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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
異世界でするべき事、その立場って…
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第十二話 この世界の農業は地球のそれとは隔絶している!常識って…

 農業に詳しい方、浅知恵で書いた筆者をお許しください…

 孝雄実たちがオリマッテ・ロットロンから用意された家に移り住んで一週間が経過した。

 初日に彼等はオリマッテの家にて幾つかの事を話される。当面の暮らし方である。一つは当面オリマッテが移動することが無い為に狩りを行い、食料を得る。二つ目はその合間に農作業で長期的な自給を確立する事。

「必要な物は何でも言ってくれ」と言われてはそうせざるを得ない。むしろ孝雄実たちには破格の条件ではないだろうか…

 幸い前の住民が使用していた畑の面影が残る場所を再生と整備を行いそこで作物を育てようと言うことに決まった。しかし、ここで孝雄実は常識を覆される話しをエレオノーラから聞かされる。


「えっ!好きな物が作れるの?」

 孝雄実が入手している知識は、現代の地球において人類の叡智とも言える農法である。この手の話しでは必ず必要となる。そう確信して集めた知識、思い出すだけでもその当時の行動理由が情けなくなる。しかし、宝の持ち腐れに為らずに済んだと思った矢先のことである。

「え、ええ畑を耕せば、後は種をまいて定期的に水を撒けば育つわよ」

 これである。気候は?肥料は?土壌改良…孝雄実は様々な事をエレオノーラへと尋ねる。大概が知識だけであり、何が何を話しているかを理解していない孝雄実である。対して話されている内容が農業に関することとエレオノーラは理解しているが、チンプンカンプンであった。


 そもそもそう言った手間が掛からないのがこの世界である。異世界と言う言葉で済ませる事が出来るのは素晴らしいと孝雄実は感慨深くなる。既に現代日本で仕入れた農業知識は捨て去る決意を固めた。但し、それでも必要な物がある。生産できる季節である。これだけは地球と同じである。日本では改良によって、また世界中から野菜を輸入して年中季節の野菜が食べられる。勿論、季節の野菜はその適した季節に食べるのがベストであるが、気にしなければ問題はない。長期保存が可能になっている事もその事に寄与している。


 季節は秋である。彼等が基本食する麦を収穫する。彼の知る知識では六月ごろであったと記憶しているが此処では稲作、米と同様な時期であり、これもまた不思議な現象である。

 しかし、郷に入れば郷に従えとは素晴らしい言葉である。つまりは慣れるしかなかった。常識は非常識と言う言葉もあるくらいだ。表裏一体であるとも言えるが、孝雄実はエレオノーラから一つずつ教えて貰いながら常識を一々覆していく。






 結局、無難なジャガイモを中心に作ることにした。後は人参、ピーマンである。植え付ける時期が!と言う常識は此処では通じない。これがこの世界の常識なのだ。

 この世界で苦労するのは畑を耕すことと、水である。種蒔き、作付け以降の手間は要らないが、その分土を掘る事が重要となる。凡そ四メートル、安定した食物を手に入れる為にはその深さまで掘り返さなければならない。重機等が無い世界である。全て人力が当たり前の中でその深さを掘り起こすのは相当な苦労を要する。勿論魔法をと言う考えが在るが畑を耕す農民に魔法を使用出来るものは居ない。

 故に、そこまで掘ればどうにかなると考えていても、そう簡単には行かないのが現実として存在する。






「いやー魔法様々だな!」

 孝雄実はやり切ったと言う顔で二人に話しかける。マリアンは別として、エレオノーラは農家の娘である。その苦労は分かっている。農機具の発展が遅れている中で四メートルを掘る事は成人男性でも一苦労と言えるものではない。それを孝雄実は魔法によって簡単に掘り返してしまったのだ。

「様々って、どれだけ掘り返しているのよ…」

「流石にこれはやりすぎだと思うぜ、ご主人様…」

 凡そ百平方メートルであった。深く土を掘り返した為に、その一帯だけ黒々とした栄養豊富な土壌が完成していた。


「反省はしている。後悔はしていないがな!!」

 今の孝雄実は厨二病が再発している可能性がある。理由は魔法と言うもので簡単に土を耕してしまったからだ。孝雄実としても、まさかこれほどとは思いもよらなかった。ここまで魔法が便利だと思わなかったのである。話しで四メートルほど深く土を掘り返すと聞いて、じゃ魔法でやってみようかと軽い気持ちで行ったのが始まりであった。


