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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
異世界でするべき事、その立場って…
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第四話 必殺!万物のゲフンゲフン、恥ずかしくて言えないけど撃っちゃうよ!

注意、先般発生しました、御嶽山噴火原因の水蒸気爆発と言う文言を使用しております。

 救助活動が行われる中、物語に盛り込むのは不謹慎だと思われる方がいらっしゃるとは存じます。設定上やむを得ず使用しておりますので、何卒御了承いただければ幸いですす。


       今野常春    


 11月16日改稿

   

「皆私のもとに集まれ!」

 オリマッテ・ロットロンは声を掛ける。近藤孝雄実は何のこっちゃ、と思いながら歩み寄る。

『総ての肉体に宿る聖霊よ。人の限界まで力を開放せん!』

 そう言葉を発すると彼を中心に淡い光が生じる。これが魔法なのである。孝雄実はどのようなものかは分からないが、彼とてゲーム等で遊んできた世代である。ボス戦であれば補助魔法は必須である。今のが、何らかの補助魔法であると感じたのだ。だがしかし、彼にはどこがどう変化したのかがまるっきり分からなかった。後になって分かった事だが、孝雄実には魔法効果が無かったのだ。


「皆聞け、鬼は動きが緩慢だ。足を狙え、先ずは足を潰す。これで奴を動けなくさせるんだ。ウォーレンは主力、俺とアランそしてエレオノーラは牽制だ。ダンお前はコンドと共に居てくれ」

 そいうと孝雄実とダンそしてオリマッテ以外が動き出す。それも信じられない速さで動いている。

「おお、すげーこれが魔法か!」

 孝雄実は興奮しているが残りの二人の表情は暗い。彼等は分かっているのだ、勝つ確率は零に限りなく近い事を…それでも此処から動こうとしないのはロドム達の為である。


 その彼等は目で追うことが不可能な早さで駆けている。この魔法の面白い所は、魔法が掛かっていない者は見えないのに対して、掛けられた者同士は視認できる所である。ロドムは鬼が気が付いていない左側面から斬りかかる。彼が持つ武器は肉厚な剣である。魔法が掛かるのは肉体だけである。速度が増せばそれだけ武器の耐久性が上がらなければ意味が無い。衝撃で武器が負けてしまうからだ。故に此の状態で彼はそれを使う。

「うぉりゃあああ」

 先手必勝である。在らん限りの力を込めて左アキレス腱辺りを斬り付ける。この場合は切れ味と言うよりも威力である。どれだけ力が乗るかで成否が決まる。


 激しい衝撃音と砂埃が舞う。ロドムは手応えを感じている。まさかやったかと淡い期待を持つ。しかし、それは持つだけ無駄であった。右で持つ棍棒をロドム目掛けて振り下ろしてきたのだ。

「ぎゃややや!」

 ロドムはすぐさまその場を離れる。間一髪であった。鬼が振るう棍棒の衝撃波は遠く離れている者でも感じる事が出来る。中にはそれで命を奪われることもある。


 すかさずアレンは切れ味鋭い長刀で斬り付ける。彼の場合はロドムとは逆である。ロドムはパワーでダメージを与えるのに対して、アランはスピードで斬りつけて出血をさせて弱らせるのだ。彼はそのスピードを生かして鬼が追い付けない速さで斬りかかる。鬼にとっては撫でられる程度であった。咆哮すら上げることなくあしらう。


 戦闘は孝雄実たちの直ぐ目の前で行われている。鬼は小さな虫を払う様な感覚である。基本棍棒を振り回して対処する。それでだめなら逆の手で、まるで相手にされていない。それを眺めるだけでもオリマッテとダンは絶望的となる。

「や、やっぱり駄目だった…」

 ダンは膝を折り、両手を地面に着けて言う。絞り出す様に言う声は悔しさが籠っている。彼はあそこで戦えない事を悔しがっているのだ。

「なあ、ダン君。ここから攻撃しても良いのかな?」

 孝雄実がダンに尋ねる。手にはボウガンを持っている状態だ。

「攻撃するって…此処から届く訳が無いだろ!」

 距離にして一、五キロである。その様な距離では当たりもしないだろうとダンは思った。


「だよな、普通ならな。でも俺の弓は魔法なんだって、エレオノーラが言っていた。だから可能なんじゃないのかなって思うんだ」

 孝雄実はそう言ってボウガンを撫でる。ダンはそう言われてオリマッテを見やる。彼こそが最高責任者であるからだ。

「何かあるのならば出し惜しみは出来ない。コンド、思いっきりやれ。悔いを残すな!」

 ゴーサインが出た。後は当てるだけである。孝雄実は元気よく返事をすると前に歩き出す。なるべく足が見える位置から放ちたかったからだ。つられるように子虎のブラックとホワイトも移動する。一人と二頭はダンとオリマッテから距離を取った。


