第三章 ガルデーニア編 蛇の道
――兄さんと別れた。何で気付かなかったんだ?俺はあの時壊れてた…だけどいつもなら気付いていた兄さんがいない兄さんがいない兄さんが…兄さんが…!
地面に自分の手をたたきつけたり、騒いだり、もう死んでいる人を殴ったりして自分を痛めつける。ガルデーニアの体の体力も限界に来ているはずなのに…いや、もう限界を過ぎてしまったのかもしれないが……足は地面にくっついたように動かない。無理に動こうとしてバランスを崩す。乾いた土の臭い、血のべたつく臭いの中、体はまだ動こうとする。
「兄……ヴィーシニャに会いたいか?…」
――当たり前だ!兄さんは…俺のたった一人の家族だ!!
言葉にしたくても出てこない。喉が渇いた。
「なら、おまえは、兄に会う為に兄の闇にならなければならない。その覚悟は今のおまえにあるか?」
横になっているガルデーニアの頭の上に一人の男が見下ろしながら聞いてきた。
時刻はちょうど夜明け…
建物の間から天に昇ろうとしている太陽。
反対側には、これから地に堕ちていく月。
ガルデーニアにはその二つが自分と兄のように見えた。その男が天使でも悪魔でももはやどっちでもよかった。ただ、『兄に会いたい』その思いだけが自分を今まで動かしていたんだと、何年も一緒にいて今更ハッキリしたそんな気持ちを知ったんだと思ったら何故だか笑いがこみ上げてきた。急に笑い始めたガルデーニアを心配そうに見ていた。しばらく笑った後にガルデーニアは男に宣戦布告をするかのように叫んだ。
「会えるなら……会うためなら俺は何でもやる!」
男はその言葉を待っていたように笑った。
「まずは自己紹介だ。俺は丈二海、ある家の執事をしている。」
そう言って片手をガルデーニアに差し出す。がだ、自分の手……指の一本すら動かせられるほど今のガルデーニアには体力は残っていない。そんなことに苦笑しつつガルデーニアの頭の横に一枚の紙を置いた。
「体力が回復したらそこの場所に来るといい、良いか?これからお前が歩くのは蛇の道だ。」
『上等だ!』と言えないので、口の端を上げて見せると丈二海はどこかへ行った。もう周りには生きた人間はいない。安心してガルデーニアは、自分の体力を回復することに専念できる。と、ユックリと両目を閉じる。
次にガルデーニアが目を覚ました時、日は頭上まで登って来ていた。自分の周りころがっていた倒した人たちの死体・血の跡…全てが綺麗に消えていた。
「ある家……ねぇ~。とりあえず、兄さんへの手がかりを見つけた。蛇の道でも何の道でも通ってやるよ。」
横に置かれた一枚の紙を片手に足を進める。目的地は現在の場所から二㎞東、ついた先には『第七倉庫』と書かれた古く、広い倉庫があった。大きな鉄のシャッターの横には灰色の真新しい扉があったが扉には鍵がかかっていた。
「そっちは開かないよ。そんな事も知らないのか?世を騒がせてる花の双子の片割れさん。」
後ろから男の声が聞こえた。自分たちの事を知っている・・・・・・
「何か俺にようでもあるのか?」
ガルデーニアが考えた男の正体。1.賞金目当ての追っ手2.怖いもの見たさのただの馬鹿3.丈二海の関係者。のどれかだと考えた。
「おいおい、そんなにかまえるなって、俺はなにもお前を取って食おうとしているわけじゃないさ、ただの親切心、わかるだろ?」
両手を挙げながらガルデーニアに近づいてくる。一体何がしたいのか理解ができない…ガルデーニアの頭の中がかき回される。考えることは基本的にヴィーシニャに任せていたのがあだになってしまった様だ。
「ここの出入口は一つ、この大きな扉な。」
ゴンゴンと殴ってみる男はガルデーニアの微妙な反応を見てどう思ったのか知らないが、扉に両手をつき思いっきり押してみる。だが、扉はうんともすんともいわない。男は錆びてるな。と負け惜しみ的な一言を言う。そんなに硬いの?とウキウキしながら近づいて行くガルデーニアを止めとけってと止める男の手をゴミを払う様にどける、男はやれやれと肩を少し上げて後ろに下がった。
