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『この世界は、上手い具合にダンジョン中心で成り立っている』



昔、私の家に貴族の地位を与え、土地を与えた初代女王陛下が即位した時に演説で言い放った言葉。その言葉は世界に衝撃を与え一悶着はしたが次第に受け入れられ、今では一種の産業となっている。


でも、私の両親が治める【フラニカ領】では関係の無い話。シフォル国の中でも1番の辺境の地と呼ばれ、馬鹿高い山と激流の川、広大な海に囲まれている始末。教会、銀行と総合ギルドはお情け程度にあるとして、正規ダンジョンは産まれて見た事すらない。


近隣の村や町に行くのなら命懸け。女王陛下が住まうリンドブルム城、その城下町に行くのなら帰って来れない覚悟が必要。


唯一褒められる事は土地が肥えており、自給自足だけには困らない事。1000人に満たない領民達が飢えず、健やかに暮らせるのは領主の娘として嬉しい。



「‥‥‥でも」



貿易何て見込めず、領主である父は何かあれば私財を擲ってでも領民の為に尽くすから、毎月財政がギリギリでカツカツだ。自給自足で殆どを賄っていても、使う場所には使う。


どうした物か。私は呑気な両親に頭を抱えながら、余り掃除のされていない倉庫に足を向ける。


国1番の貧乏貴族と呼び声も高いフラニカ家。そんな家に好んで仕えたがる人間も居らず、初代から仕えている初老の執事1人、違法奴隷として売り飛ばされそうになって居た犬族の3姉妹メイド、元ギルド員で隻眼隻腕の門番。



「‥‥臭うわね」



何が言いたいかと言うと、そんな人数で家の掃除を全てさせるのは無理。私も多少は出来るとしても、お荷物なのは目に見えている。我慢しよう。


扉を開ければ仄かな黴と埃の混じった臭いが鼻を刺激し、私は溜め息を吐く。倉庫の中には先代達が収集した宝諸々が眠っており、領地に使うお金の工面に困った父が真っ先に売り払う物達である。


