ここはどこですか?
ゴンドル大陸塊東部大陸、中央大平原。
ツンダークの長い歴史の中で、東部大陸は、いわば地球でいうアフリカ大陸のような位置づけになっている。全体を統一する国家などなく、広大なサバンナやジャングル等が、その緯度などに従い広がっている。それだけ言えば豊かな土地なのだが、その実、さまざまな生物が種族単位、あるいは個体単位でまったりと暮らしており、そこにあるのはただ自然界のルールのみ。厳しい世界である。
……で、何でそんな解説じみた事を言っているかというとだ。俺はその中に、ぽつねんとひとりぼっちで佇んでいるわけなんだよね、うん……何も持たずに。
「つーか、これレーティング的に大丈夫なのか?」
お金がない。それは構わない。確かにこの環境じゃ金なんか意味ないもんな、うん。……地平線まで見渡すかぎり、なーんもないし。
でもさ。服もなしの全裸っていうのはどうなんだ?オイ。
いやまぁ、全身毛皮だし。足だってゴツイわけで。確かにその意味じゃ問題ないっちゃないんだけどさ。
その……股間で、ぶ~らぶらしている愚息までむき出しっていうのがその……ああ、ち◯こに当たる風が気持ちいいなぁって、そうじゃなくて!
調べてみたら、メッセージのところに『服がないのには理由があります。ステータスを確認してください』とある。
で、自分のステータスってのがね。この通り。
『四重九朗』空想魔道士
特記事項:種族・魔獣と精霊の混血。
特記事項2:全属性の魔法が使用可能
称号:魔法使い(ただし恋愛的な意味で)、全裸魔道士
祝福:恋愛補正(軽度)
かっこいい戦士になって活躍し、女の子にモテようとツンダークに登録した。
職業が魔道士になっているが問題ない。基本が獣なので物理戦闘力を持つが、これは種族特性なので職業やスキルとは無関係。実際には、魔獣系格闘術を取得しているのと同じ状態と考えればよい。
『精霊と魔獣の混血』
精霊化の進んだ高位魔獣の子、あるいは獣神の子であると思われる。これを示す特定の名前はないが、獣魔、半精霊など、地域と人々によって様々な呼び方をされる。純粋な獣ではないので、特有の能力をもつ事が多い。
『空想魔法』
一種の特異体質。いわゆる魔力回路が全身に広がっており、魔力が莫大である。また単にイメージを固めるだけで魔法を使えるという、魔法職からすれば羨ましい限りの体質である。イメージだけで使う魔法のため、詠唱もいらない。この体質を持つのは、空想魔法使い以外では悪魔だけ。それほどに稀少。
ただし、発動体が肉体そのものであるせいか、あらゆる衣服との相性が悪い。しかも全力戦闘などはじめると、服が燃えたりちぎれたりしてなくなってしまう。
『恋愛補正』
恋の苦手なキミのための軽い補正。戦いで大活躍するキミ。その見せ場を少しだけ「魅せる」効果がある。パッシブなので自動。
大したことない?いえいえ、恋愛補正なめんな。効きすぎると刺されたりヤンデレくるよー(怖)
「……」
どこからコメントしていいのか、正直わからないんですが。
えーと、まずは種族。獣人どころか、まさかの人間要素ゼロかよ。てか「かっこいい戦士になって女の子にモテたい」とか書くなよ!誰だよこのコメント設定してんの!
あと、称号の魔法使いっての設定した奴出てこい!……ひとが気にしてる事をぉっ!(泣)
恋愛補正ってなんだよオイ。うん、プラス方向に補正してくださいお願いします心から、ええ(涙)
……ウオッホン!き、気を取り直して……。
要するに、ガンガン魔法を使うと服が焼けちゃいますよ、だから服はないですよってか?なんだかなぁ。
とはいえ。
どうもこの体自体が魔物みたいに魔力を帯びていて、イメージで魔法を使えるって感じだよなぁ。たとえば、こう手をかざして、
『炎』
ほら。ぼんって小さい火が出た。
おそらく、慣れれば「炎」って言葉すらいらないと思う。
これだけだと単なる詠唱破棄と大差ない。むしろすごいのは、こっちだ。
目の前にある砂の山。さっきまで魔法のテストで遊んでた奴なんだけど、これをいじってみよう。
『城』
ほら。一瞬で砂のお城に形を変えた。
当たり前だけど、砂でお城を作る魔法なんてない。少なくとも俺は知らない。で、これはどうしたかというと、単に砂のお城というキーワードから俺が想像した通りに砂山が形を変えた、それだけにすぎない。
うん。
この「想像した通りに」というのがつまり、空想魔法の真骨頂ってわけだな?たぶんだけど。
これはすごい力じゃないか?