「片手…で良いかな?」
男が未だ近くにいた時にガルデーニアが言った発言が男を笑いの穴に放り込んだ。ガルデーニアはちゃんと扉の側に行き手を付けてみる。ヒンヤリとした鉄の独特な冷たさが伝わってくる。男は笑ってずっといたが、ガルデーニアはめんどくさそうに男に言った。
「ココ、俺が開けられたらどうする?」
そんなことありえねぇ。と男は腹を抱えたまま言った。そのすぐ後に男は自分の目を疑うことになる。ガルデーニアが片手で扉を開く。ゴォォォという大きな音を立てて。
「普通に開いたね。おじさんの力俺以下?」
そう言ってガルデーニアは倉庫の中に入って行った。倉庫の中には甘っとろい匂いが充満していた。麻薬だと思い咄嗟に口と鼻をふさいだ時、何処からか声が聞こえた。
「大丈夫だよ。これは人的な害はない。むしろ君には沢山吸ってもらいたいね。」
「この子があの子の弟?なんか予想と違~う。」
「おいおい、お前の予想は当たった事がないじゃないか…だが、俺から見ても……はずれだ。」
あちらこちらから男女の声が聞こえる。倉庫の中は真っ暗で何も見えなかった。声が飛んでくる方面は自分より上の方から…ということぐらいしかわからない。
「ん?まだ見えないのですか?」
「まっじ~?見えてないの?」
人をからかう様な言い方だったり様々だったがその通りなので反論はできない。が、ただ、イラつく。人を見下したような言葉の数々、もう少しでガルデーニアの怒りのゲージがMAXになるというところで電気が付いた。
「新人いじめはやめろ。ガルデーニア君だね。俺は光輝、二十五歳だ。丈二海さんから話は聞いていたが……初めに言っておくぞ?嘉華様は渡さんねぇ。」
もちろんガルデーニアには何の事だか理解できないが、どうやら光輝という男は『嘉華』というおそらく女の事が好きらしい。
「光輝……お前は一体何がしたいんだ…?」
丈二海さん。と光輝に呼ばれた男はガルデーニアに手を差し出した。これから宜しく。とその手を受け取るかどうか悩みはしなかったが、何とも言えない気持ち悪さがガルデーニアの体の中を掛ずり廻る。
「体力は戻ったみたいだね。」
「あの位の傷、寝て起きたら治る。」
そうだね。と苦笑されながらも会話は続く。ガルデーニアにはそこからの話が全く頭に入っていない、むしろ耳にすら入っていないようだった。丈二海の髪と目の色…それが彼をくぎ付けにさせていた。黒い髪に明るい青色の眼…違和感がほとんどない不思議な色合い…
「聞いているのか?……ん?あぁ、これか。気にしたら負けだと思っておけよ?説明がめんどうだから。さてと、皆!仕事の時間だ!今日は新人君に誰か側にいてやってくれな。」
丈二海のその一言で周りの空気が変わった。じゃあ俺が新人君に付く。そういったのは光輝だった。よろしく。と言われたが、どうも自分とは相性がいいとは思えなかった。移動は黒塗りの車2台。移動中は光輝に質問攻めにされたり逆に仕事の事をいろいろ聞かされた。そもそも自分は何も知らないで仕事仲間になった。その事を言ったら数名が驚きの声を上げる。
「仕事の事を何も聞いていなかったんですか?」
「この職業の事も?」
次々と質問されるが、ガルデーニアには丈二海から倉庫への地図を貰って来ただけなのでその質問のどれにもこたえることができなかった。唯一答えられたとしたら――『何か目的があるの?』
「俺はお前達の知っている兄さんを探している。ここにくれば兄さんの事教えてもらえるって聞いたから。…………って何泣いてんの?」
ガルデーニアが最終的な目的を真剣な顔で話していたから周りの仲間は涙で目を潤わせていた。
「お前って……見た目以上に苦労してきたんだな…」
「さあ、私の胸で泣いていいのよ?」
次々とガルデーニアをチヤホヤし始めるがガルデーニアはそれを動揺しながら避ける。その時、急ブレーキがかかり全体がガルデーニアの方へ倒れて行く。光輝が運転手にどうしたか聞いている間、ガルデーニアの顔には大きな胸が押しつけられていた。
