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悪女ファウステリアの最期  作者: 黒井雛
7/64

【7】

 

 簒奪者ブリュー・シューオ。


 それはグレーヒエルに生まれたものならば、必ず知る災厄の魔術師の名前だ。 

 

 リュークの英雄伝説が生れるより、遥か昔。

 ブリューは、今もなお続くソーゲル王家の初代国王カラムを姦計で滅ぼし、その魔の力で民衆を制圧し悪政の限りを尽くした。

 逆らう者は皆目を覆いたくなるような残虐な方法で処刑され、死体さえ蹂躙されたという。

 その暗黒統治は、カラムの息子英雄セイン・ソーゲルが、その剣でもってブリューを打倒し、王位を奪回する時まで続き、その年月は二十年に渡った。

 常に太陽が失われたかのように闇に覆われていた空が、セインがブリューを討伐した瞬間、空が澄み渡り太陽が姿を現したという伝説から、セインは「太陽王」と渾名されている。


 だが滅ぼされてなお、ブリューは後の世まで災厄をもたらす。


『魔術は我と共にある。我こそが魔術の最大の友であり、理解者だ。ならば、滅ぶ時も共にあることこそが、相応しい。呪われろ。この地に住まう全ての民よ。汝らが今後、魔具なしで魔術を使うことはけして許さない!!』



 ブリューの最期の呪いにより、かつて民衆が自由に行使することが出来たという、古代魔法は永遠に失われてしまった。

 人々は魔具なしでは魔法を使用できなくなり、それ故に、魔物の脅威に怯える日々を過ごさなくてはならなくなった。




「――歴史は勝者の手で、改編される」


 メティは語り継がれている伝説を、嘲笑する。


「真実はなんてことはない。もともと人間は魔具なしで自由に古代魔法を使うことは出来なかったのさ。生まれつき、人間離れをした魔力を有していたシューオ一族を覗いては」


 それは、今は王でしか知りえない、真実の歴史。


「一族以外の物でも魔術の恩恵を授かれるように、魔具を開発し普及させたのはブリューだ。だが、彼の功績は全て無かったことにされ、あらゆる罪を押し付けられた。人は、自分が有していない特別な力を持つ人間を恐怖するからね。ブリューが化け物だった方が都合が良いのさ。自分の弱さを見せつけられずに済む…シューオ一族は幼い子供を覗いては処刑され、残されたものは『魔をその身に宿すもの』として迫害された。その瞳こそが魔の証だとして」


 唖然として何も言えないファウステリアの頬を、メティは優しく撫でた。


「さぁ、ファウステリア、分かっただろう?君は力を望んだけれど、力は元々君の中に存在していたんだ」


「――でもっ!!」


 ファウステリアは、告げられた言葉が理解できずに言い募った。

 言葉の意味を、理解したくなかった。


「でもっ、私がこれまで魔力の片鱗なんか感じたことが無い!!そんなものが、役にたったこともない!!」


 ファウステリアが本当に、そんな強大な魔力を有しているのならば、今まで用いることが出来なかったのはなぜだろう。

 何度だって、死にかけてきた。

 つい先刻だって、ナイフで腹を引き裂かれ、メティがいなければ間違いなく死んでいた。

 そんな状況にも関わらず、魔力が展開されなかったのは何故だ。

 そんな特別な力があれば、ファウステリアは今よりずっと楽に生きられたのに。



「――それが、ソーゲル家がシューオ家を全て滅ぼすのではなく、道理が分かっていない幼い子供だけ敢えて残した理由さ」


 にぃっと、メティは酷く愉快そうに口元に弧を描いた。


「古代魔法は、どんなに魔力が高い人物だろうと、その理を知らなければ展開出来ない。そして、今の世でその理を知っているのはソーゲル家の人間だけ…その意味が分かるかい?ファウステリア?」



 意味を理解した瞬間、鉄の味が口内に広がった。

 憤りが故に、ファウステリアは自身の唇を噛み切っていた。


「ソーゲル家は、自身の都合が良い時だけ、迫害される『紫水晶の瞳』の人物に手を差しのべて理を教え、いいように使っていたのさ。民衆にそのことが悟られぬよう、理を知ったシューオの末裔が好き勝手に振る舞えぬよう、その紫水晶の両目を、くり抜いたうえで」


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