 残念なことに農機具は此処の家にはなかった。故にエレオノーラの実家に借りに行くことになった。此処の国では家主が行ってはいけない決まりが在る。と言うことでエレオノーラとマリアンが行くことになった。

 二人を待っている間に思い付きやり始め、戻って来ると同時に完成していたのが事の顛末である。

「最初は軽い気持ちでした…」

 ニュースで耳にする言葉である。悪い時によく使われるフレーズだが、孝雄実は本当に軽い気持ちで使用したのが始まりだった。四メートルと言う深さと、土の見た目等を想像して、掘り返すと言う動作も付け加える。するとどうだろう、魔法を使用した一角だけ黒々とした土が現れたではないか。

 これが始まりであったのだ。






「まあ困るものではないわ。確りと成形して作付けと行きましょう」

 エレオノーラの言う成形とは畝の事である。此処からは人力作業である。ブラックとホワイトも参加しての作業を行う。一度掘り返せば二、三年は何もすること無くでも構わない。時間を掛けて畝を造り、作付けを行う。

「ふー難しいけどいいなこう言うの。賊をやっていたときに比べたら疲れるけどな!」

 マリアンは自分で耕した土を見てそう呟く。自分の行った物を見て直ぐに成果として実感できる、初めての経験である彼女には新鮮であった。

「今日はこんなもので良いわ。後は水を撒いておきましょう」

 孝雄実とエレオノーラは水を出す事は出来る。しかし、繊細な部分まで調整する事は未だに出来ていない。よって三人は桶に溜めて水を撒いた。しかし、これでも相当な負担軽減である。この話しが広まるのは時間の問題であった。






 その日はロドムとウォーレンに貰った鹿の様な動物、ヂューマを使った煮込み料理であった。これにはマリアンが腕前を披露した。野菜を切るだとかは三人共に出来る。しかし、一頭丸々をどうこうと言った時、血抜きから行う場合は経験が求められる。そこで彼女の出番であった。賊の時代には深い森で獲れる動物を解体していたからだ。それに合わせて味付け等もお手のものである。

「出来たぜーご主人様!エレオノーラ!」

 彼女はそう言って二人を呼ぶ。二人は外でブラックとホワイトと遊んでいた。良い匂いがするものの、家の中に入る事を禁止されていたのだ。彼女のその声で漸く中へと入れるのだった。

「おー良い匂いがしていたからと思ったけれど見た目も美味しそうだな!」

「そうね、まさかマリアンに此処まで才能があったとはね」

 二人はそう言って彼女を褒める。それに対して彼女は照れる。彼女は褒め慣れていないのだ。

「へへへっ、まあ良いから席に着いてくれよ。ほらお前たちにはこれだ」

 マリアンは料理中(解体)に余った骨付き肉を二頭の前に置く。早速二頭は齧り付く。


 二人はマリアンの料理を褒めちぎりながら食べ進める。それほどまでに美味しいのだ。名誉の為に書くがエレオノーラとて彼女に負けず劣らずの腕前を披露している。ただ土俵が違うのだ。孝雄実は鍋料理が大好きであった。エレオノーラが作る料理は家庭料理のそれに近い、それに対してマリアンのそれは仲間同士で食べる。そんな色が濃い内容なのだ。酒が飲めれば皆で飲み合い、馬鹿騒ぎが出来る。そんな料理であった。


 翌日、エレオノーラは詠唱破棄をマスターするべく今日も練習を、孝雄実はマリアン相手に剣の練習である。ボウガンも進化した双剣の腕前も、基本的には彼の魔法頼りである。それが露見したのは此処に移り住んでからすぐの事である。以来、彼はもしもの為にこうして稽古を付けて貰っているのだ。

「ほらほら、そんなんじゃ当たりっこないって!」

 孝雄実は木の棒を持ってマリアンと対峙している。一本ですら彼女に掠りもしない腕前である。双剣の訓練など夢のまた夢である。今も孝雄実の一振りはなんて事も無く空振りを見せる。マリアンは全く疲れた表情もなく付き合っている。しかし、当の孝雄実は盛大に汗を掻き、肩で息をしているのだ。


