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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
いざ冒険者へ…
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第三十四話 無闇な詠唱破棄のご使用はお控えください…

 孝雄実たちの詠唱破棄の教えは大成功のうちにその幕を下ろした。彼等は閉門時間までに戻るとデンたちと合流して一緒に夕食を共にした。その時の話しは面白みのないことであるので割愛する。

 孝雄実たちはロームルンの好意で最初と変わらぬ宿屋で過ごすことが出来ていた。お店にとっても開店休業しなくていいのだから有り難い限りであった。

 その夜、一緒のベッドで寝て以来エレオノーラとは…いや彼女が当たり前の様に、一緒に寝るようになっていた。孝雄実はその夜、昼間キャメルから聞いた彼女の故郷ホルト王国の事を思い出していた。隣では彼女がぐっすりと眠っているのが分かる。その寝息が妙に彼の集中力を高める。


 彼は頭の中でドットゥーセとホルトの魔法観の違いについて考えていた。

 共通となるのは必ず魔法元素が無ければならない事である。これは両国共通と言うことから分かる様に、他の国でもそうなのかもしれないという仮説を立てる。ではその違いは何か、前者は必ず詠唱を唱えなければ魔法は使用できないという常識が蔓延している。むしろそれ以外を考えることを禁忌としている様にも孝雄実は思っていた。

 理由は簡単だ。孝雄実と同じ立場で来た『呼ばれた者』に関しての情報が余りにも無い事である。同じ世界、同じ時代から来た者ではないかもしれない。しかし、この世界とは根本的な考え方が違えば、孝雄実と似たような考え方をする者が現れてもいいはずだと彼は考えた。するとどうだろうか、彼の思考の中に一つの考えが導き出される。

 彼がまだ地球に居た頃、新聞を読んでいると『利権』『既得権益』と言う単語をしばしば目にしていた。正しく魔法の定義に関して言えば、利権構造にがっちりと咥え込んでいるのではないかと考えるようになった。


 例えばドットゥーセに関して言えば詠唱するためには文字が読めなければいけない。その為の学校であるが、通える者はそれ以前に読み書きは出来ている。読み書きを習得した者は本を購入、若しくは借りたりして、文言を覚えなければならない。以前エレオノーラに聞いた話では、詠唱の文言を覚える専用の学校もあったりするという話であった。これは民間、王立の垣根なく建てられているそうだ。最もお金が無ければいけないとも彼女は話している。とは言え、彼女の説明で感じたのは習い事に近いものである。先ずはそこにお金が落ちる構造が造られている。さらには高名な魔法使いが書いた書物がある。これを魔導書と呼んでいるのだそうだが、基本的には自叙伝に誓いと彼女は話す。

 それでも知識の無い者にすれば、高名な魔法使いが書いているからと購入する者もいるのだそうだ。彼女も幼い頃、オリマッテの援助で魔導書を購入して貰ったと孝雄実に話していた。それは当然オリマッテの財産となり、現在は彼の屋敷内に保管されている。


 お金が無ければ詠唱を知ることが出来ない。お金がある所は、と彼が考えれば貴族と商人である。他にもある処にはあるのだろうが、彼の頭にはその二つが浮かんだ。

 つまりは支配構造に直結していると言ってもいいと彼は考える。普通の学校も基本は貴族が通う所である。それは財力の関係だ。その貴族と懇意にするべく商人の息子たちも学校へと通い、将来的な繋ぎを構築するのだ。


 そして魔法と言う物で駄目押しをする。詠唱破棄は絶対に出来ない。これは魔導書の最後に必ず書かれる文章である。高名な魔法使いが言うならば、これによって思考を停止させているのである。

 平民は、元素はあれどもまずお金がそれほど無い。だから諦める。少し裕福な家庭も学校に通わせるのは無理だと、魔導書を購入しても書かれてある詠唱は出来ても詠唱破棄は行えないと自覚する。つまりは一生涯生まれた階級から抜け出す事が出来ないと思わされるのだ。大多数はそれで納得してしまう。

 加えて、魔法使いとして名を馳せるのは必ず爵位を持っている人物である。その事からも完全に利権と支配構造さらには洗脳教育に近ものを国に住まう者に植え込んでいると孝雄実は考えた。



 

 

 そしてホルト王国にしても同様な定義で当て嵌めてみる。すると面白い様にドットゥーセと似通ったものに見えてくるから不思議であった。魔法は野蛮だ、という考え方がこの国には蔓延している。これはキャメルの言葉である。

