第三十話 見て、まるで人が〇〇のようだわ!!
タイトルふざけています。御免なさい…
孝雄実たちがフェリシャスの真実をミレムから聞かされている頃、ロームルン率いるエルサンド族軍とワレンスナ率いる冒険者の連合軍は歓喜に酔いしれていた。裏では主導権をロームルンの族長一族で家令を務めるルチア・エルサンドに握られるも表面上はワレンスナの手柄である。孝雄実等を割いてフェリシャスの巣穴へと送り込んだ事を知るものは指で数えられるほどだった。
その証拠にワレンスナのもとには冒険者のみならず、エルサンド族側からもお祝いの言葉が届けられている。だがそこには当然族長からもあるわけで…
「くそっ!何がおめでたい、だ!!」
彼女は天幕内でロームルンから届けられた手紙を読んでいた。明らかにこの文面はルチアのものである事が分かっている。それがロームルンからと言うのが余計に彼女を怒らせている。
「おい、ワレンスナ。あんまり大声で叫ぶな。他の冒険者も居るんだぞ…」
デンがそう言って彼女を諌めるが、そう簡単には行きそうもないと彼は感じていた。
この場には二人以外はいない。ゼーファたちはなるべく人を寄せない様にと、天幕の外で警備に当たっていた。少し前までは人数の減った冒険者等が引っ切り無しに祝辞を述べに来ていた。そこは冒険者簡潔に一度言えばいいという程度である。加えて、現地解散を冒険者たちは言い渡されていた為に、既に集団としての機能は無い。デンの心配は杞憂であるが、そう言わざるを得ない状況であった。
ではなぜ彼等はこの場に居るのか。それは彼等も関係者としてロームルンの名を使用してルチアが引き止めている事が一つ。ワレンスナがキャメルの代わりに残ってくれるよう要請したのが二つだ。
「だがな…」
流石に手紙を破り捨てる事はしないが、今にも破り捨てそうな勢いである。そんな事をすれば、いかに冒険者ギルド支部長と言う職であろうとも、ドランデストハイムでは生きてはいけない。
「先ずは落ちつけ。此方での蹴りは着いたんだ。後は座して待とう。お前は知らんかもしれんな、孝雄実の奴は本物だ。あいつならケロッとした顔で帰ってくる。周囲の嬢ちゃん達もそうだぜ。サラって言ったな。あの嬢ちゃんは…」
「フロランス家の申し子だろ。最近王国からロースロンド男爵を与えられた」
ワレンスナは未だに手紙から視線を話そうとはしないが、それでも声質は幾分和らいでいた。
「だな。それにマリアンだったかあの嬢ちゃんも中々のもんだぜ!」
一賊のボスであるマリアンはこちらまでは情報は漏れて伝わってはこなかった。しかし、一時とは言え賊五千名以上を指揮してブラスト辺境伯に戦いを挑んだと知れば二人は驚愕するだろう。
「ああ、マリアンの奴隷の経緯は知らんが、実力は相当あるな。それにエレオノーラだったな。戦闘技術では二人には及ばんが一番コンドウに近い魔力を持っている様に感じたぞ…」
ワレンスナはその様に彼女等を評する。
「そうなのか?流石に俺はそんな事は分からねえが、お前がそう言うならばそうなんだろうな」
「そうだ。流石に勘は鈍ってはいないさ。さてと、これでいいな」
気が付けば彼女は何かを書き上げていた。手紙などは端に追いやられている。
「何を書いたんだ?」
「辞表…」
簡単な言葉の様で非常に重たい言葉である。特に支部長ともなればとんでもない権限が与えられる。言うなれば支部の管轄権内であれば領主に近い者が有る。冒険者に限るが、やれる事は貴族に比する者が有るのだ。
「なぜ、何故だ!?そりゃあ確かにお前さんが報告しないことで、一時の混乱は在ったのかもしれねぇ。でも結果が全てだろ!お前さんが辞める必要は無いだろうが!」
確かに彼女の失態は下手をすれば軍の崩壊に繋がりかねないものである。しかし、それは結果として起こらず、得た内容は最上のものである。つまりは計画通りに事が運んだということだ。