「そ、そんな…んじゃ、って…」

 息も絶え絶え、思考さえ確りしない。孝雄実の体力は限界に近い。それでも彼は次の攻撃を狙い、棒を構える。それを見て成長しているとマリアンは思っている。昨日は、一昨日はその前は…こうして練習を初めて六日が経つ。日々、成長しているのが彼女には分かっていた。

 こうしている理由は簡単である。先程も書いたが、万が一彼が魔力切れ、若しくは失神寸前となった場合の話しである。ボウガンは魔法を使用し、ある程度照準を外しても追尾して命中させる事が出来る。双剣は剣それ自体が各々魔力を消費し、自動で体を強化しつつ相手に対応する。チート万歳とでも言える仕様である。


 しかし、それも彼の魔力があってこその物種である。一定程度魔力が下回ると宝の持ち腐れとなる。双剣の形態は、完全に魔力が切れるまでは維持されるが、そうなれば彼は村人並みの実力となる。近いうちに狩りに出ることになる孝雄実たちは、その万が一を考えて彼を鍛えている。


「うーん、成長はしているんだよ、ご主人様は…」

 結局最後の一太刀となってしまったが、同情的にマリアンが受け止めて彼は力尽きる。その後は彼女が家に運び寝かせると反省会となる。エレオノーラ特製の栄養ドリンクを飲みながら孝雄実は話しを聞いている。実戦経験豊富なマリアンの話しは、どれもが孝雄実には欠かせない話しである。また人を斬ると言う事が現実に在りえるこの世界では、それを切り抜けてきた者の話しは貴重である。

「でもさ、あの時は魔法の補助があったとはいえ、よく人を斬れたよな、ご主人様は…」

 マリアンが言うのは、ブラスト辺境伯の支援行うべく、魔法を使っている際に襲って来た彼女たちとの戦闘である。


「ああ、あれか…なんて言うのかな、俺が俺じゃない様な感じなんだよ。人を斬り殺すとか絶対にした事が無いのに出来てしまった。そんな感じかな…」

 孝雄実は実の所、あの賊二人を斬り殺したと言う感覚が無い。記憶では殺したんだ、とは在っても感触、実感が伴っていないのだ。まるで誰かに操られる様な…悪く言えばそんな感じであった。

「……よくわからないけどさ、ご主人様は自分の意思で人を殺してはいないってことだな」

 彼女はあんまり良いとは言えない表情である。今は慣れてしまったとは言え、彼女も初めて人を斬った時は、数日その事で悩まされた記憶がある。殺人が良い事と彼女は考えていない。それが良いと思った時、彼女は人では無くなると考えているからだ。


「そう言うことに為るのかな…」

 おかしなことであるが、ボウガンを使用した時はこのような感情はない。射殺したということに為るが、命を奪ったのは矢である。彼は引き金を引いただけといういい訳が出来る。しかし、双剣は話しが違う。目の前で、彼の意思で、人体を斬るのだ。その感触は嫌でも伝わるものだ。それが前はなかっただけでこれからは在る可能性が高い。