 つまりはドットゥーセの利権構造の反対をゆく考えである。仮に海外から魔法に関しての何かが入ろうとも、これで周囲から利権を求める者を排除できる。各元素ギルドを考えればそれだけでその場は利権団体の完成である。さらには魔道具の販売である。ホルト国内では幾つも製造工場があるだろう。それに伴った商会があるのは当然である。しかし、世界へと考えた時キャメルはこのように話す。魔道具は唯一ホルト製の…つまりは世界で見て唯一製造できる国がホルト王国なのだと考えた。小国ながら、ある意味で強大な発言権を有していると言ってもいい。魔力を流せば使用出来る道具。これほど魅力的な物は無いはずである。

 キャメル自身が便利だというぐらいであるから、他の国の人間が使用すれば手放せなくなるだろう。それがどんなに高価でも買いたい人は必ず現れる。それを実現できるのはお金のある人物貴族、上から言えば王様等からであろう。果てはその国の商人も同様である。 

これは孝雄実が知らない話しだが、ホルトの商人は王都等その国の為政者のもとにしか現れない。つまりはそれ以外の場所へはその国の商人が販路を利用して売るのだ。ホルト側は多少値を吊り上げても問題はない。購入した商人も売値を上げれば元は十分に取れるのである。こうして上から下へと流れるように支配されている。


 それを考えて、孝雄実はホルトの方を恐ろしく感じたが、それよりも詠唱破棄と言うものが両者共に相容れない事と考えている。この話しが蔓延すれば互いの利権団体、構造は崩壊する可能性が高い。これはある意味でパンドラの箱になりかねないと彼は思ったのだ。

 その利権構造で国が上手く纏まっているならば敢えて、崩す必要はない。それが原因で国内が大混乱を起こせば困るのは力の無い人、即ち平民であるからだ。これは慎重にならなければいけないのかも知れない、と彼は思うのであった。


 こうして夜は更けて行く。気が付けば彼女がぴったりと寄り添うように寝ていたのはいつもの如くであった。





 翌朝、平原の封鎖解除までは時間がある。そこで彼は夜に考えていた事を彼女たちに話そうと決意した。例によって話しを行うのは孝雄実たちの部屋である。

「昨日の夜にふと思ったんだけどさ、詠唱破棄を簡単に使用し、教えたりしても大丈夫なのか?」

 突然の孝雄実の言葉に彼女たちは首を傾げる。

「一体どう言うことなの?」

「いや、昨日の夜に考えたんだよ。どうしてみんなが詠唱破棄にあれほど驚くのか、それにキャメルさん」

 彼がそう言った時一瞬みんなの体がびくりとした。

「からも話しを聞いたんだよ。そして思ったんだ。この国はなぜそこまでして詠唱に拘るのか?」

 彼はそう言って話しを止める。彼女たちの意見を求めているのだ。


「拘るね…」

「確かに詠唱破棄については不可能だと断じているわね」

「でも簡単に出来たぜ…」

 三人はそれぞれうんうん言いながら考えを絞りだそうとする。

「そう、簡単に出来るにも拘わらず、何故か出来ないと断じる。そこで俺は考えたんだよ。もしかしてそうせざるを得ない何かがあるじゃないのかってな」

 そう言われても彼女たちにはそれが全く分からない。第三者である孝雄実であるから分かることだ。昔テレビ番組で日本暮らす外国人が日本人のおかしなところを話す番組があったが、その国で生まれ、暮らし当たり前だと思っていると中々分からないものである。


「さっぱり分からない」

「私もよ」

「もしかして支配関係じゃないのか?」

 エレオノーラとサラがお手上げをする中、マリアンは確信を突く言葉を発した。

「マリアン今の言葉もう一度!」

「えっ、えーっと、支配関係に影響があるんじゃないかなって……」

 突然孝雄実に言われた彼女は自身を失くしながらどんどん声が小さくなっていった。


「そう、俺はこの国の支配体制にあると考えたんだ。前にエレオノーラは話したよな、魔導書の最後には詠唱破棄は不可能と書かれているって、それと著者は全てが高名な魔法使いで爵位があるって」

