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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
いざ冒険者へ…
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第二十二話 嫉妬?そんなんじゃないわよ!!ええ、嫉妬じゃないわ!

 機嫌が悪い。教会にて孝雄実とマリアンが奴隷契約を交わして以後、目の前の二人の様子が明らかにおかしい。エレオノーラは教会に居る時からその怒りを如実に表していた。

そしてサラもそこを出るなり何か怒りを内包している雰囲気を醸し出しているのだ。

「おめでとう、二人とも」

 示し合わせたような言葉が二人から送られた。奴隷契約である為におめでたい事ではないのだが、その雰囲気を見せているのが当のマリアンであった。恐らく彼女の態度と雰囲気を受け取り二人はその言葉を掛けたに違いなかった。だが、孝雄実、マリアンそして神父等は共に気が付く事は無かった。エレオノーラとサラの瞳の光沢が無かった事に…

「よくわからないけど、ありがとう二人とも!!」

 マリアンの喜びにも満ちた声色で返される言葉でより一層燃料を投下することになるのだが、此処で漸く孝雄実が二人の異変に気が付いたが時すでに遅い事を悟るのである。


 そうであるにも拘らず、孝雄実一行の金庫番を担当するエレオノーラは寄付金として、オリマッテから貰った資金の一部を奴隷契約における費用と寄付金を合わせた金額を納めるのであった。

「有難う御座いました。神父様」

 エレオノーラが言うと残りの三人も同様に礼を述べて教会を辞するのだった。

 四人が外へと出ると行儀よくブラックとホワイトの虎二頭が彼等を待っていた。だが、前を歩くエレオノーラとサラの雰囲気を感じ取り僅かにではあるが体を強張らせるのであった。

「あら、どうしたのかしら。ブラック、ホワイト?」

「そうよ、そんなに怖がる事無いじゃない。ねえ孝雄実?」

 二人の言葉で息の合った様に視線を彼に向けた。

「あ、ああ、そうだな…なあマリアンそろそろ腕を話さないか?外に出た事だし何かと目立つだろ?」

 彼の左腕には彼女がギュっと擬音が聞こえるほどに抱きしめている。それが怒りの一因である事を彼は自覚している。だからこそ何とかしたいのだが、マリアンに水を差すような言葉を掛けられないのが近藤孝雄実と言う男なのだ。

「えー別に良いだろご主人様?こうして本当に契約したのだから別に気にするなよ」

 そう言うとさらに抱きしめる。見た目は美女なマリアンだがこの中では最年少の十八と言う年齢である。そのギャップを知らない周囲には青年に虜になる美女と言う様に見えて注目を集めつつあるのだ。加えて此の街のものではない服装も起因している。

 その言葉と衆目によってサラとエレオノーラはその怒りと言う名の嫉妬を抑えて次ぎなる行動目標へと移るのである。


「まだ、時間が在るわね。次ぎの場所へと行きましょうか、サラ?」

「そうね、冒険者ギルドでいいのよね?」

 前を行く二人はそう言いながら先を行く。何とか離そうと孝雄実はマリアンに言うが気にすることなく腕を抱きしめている。ブラックはサラとエレオノーラにホワイトは孝雄実とマリアンのペアにくっ付いて移動する。

ここドランデストハイムはだだっ広い平原から造られた街である。エルサンド族が遊牧民であることからも街造りは一から行われてきた。その為に計画的に街が造られ、主要な建物は大通りに集中して建てられている。特に大きな通りに教会や冒険者ギルドが建てられ、大小多くの店が軒を連ねているのである。四人と二頭は目的地までの間それらを見物しながら進むのであった。


「ここが冒険者ギルドよ」

 暫く歩いていると二階建ての大きな建物へと辿り着く。看板には『冒険者ギルドドランデストハイム支部』とデカデカと字が書かれ、その横にはそれと分かる様な絵が描かれてある。孝雄実も全ての文字は判らなくとも冒険者の部分は読む事が出来る様に為っていた。

