第二十一話 此の街って小さな国だよな… なあこれって結婚じゃね?たしか奴隷契約を…
オリマッテ・ロットロンの領地から一週間を掛けてエルサンド族の首都ともいえる都市ドランデストハイムへと辿り着いた。
此の街は一民族がドットゥーセ王国から自治を認められて成立したものである。故にどの街、都市と比べても雰囲気が異なる。さらには此処を知るエレオノーラからは幾つかの決まりを護るようにと言われて入り口へと向かい、その行列へと加わった。
「次!」
城壁を護る兵士は街の中へ入る為の監督も任されている。此処では入城する際の税金も求められる。出で立ちは王国兵とは異なる。威圧するような感じでその兵士らは声を上げる。こうすることで馬鹿な真似をしない様にするのだ。
「これを…」
先頭はエレオノーラが行く。事前にオリマッテから貰った紹介状を見せる。兵士はそれを見て、態度を変える。陪臣貴族であるオリマッテでもここではVIPなのだ。故にそれを持つ彼等はそれなりの待遇を受けられる。例を上げるならば入城税の免除がある。
「これはオリマッテ・ロットロン男爵様の紹介状で御座いますね。人数は四名様で宜しいですか?」
「はい、それと二頭の虎がいるのですが…」
彼女がそう言って視線をそちらへやる。それを追う様に兵士もやると確かに居た。大きな虎が孝雄実の両サイドでお座りをして大人しくしているのだ。しかし、此処ではその判断が着かない。と言うのも虎を連れたVIPは彼にとって初めてであったからだ。馬はどの街でも預け場所が在るが、他の動物の場合はその場それぞれで対応が異なる。
「しょ、少々お待ち下さい!」
そう言うと彼はこの場の隊長を呼びに向かった。暫くすると兵士は上官を連れて戻って来た。報告は確りと為されていたのか隊長も低姿勢で接する。
「お待たせ致しました。この場の責任者を任されておりますブンド・セルット・エルサンドと申します」
最後のエルサンドは民族の名前である。ブンドが名前でセルットが名字である。つまりセルット家のブンドさんと言う意味である。見た目は大柄な男だが、醸し出す雰囲気は優しさが備わっている。
「ご丁寧に有難う御座います。私はエレオノーラと申します。本日はご迷惑をおかけします」
勿論エレオノーラが言う言葉はブラックとホワイトの話しだ。だが、残念なことにブンドにも同行するかを決める決定権が与えられていなかった。しかし、孝雄実たち一行を待たせる訳にも行かず、さりとて行列を捌き切れないのも拙いと言うことで詰所へと案内される。
「申し訳ありません。何分私もこのような事は初めてでして…さっ、どうぞお座りください」
ブンドはそう言うと四人に席を進める。此処では遠慮してはいけないと前もって言われていることから、すんなりと皆は席に着く。
「申し訳ありません、手間を掛けさせてしまいまして…」
「何に構いません。前例が無いだけでこれからもあるかもしれないのです。それが本物の貴族様であったらこの街は大失態を犯してしまう所でした。そう考えると感謝するべきかもしれませんね」
サラと言う本物がいる事は此処では内緒である。今名乗れば、目の前の隊長は失神するどころではないだろう…
孝雄実たちはそれぞれブンドに自己紹介を行う。同じ国の人間同士である。平民同士、壁はないと言うものだ。
「それで、本日はドランデストハイムへどの様な用件で参られたのでしょうか?」
ブンドは確かにオリマッテの紹介状を見た。しかし、それは封がされた家紋を確認したに過ぎない。確認出来るのは、宛名に記入された人物だけだからである。此処には族長の名が記されている。
「私たちは冒険者登録のためグローリンバリーを目指しています。ですが、この街で奴隷契約をする為に立ち寄りました」
「ああ、成程そう言うことでしたか」
この街ではよくある理由である。この街の周辺には大小多くの村が存在する。そこには教会が無い。故にどうしても教会での契約が必要な人が訪れるのだ。
「ええ、それとオークを退治しましたので、それの換金もしなければいけません」
その言葉に空気が変わる。
「オーク!?エレオノーラさん、失礼ですが場所はどの辺りでしょうか?」
そう言って三日前の場所を簡易的な地図が壁に在った為に場所を指し示して説明した。
「此処ですか…」
そう言うとブンドは少し考えた後、部下を呼んでその場の確認へと行かせる。此処の場所は彼等の管轄である為だ。なるべく早くエレオノーラは証拠となる部位を換金したいと考えている。と言うのも鮮度の問題が在るからだ。死ねば当然腐り始める。腐らない様に防腐処理を施してはいるものの、持ってあと一日と言ったところなのだ。