「だからこれだけは言っておくぜ、ご主人様。感情が滅茶苦茶になったら私かエレオノーラを頼れ。あいつもこの事は経験しているはずだ。それに乗り越えているから今がある」

 孝雄実は直面していない事ゆえに想像出来はしないが、彼女の目が訴えかけることに確りと聞くことにした。

 それから彼等は程無くして狩りへと赴くことに為るのだがそれは別のお話しである…






 話しは別に起こる。例によって孝雄実とマリアンが剣の練習をしている時である。オリマッテの連絡係となっているエレオノーラの弟、ダンが訪ねてきた。

「こんにちわ!義兄(にい)さん!!」

 孝雄実にとっては一つ上の弟である。何れ彼女とそうなれば、そう呼ばなくてはならない。その彼が此処へと来ると言う事はオリマッテが呼んでいる事を意味するのだ。

 二人は練習を止め、エレオノーラを呼ぶと子虎も一緒にやって来る。最近は彼女にべったりと為っている二頭である。


「久しぶりだね、エレオノーラ」

「そうね、ダンも元気そうで良かったわ」

 一つ違いである為ダンは彼女を名前で呼ぶ。別段仲は悪くはない事を記しておく。

「今日はオリマッテ様からの呼び出しで来たんだ。すぐにお屋敷に来て欲しい。勿論マリアンもね」

 ダンはそれを告げると他にもロドム達を呼ぶ為に早々に家を出て行った。


「一体なんだろう?」

 三人はエレオノーラの指示のもと暫くの間外出出来る様な準備をして家を出た。子虎も同様に彼等に付いていく。

「詳しくは聞いてみないと分からないわ。それでも皆を呼ぶと言う事は此処から出て何かをするということでしょうね」

「それよりも私が付いて行って良いのかよ?」

「ダンが行っていたでしょ。貴方も一緒にって、たぶんあなたも必要な話しよ」

 そう言って屋敷までの道中を行く三人であった。






 彼等が到着すると既に全員が到着していた。ロドム達の家は屋敷近くに建てられている。その為に準備を入れても早く辿り着くことになる。

「よく来た。さあ三人とも座りなさい」

 オリマッテの表情は決して良いものではない。間違いなくこの村に良くない事が今から話されるとエレオノーラは思った。三人は言われるがまま空いている席に腰を下ろす。

「単刀直入に言う。ゴブリンが巣を造っているという情報が入った」

 ゴブリンとはファンタジー小説では欠かせないモンスターである。醜悪な顔で、人よりも小さいが繁殖力に富み、あっと言う間に個体数を増やす。力はそれほどではないが彼等の恐ろしさは人海戦術である。気を抜けば後ろからバッサリなんてことはよくあることだ。だからこそ恐ろしいのである。集まった皆も息を呑む。


「話しは昨日、村人が狩りに出ている時だ。ゴブリンの形跡を発見、直ちに私へと知らせを持って来た。そしてダンを目撃現場へと派遣して調べさせた。結果は大きさレベル三である」

 ゴブリンの巣は一から五までのレベルで理解される。一は作成して間も無い。逆に五は危険水域である。五になればゴブリンは新たな巣を作るべく一部が巣を離れ移動を開始する。飛蝗の様な生態である。

「レベル三!」

 ロドムはその言葉に驚く。此処まで来ると個人で、とは行かない。一定の集団で事に当たらなければならない。それだけ数が多いのだ。この段階で個体数は千から千五百と言う数である。あくまでも統計上であり、絶対とは言えない。


「ああ、私は鬼の影響で発見が遅れたと考えている」

 そう、この村とてオリマッテがいなくとも、彼の家族が中心となり村人を避難させ動き回っていたのだ。さらに暫くはその辺りへと狩りに出ていなかった事が考えられる。それ故に此処まで放置されていたのだ。

「それで、援軍はどの様な…」

 アレンは肝心な事を尋ねる。これが無ければ始まらないからである。しかし、それがあるのならばオリマッテの表情の説明が付かない。

「残念だが…援軍は一名だけだ……」

 言い淀む彼の気持ちがこの時分かる。見捨てられた訳ではないが絶望的な状況だ。


「そんな…それでは!」

 ロドムはそう言おうとしてオリマッテに手で止められる。

「分かっている。ロドムの言いたい事は分かる。だがな、私は此処の領主として命じなければならない。済まないとは思っている。だが、この村の為に…ロドム以下七名に命じる、これよりゴブリン討伐を命じる!ついては一名の随伴と共に事に当たって貰う!」


 オリマッテにとって苦渋の決断である。とてもではないが魔法で補助を行っても苦戦は必須である。下手をすれば誰かが死ぬ可能性だってある。それでも領主である彼はロドム達に命じなければならなかった。

 彼等の唯一の希望は孝雄実だけである……




 最後までお読み頂き有難う御座いました。


 いやー今回は農業に触れてみましたが、難しい、調べれば調べるほどに裾野が広がって行き、何を調べているかが分からなくなって行きました今野常春で御座います。異世界物などでは多く描かれる農業ですが、上手く纏めておられる他の筆者の方々を改めて尊敬いたしました。


 ご感想等お待ちしております。

 それでは次話で御会い致しましょう!

              今野常春

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