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悪女ファウステリアの最期  作者: 黒井雛
41/64

【41】

 ラミアはファウステリアがリーシェルとの子を宿したことを、専属医から報告を受けた際、すぐ様侍女に命令をして秘密裡に堕胎薬を飲ませる手配をした。

 正妃の立場が揺るがされると思ったからではない。

 リーシェルがファウステリアに奪われたことに嫉妬を感じたからでもない。

 ラミアは自分が聡明ではないことは自覚している。だけれども、ファウステリアの子を堕胎させたところで、リーシェルの気持ちが自分に向けられることは無いことくらいわかる。ラミアはそんなものは、求めていない。

 ただ、許せなかったのだ。

 子を産んだファウステリアが、幸福で顔を輝かせることによって、ますます美しくなることが、ただただ許せなかったのだ。


 用意させた堕胎薬は、貧民層で使われる、副作用が強い強力なもの。服用したものは、時には脳を侵されて狂い、死に至ることもあるといい。


 狂えばいい。


 死ねばいい。


 それが無理だというのなら、せめて子を失った苦しみで、その美しさを陰らせればいい。



 ラミアの企みは、成功した。

 残念ながら、薬はファウステリアに深い後遺症を与えることは無かったが、孕んだ子は流れた。

 密かにファウステリアを見張らせておいた侍女が、ファウステリアが目覚めたことを知らせに来た時、ラミアは軽快な足取りでファウステリアの元へ向かった。酷く愉快な気持ちだった。

 ファウステリアは目が覚めて自分の子が流れたと知った時、恐らく悲しみや憎悪で顔を醜く歪ませるだろう。その様を眺めて、ラミアは嘲笑うつもりだった。


 なんて、間が抜けた、醜い顔だろう。


 やはり、自分の方が、ファウステリアなんかより、ずっと美しい。


 そう思って、溜飲を下げるつもりだった。


 ――あぁ、それなのに。



「…ラミア様も、きっと辛かったのでしょう…正妃であるあの方を差し置いて私のような者が、リーシェル様の子を成すことを許せなかったのでしょうと、そう思います」


(ファウステリア…何でなの)


「頭では理解できるのです。ラミア様のお気持ちも…だけど、本当にあの方が犯人であるというなら、私はけしてラミア様を許せません…!!」


(何で、何でお前は)


「リーシェル様と私の子供…っ!!…愛する貴方様との間に宿った、私の子供を奪ったあの人を、私はけして許せません…っ!!例え、それが呪われた賤しい私が抱くには、余りに無礼な感情だとしても、それでも私はあの方を憎悪し続けます…っ!!」



(何でお前は、憎悪に歪めた顔ですら、美しいの…っ!!!)



 扉の隙間から、覗き見た、ファウステリアの憎悪に満ちた表情。

 リーシェルは、そんなファウステリアの表情に見惚れていた。

 だが、ラミアはリーシェル以上に、その表情に、魅せられていた。

 そしてその事実が、ラミアをどうしようもなく惨めにさせた。



 歪めた表情ですら美しい、ファウステリア。


 憎い、憎い、憎い、憎い


 憎いのに、美しいと感嘆せずには、いられない。



 ラミアが燃やす憎悪の感情は、激しい恋慕にも似ていた。

 そして恋慕の炎同様に、炎はラミアの、その身を焦がしていく。

 ラミアはリーシェル以上に、ファウステリアに囚われていた。狂わされていた。


「ラミア様…ラミア様にどうしてもお会いしたいという男が…」


 だからこそ、冷静ではいられなかった。


「…ファウステリアの美の秘密を知る男?」


 だからこそ、目の前にぶら下げられた餌の存在に、罠と疑うこともなく食いついてしまったのだった。

 その罠が、自身を破滅に導くなぞ、思いもしないで。




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