暫く談笑しながら待っていると、先の案件での知らせを持った兵士が到着する。
「お待たせ致しました。飼い主の責任で以って街中を通行する事を許可するそうです。ですが、お気を付け下さい。何か問題があれば即処罰されますから…」
知らせを受け取ったブンドはエレオノーラ達を見てそう言葉を掛けた。これは此の街の決定権を一手に担う部署から派遣された者、即ち族長である。
「承知致しました。有難う御座います」
エレオノーラはそう言って頭を下げる。だが、思いのほか孝雄実たちは待たされることになる。オークの討伐によって確認に出た兵士が依然として戻らない為だ。
「しかし、ハイオークまで出現ですか…」
彼等は証拠となる部位をブンドに見せる。だが、残念なことに見分けるための目が焼けて変色している。これでは見分けが着かないが、それでも彼は信じている。長年人を取り締まる側に居れば彼等が嘘を言っている様には思えないからだ。
「ええ、全部で十五体でした。私と孝雄実が魔法で攻撃した処無傷でして、そしてサラがハイオークと確認したのです」
正確には命中寸前であるがエレオノーラもそうとは知らずに話していた。
「成程、そうですか…詳しい話しは後日お聞かせ下さいませんか?つきましては暫く此の街に滞在して頂かなくてはなりません。あっ、勿論滞在費は此方が支払いますので気に為さらないでいただきたい」
そう言うとブンドはとある宿を紹介してくる。
「此方にて滞在して頂きたいのですが、如何でしょうか?」
彼はその様に進めるがこれは強制に近い話しである。断る事は出来ない。四人はほぼ同時に頷いた。
「はい、それではご厚意に与ります。暫くの間よろしくお願いします」
エレオノーラはそう言って頭を下げた。その後、注意として以下の事をブンドから言われる。
街中では自由に動く事が出来る。城壁の外へと出る場合は必ずこの詰所にて手続きを行う事。閉門時間までには必ず戻る事。これを破れば逮捕しなければならない事であった。
「恐らく五日ほどは滞在して頂くことに為ります。それと族長との面会は如何しましょうか?」
ブンドは紹介状の事も踏まえての話しをする。申請を出せば翌日には会えると彼等に伝える。
「出来れば早くに御会い致したいのですが…」
「承知しました。私からその旨の申請を行っておきます。紹介状を持っていれば問題は在りませんからな」
そこで話しは終了する。
そうこうしていると確認に出ていた兵士が戻り、確かにオークとの戦闘、そして生活の後が確認できたとの報告を受けた。そこで一行は手の空いている兵士に案内されて宿へと移動する。手配には時間を要するのだが、その辺は権力でどうとでも成るのがこの社会である。
「では、自分はここで失礼いたします!」
兵士は店の入り口前でそう言った。人数と虎の事は事前に店主へと知らせてある為問題ないと詰め所を出る際にブンドから説明がなされている。
「此処までの案内有難う御座いました。これは少ないですがお礼です」
エレオノーラはそう言うと小額の金銭をチップとして差し出した。この国では何かをして貰ったならば、小額でもいいからお礼をと言うのがマナーに為っている。自治領として編入された当初はこの慣習に反発があった。これは貨幣経済が浸透しておらず、金銭を貰っても使い道が無かったからだ。元々は物々交換が主流であったエルサンド族は貨幣と言う認識が希薄であった。しかし、時が経てば貨幣経済の良さを知ったエルサンド族は慣れ親しんでいったのである。
「有難う御座います!それではこれで!」
兵士は嬉しそうに詰所へと戻って行った。
「いらっしゃい!お泊りかい?」
恰幅の良いおじさんが彼等を出迎える。店内へと入ると一階は食堂に為っていた。宿泊客以外も利用する食堂は昼過ぎとは言え客足が途絶える事は無かった。
「はい、此方をブンドさんから紹介されました者です」
「ああ、話しは聞いているよ。とりあえず二部屋用意してあるがもう一部屋増やした方が良いかな?」
店主は済まなそうな顔で尋ねる。と言うのも兵士から部屋の話しを聞かされた時人数を言われただけであったからだ。それに虎の事も踏まえての話しである。まさかここまで大きな虎を連れているとは思わなかったからだ。食堂に居る客も大人しい虎を見ているが若干引き気味であった。
「構いません二部屋でお願いします。部屋割は此方で行いますので」