この街では孝雄実の読み書きの習熟度を調べる上でも役に立っていた。それがこういった看板を読む事である。道中怒りが収まらないながらもマリアンを含めた三人があっちこっちの看板を指差して質問攻めを行っていたのだ。結果は上々であり三人を驚かせるだけのレベルに達していたのであった。


「さあ入りましょう」

 エレオノーラが音頭を取り中へと入ると多くの冒険者で賑わっていた。男女比八対二と言う構成の中を縫う様に奥へと進み受付へと辿り着いた。そして、ここでもマリアンの好意に視線が集まる。特に男っ気の多い中で高レベルの美女を三人も連れて歩く孝雄実たちは何もしなくても目立つ。それが笑顔で男の腕を抱きしめて歩けばそれはもう注目を一身に浴びるほどのものだ。意外なのは虎の存在にそれほど過敏になる者が少なかった事であろう。事前に情報が流れていたのか、職業柄慣れているのか孝雄実たちは知るところではないが騒ぎになる様な事もなかった。


「こんにちは、本日はどの様な御用でしょうか?」

 受付の女性は少し茶色がかった髪と瞳が特徴のエルサンド族の女性職員だ。にこやかな笑顔でエレオノーラたちに接する。

「えーっと、ここの支部長に御会い致したいのですが」

 彼女はそう言うとカードを提示する。ギルド本部が発行したもので、その者が正規の冒険者である事を示すものである。正面には彼女の名が、裏には当時本部長であった者の名が記入されている。

「支部長に面会ですか…申し訳ありませんが予約か、貴族様の紹介状はお持ちでしょうか?」

 そう言われて彼女はあの紹介状を見せる。これはあくまでもエレオノーラ達が特別に面会を要請したことで生じるリスクを貴族の名によって相殺して貰う為である。

「これは…ブラスト辺境伯様の家臣、ロットロン男爵様の家紋で御座いますね。承知いたしました。申し訳ありませんが、あちらで暫くお待ちください。担当の者がご案内いたします」

 そう言って示した場所で四人と二頭は待つ事となった。






 暫く待っていると彼等のもとに人が近づいて来る。

「失礼いたします。エレオノーラ様で宜しいでしょうか?」

「はい、私がそうです」

 相手の女性は見るからにやり手のOLである。見た目も美人だがその纏う雰囲気が仕事できます、という雰囲気を醸し出しているのだ。

「お待たせ致しました。(わたくし)支部長の秘書をしております、キャメルと申します。只今より支部長の元へとご案内いたします」

 そう言って彼女を先頭に二階へと移動して目的地へと向かう。


「私が支部長のワレンスナだ。申し訳ないが、立て込んでいて時間がそれほど多く取れない。だから手短にお願いするよ。さあそこに掛けてくれ」

 大柄でマリアンに似た様な服装をする女性が孝雄実たちを出迎えてその様に言葉を掛けた。そんな中でも元冒険者であった証拠を示す切り傷が印象的だ。

「初めましてワレンスナ支部長、私はエレオノーラと申します。急なお願いをお聞き下さり有難う御座いました。早速ですがこれをご確認ください」

 そう言って合図を出すとマリアンは背負っていた袋からオークの印を見せる。頭丸ごとだが致し方ない状況であった。


「こ、これは!オーク…ではないな。ハイオークか!?」

 洗浄、防腐処理を施してあっても中々触るのには抵抗が在るもの。しかし、彼女は慣れた手付きで頭を持つ。焼けてしまい判別が難しいが、そこは経験から分かる何かが彼女を政界へと導いた。そしてより精度を出す為に角度を変えて検証していく。

「はい、此方へと向かう途中オークの群れと遭遇致しまして。一度確認をして貰い、詳しい調査を此方の兵士の方が行うそうです。それが終わったならば買い取りをお願いしたいのですが…」

 ワレンスナは暫く考える。

「構わないがどれほど待たされる?此の状態ならば持って一日だが…」

「私たちは今日此処へと到着しました。恐らく五日は掛かるそうだとブンド隊長が仰っていました」

 確認と詳細を調べる兵士には共に連絡用に伝書鳩を持って移動している。移動も速度に特化し、体力もほどほどに備わっている馬を使用している為に頗る早く移動する事が可能と為っている。


