは必要無い。でありました!」
彼の言葉に全員が水を打ったように静かになる。一部は怒りに震えていたが他の者は呆れていた。
「フレテスト君、君はその事について何か思わなかったのかな?」
「当然思いました。他の上官へとお尋ねしましたところ、皆が口を揃えて必要無いという答えであります。そこで一度王都本部へと確認を行おうとしましたところ、許可なく本部と連絡を取る事を禁止すると言われまして…」
軍、軍人と言うのは、命令は絶対であるという習慣が体に染みついている。それ故にフレテストは自然とその命令を守ってしまったのだ。これでは彼を咎める事は絶対できない。
「成程、その事については後日改めて話しを聞かせてもらいたい。それで、肝心の話しを聞かせて欲しい。君たち生き残った者以外はどうなったのだ?」
中央に座る男が尋ねる。最初に尋ねた男だ。
「はっ、私が賊十人に気が付いて、それらを倒しました。その時漸く目が覚めたらしく宿舎は騒然としておりました」
「そこは先程の報告書でも書いてある。先だ、一体その後に何があった!!」
「私ともう一人を除きまして…船を守るためにアレンセント川へと退いて行きました…」
彼はそう言うがこれはどう考えても敵前逃亡である。
「結局、最後まで戦っていましたのは近衛騎士団で十名であります…」
フレテストは目の前の男たちの表情を見て申し訳なく感じてしまった。それに気が付いた中央の男は慰めるように言葉を掛ける。
「君は最後まで戦ったのであろう。悪いのは君では無い。むしろ我々は君たちを褒め称えねばならない。近衛騎士団の名誉をその僅かな人数で守り抜いたのだ。そうだな、ゼンデント卿?」
そう言うと一番端に居る男へと声を掛ける。その言葉が聞こえるとその男は立ち上がる。
「はっ、はい!フレテスト・ホートマン殿以下五名は男爵位を、戦いながら命を落とされた者は準男爵位を授けられるとのお達しで御座います!!」
彼は喜ぶよりもこれで騎士団での昇進は無くなったと悟った。体の良い口止めである事は誰の目にも明らかである。
「ちょ、ちょっとお待ちいただきたい!」
男たちの中から声が掛けられる。それを聞いて中央の男は言葉を促す。
「何かな、ヘルセッタ卿?」
「は!発言をお許しいただき、有り難気幸せ!」
そう言って脂汗なのか大量の汗を拭いながら男は立ち上がりお礼を述べる。
「よい、それよりも早く話しくれ」
「それでは……フレテスト・ホートマンに尋ねる。後方へとたい…転進した近衛騎士団の人間はその後どうなったのかね?勿論戦って亡くなったのだろ?」
一瞬退却と口にしそうになったが、それでは逃げ出したとの同意であると気が付いて言いなおした。
「これは私も証言しか集められませんでした。後方へと退いた者は上船を行うと待ち構えていた賊に船ごと沈められました…」
この発言でヘルセッタ子爵は力を失い席にへたり込むと顔を俯かせる。
「これにて報告会は終了する!アレンゼントル余はこれで戻るが、後は任せるぞ!」
中央の男へと言い放ったのはその隣に座る男であった。
「はっ、殿下の御意に従いまして…」
全員は席を立ちあがると恭しく頭を下げる。彼は兵士らには内緒で参加していたのだ。
フレセントはその名前で漸く誰の事をなのかを知ることになった。
「殿下!?フロランス侯爵閣下!!」
次期王と成る事が確実視される者と、軍部の重鎮であるその男はニヤリと人の悪そうな顔で彼に答えた。
「フレテスト、先程も述べたがよくぞ近衛騎士団の名誉を守った。これは余の言葉として聞いておけ」
そう言うと彼はこの場を後にしたのである。
「確かに王都を目指して俺たちは旅を始めたよ。でもさ、一体何時まで此処に拘束されるんだ?」
戦闘の後程無くしてドレンスから応援が到着する。そののち近衛騎士団と孝雄実たちは王都グローリンバリーへと移動することになった。ご丁寧に王家所有のドラゴンがやって来て全員を詰め込むと一路王都へと向かったのであった。
孝雄実はそれに驚く事も出来ずあっと言う間に連れていかれて行ったのであった。
普通に移動すれば最低でも一週間は要する道のりを半日で移動したことでミレムも少しライバル視するのであった。
「もう四日目ね…」
エレオノーラも少し疲れ気味で答える。この部屋にはあとキャメルが押し込まれている。サラとマリアンは隣の部屋に居るが食事を除いて交流できずにいた。
「仕方ありませんね。このくらいの拘束は当たり前に起こり得ますから……」
キャメルはこう言う事はワレンスナから聞かされている話しである。だからこそまだまだといったものであった。
「えー」
これはエレオノーラも同様であった。此処での暮らしは最高と言ってもいい待遇である。食事も美味しい物が提供され、風呂も態々入れるように手配される。至れり尽くせりと言う言葉が正しいものだ。しかし、どうしてもこの部屋から出るにはそれなりに手続きを取らねばならなかった。外で運動をするにも許可が必要である。彼等には少なからず不満が蓄積し始めていた。
これはマリアン達も同様である。幾らサラが貴族とは言え、彼女自身もマリアンを諌めるのも限界があるというものであった。
事態が動いたのは翌日五日目の朝であった。朝と夜は五人揃っての食事が出来る。この時ばかりは全員が会話を楽しんでいる。全て自分たちでやるからと言って使用人たちを室内から出している。これは少しでもプライベートを確保したいと、執事に話しをしての結果であった。
この日は食事を運びこんでさあ食べようというとき、その執事が予定を口にする。
