第八話 仲間にしたい?良いだろう、但しお前の奴隷としてな…
大幅に内容を変えました。後半部を大きく変更しております。
近藤孝雄実は捕虜を魔法で治したところで、魔力切れを起こして再び失神した。盛大に女ボスに倒れ掛かる様にして…
「起きなさい、孝雄実!」
そう言ったのは白である。
「起きろ、孝雄実」
この声は黒であった。
「うーん。おはようって、此処は…また精神世界か?」
孝雄実は寝ぼけ眼でそう尋ねる。
「そうよ。こうでもしないと現状は貴方と話せないからね」
「全くだ。お前がもっと強くなれば違うのによ!」
二頭は擬人化している。身形は低学年の子供である。しかし、彼等の纏う雰囲気がその認識を否定させる。大人びたとも老齢の様な、と言うのも共に当てはまらない。言い表すならば神秘的な雰囲気と言えばいいのだろうか。
「例によって時間が無いわ。孝雄実、一度しか言わないわ。今回傷を治した女、あれを仲間にしなさい」
白は何気なく言った。だが目は真剣である。
「はっ、仲間ってあの女性は賊なんだろ?」
「細かい事はいいんだよ、孝雄実。先ずはあの女を仲間にするんだ。そんな人間社会の事情はどうだっていいんだよ!」
二人は迫力のある雰囲気で孝雄実に告げる。理由は分からないがこれは決定事項の様だと感じて彼は頷いた。
「それじゃ、それは目が覚めたら頑張ってね。恐らくエレオノーラも頑張ってくれるわ」
「ああ、分かった」
「それじゃあ次ね…」
白はそう言うと言葉を止める。
『パンパカパーン!おめでとう孝雄実、貴方は無事レベルアップを果たしました!!』
白と黒はそう言って体で喜びを表現した。だが当の本人は呆気に取られ、何を言っているのかが分からないと言う感じで二人を見ている。
「あれっ?何か拍子抜けね。たしか孝雄実の世界では『げーむ』だったかしら。それで基準をクリアすると、そんな感じで知らせるんじゃ無かったかしら?」
「そうだぜ、白。俺もそうだと思っている。お前は間違って無い!」
二人は可愛らしい仕草で考え込む。
「いや、そもそも何がレベルアップしたのかが分からないんだけど…」
しかし、孝雄実の言葉で根本からして意思の疎通が出来ていない事に漸く気が付いた白と黒であった。
「ああ、そう言うことね。孝雄実が扱っている武器あるでしょ。ボウガンから二振りの剣に変化したじゃない。あれがレベルアップした証なのよ」
あの時、孝雄実は感情が上手く制御出来ずにいた。妙な焦りと怒りが混在した感情であった。
「実はな、前日に沢山魔法を使っただろ。それで一定基準をクリアしていたんだよ。で、後は孝雄実の感情がそれに追いついて漸く変化したってところだ。但し武器の形状は無意識下で作製されるからなどの様な形になるかは予測できない。でも決して不利になる様な物には成らないから安心してくれ!」
「分かった。それで、あの剣はそのままなのか?」
気を失う直前は剣であった元ボウガン。孝雄実はそれを心配していた。
「それは気にしないで。元の弓に戻っているから。やり方は魔法と同じよ。頭でしっかり意識する事、それで武器は剣へと変化するわ」
そう言うと、今回は先に白が子虎へと戻った。
「あっ、白…じゃないホワイトか」「ガウッ!」
そう鳴くと、彼に甘えるように顔を擦り付ける。姿が変わると態度も変化するようだと孝雄実は思った。
「今回は孝雄実が光と水の系統を多く使用したからだな。覚えているか、あの女に治療したの?」
「ああ、覚えている。たしかあの人を治したい、回復させたいって思いだった」
「そう、あれは白が持つ元素を使用している。それだけあいつは多くの魔力を消耗したんだ」
「たしか俺の魔力を使うんだったよな?」
「そうだぜ。孝雄実の魔力を一とすれば俺と白は半々で分けることになる。今回はその半分近くを白は使い切ったってことだ。前にも白は言っただろ、イメージを鮮明にする事だって、それで魔力消費は抑えられる。後は…ああそうだ。気が付いていたか森の中で使用していた魔法は俺たちの力使用していなかったの?」
今までの魔法はイメージを受け取った二頭がボウガンへと転写して具現化させている様なものであった。しかし、今回孝雄実が使用した魔法にはそれが一切なかったのだ。
「ん?そうなのか…って言ってもどれがそうなのかが分かんないよ」
無意識に魔法を使用していた孝雄実は黒がどれを指して話しているかが分からなかった。