「エレオノーラはギルドのルールを理解しているな?」

 渋い表情でワレンスナはエレオノーラに尋ねた。基本ギルドでは現物交換となる。つまりそれと判る物でなければ金銭へと交換する事が認められないと言う事だ。たとえ待たされ腐り判別が不可能と為ってもそれは冒険者側の責任で待たせたギルド側の責任とはならい。随分と偏ったルールだが、決まりは決まりである。ワレンスナは原則にのっとって話しをしているのだ。

「はい、ですが討伐したことは事実です」

「そうだ。だが、判別が出来ない以上ハイオークとして買い取る事現段階では不可能だ。詳しい報告を待って買い取る事と為る」

 ワレンスナとしてもハイオークと判っていながらも、この段階で買い取る事が出来ない制度を苦々しく思いながらそう言うしかないのだ。

「それでは…」

「ああ分かっている。今の段階ではオーク種として買い取ることになる。それともどうにかしてそれを維持し五日後を待って買い取る様にするかの二者択一となる」

 彼女はあくまでも原則で事を進め結局エレオノーラ達は買い取りを五日後まで待って貰うことに決めて冒険者ギルドを後にするのであった。


 四人はある意味失意の中に居る。まさかの拒否宣言を食らったのだ。取り敢えず食事をするべくお店に立ち寄る。彼等はお勧めを注文し席に着いた。

「どうしよう…」

「困ったわね…」

「これ持っているだけで嫌になってきたぜ…」

 孝雄実を除いた三人は落ち込んでいた。四人が持つ資金も豊富ではない。今回宿代を行政が肩代わりしてくれたことで出費が抑えられたと喜ぶほどだ。今回の報酬金で少し潤うと言う予測が脆くも崩れそうな状況なのだ。だが孝雄実だけは何かを考え意を決し、エレオノーラに話し掛ける。


「なあエレオノーラ。それはさ、凍らせて状態を保ってもいいのかな?」

「凍らせるって…まさか、魔法で!?」

 その言葉でサラとマリアンが孝雄実を見る。エレオノーラは声を大きく上げてしまい周囲を確認して再度彼へ視線を戻す。

「ああ、若しかしたらだけどな。でも防腐処理でも後一日だろ?だったら駄目で元々、試してみようぜ」

 そう言うならば善は急げと立ち上がる。

「済みません、注文した料理持ちかえりでお願いします!!」

 エレオノーラの行動は早い。調理中であるのが幸いしたのか我儘な客にも良心的な対応をしてくれる店である。流石人気店とも言われる場所であった。






 決まりとして外部へと出る際必ず詰所で届け出を行わなければならない。エレオノーラ達は詰所へ向かいその旨の報告を行った。その際まだ居るブンドに彼女等が求める場所を尋ねた。対してブンドは理由も聞かず地図でとある場所を示して丁寧に説明して彼女等を送り出したのであった。

「此処がその場所か…」

「そうね、ブンドさんが話していたのはここの様ね」

 そう言って馬を下りる。三頭とも近くの木に確りと繋いでさらに奥地に入る。それでも周囲には嫌な感じが無い事は確認済みである。


「ここでいいわ。マリアン、全部出してくれる」

 サラの言葉で彼女は背負っていた物を出す。

「うわぁ…さらに悪化しているな…」

「そうね、一日も持ちそうにないわね。孝雄実直ぐにやってみてちょうだい」

 エレオノーラがそう言うと三人はその場から少し離れる。彼の魔法の邪魔をしないためだ。既に彼はボウガンを構えている。これはある意味魔法のスティックである。


 彼は氷を全体に纏わせる事を考える。均一の温度に保つため凍らせるには中央にオークの印を置かねばならない。頭の中には既に形が出来上がる。目を閉じているが目の前の首や耳等の証拠が中心で固まる光景がはっきりと映る。と、言ったところで彼はボウガンを地面に着ける。矢での攻撃では無い為に引き金を引く必要はない。

