第二十三話 俺がぞくちょっ!族長だ!!
翌朝、朝食を摂るべく一階に集まる。他の宿泊客も同様である。
「…」
「あら今朝の料理も美味しいわね、孝雄実」
「……」
「ほらこれも美味しいわよ。食べさせてあげようか?」
明らかに前日の態度と違うエレオノーラを見て、サラとマリアンは訝しむ。その目は孝雄実にも向けられる。
「いや、いいよ。自分で食べられるし、余り時間が無いのだから、な」
そう言って、何だかんだと世話を焼こうとする彼女の態度が二人を苛立たせる。
昨夜、あのまま一つのベッドで寝た二人。勿論健全なものである。だが距離は確実に深まったと両者が思うものであった。それ故か、二人の実際の距離が縮まっている様に見えるのである。
「先に戻って準じするわね、二人とも」
「そうだな。ご主人様私もサラに付いて行くよ」
そう言って二人は先に部屋へと戻る。此の二人の雰囲気、甘々であった。それはもう初々しい程にである。嘗てロドム達はエレオノーラの事を尽くす女だと、評していたのだ。一度はまると、後はその人に尽くして行くのが彼女の性格だと見ていたが、その片鱗を彼女は見せている。
「はいあーん」
「えっまだやるの?」
そう彼は言うが彼女の手は口元にあるままだ。恐らく食べ無ければ動かす事はしないだろう。気が付けば周囲の客も注目し出している。ここで食べないと言う選択肢はないと考えなくてはいけない。店主と従業員の少年も見守る中である。孝雄実には此処でそれをする度胸は皆無である。彼女いない歴は年齢です、と言いのける男である。だが、やらねばならない時もある。それが今である。
「あーん」
その瞬間周囲から割れんばかりの拍手が起こる。それを待っていたとばかりに、よくやったとの声を二人に掛ける。
「ふふっ」
その時の彼女の笑みは生涯忘れないだろうと孝雄実は誓った。
一行は虎二頭を含めて本日の目的地族長の館を目指す。此の族長はあくまでもエルサンド族の呼称である。ドランデストハイムではこの名で呼ばねばならないのだ。此処以外では領主だの侯爵だのと言う名を付けられている。
エルサンド族、エル・ロームルン・サンドと言う名が族長の名である。族長の一家はエルとサンドの間に名を入れる。それ以外は最後にエルサンドと言う名を入れるのが彼らの流儀である。何とも分かり易いことである。
「ここね」
エレオノーラとサラが前を歩き、後ろを孝雄実とマリアンが昨日と同じ腕を抱きしめて歩いている。
「それじゃあ入りましょうか」
正面には当然ながら門番がいる。彼等は孝雄実たちに気が付いて、持っているやりを交差させる。
「止まれ、此処は族長の家である」
「私たちは昨日面会を希望したもので御座います。ブンド・セルット・エルサンド隊長からお話しが行っていると思います。そしてこれが族長への紹介状です」
エレオノーラはそう言って懐にしまっていた物を取り出して門番に見せる。
「ふむ、少々お待ちいただきたい。確認してまいりますので」
そう言葉を残して一人が中へと向かって行った。
「お待たせ致しました。わたくしルチア・エルサンドと申します。当家の家令を務めております。失礼でございますが、お名前のご確認をしても宜しいでしょうか?」
見た目からして出来る執事の出で立ちである。想像はお任せするが某執事が活躍する漫画の様な雰囲気である。
「失礼いたしました。私はエレオノーラと申します。此の度は面会をお許しいただき有難う御座います。此方オリマッテ・ロットロン男爵からの紹介状で御座います」
そう言って彼女は差し出す。それをルチアは確りと受け取ると言葉を返す。
「承知いたしました。それではこれは我が主へと必ずお渡しいたします。皆さまどうぞお入りください」
そう言って彼を先頭に中へと入る。建物の造りはドットゥーセの物に近い。
「此方で暫くお待ちください。紹介状をお渡ししてきます」
そう言うと客間に通される四人。
「へーなんか造りは他と違うんだな…」
「そうね。この屋敷はドットゥーセの人間も多くが訪れるから、この造りにしているんじゃないかしらね」
さりげなくエレオノーラは孝雄実の隣に座る。そうして自然な感じで会話を楽しむ。だがそれで許せるわけが無いのが二人いる。
「何か怪しいよな」
「そうよね。やっぱり昨夜何かあったのね」
ひそひそとわざと聞こえる様にして話す。それが彼らしかいない室内に響く。
「何よ、二人して」
『別に…』
二人の息の合った言葉使いに、苛立ちを露わすエレオノーラであるが、そうさせる原因はやはり昨夜の出来事である。その為に強くは出られない。勿論孝雄実もである。
「失礼します…族長が御会い致しますのでこちらへどうぞ」
家令の鏡である。目の前では取っ組み合い一歩手前の様相を見せていた。しかし、彼はそれを見て見ぬふりをして対応した。案内された部屋は応接室である。目の前には小さな男の子が座っている。
