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全裸のヒーロー  作者: hachikun
3/13

ここが見せ所か?

ちょっと短いです。

 何とか残業なしに仕事を終えた俺は、電車の中でスマホ片手に検索していた。幸いな事に短い通勤時間なんだが、そんなわずかな時間も惜しかったからだ。

 狼人という種族について調べたが情報なし。オフィシャルはもちろん、既に稼働している情報共有のための掲示板やwikiにも情報がなかった。ただ、少しだけ興味深いデータがあった。

 まず、未知の種族がありそうだという感触。

 ドワーフの存在は確定。エルフはわからない。獣人については可能性がある、というレベル。プレイヤーが選べるかどうかはわからず、選択肢に出た者もいないそうだが。

 この点については、自分のように情報共有してない者がいるかもしれないな。まぁ未確定ってことで。

 それからスタート地点だが、よその土地に出現というのは情報がなかった。しかし、おなじ「はじまりの町」でも中央広場ではない場所に現れた者がいるらしい。たとえばレストランのそばとか、魔法屋のすぐ近くとか。ランダムなのか理由があるのかは不明だが、とにかく固定ではないらしい。「はじまりの町の中」の範疇で、やはり大多数は中央広場だそうだが。

 ふむ。場所に変動があるのならば、俺の状況も確かにおかしくはないのかな?かなり異端ではあるが。

 次に見たのは職業。

 ツンダークではメインとサブ、ふたつの職業を持てるらしい。サブ職はメインに比べて多少の制限がつくが、きちんと経験が積めるので、たとえば新規の職をサブで持ち、育ててからメインと入れ替えるような事ができるらしい。

 なるほど。

 確か俺の場合は空想魔術師というのが入っていたはずだから、サブをひとつ付けられるわけだな。

 だけど、選択肢に全ての職業が出るわけではないらしい。

 しかも、それがどういう基準で出てくるのかもわからないとか。少なくとも乱数ではないらしいとの事だが、その基準は謎に包まれているらしい。

 謎といえば、細かいステータス値も隠されているんだよな。オフィシャルいわく、そこを見るためのスキルも職種もあるそうだけど、現実問題として、そこは不明らしい。

 現時点でわかっているのは、こういう点。

 装備について言うと、職業上の規制というものはほとんどないようだ。つまり魔道士でも鎧兜を装備できる。しかしローブや杖には魔力補助などの役割があり、特に現状では皆のレベルも低いから、あまり奇抜な格好をしてもハンデにしかならないとの事。

 そして、始動に魔力が必要な道具類は当然、それを扱える魔力とスキルのみが基準となる。就いている職業は関係ない。

 ではそもそも職業とは何かというと、特定のスキルに結びつくものらしい。たとえば戦士なら片手剣、槍、斧などのスキルが伸びやすい等。ふむふむ。

 また職業上好まれない装備があるらしい。

 たとえば盗賊というと軽い鎧のイメージがあるが、鎧はどうしても音をたててしまうものだとか。盗賊プレイヤーは現在は布の服を使っているようだが、盗賊用の何かがあるのかは、まだわからないらしい。

 ふむふむ。

 てか、β公開から2日とたっちゃいないのに、みんなよく調べてるよなぁ。どんだけ廃人いるんだよオイ。

 そういえば。

 最後にひとつ、気になる事があった。剥ぎ取りだ。

 魔法を使って自力で剥ぎ取りしたわけだけど、みんなはどうしてるんだ、あれ?大変だと思うんだが。

 ところが。

『剥ぎ取り、簡単だけど味気ないよねえ』

『ナイフたてるだけでアイテムボックスに入るもんねえ。ここだけリアリティ足りないっていうか』

 ……どういう事だ、おい?

 俺の昨夜のアレとの違いはどういう事だ?同じゲームとは思えない話なんだが?

 ああ、それと。

 昨夜俺が戦った熊……どうやらタンクベアって奴らしい。もう殺されてるプレイヤーがいて、あと、十人くらいの即席チームで辛くも勝利したっていうグループがひとつだけいたんだが。

『ドロップが爪と毛皮だけだったよ。毛皮もゴワゴワでねえ。あまり金になりそうにないね』

 ……随分と内容が違わないか?

 本当に同じ熊なのか?それとも、何か根本的な見落としがあるのか?