 個々に分けられ氷漬けのブロックと化す。さらには相当冷えているのか冷気もさることながら地面が凍りついている。


「こんなものでどうだ?」

 そう彼が言うが、完璧な立方体という造形であった。

「凄いわね…」

「さっすがご主人様だぜ!」

「本当に冷たいわね…」

 三人はそう言って氷を触りながら言葉を発する。しかし、ここで新たな問題が起こる。

「これ運べないよな、ご主人様…」

 そう、氷が大きすぎたのだ。彼もそこまでは考えていなかった。

「そう言えばそうだった…」

「埋めましょう」

「えっ?」

 孝雄実がエレオノーラの言葉に驚くが他の二人も同じである。


「持ち運べないなら此の下に埋めましょう。これだけ冷たいのだから地中に埋めれば残り五日なんて簡単に乗り越えられるわ。それに不安ならば孝雄実には悪いけど再度魔法で凍らせてもらう。いいかしら?」

 そう言って孝雄実を見る。この魔法が瞬時に出た理由はロットロン村での畑の土壌整備から来ている。

「ああいいぜ。それじゃあ早速埋めるか…」

 此処も彼の出番である。あれよと言う間に全ての氷を埋めるだけの穴を掘り上げる。深さは五メートル、縦横三メートルの穴を地面に掘る。

「孝雄実何だか手慣れてきたわね…」

「ホントね。流石元祖詠唱破棄者って感じね」

「私も頑張らないとな!」

 三人は孝雄実の慣れた魔法にそう言葉を出す。見る者が彼女ら以外であれば大きな問題となるのだが、だからこそこうして人気のない場所で行っているのだ。


「それじゃあこれを落とそう。済まないが手伝ってくれ」

 彼の言葉で一斉に動き出す。虎も馬の状態で佇んでいるカラドヌルクも一緒に動く。時間にすれば僅かなものだ。呼吸を合わせ氷漬けとなった物を地中に落として聞くのだ。壊れてしまう心配をしたがそれはどうやら杞憂に終わり皆を安堵させた。

 そして最後の印を納めると孝雄実が言葉を発する。

「みんな少し離れてくれ」

 そう言うと掘り起こした土が自然と中に吸い込まれる。巻き戻し映像を見ている様な光景である。

「おお、凄ぇ…」

「マリアン、これなら貴方でも出来るんじゃない?」

「そうだな、今度練習してみるよ」

 そして、それほど時間が残されていなかった孝雄実たちは急いでドランデストハイムへと帰還するのであった。






「あっ、お帰りなさい!先程連絡が在りました。明日の午後一番に族長が御会いするとのことです。宿泊先へも同様の連絡が為されています」

 城門に詰める兵士に帰還報告をしていると別の兵士が告げる。

「承知しました」

 エレオノーラはそう言葉を述べて宿へ戻るのであった。


「おう、お帰り。食事なら直ぐに食べられるけどどうする?」

「分かりました。荷物置いたらいただきます」

 孝雄実はそう宿屋の店主グリ・エルサンドへ答えて鍵を受け取り部屋へと戻った。

「それじゃあ下で合流ね」

 サラとマリアンはそう言って部屋へと入る。孝雄実たちもそれに倣う。


「何か疲れたな…」

 孝雄実はベッドへと腰掛ける。

「そうね、特に孝雄実は魔法を使っているものね」

 彼女も何故か隣に腰掛ける。勿論、距離は適切なものである。こうして二人で宿に泊まると初めて会った時の事を彼は思いだす。それは彼女も同じであった。

「なんだか初めてあった日を思い出すわね…」

「そうだな。あの時は本当に驚いたよ。あの時はベッドが一台だったもんな」

 そう言って彼は笑うが、あの当時はそんな余裕などなかった。何と言っても隣に座る彼女は美貌の持ち主だ。そんな彼女と一夜を一つのベッドでで過ごさなくてはならない。幸い、慣れない事続きで体が睡眠欲を欲したことであの程度で済んだ。しかし、そうでなければと思うとぞっとすると彼は考える。