「ヤられました……」
運転手が放った言葉は悔しそうな重い言葉だった。光輝から後ろに座っているガルデーニア達に説明があった。
「丈二海さんの乗っていた車が消えた。」
「じゃあ哉雅様に連絡を…?」
一人がそう提案したが、光輝はそれを却下した。理由は簡単、彼の主君嘉華の面倒を見ていないといけないからだ。
「地図を見れるやつはいないのか?」
その問いに誰もが顔をそむける。そんな中光輝が目を付けたのは新人扱いされているガルデーニアだった。
「お前も見れないのか?」
「俺の場合、こっちに来たのは初めてだから見れても分からないでしょ?」
間違ったことは言っていない。確かに来たばかりの彼に案内を頼むのはどうかと皆思った。だが、光輝は決めてしまったらしい。彼に頼むと。
「っちょっと待てよ!これで目的地に着かなくてもしらねぇぞ?」
「まあ、ここで手をこまねいていても仕方がないからな。俺、地図見れねぇし?」
そう言ってどこからか取りだした地図を荒々しくガルデーニアに投げる。ガルデーニアは仕方がないと助席に周り今いる位置を確かめる。あらかたの場所を把握したら今度は目的地と現在位置を地図で見つけルートを見る。すると、少し頭を横に傾げる。
「どうした?」
「一キロも行かない場所に目的地があるんだけど……とりあえず、真直ぐ。」
後部座席では大笑いが起きていた。ガルデーニアはそんなに面白いことか…?と思いながら流れに合わせて苦笑していた。目的地にはほんの数分で着いた。一番初めに外に出たのは光輝だった。そして彼は不思議そうに言った。『丈二海さんがいない…』とガルデーニアは内心何考えているんだ?と思いつつ顔には出さない。
「まあ、いなかった場合、時間通りに進めろっていわれているから…いいなお前ら?」
その声にこたえるが如く、一斉に皆の顔つきが変わる。ある女は丈の長いスカートの中から銃やナイフを出す。黒いスーツを着ている男は懐から銃を出して手入れを始める。服装だけ見れば、メイドに執事だが…彼らが持っているモノは明らかに銃刀法違反物だ。
「彼らの本職はメイドや執事、使用人だよ。だけど、皆元殺し屋だったからこういう仕事をよくやるんだよ。」
いつの間にか戻ってきている光輝がガルデーニアに教えてくれた。そして、一人のメイドが思い出したように口を開く。
「それにしても、哉雅様も嘉華様もなかなか死んでくれませんでしたよね。」
「今も生きてるからその言葉は不適切だぞ?……でも、そうだな…あの人達は不死身なんじゃないか?」
「俺なんか、仲間と一緒に屋敷を爆破させたのに生きて出てくるし、車でひいても食事に毒を持ってもケロッとしてるんだもんな…」
メイドの言葉が引き金となって今さっきまでの緊張感が一気に無くなった。そう考えると、ガルデーニアはココにいる人達に同情に似た感情を抱いた。だが、彼女達はそんな話を世間話をするかのように和気あいあいと話している。
「何が楽しいんだ…?」
その当たり前のように放った言葉が逆に彼らには珍しかったらしい。目を丸くしてガルデーニアを見てくる人は二~三人ではなかった。だが、ガルデーニアはもう何度同じような反応をされただろうか、いい加減なれた。『それはね――』メイドの一人が話そうとすると光輝が『止めろ。』と低く言った。どうやら時間が来てしまったらしい。光輝がガルデーニアになにを使う?と差し出してきたスーツケースの中にはどうやって入れたのか分からない程の武器が入っていた。だが、ガルデーニアはスーツケースから何も取りださずに光輝に返した。
――素手で今まで戦ってきたコイツは変に武器持たない方がいいか…
苦笑しながら自分の心の中でそう解釈した。でも一応少し気になる事を聞く。
「いままで武器を使った事があるか?」
「あーっ…必要最低限かな…渡されれば基本的に何でも使える。」