「ええ、そう言えばそんな事を話したわね…」

 彼女は記憶の片隅に在った光景を引っ張り出して答える。

「でもそれがどう関係するんだ?」

「この国の支配体制はどうなっている。マリアン?」

「えーっと…上から王様だろ、それから領地を収める貴族に…」

 マリアンは難しい内容に頭を傾けながら答えて行く。しかもゆっくりとである。それが功を奏したのかサラが、真っ先に気が付いたのだ。


「分かったわ!!」

「うわっ、吃驚した!」

 サラの突然の大声に隣に座っているマリアンが驚いた。

「孝雄実の言いたい事はね、詠唱に関する関係と国の支配体制が同等だと言いたいのよ」

 サラはそう言うと孝雄実に確認のために彼を見る。

「そうだよ。俺はそうなんじゃないのかなと考えている。この事はみんなの方が詳しいんじゃないか?」

 彼が言うのはこの国の構造の話しだ。


「そうね、サラは間違いなく貴族だものね。私もオリマッテ様に付いていたからそれなりにわかるかもしれないわね。でもよくマリアンが支配体制なんて気が付いたわね」

 馬鹿にするつもりは全く無い。むしろ彼女の勘の良さに驚いたエレオノーラであった。

「まあな、私は元々賊を生業にしていたからな。そういう関係を外から見ている人間であると思っているんだ」

 彼女は国から討伐される側の人間だ。その事からも彼女はより相手を研究する。そこで上手いく弱点を突いていかなれば生き残れないのである。そこから彼女は導き出したのだ。


「それじゃあ俺の考えを話すぞ。詠唱に関して何故かお金が無いと覚えることが出来ない。ではお金がある場所と言えば、貴族と商人だ。他にもあるかもしれないが総じてそんなものだろ?」

 孝雄実が皆を見ればそうだと頷く。

「しかもさ、学校に行くには莫大なお金が掛かる。そうだろ?」

「ええそうね。貴族でも必ずいけるとは限らないわ。私は辛うじて通えていたのだけれど…」

「こうして、格差を生ませる。さらにはそこで、詠唱を魔法の考えを学ぶ。これで学校に通えない子供は学ぶ機会が失われ一生縁のないものに為る。さらに学校内でも格差を生ませる。それが学校以外の場所だ」

 そう言って再びみんなの顔を見やる。しかし今度はマリアンを除いて分かったという顔に為る。

『詠唱研究所!』

 それが正式な名前である。前に話された学校以外で詠唱学べる場、孝雄実が習い事の様に感じた場所だ。その場所の特色は魔法を使用出来るものがそれぞれに開校出来るというものである。しかもどれか一つの元素、一つの詠唱さえ完璧であれば可能と言うから驚きである。研究所と言う名前は建前であるといことがはっきりと分かるというものだ。


「そうあれってさ、結局学校に通えて、魔導書が読める人間が開校出来る場所だよね。だって詠唱が出来ないと魔法は発現しないのだから。でだ、お金を払えるのは貴族でもより身分の高い者でしかない。財力があればより多くの魔法を覚えられる。言い換えれば買えると言ってもいいよな。まあその人間の持っている元素と魔力の兼ね合いもあるんだろうけど…」

「確かにそう言われればそうね…」

 サラは学校に通っている当時を思い出して苦々しい気持ちになっていた。自分よりも才能が低いのに、研究所を巡り何所其処の詠唱を覚えたとひけらかす輩が多くいたのを覚えている。そうやって階級を自ずと自覚していくのだ。つまり金と力を自然に自覚させることで、支配体制を子供のころから体で覚えさせ盤石な形にしているのだ。


「でもさご主人様、その話と詠唱破棄を教えたりするのがどうして駄目そうな感じになるんだ?」

 マリアンの質問は最もと二人も考えている。どう考えてもメリットは大きい、だからどんどん広めるべきだと彼女たちは考えているのだ。

「まあそうだよな。でもさマリアン、詠唱破棄を知らない時点で答えてくれ。現状に不満は在ったか?」

 マリアンに対しては愚問であるが、他の二人に対してはそうではない。だが彼女とて、魔法が使えずとも現状に不満は無かったのだ。


「もしも、詠唱破棄が出来る。今までがおかしかったと思うようになったら、今まで支配されていた人はどうなる?」

「どうなるって…不満を募らせるわね」

「そうね。でも不満を増大させても訴えるにはまたお金が掛かるわよね」

「そうだな。最適なのは我慢するしかないよな…」

 三人は寄り添い会話を始める。しかし、どうしても今までの支配体制から考えが抜けきれない。

「俺の世界ではな、現状に不満を募らせた民衆が立ち上がって既得権益者を倒した国があるんだよ。とは言え少数支配からの転換ってだけに過ぎないけどな…」

 人は衣食住が保たれていると安心する。倒された原因は多々あろうが、大多数の者はその日食べるのも苦労している。その傍らで贅沢な暮しをしていれば不満に思うのは当り前であろう。