「そうよね。オリマッテ様のせいではないのだけれど、流石にあの時は怒りそうになったわ」

 彼女もあの思い出は笑いを誘うものであったようだ。自然な笑みを孝雄実に見せる。その様な笑みを見せられて、彼はドキッとしない訳が無かった。

「あの節はご迷惑を…現在もお掛けしております」

「そうよね。思い返せば全部『初めて』だったわ」

 そう言って彼女はさらに笑い出す。初めて胸を触られ、初めて異性と寝てしまいには抱きしめられる。口付は自分からだがこれも初めてである。

 そこでふと思い返す。子供を成す行為以外全て孝雄実と行ってしまっていた事にだ。その瞬間顔がボッという擬音と共に赤くなる。心臓も激しく動き出しているのが分かるほどだ。


「んっ、どうしたエレオノーラ?」

 それに気が付いた孝雄実は覗きこむように彼女を見る。

「別に、何でもないわ…」

 平然とした体を取り繕ってはいるが、彼にはそうは見えなかった。

「何か様子がおかしい様な…?」

「な、何でもないったら、ほらそろそろ行くわよ。下で二人が待っているわ!」

 エレオノーラはそう言って孝雄実を置いて部屋を出て言った。彼は訳が分からず、彼女の後を追ったのであった。その時にはマリアンの態度に起因した怒りは綺麗に取り払われているのであった。







「あっ、やっと来たぜ。ご主人様たち」

「随分と!遅かったわね、二人とも?」

 二人の態度は異なる。マリアンは漸く食べられると言う純粋な気持ちで在るのに対し、サラは含みのある言い方であった。

「悪かったわね、マリアン。それとサラ何か言いたい事が在るのかしら?」

「んーどうかしらね」

 完全にサラに気持ちを読まれている事に気が付いて、これ以上言えば藪蛇と、言うのを止めて席に着いた。

「さて頂きましょう」

 サラの言葉で食事を始める。この日はジャガイモをペーストにして形を整えたものと、馬肉を使った料理であった。肉を挟んで食べるのが良いとのことで彼等はそうやって食べている。


「中々イケるな!」

「いや普通に美味いぜ、ご主人様」

「初めて食べたけれどイケるわね」

「馬肉自体が初めてだけれど美味しいのね」

 皆初めての料理に好感触である。エルサンドが元は遊牧民だと言うのは書いたが、この料理などはまさに文化の融合である。

「そんなに美味いか!好きなだけ食べていいぞ、まだまだあるからな!」

 店主は元料理人であった。其れゆえ四人が異口同音に美味しいを連呼すれば嬉しくもなる。人は褒められればそれだけ報いようとする気持ちに為る。勿論貶されても喜ぶ人種がいるが別の話しだ。


 四人は料理をとことんまで味わった。デザートも美味しく頂き、今は孝雄実たちの部屋で明日の事を話し合っている。二頭の虎はこの間にサラたちの部屋で食事である。

「それじゃあ明日の事ね。先ずは族長の御屋敷へと尋ねる。これ次第でどう行動するかが変わって来るわね」

 エルサンドの族長は自治領主として侯爵位を王国より与えられている。とは言え一度戦争によって負けている為に伯爵と同格の認識である。


「なあその族長に会ってどうするんだ?」

「そう言えば話して無かったわね。ドットゥーセ王国はね、平民の領地の移動に制限が在るのよ。領地を与えられた貴族は、同時にその領地に住む者も与えられるという考え方ね。領民も貴族には一財産なのよ。それが自由に行き来されると困るでしょ?」

 エレオノーラは平然と言うが孝雄実には愕然とする話である。呼んでいた小説にも在った話ではあるが、実際に耳にすると違った思いを感じさせられる。


「そうなのかな…?」

「そう言うものよ。それでね、平民は領地を移動する場合必ず領主さまの許可がいるのよ。それがあの紹介状なわけ。例外は冒険者と商人くらいね。だからこの紹介状は孝雄実とマリアンの通行手形なのよ。同じ領主さまの領地を移動する場合は必要ないのだけれど、他の場所へと移動する場合はそうはいかないの。これから先を移動する場合には必ず此処の領主、族長の紹介状が要るのよ」