「こんなものか…えっとイメージだよな。あいつを、あの足を潰すほどの威力…貫通力、どうせ魔法なら燃えた方がいいだろ。爆発だ、燃えるじゃなくてあいつの脚を爆発させればいいんだ!」

 そう言っている間にダンとオリマッテは信じられない光景を目にする。

「なあダン。俺は夢でも見ているのか…どうしてコンドの体が光っているんだ?」

「分かりませんよ、僕にだって…それに見てください。あの虎の子供も光っています!」

 そう言って二人が視線をやると虎は二頭とも行儀よく座り、動くこと無く孝雄実を見続けている。さらには彼と同様な光を放ち、ボウガンへと流れ込んでいるのが見えている。


「よし、イメージ完了!後はあれに当てるだけだ」

 孝雄実は皆が戦っている左側の膝に狙いを付ける。足首では動きだすことを考えての事だ。膝から下を吹き飛ばせば脚の長さに差が生まれて動きを封じられるからである。彼はそこまで考えてはいない。だが、見た目を想像すれば自ずと答えが出るだろう。二頭の子虎は今もなおボウガンへと光を送り続けている。オリマッテとダンは、最早普通の虎とは考えていなかった。

「よし今だ!」

 孝雄実は鬼が左足を前に出すのを待っていた。体重を掛けている方を狙うのは踏ん張りが利かなくなり転倒するからである。

 放たれた矢は一本。しかし、それからすぐに二色の矢に分裂する。黒と白は交互に交わりながら意思を持って膝へと吸い込まれる。その瞬間巨大な爆発が起こる。何故か、ロドム達は矢が当たる瞬間その場から退避していた。


「ギィヤヤヤッ!」

 鬼の悲鳴とも何とも言えない悲痛な声が響き渡る。孝雄実の読み通りに左足は機能を失った。上出来すぎる結果である。鬼は左足全てを吹き飛ばされていたのだ。

「や、やった…」

 急に襲ってくる脱力感に耐えながら孝雄実は声を発する。

 ダンとオリマッテは声にならない。鬼はのた打ち回り、その周辺は被害が出ている。だがそれで十分である。鬼とて構造自体は人間に近い。動きがだんだんと緩慢になって来ている。暴れれば暴れるほど出血量は増えて行く。行きつく先は出血死である。


「あれはコンドがやったのか?」

 依然警戒を怠らないが、ロドムらはオリマッテ達の元へと戻って来ていた。理由は簡単である。出血死を狙っているのである。激しく暴れてはいたがもう虫の息である。

「そうだよ、ロドム!コンドがあのボウガンで撃ったんだ、凄かったよ!!」

 ダンは子供の様に大はしゃぎで彼に説明する。身振り手振りも踏まえるその動きは、子供が親に見せる動きに似ていた。


「しかし、あの矢にあそこまでの威力があるとは…」

 当時の現場を知らないロドムはそう言って訝しんでいる。他の者も同様である。ただエレオノーラだけは別であり。その可能性が計り知れないと考えていた。

「詳しくはこの後説明しよう。ロドム済まないが手分けして救援が来るまで被害者を探してくれ。エレオノーラ、済まんがコンドを頼む大分消耗している様だ。」

 オリマッテも捜索活動に加わり何とか救助できるように動く。彼は貴族である。此処は彼の領地ではないが出来る限りは助けなければならない。とは言え人であれば動くのは当然であろう。


 残った孝雄実たちはと言えば、馬車の中で彼は寝かされていた。子虎も同様である。布団代わりに二頭を乗せているのは彼女の優しさであろうか…


 彼女はそれにしてもと先程の光景を思い出す。ダンから知らせを受けなければ、確実にあの爆風に巻き込まれていた。退避した後でも爆風の凄まじさを感じたことから、あそこで戦っていればと思うとぞっとした。ふと孝雄実を撫でるエレオノーラはアドバイスが効きすぎたのか、とも考えている。鬼を退治したのは彼の功績だ。間違いなくこの地方全体を治めるブラスト辺境伯が興味を示すであろうと予測できる。