「立ち上がるって…」

「何処にそんな力が…」

「いやあるぜ。私たちの様な賊を結集させるんだよ」

 そうマリアンが言った通り。出来なくはない。何しろ魔法は使えるが、欠点である詠唱という時間を要するものなのだ。しかし、魔法が使えるという考えだけで、使えない人間を下に置いている。つまりはそう言った人物、貴族とは偉いということを長い年月を掛けて創り続けているのだ。

 だが、一歩道を外れてみればどうだろう。恐れと言うものが無ければ、ああこんなものなのかと言う思いである。嘗てそれはエレオノーラが感じた思いである。初めて詠唱破棄を成功させた日、諦めていた事がこんなに簡単であったという思い。それが気持ちの切り替わりである。


「そうだな。俺はそうなる可能性も考えている。でもさ、無理やりにそんな事をしてその後はどうなる?現状に不満がある、だから力に訴えて支配構造を壊しました。その後はどうなんだってことだ。俺はそこが心配なんだ」

「だから詠唱破棄はなるべく控えたいと?」

 エレオノーラがそう尋ねる。

「そうだ。俺と言う『呼ばれた者』が使うのならば住む世界が違うで終わる話だろ?だから俺以外の人たちの記録が残っていないんだ。簡単に詠唱破棄が出来る事が知られたら、彼等にしてみれば悪夢だからな。それにやったらやったらで困るのは今、立場が弱い人に為る」

「孝雄実がそう考えるのならば早く手を打たないといけないわね」

 サラは良いとも悪いとも言わずにそう言った。彼女も概ね賛成ではあるが、果たしてそれが本当に起こりうるのか懐疑的であったからである。


「セイとルイ、それからキャメルさんの三人には硬く注意をしなければいけないってことね」

「そうよ。特に姉妹にはよく言い聞かせないといけないわ。むやみやたらに使用する、教えるという事が無い様にしないとね」

「それは私たちもだな…」

 三人は少し暗い気持ちになる。何と言ってもあんなに便利なものが使用制限されるのだ。

「ま、周囲に人がいない時ならば問題はないだろ。後は詠唱している様に見せればいいんだ。深くは考えない様にしようぜ」

 言い出した手前やっぱりなしと言いづらい彼はそう言ってお茶を濁したのであった。


 


 翌日、当然のことながら四人は昨日の事を、デンたちを含めて話す。その場にはワレンスナの姿もある。と言うことで全員は冒険者ギルド支部長室へ集合している。

『えー使用するのを控えるの!!』

 息の合ったセリフが妙に非難めいているのは否めない。しかし、ワレンスナとキャメルそしてデンはその言葉を重く受け止めていた。

「確かにコンドウの話しには聞くべき点は多い。ある意味私もそちら側の人間だからな。やはり君は『呼ばれた者』なんだな。しかし、その忠告は有り難く受け取る。デン分かっているな」

「ああ勿論だ。今の支配体制があってこそ冒険者として生きていけるんだ。多少こいつらには不便を掛けるが絶対に逸脱した行為はさせねえ」

 デンはそう言って二人を見る。セイとルイはそれでも非難の目を止めない。


「二人とも使うなとは言っていないのよ。あくまでも控えてねってこと」

 エレオノーラがそう言ってフォローをする。

「そうよ、貴方たちが知った詠唱破棄を人に教えるのは止めて貰わないといけないけれど、使ってはいけないとは言っていないわ」

「どもサラ、どうすればいいのかしら」

「詠唱している様に見せかければいいのよ。早口でも何でもいいから兎に角周囲に詠唱していると思わせればいいの」

『あっ、成程!』

 あっさりと納得した二人は、これ以降その件に関しては文句を言わなくなった。

 この二人、後世に偉大な魔術師として名を残すことになるのだが、切っ掛けは今の言葉であると弟子や家族に残しているのであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 少し難しい事を書いたかなとも考える今野常春で御座います。利権だの支配体制だのと完璧に理解していない私が書いて確りと皆さまに伝わっているか、非常に不安に思うことであります。しかし、この話しは以降の話しにも関わってきますの書かざるを得ませんでした。


 ご感想等お待ちしております。

 誤字脱字ありましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

               今野常春

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