 そうやって平民の移動制限を行わせることで、貴族の利権を保護しているのだ。許可制を取ることで貴族への服従を、制限を設けることで王家への忠誠を、それぞれの階級で上への忠誠を高めている。

 孝雄実の世界で言えばビザの様なものか、彼はエレオノーラの説明でそう解釈した。説明は簡単であるがそう簡単なものではない。無法な領主をそのままにすれば領民の信を失い、さらには国としての信頼も失う。その為全てが全て同じ裁量は与えられていないが、それは長くなるので割愛する。


「つまりは明日族長に面会して、ドランデストハイム以降の許可を下さいってことなんだな」

「そう、それに私たちは王都にて冒険者登録を行う必要がある。それが移動理由であるならば必ず貰えるわ」

 必ずもらえる理由には冒険者への成り手が減少傾向にある事から各領主へ王国を通じて通行を認める様通達が為されている。冒険者と言う職は言い換えれば何でも屋であり、危険な依頼が舞い込む事が有る。王国が安定して成長する中で他の産業が押し並べて成長している。冒険者に為るよりも安定して収入を得る事が出来ると言う事がその原因とも考えられている。だが、冒険者と言う職は国家には無くてはならないと言うのが現状で土台を支えているとも言える。その為に国も疎かに出来ない事態と為っているのだ

 それ故に冒険者への門戸は徐々に拡大している。当初は男性に限られた冒険者と言う職も女性へと門戸が広がり、二十歳以上となっていたものも十四にまで引き下げられている。

加えて話しにもあった移動制限である。出発地の領主が、彼等は冒険者を目指している事を記してあれば許可を出さざるを得ないのが現状であった。

とは言え冒険者登録自体が不正規冒険者を減らす目的で創られた物であったのだ。

「とまあ以上が説明ね。他に何かあるかしら?…無ければ今日は早めに寝て明日に備えましょう」

 彼女の言葉で解散となる。


「そうね、邪魔者は退散しましょうかマリアン」

「ん、ああそうだな。済まねえご主人様!」

 そう言って二人は出て行った…

 当然二人は何を指しての事かを理解している。そのせいで妙な雰囲気に為ってしまったのは言うまでも無い。

「ちょっと、変な事しないでよね!」

「何を、変な事ってなんだよ。エレオノーラ?」

「へ、へへ、変な事は変な事よ!」

 そう突っ込まれて彼女は焦る。

「だからそれを聞いているんだが…」

 孝雄実も少し面白がって話しかける。この手の話しには耐性が無いのが彼女である。あと少しで終わると彼が思った時、この日は展開が違った。


「こう言う事よ!」

 エレオノーラはそう言うと彼に抱きついてキスをした。まさかの行動に面を食らう孝雄実であったが彼女は真剣であった。

「ぷっはぁ…なんだ、どうしたんだよ?」

「どうしたじゃないわよ!何よあのマリアンの態度!見せつけているの?ねぇ?私はね!孝雄実の事が好きなのよ!なのに…それなのに!」

 思わぬ告白に彼は動揺を隠せない。しかも今は孝雄実の胸で泣いている。これにはどうするかと悩んだが、日本にて、どうして俺の親友なのかと悩んだ人物に超イケメンさんがいたのを思い出す。そう言う時は抱きしめろ。何故か脳裏でその言葉が再生された。だが経験のない彼にはそれに縋る他なかった。


 ふっと抱き締めると彼女はビクッとさせるが、直ぐに彼に体を預ける様に力を抜く。そしてもう一度……マリアンの奴隷契約から端を発した二人の関係は大幅に進展した。だが、これは始まりにすぎないと彼女は思いながら朝を迎えるのであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。

 

 だんだんとヒロインが決まりつつある流に…なんかすんなりとは行かせたくない!そんな今野常春です。


 ご感想等お待ちしております。

 誤字脱字ありましたらご報告いただければ幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

                今野常春。

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