 何といってもオリマッテが彼の陪臣である。報告は数日のうちに上がるだろう。彼は『呼ばれた者』である。その人間の末路は多岐にわたる。生涯を全うした者、途中で命を落とした者、恐れられ力が付く前に殺された者。そのレールに彼を乗せてしまった自分たちは彼をどうすれば良いのだろうかとも考える。






穏やかな寝息を立てる孝雄実はぼんやりとした感覚の中で目を覚ます。

「ん、ふわぁー良く寝たな…」

「やっと起きたか」

「ほんとね。何をしても起きないから死んだかと思ったわ」

 孝雄実は見知らぬ子供を見て、何かが引っ掛かる様な感覚を覚える。

「おい、孝雄実。お前は先程までの事覚えているか?」

 男の子は彼にそう尋ねる。やんちゃそうな雰囲気のある少年である。


「先程…そう言えばボウガンで、鬼と呼ばれる奴の膝を撃ったな……」

 そう言って克明に彼は思い出す。

「覚えているなら良い」

「なあお前らは誰だ?なんでお前らは俺の名を知っている?」

「そこまで覚えていて、気が付かないのかしら?私の名はホワイト。彼はブラックと言えばどうかしら」

 こちらも少女である。しかし、言葉使いからは見た目とは大分開きがある。

「ホワイト…ブラックって言えばあの森で俺が付けた名前じゃないか!」

「そうだ、やっと気が付いたのか愚か者め!」

 ブラックはそう言うと子虎の姿に戻る。言葉とは裏腹に孝雄実に飛び込んでいる。これは甘えているのだ。


「それで、二人の事はブラックとホワイトと呼んでいいんだな?」

 孝雄実はブラックを撫でながらホワイトに尋ねる。

「そうね。此処では黒と白と呼んで貰おうかしら」

「黒と白だな、分かったよ。それでだが、此処はどこなんだ?」

 何処を見ても濃い霧の中である。見えるのは黒と白だけである。

「此処は、貴方の言葉で分かるとしたら精神世界とでも呼べばいいかしら?」

 小説などでも幾つか読んだ事がある設定に孝雄実は頷く。

「じゃあそれで。あの世界では私たちの声は貴方に届かない。だから気を失っている今こうしているのよ。もう暫くすれば元に戻るわ」


「孝雄実、貴方は聞きたい事が山ほどあるのでしょ?」

 白はそう言って孝雄実に促す。黒はいつの間にか眠りに入っている。

「ああ、そうだな。何故俺は此処に呼ばれたんだ?」

 気が付けば森の中である。加えて目の前の二頭が居る状況であった。理由を知っていれば聞かなければならない。

「そうね…貴方がなぜ選ばれたのかは分からないわ。でも私たちとは貴方の色がリンクしたからこうしていられるの」

「リンク…それは何だ?魔法と何か関係があるのか?」

「ええ勿論。エレオノーラから説明を聞いたでしょ。魔法には六大元素が存在するって、貴方は土台となるエレメントは完璧に使用出来るわ。さらにその上の魔法元素、無属性も使える能力があるの。これは人間の世界では知られていないわ」

 彼は知らない言葉を聞いてどう言ったものかを尋ねる。

「無属性魔法とはね相性を無効化して、さらに自由に属性を合わせる事が可能な魔法なのよ。思い出して、鬼を倒すに至った魔法を、あれこそ無属性魔法なのよ。爆発は本来起こり得ないの。一番近いのは火ね。光も近いけれどあそこまでのものは無理だわ」


「つまりは化学反応的な何かが起こったから威力が可能だったと?」

 孝雄実は最初燃やそうと考えた。それは火の元素をこう威力まで高めれば可能である。しかし、爆発はその限りでは無い。その中で水蒸気爆発がある。鬼はそれを喰らったのだ。

「そうよ、私は水、風、光の元素を。黒は火、土、闇を司るわ。今回高温まで上げた火を私の水を触れさせて爆発を起こしたの。魔力を私たちは使用する。黒が今寝ているのは比重が大きかったからよ」