「だったら、目を覚ましたら試してみろよ。とは言え今日孝雄実が使用した魔法は大丈夫だけどな。すげえよ、ほんと俺たちの想像以上に成長が早い!」
「ありがとうと言えばいいのかな」
黒に褒められて少し嬉しそうに照れる孝雄実であった。
「ああ、それと孝雄実が使える魔法は、武器を使用しなくても使える様に成っているからな!一々構える必要はない。魔法の形だけをイメージすれば自然と現れるから!」
とはいえ、孝雄実にはさっぱりな内容である。
「分からねえって顔だな。まあエレオノーラとあの女の手ほどきを受ければ自然と慣れてくる。いいか、もう一度言うぞ。どんな時でもイメージを強く意識するんだ。孝雄実は全ての元素と無属性が使えるんだ。お前に不可能はない!」
黒がそう言うと、遂に黒も子虎へと戻った。白と同じく孝雄実に甘え出す。
『それじゃあ次回ね…』
『しっかりと鍛えろよ…』
そう言葉が聞こえると、真っ白な世界が孝雄実を包みこんだ…
「うーん… お、重い…」
孝雄実はそう言って目を覚ました。例によってブラックとホワイトが布団代わりに乗せられている。
「目が覚めたのね」
エレオノーラはその言葉に気が付いて孝雄実に声を掛けた。
「此処は?」
彼は天幕だとは理解したが、どうにも見知らぬ装飾品などが存在している。
「ブラスト辺境伯様の天幕よ。残念ながら私たちの天幕は賊に破壊されていたわ」
諸侯は各貴族を中心に纏まって陣を築き、その中で生活をする。諸侯を中心として家臣が周辺をさらに外は兵士がと円周状天幕を設置していくのだ。レイバーグの陣は最も奥に設置されている。その前を諸侯が各集団を形成して攻撃に備えていたのだ。
二人が使用していた天幕は、中間に位置する辺りに用意されていた。これは先頭の部隊を援護し易い位置で、出陣できると言う配慮であった。
「そうか…エレオノーラの荷物は無事なのか?」
彼女の荷物が少なからずあったはずと孝雄実は思い出したのだ。
「それなら…えっと、ホワイトで良いのかしら。あの子が持って来てくれたのよ」「ガウッ!」
彼女の声に反応するように答える。そして褒めて欲しそうに孝雄実に頭を出す。それは二人とルコツ・フェンバー男爵がレイバーグの元を訪れる時へと遡る。この時二頭も一緒に付いて来ていたのだが、白は突然二人が居た天幕へと戻っていたのだ。孝雄実は常に武器となるボウガンをバッグに入れて持ち歩いている為に問題はなかったが、彼女の場合はそう言う訳にはいかなかった。幸いなことに戦闘前と言うこともあり荷物が全て纏められていたと言う事だ。
「そうだったのか、良くやったぞ。し、ホワイト!」
そうやって撫でる孝雄実だがブラックも同様にする。
「お前も忘れてないって!」
思いっきり撫でまわして二頭を褒めちぎるのだった。
女ボスを治療して彼女に持たれ掛かるように気を失った後の話しだ。
「うわっ、おい大丈夫か?」
孝雄実が余りにも突然倒れる事で女ボスは驚いた。エレオノーラは前回と同じ様な事態に魔力切れだと断定する。
「ええ、大丈夫よ。彼は魔力切れを起こしたの」
彼女はその様に話すと孝雄実を抱き起こす。既に女ボスは抵抗することはしない。大人しくしている。
「そうか。あーあ、これで私の仲間たちは全滅か…」
彼女の号令一下突撃を行った賊たちは、各個に追い詰められて降伏しようとも殺されている。レイバーグを先頭にしたブラスト辺境伯軍がその主力を担った。最早、残敵掃討の域へと進んでいる。これを見て彼女はそう呟いたのだ。だが、それもこれも全ては孝雄実、彼女を治療した男の仕業である。だが、今の彼女に恨みと言う感情はなかった。精一杯戦った。彼等の掟の最後には『最後まで戦え』と言う文言が存在している。
それで負ければ仕方が無いと言う事を暗に示しているのだ。
「まあ仕方ないわね。大人しくしていなさいよ。一応は孝雄実の捕虜って扱いになるのだから、彼が目を覚ますまでは決して殺されたりはしないからね」
エレオノーラはその様に言うと念のためにと女の両手首を紐で縛り付ける。
「まあ当然だよな。済まないな、姉ちゃん。まあよろしく頼むわ」
そう話していると数名の兵が彼女らに駆け寄って来る。レイバーグの兵士たちである。彼は突撃中に孝雄実たちが襲われているのを見てしまった。間に合わないかも知れないが、応援を派遣していたのだ。既に戦闘は終了していたが、エレオノーラは事情を説明して女を兵士らに預けたのだ。
