0話 始まりの面接
地下に降りる階段。薄暗いその階段の一番下に、面接会場となる地下室の入り口である鉄の扉がある。
俺は、錆び付いたノブを握り、三回ノックして、入室した。
…あ、失礼しますって言うの忘れた…今からでも間に合うか?
「失礼しま…」
「待っていたぞ!!
君の様な逸材を待っていた!!」
バイトの面接に来たら白衣を来た美女に、いきなり身体を弄られた。
…何事ですか!?
「筋肉良し、体格良し、怪我無し、顔は…まぁ、許容範。
よし、採用!! ちょっと、ここに寝転がりなさい」
部屋の隅に置かれた、病院とかにありそうなベッド…
だから、何事ですか!?
言われるがままに寝転がる俺も俺だけど…
俺が寝転がると、白衣の美女はベッドに備え付けられた妖しいスイッチを押した。
ガチャ…
!?…
両手首と両足首に伝わる鉄の冷たさ…あれ、身動きがとれない?
え…え、えええええええ!!!
叫び声を上げようともがくが、普段喋らないせいか声が出ない…
あ、そういえばアルバイト募集の張り紙にも『寡黙な人優遇』って書いてたな…
そんなどうでもいいことを考えていたら、首筋に鋭い痛みを感じた。白衣の美女が注射器で何か薬品を俺に注入したのだ。
徐々に、薄れて行く意識。
くそぉ、睡眠薬か何かか…
完全に意識を失う前に、美女の呟きが聞こえた。
「さぁ、貴男は正義の味方に生まれ変わるのよ…」
■
俺、静間弘人は、所謂コミュ障だ。
高校に入学して1年、俺は誰とも喋らずに学生生活を送って来た。勿論、そんなヤツに友達なんて出来る筈も無く、絶賛・高校生ソロプレイ中…ぼっちである。
よく、『ネット上では饒舌ぽい』とか言われたりするが、ぶっちゃけ、現実である程度のコミュ力を養ってないとチャットを活用出来ず、オンラインゲームでもソロプレイを満喫する事になるのだ。
ああ、俺のコミュ力は最低ランクだよ。オンラインゲームでチャットが活用出来るレベルに達してないよ…
まぁ、自分でもこのままでは駄目とは思ってるんだ。
でも、今更、友達とか絶対に出来ないからな?
俺の友達は『愛』と『勇気』だけだからな?
だから、せめてバイトを始めようと思ったんだ。バイトなら、バイトなら人間関係を初期状態から始められる。幸い、武術を習っていたから体力には自身があるし、物覚えも悪く無い筈だからバイトも直に上手く行くと思って居たんだ…でも、現実は甘く無かった。
当たり前だが、バイトにはコミュ力が必要だったのだ。
・コンビニのアルバイトの面接…店員さんに『面接に来ました』が言えず、受けてさえいない。
・ファミレスの面接…『喋れないなら無理かなぁ〜』って、生暖かい笑みで返された。
・スーパーでのバイト…上記と同じ。…etc
俺にアルバイトなんて、百年早かったんだと諦めかけていたその時…あの求人をみつけたのだ…
『パート・アルバイト募集中』
時 給:要相談
勤務時間:要相談
週休1日:土曜日
備 考:格闘技を習っていた方優遇、寡黙な人優遇、正義感の強い人優遇、健康体で持病が無い方優遇。
勤務内容:ゴミ掃除、社会をよりよくする活動、
持 参 物:履歴書、印鑑、保険証
面接場所:……
あ、これ多分『清掃員』だ。
そうか、清掃員って選択肢は思いつかなかった…あまり人と喋らなくてよさそうだし、俺に向いてそう。
それに、『寡黙な人優遇』がいいな。俺の為にあるような求人やん。
でも、『格闘技』が優遇? 俺が習ったの、爺ちゃんから教えられた『武術』なんだけど大丈夫かな?
それにしても清掃員に格闘技って必要なのだろうか?
…あ、ヤンキーに囲まれた時必要か。
俺は何の疑問も抱かず、履歴書を書き出したのだった。
そう、これが俺の間違いの始まりだった…