私が子供の頃に見たそこより少なくなって居て、少しばかり先代に申し訳無い様な気もした。でもそんな家族が大好きなので、私がしっかりすれば良い話。



「父様に売られる前に、使えそうな物を見付けないと駄目ね‥‥」



きっと何かある筈。私の描く小さな野望の為にも見付けないと。この為に3姉妹から善意でメイド服を借りて来たのだから。


うっすら埃を被る倉庫の中を全て引っくり返す様な私の働きにより、使えそうなアンティーク調の小箱を見付けるのは早かった。



「‥‥め‥‥うの指輪」



表面の刻印が掠れ作者の名前どころか、作品の名前すら所々にしか読み取れない古さ。だけど開ければ直ぐに分かる物なので、埃で薄汚れた小箱を壊さない様慎重に開ける。


‥‥‥‥小箱の中身はこれまた薄汚れた指輪。鈍い銀色の細い指輪で、屑石の様に小さな宝石が指輪の真ん中に鎮座していた。



「魔具かしら?」



魔法道具、略して魔具。魔法の使えない者でも、魔の恩恵を受ける事が出来る道具で高い物は高い。王族向けから庶民向けの物まであるから、一概には言えないけど。



「私の役に立つ所か、お金にもなりそうに無いわ。でも、一応は調べておきましょう」



思わず溜め息を吐きそうになるも止め、小箱から指輪を取り出し眺める。家柄で余り装飾品を見る事が無い私でさえ、分かる程の明らかに古臭い安価物。


眺める事に飽き、徐に指輪を私の指へ通す。その指輪は大きくブカブカ、だからと言ってピッタリだとしても欲しいとは思わない。魔力も感じないので魔具じゃ無いと思う。



「‥‥‥あ、あれ?」



仕方無い、次を探そう。私はそう思って指輪を外そうと持つも、ピクリとも動かない事に気付く。


不味い。魔力は感じられ無かったが、トラップ式の物だったのかも知れない。呪われて居たら、手の施しようが無い。小箱を改めて見ても説明書き等は皆無。


きちりと私の指に収まる指輪を忌々しげに睨み、先程自制して居た溜め息を吐き出す。心無し指輪は綺麗になって居る様な気がするけど、気にしてられない。


どうしよう、繰り返す様に呟いて居ると私のスカートの裾が思いっ切り引かれ、慌てて後ろを振り返るもそこには誰も居ない様子。



「‥‥‥‥え?」


「漸く指輪に選ばれる主様が現れたと言うのに、主様がお馬鹿なのは私些か心外で御座います」


「! だっ、誰!」


「短い足元がお留守です、主様。私は此処で御座いますよ」



驚き辺りに視線をさ迷わせるも何も居らず、私は戦慄する。だが考える暇も無く呆れた様な声と共にもう1度スカートの裾が引かれ、足下に目を向ければ口元だけ笑う小さな、子供‥?


淡い菫色の腰まである長く綺麗な髪に、濃い菫色の目。私の着ている物より古い型のメイド服を着用し、レースのホワイトブリムを小さな頭に乗せている。



「今回の主様は下女である所か、それはそれはとても鈍い御方の様です。教え甲斐があると言いますか、悲しいと言いますか‥‥」



下女、つまり言い方は古いが私はメイドだと思われて居る様子。それは仕方無い。メイド服を着用し、倉庫を荒らした事により埃を被って居るのだから。



「今は用事のせいでこんな姿をして居るけれど、私はフラニカ領を治める父クラレンスの長女、リコレッタ・フラニカよ」



でも色々と言い方にカチンと来た私は、母から直々に叩き込まれた作法を持って訳も分からない相手へ至極丁寧に挨拶する。挨拶が終わると彼女の目の色が変わり、笑みを浮かべながら口を開く。



「‥‥ほぅ、古式の宮廷作法ですね。主様は良き師を選んだ様です。では良いでしょう。愚鈍な下女から、愚鈍な貴族娘へ格上げして差し上げましょう」


「‥‥‥」



な、何故かしら?更に貶められている気分にしかならない。小さな姿、主様と言う意味、きっと彼女が全てを自身で語るだろう。


倉庫を調べるのは止め、話す為自室に行こう。そう思えば、早く身体中に被った埃をどうにかしたくなって来た。目線を合わせる為、腰を落とし彼女と目を合わせる。



「貴方、これについても全部分かるのよね?」


「はい、主様。全ては私が御答え出来る範疇で御座います。親切尚且つ丁寧に、お教え出来ます」


「‥‥‥そ、そう」



彼女は必ず言葉の端々に棘を残さないといけないのだと諦め、私は倉庫の扉を開く。一応私の方が立場は上らしいが、敬われて居る気は微塵も感じない。


そう言えば、私と彼女の身長差はおよそ3分の1。歩幅にかなり差があるのでどうしようかと少し歩き後ろを振り返れば、彼女は半透明の羽が生えている。



「主様、私の事はお気になさらない様お願い申し上げます。因みにこの羽は、私に備え付けられて居る初期機能で御座います」


「はぁ‥」



ふわふわ浮きながら私の後ろに着く彼女に生返事を返し、私は気を取り直して歩き出す。自室へは時間にして約5分の道程だ。


自室に到着し、中に入り彼女をソファーに通せば素直に座って貰えた。頭に被っていた布を取りながら、私は湯が使える場所へ歩く。流石に、この姿で話を聞くのは憚られる。腐っても私は貴族の娘なのだから。



「軽く身体を洗い流してくるわ。少し待って居て」


「承知致しました。ゆっくりなさって下さい、主様が灰頭の様な格好なのは些か悲しくなります故」



それはそれは、とても素敵な笑顔で彼女は私を送り出す。私は話も早く聞きたいので何時もは1時間程度入っている所、15分で出て来れたのだった。


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