「そうだ、孝雄実。今すぐ辺境伯様の所に向かわなきゃならないのよ。貴方が気を失う前に助けた女ボスが居たでしょ。確りと捕虜にしてあるの。それでね、これから処分を検討しなければならないのよ」
孝雄実が二頭を撫でていると、思い出したように彼に話す。
「そうだ、それだ!エレオノーラ実はさ…」
思い出したように声を上げると孝雄実は白と黒が言った内容を話す。
「は?あの女を助けたい?仲間にしたい?どうしてよ、あの女は私たちを殺そうとした女よ?」
「それは分かっているんだよ。でもさ、笑わずに聞いてよ。気を失っている間に夢の中で言うんだよ。誰だか分からないけど仲間にしろって。それもさ、俺が使う魔法の手助けになるってさ。だからどうしても仲間にしないとだめなんだよ」
必死さは彼女にも伝わる。だが、事は決して簡単ではない。
「分かったわ。でもね、あの女ボスは多くの諸侯を、そして兵士らを殺させた大罪人よ」
「それを言われると…」
孝雄実は悩んだものの答えは出なかった。そうなれば必然彼女の命を左右する人物ブラスト辺境伯へと直談判するしかなかった。
「何、マリアンを仲間にしたいだと!?」
ブラストは素っ頓狂な声を上げた。それもそのはず。さあこれから彼女の処刑だと考えていた矢先の事であるからだ。それは後ろに控えるアシュリも同様であった。
「はい。私はどうしても彼女を仲間に加えたいのです!」
此の場が四人だけで良かったとレイバーグは思った。あの凄惨な光景を思い出すと、とても孝雄実の考えなどを受け入れられない者が存在するからである。
「君は分かっているのか?女ボス、マリアンはこの度の主犯だぞ。それをみすみす解放などと…」
レイバーグは話しにならん、とでも言う雰囲気である。彼とて五千の兵を率いて突撃した際に、多くの兵士の命を失っている。聞けばそれは全て彼女を中心に纏まった賊の責任である。
「そ、それはそうですが…」
そこを突かれると孝雄実は言い返せなくなる。
「考えてもみろ。あいつが賊を糾合しなければ此処までの被害は出無かったのだ。それを君は仲間にしたいと言う。仮の話として、私が承認したとして諸侯にはどの様に説明する。貴族が多く亡くなり、数家は断絶処分を科されることになっているのだ。此処までの事態に進行している中でどう説得する?」
これは諸侯の怒りを代弁している。マリアンがまだ活かされているのは孝雄実が捕虜にしたからだ。彼が目の前に居なければ処刑は行えない。これは孝雄実が準男爵位を与えられているからだ。
「それに私の兵士らも大いに損害を被っている。彼等は各領地に帰れば貴重な労働力となる」
特に動員兵力が少なければ必然と領民が少ないと言う事だ。特に分母が少ない場合は穴埋めをする人間の負担が大きくなる。
「私の、私の功績全てを以って彼女を赦してはいただけないでしょうか!?」
レイバーグはその言葉に驚いた表情をする。
「何だと!君は自分で何を話しているのか理解しているのかね?それに功績と言ってもどれだけの物か分かっているのか?」
後ろに控えるアシュリとエレオノーラも汗を掻き始めている。彼の言っている功績がどれほどの物かを二人は、誤差はあれども理解はしている。
「鬼の退治から始まり、準男爵位を与えられ諸侯軍に編成されて遊撃隊として数多くの諸侯を援護致しました。それに女ボスマリアンからの襲撃を撥ね返し捕縛しました。これでは諸侯を黙らせることは出来ませんか?」
孝雄実はつらつらと自分が行った行為を列挙する。鬼と言う自然災害級の魔物を倒した功績だけで貴族も羨む程の賞金を獲得できるのだ。加えて男爵位を王国側から与えられる栄誉が含まれる。
諸侯を援護した場合礼金を支払うのが慣例となっている。もちろん支払わないと言うこともあり得るが、周囲の貴族と領民を含めて不義理な人間であるというレッテルを貼られてしまう。貴族とは評判を気にする。それは人付き合いが重要視されるのが貴族社会だからだ。一度信用を失えば家が没落すると言われるほど厳しい。故に助けて貰えばどんな金額であろうと必ず支払うのだ。
諸侯からはこの事に関してレイバーグに嘆願が届いている。彼等は孝雄実を実質彼の家臣と言う認識である。金額にしても借金で返せればいいな、と言うレベルの貴族もあり、必死であった。
「なるほど、自分の功績は確りと理解しているのだな。アシュリ、彼の獲得できる賞金額はどれほどかな」
「恐らくですが、これ程かと…」
