助けてください
なんか凄いことになっていた。
ツンダークのコボルトは、大人になっても人間の子供くらいしかないらしい。そして当然のように二本足で歩きまわり、文明化していて服を着る。
いやいや待て、重要なのはそこではない。
そう。もふもふ、もふもふなのだ!
自称・狼らしいのだけど、どう見ても犬だった。もふもふで、ふさふさなんだ。もふもふでふさふさ。大事な事だから二回言ったぞ!もふもふ。
とにかく可愛い。見てるだけでも超なごむ。
え、馬鹿か?いやいや想像してみろよ。
結構な大きさの未開の村みたいなとこでさ。日本人ならせいぜい十歳くらいのお子様サイズで、それがもふもふでふさふさなんだぞ。それがワイワイガヤガヤ、楽しげにさんざめくんだぞ。しっぽがパタパタしてさ、くう~んとか鳴くんだぞ。
二本足で立ってるわんこ集団って時点で破壊力満点だってのに、この破壊力……畜生、俺を萌え殺す気かっ!
いわゆる雑種っぽい顔で地球の犬種に近いものはあまり見られないのだけど、オスらしいコボルトの中に時々、秋田犬みたいな、いかつい感じの奴がいたり。これがまた、カッコ可愛い感じっていうか、うん。やべえな。
そういや、さっきの衛兵も秋田犬タイプだったな。もしかして武力に強いタイプは秋田犬風になるのか?
「どうです?賑やかなものでしょう?」
「うん、すばらしい」
迷わず即答していた。もちろん邪気がもれないように全力で抑えこみつつ。
なんという天国。ツンダークにこんな素晴らしい土地があったとは、さすがのクロウさんも気づかなかったぜ!
と、そんな事を考えつつ見ていたのだが。
「?」
なんだろう?こっちを気まずそうに見て、そして視線をそらしたりしている子がいるのは?
「狼人どの、何か衣服をお持ちではないですか。その」
あ、そうか。しまったぞ。
「そうか。さすがにここですっぽんぽんはないよな。悪い」
コボルトたちは普通に衣服着てるもんな。ブランカは普通の狼だからいいとして、俺がち○こブラブラはないわ。
しかもだ。コボルトたちは小さいもんで、その……たぶん視線的に目につくんだろうなぁ、うん。
いかんいかん、彼らのかわいいおめめには猛毒だ、すぐ隠さないと。
すぐさまアイテムボックスからクマの毛皮をとりだした。右手を添えて刃物を想像する。
「ん、よし」
チャーッと音がしそうな感じで一部を切り取ると、それを巻いて腰巻きにした。
「悪いがこれで勘弁してくれ。ちとワケありでね」
「ああわかりました。ご苦労様です」
何か気を回したのか、衛兵コボルトは真剣な顔でうなずいてくれた。
んー気になるな。ま、納得してくれたならそれでいいか。
腰巻きをつけたら、それでだいぶ視線が和らいだ。
まぁ、それでもこっちをチラチラ見て顔をそむけてるコボルトとかいるけど、あれはもしかして女の子かな?悪い事をしてしまったな。
ところで、ふと気になった事を質問してみる。
「男女で衣服が変わらないんだな。君らは性別で装いを変えたりはしないのかい?」
「小さい体ですからね。動きやすいのが優先です」
なるほど。
スケールが小さい事を除けば普通の村だった。
材料の都合か家は木造、または草葺きの家が多い。また大きな家は少しもりあげた地面に建てられていたが、おそらくは土台か地下室があるんじゃないか?なかなか本格的な作りだしな。
手先が器用なのかどれもこれも非常に美しい。これは文化レベルも高そうだぞ。
むう。腰巻きひとつの原始人状態の自分がちょっぴり悲しい。
そんなこんなで、周囲をぐるりと見物していたのだが、
「……なんだ?」
あんなところに……なんだあれ?米俵?
「あれは何?」
「あれですか」
俺が指さした方向を見た途端、衛兵コボルトが渋い顔をした。
いや、わんこだけどさ。なんとなく渋面ってわかったんだよね。種族特性か何かなのかな?