「よく来たな。わたちが、エル・ロームルン・サンド。エルサンド族のじょくちょうだ!」
四人は目の前の噛み噛みな少年に唖然とするが決して態度には出さない。儀礼上失礼な事であるからである。
「おおルチア、僕は上手く挨拶出来たかな?」
「はい、族長。確りとご挨拶が出来ておりましたよ」
そう言われてロームルンは喜ぶ。
「さあ席に着いてくれ。先程紹介状は読ませてもっちゃぞ」
所々で噛んでくる。しかし、笑って話失礼である為に皆は必死にこらえる。既に腹筋は大活躍中である。
「それでだ、僕の紹介状は直ぐにでも出せる。それはオークの結果が出た後に出させてもらおう。ちゅぎだそのオークの件本当によくやってくれた。まだ結果が出ていないので褒美はやりぇんが必ず出す」
「有難う御座います族長」
これは孝雄実が先頭に為って礼を述べる。
「うんうん、それで、僕からは終わりだが、君たちから何かあるかな?」
そう言われて四人は顔を合わせる。何かあるのかと言う事をアイコンタクトで確認しているのだ。
「それでしたらもう一つお礼を述べさせてください。宿代などを負担頂いた事、感謝の念に堪えません。本当に有難う御座いました」
再び全員でお辞儀をする。
「何、たいした事ではない。遠慮なく寛いでくれ。店の方にもしょういってありゅかりゃな…」
「族長そろそろお時間で御座います」
ルチアは絶妙なタイミングで話しを打ち切る。ロームルンの舌は噛み過ぎて大変なことに為っていたからだ。
「う…うんそうか、それではまた後日、結果が分かったらこちらか呼ぶからな。ドランデストハイムをまんきちゅしてくれ!」
彼はそう言うと足早に去って行った。恐らくと四人は考える。舌が痛くて堪らないのだろうと…
「それでは失礼いたします」
孝雄実がルチアに礼を述べて屋敷を後にする。ブラックとホワイトも待っていたとばかりに鳴いて合流する。
「さてこれからどうしようか?」
孝雄実が三人にそう尋ねる。やるにしてもどうしたらいいのかが分からないのだ。
「それだったら臨時で冒険者をやってみる?」
エレオノーラのその言葉で次の行動が決定する。先ずは腹ごしらえと近くの食堂へと入り、空腹を満たす。量はかなりあるが四人分をぺろりである。
「説明するわね。臨時とはそのまんまよ。私は正規の冒険者でカードがある。これを保証として私を中心にパーティーを組むの。それで、受けられる任務は限られるけれど種類は豊富なはずだから気にしないでね」
これはいわゆるお試しである。此の制度も冒険者の減少に歯止めを掛けようとして生まれた制度である。ゲームの体験版と考えればいいだろう。始まりをプレイして楽しければ購入を、冒険者を体験してよし正規の者へ、そうなればいいと導入されたのだ。結果として、これが好評である。
「こんにちは!本日はどの様な件でしょうか?」
昨日とは違う職員が出迎える。冒険者ギルドは本日も盛況であり、職員が忙しく働いている。
「今日は臨時の冒険者として来ました」
それに職員は直ぐ対応する。必要な書類を用意する。
「承知しました。臨時で御座いますね。それでは正規の方はカードをご提示ください。そうでない方はこちらに御記名ください」
そう言って用紙を一枚差し出す。そこには名前と年齢、扱う武器と魔法が使えればその元素を記入する欄があった。
「私が代表して書くわ。適宜教えて頂戴」
サラがペンを持って二人に話す。最初は彼女が書いて、次にマリアンへ最後が孝雄実である。当然言われるがままに書いているが、このパーティーは異常である。リーダーはエレオノーラである。彼女を始め全員が魔法を扱えるのだ。そんな冒険者はそうはいない。その証拠に用紙を受け取った職員の顔が引き攣る。
「だ、代表者は…エレオノーラ様ですね。それでは…お好きな任務をお選びください」
職員たるもの冷静に当たるべし!ギルドの方針を思い出し、職務に忠実になる彼女は腹に力を込めて対応する。
「なあどんなのがあるんだ?」
提示される物はどれもが初級編と言ったものだ。しかし、それが多岐にわたる為につい悩んでしまう。残念ながら孝雄実にはこの辺りの文章読解力は無い。それ故にエレオノーラが丁寧に説明する。当然全ては言わない。幾つかをピックアップして内容を話して行くのだ。
「うーんと…そうね…魔物退治に、動物退治、道路の補修にゴミ掃除、他には素材の採取もあるわね」
「どれもパッとしないな…」
「そうだな、魔物退治はオークの様なものだもんな…動物なんてどうだ?」
孝雄実は簡単に言うが職員の彼女は顔面蒼白である。臨時で選んでいる人間がオークなどと言う言葉を平気で出したのだ。それなりに場数を踏んでいる冒険者でも、気を抜けば殺される相手である。ふと用紙を読み直す。唯一の男である。彼の内容を見て声を押し殺して悲鳴を上げる。
(ろ、ろろろろ、六元素ですか……!これって支部長に報告しなければいけないのでは!?)