「だがな、もう私は決めた。それにこれからはルチアの横やりが相当ありそうだからな。私はそこまで冒険者と言うものに固執しては居ないから…」
「ワレンスナ、やはりお前さん……」
デンは嘗ての事を思い出していた。彼女の顔にはその愁いのある表情が浮かんでいるのを見逃さなかったのだ。
「ああ、気にするな!私は単に嫌になったから辞める。それでいいじゃないか!」
彼女も余り触れて欲しくは無い内容である為に声を荒げて有耶無耶にした。
「まあ辞めるにしても受理されるのに時間は掛かるだろ?」
全ての人事権はギルド本部が握っている。収益、評判、冒険者の支持率等を勘案して支部長は決められる。彼女はその中でも上位に位置する人物であり。デンはそう簡単には職を辞する事は出来ないと踏んでいる。
「どうかな、案外すんなりと許可されるかもしれないぞ!?」
その彼女の言葉に彼は戦慄を覚える。彼女の事を良く知る彼はそう言える根拠が幾つもあるからだ。
「ま、まあ穏便にな…だが職員やキャメルはどうする?今更後任に任せるってなると、それこそ其方に時間を要するだろ?」
「それは知らん。後任の人物がやることだ。私がとやかく言う必要は無い」
冒険者ギルドの運営側は言うなれば米国の政府に似ているところが有る。大統領が変わればそこの住人が殆んど変るといった点だ。職員の大半は現地採用の人間であるが、主要なポストはワレンスナが連れてきた人間である。
勿論彼女は連れてきた責任から逃れる事はしないつもりだ。彼女が今まで培ってきた物を総動員してでも何とかするつもりである。
「それで、辞めてどうする?」
彼女を良く知るデンは、これ以上は意味が無いと、それ以降の話しへと切り替える。
「旅に出るさ。以前は私も流れの冒険者であったからな、もう一度そうなってみるのもいい。どうせならキャメルとコンドウたちを追うのも楽しそうだな!」
そう言って既に彼女は第二の?人生を楽しむ算段を始めていた。
話しはそこから遡る。フェリシャスがやって来た時の話である。
ルチアが編成した偵察兵より巣穴からフェリシャスが飛び出して行ったとの報告を受けた。それにより残る連合軍の人間は緊張に包まれる。明らかにグルンビッグを捕食すると考えられてはいるが、それでもあの巨鳥が迫れば恐ろしさはひとしおである。
逐一報告が送られ、後どれくらい、今何処を通過、と訓練の成果をいかんなく発揮していた偵察兵には及第点を与えていた。
遂にその姿を視界に捉える事が出来るまでになる。一歩が大きいフェリシャスは着地の度に大きな地響きを伴う。それが余計に恐怖を煽る。だが流石に此処まで残された人間達である。表面所はその恐怖を見せることなく、孝雄実の作製した穴を見ている。
「何度見ても凄まじいな…」
「全くだ。こんなのにはもう出会いたくもねぇ…」
ワレンスナとデンはそう話している。つまりは皆、誰もが同じ様な気持ちを抱いているのである。
フェリシャスは案の定グルンビッグが仕掛けられる大穴へと落下していく。想定した大きさである為、掛かればこちらのものであった。後は餓死するのを待つだけである…
しかし、今回はその通りにはいかなかった。本来ならば半日以上は動きを止めないフェリシャスであったが、何故か動きを止めると一鳴きしてその生涯に幕を下ろしたのだ。彼らにはそれが何なのかは謎である。しかし、分かるのは犠牲者が一人もいないフェリシャス討伐と言う、輝かしい戦果を上げた事である。そして話しの場面は冒頭に戻るのだ。
一方、別働隊として動いていた孝雄実たちは悠々と空の旅を満喫している。孝雄実の意思によってミレムはその赴くままに移動する。この時には気を失っていたエレオノーラ達も復活し、さらにはキャメルも回復を果たしていた。
話しは目が覚める丁度その時から始まる。
『主、女どもが目を覚まします』
ミレムは孝雄実には丁寧であるがそれ以外には尊大な態度である。ミレム曰く、王であるが故であろう。
「う、うーん…」
「クァー…」
「よく寝たなーっと!」
「ワレンスナ様これ以上は…」