まぁいい、話を続けよう。
「あれはその……貢物でして」
「貢物だって?こんな平原のど真ん中の村で、どこに?」
「それは……」
そんな話をしていると、なんか数名のコボルトがパタパタと走ってきた。
「狼人さま!ぼくたちの村を救ってください!」
「こまってるんです!たいへんなんです!」
「こ、こらおまえたち!迷い人の狼人さまにそんな難題を持ちかけても」
「いや、ちょっと待った」
頼み事をしてきたのは、どうやら子供たちみたいだった。ただでさえ小さいコボルトなのに、さらにちみっこい。完全無欠に幼女サイズだな、おい。
幼女サイズのモフモフ……しっぽパタパタ……。ハァハァ、や、やばい。今夜ちゃんと眠れるかな?
いやいや違う、違うぞ。俺が今やるべきはソレじゃなくて!
「もしかして、悪いやつがいて、みつぎものを出せって言われてるのか?」
「そうなんだよ!うちのおねえちゃんも、かえってこないんだ!」
おいおい、人身御供まで要求してんのかよ。いや、コボルトだけどさ。
「それは、聞き捨てならないな。衛兵くん、彼らの話って」
「……残念ですが本当です」
本当に無念そうな顔で、衛兵コボルトはうなだれた。
そうか。これは……何とか力になってやりたいな。
「衛兵くん、ここの一番えらい狼は誰だい?できれば詳しい話を聞かせてほしいんだが」
「ほ、本当ですか?いやしかし、いくら狼人様でも」
「まぁまぁ」
俺は衛兵くんの言葉を遮り、言葉を続けた。
「俺だって、できない事ならできないって言うさ。だから話を聞かせてほしい。頼めるか?」
「……了解です。あと、自分の名はポルトガです」
「ポルトガくんか、クロウだよろしく。ちなみにコショウは好きかい?」
「は?」
「いや、なんでもない」
そっちじゃないのか。ま、地球のゲームネタなんて知るわけないから当然か。
一番えらい「人」でなく「狼」と言ったのは、とっさの事だった。コボルトに「人」っていう表現はおかしいと思ったからね。まぁ、厳密には「一番えらいわんこ」なんだけど、彼らは狼を自称しているって事だし。
さて。そんなわけで、長老さんの家に案内されたんだけど……。
「すまねえ」
「こちらこそ、大丈夫ですかな?」
「あー問題なし。ども」
家が小さすぎてさ。家に頭ぶつけまくっちまって。あいててて。
そうだよなぁ。コボルトサイズだもんなぁ。
長老さんもやっぱりコボルトなので小さかった。ただやっぱり長老なのか、威厳とか風格がちゃんとあって、俺は思わずオォと唸った。
こうなるとカッコイイなコボルト!すげー。
「……ほう。我らをそこまで好意的に見てくださいますか。ありがたいことじゃて」
「好意的ですか。いえ、俺はただ長老さんを見て、渋いなぁ、かっこいいなぁって思っただけですが」
素直にそう言うと、ホホホと楽しげに長老さんは笑った。
「わしらコボルトは並み居る狼族の中でも弱者じゃて。それを渋い、カッコイイと称される方がどれだけおられますかのう」
「……そんなもんか?ふむ」
よくわからない。かっこいいものはカッコイイし、かわいいものは可愛いと思うぞ。
そんな事を考えていたら、長老さんはウムウムと満足気にうなずき、そして話を告げた。
「わしらの悩みはオークでございます」
「オーク?オークてやっぱり、豚顔のでかいヤツ?」
「ブタ……よくわかりませぬが、あえて獣にたとえれば、猪族になりましょうぞ」
「ああなるほど、そういう事か」
ツンダークにはブタはいないのか、それとも別の名前だって事かな?まぁどうでもいいが。
「俺はこのへんのオークを知らないんだが、大きさはどれくらいだ?奴らの数は?」
聞いてみると、成体で熊と大差ないらしい。
「厄介なのは、奴らの集落ですじゃ。奥の森に集落を作っておりましてな、二十頭ほど」
「ほう。そいつは厄介だな」
熊サイズで頭のまわる武器持ちが、少なくとも二十だって?そいつはさすがに強敵だな。
でも……。
「さすがに正面突破は難しそうだな。……よし、とりあえずちょっくら調べてくるか」
「え、今からですか?」
「ああ」
俺は窓の外を見た。おあつらえ向きに夕暮れが始まっていた。
「これから夜だろ?忍んで調べに行くにはぴったりじゃねえか。だろ?」
「なるほど……では少々お待ちください。何か食べるものをお持ちしますので、それをつまんでから」
「すまねえな」
「何をおっしゃる。村のために調査に向かってくれる方に、この程度ではお礼どころかサービスにもなりませぬが」
誰かちょっと来ておくれと、長老さんは声をあげた。