脂汗を流しながら彼はレイバーグへと告げる。それを聞いて頭の中で計算を行う。此処の計算式は鬼退治とマリアンの捕縛に加えて諸侯の礼金総額である。これは事前に諸侯からレイバーグへと申告していた。
特に諸侯の礼金は前者の合計よりも多かった。それを相殺すればどれほどの諸侯が救われるかと言う考えになる。人一人の命を救うだけで多くの諸侯が救えるならば安いものだと言う答えに繋がった。
しかし、それだけでは絶対に全ての人間を納得させることは出来ない。幸いなことにマリアンの処刑云々は貴族だけが知る内容であった。だから貴族目線で計算が建てられるのだ。
「そうか、功績を彼女の命と変えるか……」
暫く四人が居る場所は静寂に包まれる。周囲に集まる諸侯の声が聞こえるほどである。
この戦場は多くの人間が亡くなっている。それを土に埋める事を兵士等が頑張って行っている。その怒号も含まれている。
「はい、それで彼女を仲間としてくださるのでしたら…」
「…よかろう、コンドの話す内容を私は認めよう。交渉は私に任せてくれ。必ず纏めよう」
レイバーグには勝算が出来上がっていた。恐らく多くの諸侯は諸手を上げてこの提案を受け入れるだろう。但しメンツと言うものが在る為に最初は必ず反対するだろう。しかし、一定時間言いたい放題にさせれば賛成へと話しは変わる事が分かっている。
だが、それでも納得しない者が居るとも限らない。そこでレイバーグは一計を案じる。
「但し、彼女の処刑は赦すが君の奴隷となる事を決定する」
「ありがとうございます!…えっ、奴隷?」
最初喜んだ孝雄実だったが聞き慣れない言葉に呆気に取られる。対してエレオノーラはその予感を感じていた為に大きなため息を吐いたのであった。
レイバーグは説明を余所に話しを纏めると言って一足先に諸侯が集まる場所へと赴いて四人で話しあった事を彼らに開陳した。
「馬鹿な事を言わないでいただきたいブラスト辺境伯!我らは多くの領民を失ったのですぞ!!」
「そうです。私は弟を失いました。あの女を殺さなければ納得が出来ません!」
レイバーグは心の中で盛大に笑っている。予想通り彼等はメンツを保つために反対意見を出している。諸侯は気が付いていないが、目元が綻んでいる。一人一言的な様相であり、必ず全諸侯が反対意見を、自分たちがどれほどの被害を被ったかをアピールするのであった。
「ですが、彼に支払う金銭を領地開発に当てられると考えれば如何ですかな?」
これをとある諸侯が提案する。領主は富ませてナンボである。レイバーグは風が変わったことを察知した。此処まで彼は諸侯に言わせたい放題にさせていた。自分は腕を組み真剣に話しを聞いている体を装っていた。
「確かに卿の話しに一理あるな!」
「私の所は兵士に見舞金として支払うことが出来ましょう」
今度は全員が賛成意見となる。これも一人一言である。
「では諸侯は賛成と言うことでよろしいかな?」
レイバーグは周囲を見渡す。此処が最後の意見を述べる場である。しかし、それを述べる者は居なかった。それを確認してレイバーグは話しを続ける。
「私の提案に従って貰い感謝する。だが内心では腸が煮え繰り返る思いをしている諸侯も居るだろう。泣く泣く賛成するしかない者も居るかもしれない。そこで再度提案する。女ボスマリアンとコンドウ・タカオミの奴隷とすることを認めて頂きたい」
その提案はざわめくことすらなかった。彼等は既に勝利にも等しい戦利品を得ているのだ。人は居なくなればどこかから移住者を募ればいい。それが根底に存在している。
次は意見を出すことはなく一同声を揃える様に『承諾』の言葉を発した。
これによって、孝雄実の功績を全て返上させ代わりにマリアンを秘密裏に赦すこととして彼の奴隷として付けることとなったのであった……
最後までお読み頂き有難う御座いました。
今回は法の用語に関して少し触れました。三権分立や悪魔の証明です。詳しく掘り下げればもっと書かねば行けないのは理解しております。しかし、物語進行上簡潔に書かねばと言うことで、ああしました。間違っていればご指導いただければ幸いです。
ご感想等お待ちしております。
また採点等を戴けると栄養剤となって今野常春が頑張れます!
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春
ブックマークをしていただける方が日々増えている中で、ニヤニヤが止まりません。読者の方にはより楽しくお読みいただけるよう努力して書き上げる所存であります!!