「本日皆さまには面会して頂くご予定に御座います。つきましては午前中から行いますので、食事を終えましたならばご用意をお願い申し上げます」
その様に言うと彼は部屋を出て行った。そう言われて皆は顔を見合わせる。
「一体誰なんだ?」
「わ、私に聞かれても分からないわ」
「私も知る訳無いだろ!」
孝雄実はエレオノーラを見て、見てもいないがマリアンが話しに加わる。三人はサラとキャメルを見る。
「恐らくフレテストさんたちの報告が終了したのでしょう。それで私たちとも話しを聞ける用意が整ったそんなところでは無いでしょうか?」
キャメルはそう言って予測する。事実上査問会に近かった報告会は連日連夜開催されていた。王太子が参加したのは最終日の事であったのだ。
「御会いするとすれば…フェーバル王となるのではないかしら…」
サラはそう予想している。執事の言葉がそれを匂わせていたからである。普通で有れば面会相手を述べるはずである。しかしそれを述べないという事は、それ相応の人物であるという事が分かったのだ。
その予想は的中する。迎えに来たのは王宮に詰める近衛騎士団の人間であった。そこに従者と思われる男が加わり五人を連れて行く。
五人はそれぞれに王宮から下賜された物を身に着けている。孝雄実は孫にも衣装である。他四人は美しさに磨きが掛かっている様な服装であった。
「此方で御座います」
従者の男がそう述べると内側から扉が開かれる。そこは玉座の間であった。五人は一様に緊張の色が走り出す。サラが予め予想して話をしていたとはいえ現実となればまた違うものである。
従者は五つの椅子が並べられた所まで案内すると、座ってお待ちください、と述べてこの場を後にするのであった。
それからほどなくすると音楽が鳴り始めて、玉座の側から人が現れる。エレオノーラは事前に孝雄実にレクチャーしていて良かったと思った。王に対しての挨拶の仕方を以前彼に教えていたのだ。彼女も平民の出だが、一度貴族の元に付けばそれを学んでおかないと、何時何があるか分からないのだ。今それが役に立った。
「楽にせよ。余がフェーバル・ドットゥーセである。汝らがヘイレスにおいて近衛の者と共に戦った者であるか?」
そう玉座に座った男が言葉を述べる。この言葉には爵位を持つサラが答える。
「はっ、わたくしはサラ・ロースロンドと申します。以前はサラ・フロランスと申して押しました。陛下には新しく男爵位を授けていただいた事感謝の念に堪えません。我ら五人ヘイレスにて加勢致しました事は確かなことで御座います」
サラは立ち上がるとその様に言葉を発する。するとどうであろうかフェーバル王の後ろで彼女を見る目が変わった男が居た。
「成程、そなたがフロランスの娘であるか…ともなればそなたの実力本物であるということだな。誠に結構!どうであろうかアレンゼントル?」
彼はそう言うと後ろに立つ男に言葉を掛ける。軍服が馴染んだ男が恭しく言葉を返す。
「フェーバル王の仰られる通りかと…」
「であろうな。それとだ自己紹介をせよ。名を名乗らんのでは話しも出来ないであろう」
「確かに、誠に申し訳ありませぬ。私はアレンゼントル・デロット・ストランデス・フロランスと言うロースロンド男爵と皆よろしく頼む!」
その言葉にサラも孝雄実たちも漸く彼女の家の事を思い出した。
「フロランス侯爵には父を始め数々のご迷惑をお掛け致しました…」
サラは瞬時にその言葉を発する。幾ら縁を切りたいと思っていたサラであっても、対外的には元フロランス家の人間である。さらにはカラドヌルクの所有者である。全てはこれが騒動の元凶であったのだ。
「構わんよ。君もフロランスの名で振り回されたのであろう。家を新たに構えることになったのだ。それを確りと維持して断絶させぬように努めよ」
彼の言葉は非常に重いものである。過去の事は水に流すとは彼は述べていない。だが彼女に罪が無い事も彼は理解している。
「はっ、侯爵のお言葉肝に銘じて行動致します」
これにてフロランス家の騒動は決着を見るのであった。
「お主らには褒美を渡さねばならん。これは近衛騎士団の崩壊を防いだ事と余の領地をその身を持って守り抜いたことに対する礼だ」
報告では孝雄実の魔法については伏せられていた。意図的ではあるが王家、中枢に居る貴族に知られれば碌な事に為らないと判断してヘイレスを立つ前に話をしてあった。これに協力したのがフレテストであった。それぐらいの協力は惜しまないと彼を含む五人は固く誓った。
「ありがとうございます。我ら一同王家の為国家の為に身を粉にして頑張る所存です」
「うむ。して、お前たちはこれからどうするのだ?」
一連の面会内容を終えてと言うことで、部屋を移して懇談会の様相を見せる。フェーバル王はそう言って孝雄実たちに尋ねる。この時点で全員が名を名乗っている。参加するのはフェーバル王とアレンゼントルと妻のレテシィアの三名が参加している。
「本来は冒険者に成ろうとグローリンバリーを目指しておりました」
サラはその様に話す。
「それにしては随分と派手に活動しているな…」
フェーバル王がそう言うのは彼等の活動について報告が入っていたのだ。そこには勿論あの事も混じっている訳で…
「特にコンドウと申したな。お主は『呼ばれた者』であろう報告は入っているぞ」
その言葉に孝雄実たちの表情が凍りつくのであった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
ご感想等お待ちしております。
誤字脱字在りましたらご報告いただけると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春