四人はそれぞれ特徴が在った。最後の言葉は聞かなかった事にして彼は話しかける。
「おはよう、みんな」
「おはようって!何此処、何処!?」
珍しくエレオノーラが慌てている。そんな光景は久しぶりだと彼は思っていた。
「フェリシャスの雛鳥の背だよ」
そう言って彼は全員が気を失って以降の話しをした。勿論キャメルには聞く覚悟が在るかを尋ねての事だ。さらに、この事はワレンスナにも話しことを禁止しての事である。彼としても情報流出は好ましくは無いと考えるようになっていたのだ。つまりは彼女の信用の問題であった…
「そんな、まさか…あのフェリシャスがそんな事の為に生きていたなんて…」
特にキャメルには衝撃的な話である。まさかドランデストハイムを中心にエルサンド族が自治を行う地域の脅威が、魔力維持のためになんて受け入れるのに時間が掛かるであろう。
「風が気持ちいいなー」
「本当ね、マリアン。見てよ、あそこ。こんな高く空見ると人が点の様じゃない!」
サラとマリアンは既に順応し始めている。
「へー座り心地もいいのね…」
この場で深刻そうにしているのはキャメルだけであった。
ミレムが本陣上空へと差し掛かる頃、浮かれていた彼等に凶報が飛び込む。それはミレムの事である。
ではなぜ本陣近くまで接近を許したのか、それは彼等偵察兵が配置されていた場所とは反対側から侵入していたからである。さらには偶然偵察兵が南西に居たことで気が付いたのだ。
平原はドランデストハイムから北西に位置している。フェリシャスの巣穴は直線で最奥にある。孝雄実たちはそこへと向かわされたのだ。本陣と穴の位置も大体が直線状にある。偵察兵はそこを中心として四十五°に開いて配置されていたのだ。孝雄実はそうとは知らず、操縦になれる目的で大回り西側へと移動して本陣へと戻ることにしたのだ。
そのまわり方は余りにも大きく最後は真南から進入していた。
その知らせには流石に全員がパニックに陥る。まさか、このような事態は想定していないのだから仕方のない事かも知れない。そもそもその様な巨鳥の存在などは確認されていないのだ。
「ええい、落ちつけ!ルチア、全軍を本陣周辺へと固めさせよ!冒険者共もだ!」
ロームルンはいつもの感じではなく、領主として相応しい指揮ぶりを見せて居た。逆にロームルンから話しかけられたルチアの方が狼狽している様子である。
「は、はっ!直ちに!!」
彼はそう答えると駆け足で行動を起こす。
「あれは何だ?」
一方、ワレンスナは偵察兵など居ない為に、情報供給はキャメルかエルサンド族軍からしか得られない。この時点ではロームルンの場所で情報が止まっている。
「でっかい鳥だな…」
デンは呑気な声で答える。あれから警備も終えてゼーファたちも中で呑気に孝雄実たちの帰りを待っていたのだ。
「でっかいってデン…幾らなんでもでかすぎじゃねーか?」
「ああ、それにあの鳥確実に此方へと向かって来ているよな…」
そう話している間にも大きさはどんどんと拡大していく。此処以外にも数人の冒険者が残っている。彼等もこの光景を見たのかどう動くかの指示を仰ぎにやってくる。
とにかく落ちついて待機と言う曖昧な指示で彼等を送り返すと、ワレンスナはデンとゼーファを伴いロームルンの元へと赴こうとしていた。
『…さま!……』
「ワレンスナ、その道具から声がしているぞ」
近くに居るデンがその声に気が付いた。この道具はリンクしている相手、さらには自分が知らせたい相手に連絡が取れるものだ。これを持ち、連絡を取れる相手はキャメルしかいない。
『私だ!キャメル無事なのか!!』
『良かった。漸く繋がりました…』
『そんな事はいいから、用件を言ってくれ!』
彼女はロームルンの元へと急ぎたい気持ちでいっぱいである。
『そうですね。落ちついて聞いてください。私たちは今上空の鳥の上に居ります。これから着陸しますので攻撃しないでください!』
『…はっ?』
彼女には理解が全くできなかった。隣に居るデンもゼーファもである。
