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共和国の嵐  作者: 典太
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序章

序章


-真駒内演習場


北日本共和国・人民陸軍が保有するこの施設は、北海道に数多くある演習場の中でもとりわけ目を引く存在ではなかった。

首都である札幌に近いという以外にこれといった特徴もなく、平時であれば石狩軍管区に所属している部隊が時折、演習に使用するくらいで普段は閑散としているのが常だった。


だが-


今日この日、5月15日だけは違った。


夜も空けきらない早朝から軍用車輌の列が次々と人気のない演習場に収容され、多くの機材と人員が演習場の各所へと散っていく。


平素の演習場を知る者がいれば、その光景は明らかに異質に映っただろう。

演習場に入った車輌群は軍用トラックを中心に、兵員輸送車、弾薬運搬車、整備車輌、これらを守る装甲車。そして荷台に野戦迷彩を施された防水布を被せた巨大な兵器運搬車輌。


まるで戦地に赴くかのような陣容に夜間当直の兵は驚き、当然のように説明を求めたが、彼に提示されたのはたった一枚の命令書だけだった。共和国書記長と人民陸軍大臣の連名で記された命令書に書かれた内容は極めて簡潔なものだった。


[極秘演習実施のため、真駒内演習場を3日間の間、立ち入り禁止とする]


結局、彼ら基地警備兵は演習場を追われる事になった。

何一つ知らされることはなく、ただ3日間の特別休暇だけを与えられて。


そして現在-


演習場の各所には短機関銃.ppsh-41を携帯した人民軍兵士が立ち並び、普段は空になっている見張り塔には狙撃銃を持った兵士が軍用スコープを片手に隈なく周囲へと目を光らせていた。


「…何を始めるのやら」


休暇を与えられた兵士が追われた演習場を振り返り、ひとり呟く。

急な事とはいえ、休暇を与えられたことは単純に嬉しかった。久しぶりに家族ともあえるし、まだ小さい子供の遊び相手になってやる事だってできる。


だが-


男ははもう一度、後ろを振り返る。演習場は依然として夜の闇に包まれていた。

すでに日は昇っているはずなのに、空は厚い雨雲に覆われて日差しが射しこむ気配すら見られない。


「…この国は一体、どうなっちまうんだろうな」


彼の祖国である大日本帝国が地図より消えて8年。

今は北日本共和国と名を変えたこの国は、宗主国であるソビエト連邦の主導の下、急速に形を変えつつあった。

共産主義の台等、秘密警察や政治委員による監視社会、検閲された情報と荒廃した東欧からやって来る無数の移民達。


そして共和国各地に駐屯するソビエト連邦軍と彼らの傀儡に過ぎない北日本政府。


そこまで考えて男は頭を振る。

一介の兵士に過ぎない自分が考える事ではない。自分は今までと同じように軍人としての職務を果たすだけだ。例え名前が変わっても、今はこの国が自分の祖国であり、守るべき対象なのは変わらない。


…変わらないはずだ。


男は自分の目に写る光景がこれからの国の未来を暗示する、酷く不吉なものに思えてならなかった。

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