親切なお節介ここに極まるのだが、その影響は後日分かる。
「動物か…えーっと内容は、グルンとセーロンをそれぞれ十頭ね」
グルンとは猪である。セーロンは鹿の体に羊の頭と言う動物である。これを手に入れてくるとものである。備考には輸送のために台車を貸し出すと書かれている。当然その重さは莫迦にならないから当然である。
「私はそれで良いぜ!」
「そうね、私もそれで良いわ。少し為したい事もあるし」
「そう、じゃあこれにしましょう。済みませんこれでお願いします」
エレオノーラはそう言って職員に話しかける。
「畏まりました。グルンとセーロンの討伐ですね。…っとではこれをお返しします」
彼女はエレオノーラのカードに何かを念じた。その後返されたカードには丁寧に任務内容が記入されていた。
「任務期間は三日となります。両方とも全てを持ってきてください。あと台車は城門の詰所でカードを見せてくだされば貸し出してくれます。それでは皆さまお気を付けて行動してください!」
彼女はそう言って頭を下げた。まさに職員の鏡である。表情こそ出さなかったが背中は汗でびっしょりである。加えて孝雄実の不穏当な言葉が聞こえる。
「早くこなして違うのもやろうぜ!」
あくまでもギリギリの設定で任務期間を設定している。安易な気持ちで冒険者は務まらない。最初から厳しいものだ、と言うことも忘れない様にしているのだ。
「それじゃあ此のまま行きましょうか」
エレオノーラの言葉で先ずは城門へと移動しなくてはならない。
「それでグルンとセーロンってどんなものなんだ?」
「私も見たこと無いわね。あるマリアン?」
サラはそう言って彼女へと振る。
「いいや、私も無いぜ。エレオノーラは?」
「私も無いわ…」
彼女は気まずそうに答える。だが知識だけはある。故にあの場ではすんなりと決めてしまったのだ。
『えっ、えーーー』
三人の声がシンクロする。その声に周囲の人間が驚く。
「な、何よ。そんなに驚かなくても良いじゃない。仕方ないでしょ、その二種はこの辺りでしか出没しないのだから!」
各支部のお試しにはその地域ごとの特色が盛り込まれている。今回選んだ内容もそれに当たる。これは此処に住む者が選ぶと簡単だと思える様に作られているのだ。旅をしてこれから冒険者を、と目指す者は先ず選ばないものなのだ。
「まあ、選んだものは仕方ないか。ブラックとホワイトにも協力して貰おうぜ!」
孝雄実のフォローで何とか丸く収まるのであった。
「それじゃあこれが台車です。お気を付けてください!」
此の兵士とは三度目の対面である。心成しか話し方が砕けている様な雰囲気である。台車を馬状態のカラドヌルクに繋いで移動を開始する。今回は馬での移動は出来ない。なぜならばグルンは馬を獲物と勘違いして襲う可能性があるからだ。
「どの辺りに行けばいいんだ?」
「北の方角に平原地帯があるみたいなの。そこにその二種を含めて多く生息しているんだって」
エレオノーラは責任感が強い。ドランデストハイムを出る際、ブンドを捕まえて確りと場所を聞き出していたのだ。
「そう、ありがとね。エレオノーラ」
「やっぱり気が利くな、エレオノーラは!」
サラとマリアンは彼女にその様な言葉を掛けた。
暫く街道を進むと道らしいものが殆んど見られなくなる。膝くらいまでの草が一面中に広がっている。
「どうやらこの辺りの様ね…」
サラはそう言うと槍だけを持って警戒する。馬状態からは変更できず、唯一持てるのが槍であった。その為軽装ではあるが、胸当て等は見に着けている。
「その様ね。後は獲物を見つけるだけなのだけれど…」
「ブラックホワイト、分かるか?」
孝雄実のその言葉に声を合わせて鳴いた。『分かるぜ』『分かるわ』彼にはそう声が聞こえた。
鳴いた二頭は動き始める。まるで狩りをするように草むらを低く移動する。だが本物の虎では無い二頭の動きは素早い。あっと言う間に百、二百メートルと距離を開けて行った。
「はー速いなご主人様…」