ま、自在に操ろうとすると魔力をバカ食いしてしまうみたいだが、それがゆえの体質なんだろう。
欠点があるとすれば、いちいち『効いてる状態』を想像しないと使えない事かな。たとえば酒を飲まされて思考がパーになっているとおそらく使えないし、あと、クタクタに疲労させられて頭が回らない状態でも使えるかどうか微妙だ。
あとたぶん、接近戦でもまず使いにくそうだし、心理的に追い詰められて発動するかどうかもわからない。良い事ばかりではないわけだ。
それにまぁ。
「全力で戦闘すると、服が焼けるって……やっぱり酷いわ」
なるほど、こんなモフモフの体が必要なわけだよ。これで人間だったら、戦うたびにボカシ入りまくりで映像化困難だろ。
まぁ、ち◯こぶらぶらの件だけはこれでもどうしようもないのだけど、それでもまぁ、モフモフなだけでも印象はだいぶ違うわけで。少なくとも個人的には。
「まぁどちらにしろ、見られるも何も誰もいないわけだが」
改めて、ぐるっとまわりを見渡す。やっぱり何もない。
すごいよなー。町がないどころか、ひとも、文明の気配もないぜ。はぁ。
まぁ、この状況なら全裸で旅しても問題ないでしょ。見られる以前の問題だ。
ぶらぶらもそのうち慣れるだろうし……慣れたくないけど(泣)。
そんな事を考えていた時だった。
「ん?」
何かの気配がくる。たくさん。ただし人間じゃあない。
とりあえず気配を殺した。
「……群れ?」
動物の群れだ。でもこれは移動しているというより……逃げてる?
「む。あれか?」
どうやら狼の群れらしい。
でも珍しいな、狼の群れが逃げるとは。相手は何者だ?
「……ほう」
なんか、でかい動物が……あれは熊か?
狼を追い回す熊って何者だよ。って、速えぞあいつ!
「……」
助けてやりたい。そんな気がして、そして首をふった。
まて、落ち着け俺。
あれは人間じゃない、狼だ。獣同士の戦いに人間が介入してどうすんだよ。……って、俺も人間じゃないのか。
「む」
追いつかれたようだ。
狼がどんどん犠牲になっていく。悲鳴がこっちまで聞こえてくる。
「……くっ!」
自分でも馬鹿だと思った。相手は狼なのに。
「く、訓練、これは訓練だ!」
そんな事を自分で考えつつ、俺は走りだしていた。
頭の中に、いっぱいの炎を想像する。
刹那、世界が炎に包まれた。
さらに速度をあげ、さらに戦いの雄叫びをあげる。
「うォォォォォォォォォォォォッ!!」
炎がさらに、さらに強烈になった。
「!?」
その頃になって、ようやく熊がこっちに気づいたらしい。向こうも叫びをあげた。
「グモォォォォォォォォッ!!」
「遅ぇよクマ野郎っ!喰らえ!」
全力で激突しつつ、全力で蹴りをいれた。
「!」
物凄い衝撃がきた。さすがの重量級、すごい手応えだ。
だが熊の方も、炎をあげながら吹き飛ばされ、さらにゴロゴロと転がった。
よし、第一撃はオーケー、追撃くるか?……ん?
「グ……グォ……」
あれ?
「……」
なんか、弱々しく鳴いたかと思うと、動かなくなったんですけど?
えーと、ステータス確認……あ、瀕死だ。
凄いな、熊を一撃かよ。といってもまぁ、即死しないのなら油断はできない。
「今、楽にしてやる」
右手に炎を集めて、熊の頭を狙う。
「あばよ」
その炎をぶつけてやると、熊は静かに事切れた。
「ふう」
とりあえず、初戦闘は勝利した。ちょっとメッセージを確認してみるか。
『初戦闘の勝利、おめでとうございます。なお空想魔法を使うと剥ぎ取りや解体、血抜きもできます。お試しください』
「ほほう。やってみるか」
魔力をこめて熊の体を持ち上げる。
「畜生、重たいな。戦うよりきついぞこれ」
大変だ。大変だが、えらい便利なのもわかった。
何しろ、皮剥ぎや血抜きなんて言葉による概念でしか知らない俺だ。昔の友達に凄い釣り好きがいて、学生時代は貰い物の魚をたくさんさばいたものだが、哺乳類の解体なんて当然やった事ないからな。
それが「血抜き」「皮剥ぎ」「革なめし」という概念だけで作業できたんだ。
まぁ、魔力はバカ食いしたけどな。……後で調べて工夫してみるか。
「どれ。では肉を……ん?」
ふと見ると、横に茶色の狼が一頭いた。解体に夢中になってて気付かなかった。
ほぼ人間サイズ、かなりでかい。
どうやらさっきの生き残りみたいだが……なんで敵意ゼロなんだ?
「……ああ」
どうやら肉に目がいっているらしい。
だが、大人しく待っているのが凄い。ちょこんと座っている。実は頭いい奴なのかもしれんな。
「なんだ、肉ほしいのか?だがちょっと待て」
倒した者の挟持ってわけじゃないけど、俺が先に食わないとダメだろ。
だが、いくら獣の姿だからって生肉喰うのはちょっと。
「ふむ」
とりあえず肉はできた。
今度はお料理教室だな。やってみよう。
「……ふう」
かなり間に合わせだが何とか食えた。腹もふくれたぞ。
野生の熊なんて味とかどんなもんかと思ったけど、悪くなかったな。もしかしたら種族的な補正かもしれないが。
「……」
で、隣で狼が幸せそうにうずくまっている。腹いっぱい喰ったんだろう。
しかし、獣的には良かったんだろうが、俺は不満だった。物欲しそうな狼に食わせるのを今回は優先したが、あとで料理サイトで調べておくか。
残りの生肉や革なんかはアイテムボックスの中。
明日の朝、革で腰巻きでも作ろうか。さすがにずっとフリチンはイヤだ。
というか、どうもこの狼が俺の愚息を見ているような気がしてならない。とても気になる。
まぁ、明日には居なくなってるだろうけどな。野生だし。あんな戦いの後で、餌に引っ張られただけだろうし。
「……とりあえず寝るか」
周囲に外敵がいないのは確認ずみ。
そうして俺は眠りに入り、そのままログアウトした。