 ううむ。と、とにかく一旦帰ろう。

 

 電車をおりて生協に寄った。白身魚のフライが安いので購入。

 家に帰った。

 冷蔵庫をあけて、残っていたかいわれ、少しのサニーレタス、それからマヨネーズを出す。棚から、こちらも残っていた食パンをとる。

 買ってきた白身魚のフライを包丁でスライス。

 んで、重ねあわせてぶった斬る。うむ。即席のサンドイッチもどきだ。

「ふむ」

 野菜がたくさんとれるのはいいけど、これって栄養過多になりやすいんだよな。食パン食い終わったらちょっと考えよう。

 VRMMOマシンは既に起動している。サブモニターにお知らせが出ているので見る。

「ほう?家を購入したユーザーがいる?もう?」

 職業そのほかは不明らしい。ふむ。

 掲示板の方をみると、持ち家スレッドが立っていた。それによると購入者は錬金術師で、作業場が欲しくて買ったらしい。もちろん公開からの日数ではゲーム内資金が足りるわけもなく、そこは課金らしいが。

 むう。

 他の奴らもそうだけど、俺と同じゲームをやっているとは思えないな。このあたりは全然、参考にならない。

 食い終わり、軽く片付け。さてプレイするかな。

「そういや……あの狼って」

 一緒に熊の肉を喰った、生き残りの狼。さすがにもういないだろうな。うん。

 そんな事を考えつつ、俺はログインした。

 

 

 

「……なんでいるんだ?」

「?」

 当たり前のように待っている狼。顔を見れば当然のように「おなかすきました」と言っている。

 えーと、これは何か?人間じゃないって事で警戒心が薄い、プラス餌付けってところか?

 まさかとは思うけど……俺をボスと認識してないよな?

「む?」

 そういや昨夜は気づかなかったけど、こいつ怪我してるな。どれ。

「ちょっと見せてみろ……『消毒』」

 熊の爪には雑菌があって、無事にすんでも破傷風とかの原因になるって聞いた事がある。うろ覚えだがな。

 んで『治癒』と。

 はじめてやってみたけど便利なもんだ。

 まぁ、万能さと引き換えに魔力をごっそり持っていかれるんだけど、こんな小さい手当て程度なら。

「よし、こんなもんだろ」

「……クゥン」

 何だか狼、さっきより馴れ馴れしくなった気がする。スンスンと臭いとか嗅がれたり。

 俺が治療したのに気づいたのか?

 いやいや、まさかだよな。そんなわけないだろ。

「そういやおまえ……って問うまでもなくメスか。そうだよな」

 何故だと言われてもよくわからないがメスだろう。そう思った。

「しかし、これからどうするかね?」

 人っ子一人いない荒野のど真ん中。相棒は雌狼一匹。

 さて、どうしたもんかと考え込もうとした瞬間なんだけど、

「……ウ~……」

 その雌狼が、唐突に唸りをあげた。

「おいでなすったか」

 ログアウト前に血の臭いは消しておいたはずだが。

 それとも、元々ここをテリトリーにしていた連中かな?

 ゆっくりとたちあがり、注意を見てみた。

「ほうほう。囲まれてるなオイ」

 敵は狼。隣のメスと同種だ。このへんを根城にする群れだろう。

 考えてみれば当然だ。昨夜の群れは逃げていたわけで。

「ここにいろ。俺が始末する」

 理解できるかわからないが、雌狼にそう言うと、ふわりと浮き上がった。

 ん、よし、これで全体を見渡せるぞ。

「くらえ……『電撃』!」

 俺の真下、雌狼のいる空間を除く、半径25m以内に電撃を飛ばした。

「ギャンっ!」

「キャン、キャン、キャン!」

『さっさと消えろ!』

 言葉に魔力を乗せて周囲に放つと、たちまちに狼たちは逃げていった。

「……よし」

 無益な殺生は嫌い、なんていうつもりはないけど、雌狼をかばいつつ狼を殺すっていうのは気が進まない。去ってくれるならそれで充分だ。

 降りると、指示通りに雌狼はちゃんと待っていた。

「ほう、おまえ賢いな。ただの狼にしとくにはもっていないぞ」

 そんな事を言っていると、ポーンというシステム音がした。何かのメッセージか?

 あ、なんかスキルがついてる。

 

 

『和解』野獣系のモンスターと仲良くするスキル。

 友達?部下?ペット?お好きな関係でどうぞ!

 

 

 へぇ、こんなスキルあるんだ。知らなかった。

 ていうかこれ、どう見ても雌狼関係だよな。さて。

「おまえ、俺と来るか?」

「……」

 お、なんかスリスリしてきた。猫みたいな奴だな。

 そしたら、ポーンとウインドウが開いた。

『彼女との仲良し度が一定レベルを越えました。呼び名をつけてあげてください』

 ほほう。

「よし。おまえの名前はブランカだ」

 元ネタはシートン動物記でなく昔の漫画だ。オリジナルは犬だし、しかもオスなんだけどな。

「クゥン」

「おお、よしよし。よろしくな」

 しかし、なんていうかその。

 戦士になるつもりがヘンな魔道士だし。しかも、可愛い女の子のはずが雌狼だし。

「……」

 ああ、やめとこう。

 まだ冒険二日目だしな、うん。これから挽回だ挽回、よし。

「とりあえず、人里を目指さないとなぁ……ん?」

「……」

「ああ、そうだな。その前にメシか」

 目をうるうるさせたブランカの瞳をみて、まずは腹ごしらえだなと思った。


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