「そうかい、何か悪いね。詳しく教えてもらえれば三人部屋を用意したんだけどな…はいこれが鍵だよ。食事は朝と夜両方出すから時間になったらここに来てくれ。おーいフェーム!」
彼がそう呼ぶと二階から声が聞こえて、階段を下りてくる音が聞こえる。
「はーい、旦那様何でしょう?」
「用意を頼んだ部屋への案内を頼む」
「はい、承知しました。それではお客様私にお続き下さい!」
そう言って元気な少年は二階へと再び上った。
建物の構造は片側に集中して部屋が設けられている。階段を中心に左右に部屋が均等に存在し両端にも部屋が在る。全部で十四部屋在る。建物自体は三階建てで三階部分は従業員の部屋だと少年フェームが説明しながら進むのであった。
「此方と此処がお客様の部屋となります。お食事は一階の食堂でお願いします。判らない事があれば何でもお尋ねください!」
少年はエレオノーラからチップを受け取るとお辞儀をしてこの場を去って行った。
さて部屋割である。誰がどう寝るかという問題であったが、すんなり決まる。マリアンとサラがペアを作ってしまったからだ。そこにブラックが加わる。一番奥の部屋に孝雄実たちが、その手前が彼女たちの部屋だ。日の沈みはまだ時間を要する。よってこの日は目的であったマリアンの契約を行い、時間が余れば冒険者ギルドへと顔を出して、オーク討伐の報告をしたいと予定を立てる。
一階に降りるとサラたちが既に待っていた。さらには僅かな時間にも拘らず彼女たちは情報を聞き出しているのだった。
「悪い、待たせたかな…」
「いや、そんなでも無いぜ。ご主人様」
そう言うマリアンではあるが、彼女は性格もだが思っている事が態度に出やすい傾向が在る。今の彼女は言葉とは裏腹に待っていたと態度で見せていたのだ。
そのマリアンたちを待たせた訳とは出発前にオリマッテから受け取った金銭である。此の金額が莫迦にならなかった。金庫が存在し、行政側が指定する宿でも油断は禁物である。いかにこの金銭を秘匿するか、持ち続けても不安だし、預けても同じ、と言う訳で、ベッドの下にそれと分からない様に隠していたのだ。そしてその一部を持って下りて来たのだ。
「話しを聞いて来たわ。教会の場所などね」
サラはそう言って三人の下へと戻って来た。
孝雄実は部屋の鍵を預けて宿を出た。サラを先頭にして一行は教会へと向かうのであった。
「しかし、何処を見てもオリマッテさんのところの様な趣はないんだな」
孝雄実は周囲をきょろきょろとしながら話す。言葉で表すならば異国情緒溢れると言えばいいだろう。それを感じるほどにロットロン村が彼に馴染んでいたと言うことだろう。
「此処に住むエルサンド族自体が異民族と言う定義だったからね。それに遊牧民だったのよ」
エレオノーラはそう説明する。そもそも、この辺りは今から五百年も昔、争いの絶えない地域であったのだ。原因はエルサンドの遊牧生活である。定住を望む民族と遊牧民族が混在すれば衝突は避けられないだろう。加えてエルサンド族の理由が酷いものであった。
『夏は涼しい場所で、冬は暖かい場所で暮らしたい』と言うものである。環境が極端に厳しい場所では無い。むしろ四季が在る様な地域である。争いが在る故に作物等の収穫量が安定しなかったが、一度安定すれば相当量の収穫が行えるまでになった。
度々悩まされるエルサンドの侵入に対して、業を煮やしていたドットゥーセ王国はその理由にブチ切れた。諸侯軍に加え王家も参加しての討伐である。正しく国家を上げてのものと言える戦いはあっと言う間に蹴りが着いた。
春から夏にかけてエルサンドが避暑を目的にこの辺りに来たところに襲い掛かったのだ。
そして『自治を認めてやるから、この辺りに住め』と言うその当時の王の命に従うことになったのがエルサンド族である。
彼等の文化は広大な地域で得た産物である。それをドランデストハイムに生かしたのであった。だからこそ孝雄実が述べる様な街並みが存在しているのである。
そんな話を聞かされながら教会へと辿り着く。教会はドットゥーセ王国の雰囲気である。
「ごめんください…」
「おや、これは珍しい…旅の方ですか」
この辺り周辺からは訪れる者は沢山いる。しかし、旅人となれば話は別であった。細身の体形をした神父は温和な表情で彼等を迎える。
「本日はどの様な事で此方へと参られたのでしょうか?」
「はい神父様、本日は契約を行いたく参りました」
エレオノーラがそう話す。そう言うとマリアンが少し緊張した面持ちになった。
「契約ですか…分かりました。それで何方が結ばれるのですかな?」
神父はそう言うと四人を見やる。
「俺と彼女です」