『済まんもう一度言ってくれ』
『ですから、上空に見える鳥への攻撃は絶対に行わないでください!そうお願いしているのです。特にエルサンド族軍の動きが活発です。直ぐにでも連絡をお願いします。それまでは上空に待機しておりますので、お早めにお願いします!』
そう言うと道具から彼女の声が途絶えた。キャメルの言葉通り、高度を取り巨鳥は旋回を続けている。
「取り敢えずワレンスナはロームルン族長へ直ちに知らせに迎え、俺たちは何とか兵士らに声を掛けて抑えるようにしておく。ほら行け!攻撃しちまったらエライ事になるかもしれんぞ!」
その言葉にワレンスナは放心状態から戻り、駆けてロームルンの元へと急いだ。
「さて俺たちは兵士らに攻撃を抑えるようにするのか…」
デンはそう言うと溜め息を吐く。知り合いが多いことからその役目を請け負ったが、それでもどれだけの抑えが利くかは未知数である。
「先ずはやってみようぜ。デン、俺とロインも動く。あんたはセイとルイを連れて言ってくれそれじゃあ!」
ゼーファはそう言うとロインへ声を掛け、事の次第を話して行動を開始する。その動きは機敏であった。
「あの鳥は問題ないと」
ルチアはロームルンに代わりそう尋ねる。既に彼は普段の彼へと戻って対応している。
「ああそうだ。あれにはキャメルが乗っている。コンドウ達もだ。今は攻撃姿勢のある人間が多い為に着陸出来ないと訴えて来ている。直ぐにでも攻撃態勢を解除して欲しい」
彼女は切羽詰まった様な表情で訴える。ロームルンの天幕を中心にエルサンド族軍は攻撃態勢を取っている。一部は弓を射る用意まで始める始末である。
彼女は直感ではあるが攻撃してしまえば終わりだと考えている。何とか領主であるロームルンの器に掛けたいとも考えているのだ。
「ワレンスナ、つまりはあの鳥には攻撃の意思は全くないのだな?」
ロームルンが話しかける。これでルチアは話しに割り込めなくなる。彼を間にして話しても埒が明かないのだ。彼女の思いは届いた。
「はい、族長。私も信頼できる部下に連絡用の道具を持たせてあります。先程その彼女から連絡が在りました。是非とも攻撃態勢の解除と着陸の許可を!」
そう言うと彼女は深く頭を下げる。
「よし、分かった。ルチア攻撃態勢解除を通達せよ。さらに着陸の許可を与える。場所は此処だ!」
そう言って彼はこの本陣ド真ん中を示す。
ワレンスナは直ぐにキャメルへ連絡を入れる。最初は本当かとの確認を二度ほど貰った彼女であるが、隣に居たロームルンが認めると言うと鳥はゆっくりと高度を下げて行った。
ミレムは孝雄実の指示で高度を下げる。今は彼の意思で本陣のド真ん中を目指している。
「本当に大丈夫なんですか?」
「ええ、最後はロームルン族長が許可を出しておりましたから…」
孝雄実の問い掛けにキャメルは答える。しかし、彼等の知る族長ロームルンは大事な所で噛む何とも締まらない人物であった。
『主よ、人間どもが我を攻撃しても全く効果は在りません。気に為さらずに降下を続けます』
ミレムはそう言って見事着地を決める。だが、その巨体故に天幕は被害甚大であった事は言うまでも無い……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
続けて投稿。三十話を達成いたしました。皆さま読者のお陰であります。 日々アクセス数を確認し、数字が伸びる嬉しさを糧に書き続けています。
今後とも精進し、何とか良い文章を。そして多くの方に読まれる小説をと頑張ってまいります。ブックマークされている方、評価をしていただいた方、ご感想をいただいた方ご一読下さった方々に感謝しましてご挨拶とさせていただきます。
ご感想等お待ちしております。
誤字脱字在りましたらご報告いただけると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう。
今野常春