マリアンは眩しいのか目元に手を宛がい遠くを見つめる。
「本当だな…」
「ほら移動するわよ。これからは確りと周囲して移動を開始して頂戴!」
エレオノーラはレイピアを持って移動を始める。この場合弓では無くレイピアの方が効率良いと判断したのだ。彼女の言葉で二人も武器を構える。
二頭が狩りを初めて少しが経つ。正面の草むらが大きく揺れる。それで何かが来ているとわかった。
「あれがグルン!」
そう目の前から来たのは大きな猪である。
「しかも三頭もいるぜ!」
「やるしかないわね!」
「なるべく部位を破壊したりしないようにね」
最後の言葉が重要である。特にマリアンの場合は大剣である。突くと言う行為は適さない。故に斬り付けるか叩き切るのどちらかである。
「難しいよな、その注文!」
「だったらよ、マリアン!腹で当てて気絶させればいいんじゃね?」
「そっか!そうだな。流石ご主人様!!それじゃあ、行くぜ。最初は私だ!!」
彼女は重そうな件を右側に構えて走り出す。意外にもそれだけの距離がある事に驚くであろうが、グルンの大きさが尋常ではないのだ。
「うぉりゃー!」
マリアンは突進してくる先頭のグルン目掛けて剣の腹を、勢いに乗せてぶち当てる。普通の人間がそれをやれば、野球のボールの様に弾き飛ばされる事間違いない。だが彼女は違った。卓越した能力でグルンを弾き飛ばしたのだ。盛大な悲鳴と共にグルンはひっくり返る。巨大な岩が地面に落下した様な音と振動を加えての事である。これでは気絶では無く即死である…
猪突猛進と言う言葉は勇ましい言葉でもあるが、脇を取られると簡単に倒せるものである。サラは右隣りのグルンをギリギリで避けて心臓がある、であろう場所を一突きさせる。これも悲鳴を上げて慣性の法則のまま徐々に勢いを失くして倒れる。
「あら意外と簡単ね!」
少し興奮気味でサラは行った。
「眉間を狙うっ!」
孝雄実の矢とエレオノーラの突きがほぼ同時で決まる。サラのとは違い、正面から勢いの良い矢が突き刺さり、横から心臓を一突きされてはほぼその場に倒れるのであった。
あっと言う間である。時間にして十秒そこそこで勝負は決した。
「ふー、これがグルンか…」
「そうね、知識では頭に合ったけれど大きいわね…」
「お疲れ様ご主人様!」
「見事な弓捌きだったわね」
二人は孝雄実たちのもとへとやってくる。二頭の虎も彼等の元へと戻ってきた。この二頭が追いかけ回した結果である。
「良くやったな!ブラック、ホワイト!!」
ご主人である孝雄実が盛大に体を摩りながら褒めちぎる。ごろごろと鳴らして嬉しそうにするのが印象的であった。
「それを言うならマリアンだってサラだった凄かったじゃないか。あの腹での攻撃は見事だったじゃないか。サラだってあの一突きだろ」
虎を褒めながら彼はそう言って二人を称賛した。しかし、一向に自分の事に触れない彼に怒りが込み上げる。
「勿論エレオノーラも凄かったぜ。俺の攻撃と合わせられるのはお前だけじゃないか?」
その言葉で直ぐに表情を変える彼女であった…
イケメン大先生曰く『気のある女はとにかく褒めろ』という有り難い教義を実践した孝雄実であった。
此の猪三メートルもある巨体である。体重も五百キロは在ると推定される。四人と二頭は力を合わせて何とか一頭を台車へと積み込む。
「これ無理じゃね…」
目の前の光景に孝雄実はそう呟くのであった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
剣の部位についてですが、本来『樋またはフラー』と言う名があるそうです。ウィキからの引用ですが、敢えて包丁などで使われる腹という言葉を用いております。
上記についても含めましてご感想等お待ちしております。
誤字脱字ありましたらご指摘ください。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春。