孝雄実がそう言うとマリアンも前に出る。
「そうですか…お名前をお伺いしても宜しいでしょうか」
「俺は近藤孝雄実です。此方はマリアンと言います」
神父は紙を取り出すと二人の名を書き記す。奴隷契約自体は多くこなしている神父は慣れたものである。
「それでは、いくつかの注意点とあとこれにサインをお願いします」
神父はそう言って一枚の羊皮紙を二人に提示する。それはまるで婚姻届の様相である。幸いにして孝雄実は書いてある文章が読めなかった。加えて敢えてそれを説明する事を周囲の人間が行わなかった。
但し、村を出る前に自分の名ぐらいは書けなければいけないとして覚えさせられていた。
それが功を奏しすんなりと孝雄実は名前を書く。対してマリアンも緊張した手付きで自分の名前を書いて行く。
それを確認した神父は二人に契約時の注意を話す。重要なのは奴隷となる者は、主人に絶対の忠誠をしなければならない事だ。それと命令された事に拒否権はないと言う事。処罰は主人の裁量で行う事。契約を打ち切る場合は再び教会にて行う事等が上げられる。ただし、契約の打ち切りは殆んど行われていないと言うのが現状である。
言うなれば凶悪犯罪者をフリーで刑務所から解き放つに等しい行為である。言うなれば枷を奴隷契約として与えているのである。
「以上が注意点ですね。何か質問はありますかな?」
神父はそう言って二人を見る。しかし、それが無いと見極めると立ち上がる。
「無い様ですね。では契約の儀式へと移りましょう」
そう言うと祭壇中央まで彼は移動を始める。そして二人を呼ぶと祭壇に向かって並ばせる。
「主人であるコンドウ・タカオミ、汝はマリアンを奴隷として契約することを誓うか?」
孝雄実にとってそれは結婚式で在る様なフレーズを聞かされている様であった。まさか、と言う思いが彼の中で増幅されている。
「ち、誓います…」
そう言うと神父は頷いて、マリアンの方へと視線をやる。
「奴隷となるマリアン。貴方は何時、如何なる時もコンドウ・タカオミを主人として敬い、護る事を誓いますか?」
「誓います!」
即答である。しかも元気のいい声で彼女は宣言した。まるで此の時を待っていたかのようである。
「宜しい、それでは此処に誓いの合図を神に示していただきます」
合図とはキスである。マリアンは孝雄実の方を向いた。彼もまた彼女へと体を向ける。ウエディングドレスを着ていれば完全に新婦である。
「永久の契約を…」
神父の言葉が合図である。孝雄実はこうして彼女のファーストキスを、マリアンは孝雄実の初めてを戴いたのであった…
口と口を確りと合わせ、暫くはお互いそのままである。後は神父が言葉を掛けるだけであった。しかし、マリアンは積極的である。何と合わせるだけでいいと彼女から言われながらグイグイと押し付けるのである。自然と体が密着する。するとどうだろうか、露出の多い服装を好む彼女の胸がボールを間に挟んだ様に潰れ出す。
それを見たエレオノーラの額には青筋が起つ。明らかに怒りのボルテージが上がっているのだ。それにしても長い、何時終わるのかとイライラしながら彼女は見ていると、漸く神父が言葉を発する。加えてサラも同様の感情を内包しているがそれを態度で示す事はしなかったのは救いである。
「これにて神は契約をお認めになった。以後は主人と奴隷として道を違わぬ様に生きてください」
そう言って彼は孝雄実に紐の様な物を渡す。
「これは?」
孝雄実は受け取り手に持つとそう尋ねる。
「奴隷の証として彼女に見に着けさせてください。これで彼女が奴隷だという証明になります」
孝雄実は未だにウットリとする彼女を見やる。それが妙に色っぽい、呆けているのだが艶を感じるのであった。
「場所は何処でもいいのですか?」
「はい長さは在りますのでお好きな場所へ。しかし、旅の方であれば首に巻くのが一番でしょう。腕や足では邪魔になる事が在りますから」
そう言われると首に巻かざるを得ない。
「ほらマリアン首を出してくれ」
そう言って彼は彼女の首に証を見に着けさせた。
こうして二人の契約は無事に完了するのであった。後はオークの件を処理し、族長に合い一路王都グローリンバリーへと向かうのである。この時は数日の滞在と考えていたが件の話しから事態が思わぬ展開へと発展するのであった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
ご感想等お待ちしております。
誤字脱字在りましたら報告をいただければ幸いです。
それでは次話でお会いしましょう!
今野常春