 黒は土と火の元素を使用したのに対し、白はそれに水を使用しただけである。


「成程…俺はその辺の事を考えるべきか?」

 彼は理数系がてんでだめな学生である。高校生の時点で諦めていた。故に化学反応などどんな原理なのかは全く分からない。

「その辺は気にしないで。孝雄実が為すべきは明確なイメージよ。具体的なハッキリとした。それを私たちに見せて、私たちはそれを元にあのボウガンに投影する。気が付いていた?実際にはボウガンには矢が装填もされていないの。実体化するのは貴方が引き金を引いた後なのよ」

 白はそう言ってほほ笑む。すると白も子虎の姿に成る。


「そろそろ時間ね。いい、イメージがしっかりしていれば、私たちの魔力消費も抑えられる。孝雄実の魔力と私たちの魔力はイコールよ。魔力は鍛えれば上がるわ。それはエレオノーラに任せなさい。…もう限界ね……じゃあまた会いましょうね…」

 白はそう言うと目を閉じる。すると孝雄実もまばゆい光に目を瞑る。だんだんと意識がぼんやりとし出し、遂には気を失った様な感覚となる。




「はっ、知らない、いや知っている馬車だ!」「ギャウ!」「ガウ!」

 子虎は孝雄実が目を覚ますと顔を舐めまわす。ざらざらしたが妙に痛くもある。

「よかったわ。気が付いたみたいね…」

「エレオノーラ…俺は…」

 彼はそう言って上半身を起こす。

「魔力切れよ。無理はしないでね」

 彼女は優しく言うと孝雄実を支えるように腕を肩に回す。男女逆ではあるが非常に雰囲気は良い物である。二頭の子虎はごゆっくりとでも言いたげに、足音させずに馬車を降りた。なんとも出来る虎である。


「有難う孝雄実」

 彼女は彼を抱きしめてそう言った。

「貴方が居なければ私たちは勿論他の住民も死んでいたわ。いやこの国が崩壊していたかもしれないわ」

 彼女の口は孝雄実の左耳近くにある。声は小さいがそれが妙にアクセントと為って耳に残る。

「あの鬼はね。数十年に一度現れる災害なの。貴方は被害を最小限に留めて倒した英雄なのよ」

「俺が英雄か……」

「そうよ、あなたは英雄。私たちの英雄なの」

 そう言うとエレオノーラはさらに強く抱きしめる。

「でもな、それを言うならエレオノーラだって英雄だぞ。いやロドムさんたちもだ。先ずエレオノーラは俺に魔法のイロハを教えてくれた。あれが無ければあり得なかった。そしてロドムさんたちだってあそこで戦っていたからこそ俺は攻撃に移れたんだ。だから俺一人が英雄って訳じゃない!」


「よく言った!」

 馬車の外から声が聞こえる。瞬間二人はビクッとしてそちらへと振り向く。そこにはオリマッテやロドムらが勢揃いしていた。

「よく言った孝雄実!君は偉い!実に偉い!私の目に間違いはなかった!」


「ロドム達は何時からそこに?」

 エレオノーラは錆ついたようにぎこちない動きをしながら尋ねる。するとダンとアランが寸劇を始める。

『有難う!孝雄実!』

『それを言うならエレオノーラだって英雄だよ!』

 エレオノーラ役、ダン。孝雄実役アランでお送りした劇は、その一部始終を見られてのことであった。


「つまりは最初から見ていたのね…」

「済まんな、エレオノーラ。別に見たくてそうした訳ではない。声が聞こえていたからな」

 ロドムは天然キャラである。こういったことで腹芸は出来ない。それを知るからこそ怒るに怒れないのである。

「ふむ、仲良き事は美しき哉」

 上手い事ウォーレンが占めたことで笑いが起こるのであった。


 こうして災害級の災厄である鬼はオリマッテ一行の活躍で幕を下ろした。後世の正式な歴史書には孝雄実の記述は残されていない。在るのはオリマッテ・ロットロン男爵一行が僅か六名(・・)で倒したと言うものだ。人数もそうだが虎の存在も隠されている事は、彼等は知る由も無いだろう……

 最後までお読み頂き有難う御座いました。

 とりあえず完成しましたの投稿しました…


 ご感想等お待ちしております。

 誤字脱字等々御座いましたら御一報いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう。

               今野常春

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