光輝の合図とともに一斉に車から飛び出し目的地へ突入する。突入した屋敷の中はあり得ないほど静かだった。周りに注意しつつ奥へ進んでいくと大勢の人がすごい形相で待ち構えていた。
「光輝……あちらさんにこの事がバレていた…なんて事ある?」
「そんなことは………あ~…確か作戦を立てている時に組員がいたからそのせいか…」
なにを今思い立った様な事を言っている!と周りから心の声が聞こえた。笑いすら出てこない、重い沈黙。
「まっ、こんなことはよくあることだから…さーてと、ガルデーニア、お前あそこの中にいってちょっと壊滅させて来い。」
「はぁ?何言っての?」
急にそんなことを言われて簡単に首を縦に振れない…そもそも、五十人は最低いそうな軍団の中に新人一人、飛び込ませることはどうかと思う。
「光輝、それはどうかと思うぞ?」
「大丈夫さ、こいつは兄貴と二人でそれ以上の人数殺ったんだからな。なっ、できるだろ?」
どこか回答を誘導させられている気がしてガルデーニアは不機嫌になるが、最終的には半分ぐらいヤケクソでユックリ前へ前進し始めた。
――後で覚えてろよ…‥
「そうそう、一番偉そうな奴は残しとけよ~丈二海さんがなんかやるらしいから。」
どうせそういうことを言うならもう少し明確な情報がほしい。そんなボヤキも特に言葉には出さない。兄がいないとどうもやる気が起きない…と言いながらも向かってくる奴らを次々になぎ払う。
「なんでヴィーシニャ以外の奴のために頑張らないといけないのかな…あー殺る気が起きない…」
そんな事をブツブツと言いながら人を倒していくガルデーニアは一体何者…?向かってくる人は虚仮にされたようでかなり頭に血が上っていた。
「こっんの…クソガキ!ナメてんじゃねぇよ!」
「うるさい。君らも、さっさと死んでくれないかな?」
自分より身長の高い男を顔を鷲掴みすると前へと雑に投げる。あの細い体からどこにそんな力があるのかとバックでは首を傾げる人がいた。
「死ぬのはお前だ!」
不意打ちを狙ったのかガルデーニアの死角から鈍器を持った男が襲いかかってきた。その行動に少し反応が遅れ片手で受けた後他の奴ら同様投げ飛ばした。
「っ……ぃってーなぁ…」
この時のガルデーニアに効果音を付けるとしたらプッツンかゴゴゴゴだろうか…ガルデーニアの頭の中で何かが切れたような音がした。そこからは生きる殺戮マシーンとなったガルデーニアが素手で頭と体を引きちぎる解体ショーが次々と行われていった。
「………お前で最後か?」
一番奥で目を見開いて返り血だらけのガルデーニアを見ている老人問うた。老人はただ怯え口をパクパクバカみたいに開閉しているだけだった。
――これで終わり。
そう思って片手を上から真直ぐ老人の頭に目掛けて降ろす。その時、血に濡れた畳を誰かが猛スピードで走ってくる音が聞こえた。
「止めろ。俺の仕事を増やすな。」
そう言ってきたのは半行方不明だった丈二海だった。ガルデーニアは自分の手を掴んでいるその綺麗な手が気に入らなかった。自分の手は血で真っ赤なのに…とだが、一応手を引く。丈二海は部下達に老人を捕獲させどこかへ連れて行った。その際にガルデーニアに『よくやった。』と皮肉にも聞こえる言葉を掛けて光輝達へ屋敷へ帰る様に言った。
「なぁ~にスネてんの?」
「それにしてもスゲーなお前、素手で分解はなかなかできないぞ?」
帰りの車の中ではさっきの話で持ち切りだった。手を洗いしっかり消毒し、すっかり綺麗になった手を見てガルデーニアは少し思った。兄がいなくなった今自分には何があるのだろう?とそんな事を察したのだろうか隣に座っている光輝が頭の上へ手を置いてきた。
「そんな深く考えると良いこと無いぜ?」
「お前に分かってもらおうとは思わない。」
冷たく返事を返されると少しだけやさぐれた返事をする。『そーですか。』自分は一体どんな返事を期待していたんだろう?と心のどこかで思ったのか定かではないが光輝は暗い窓から外をたそがれるように眺めていた。
使用人用の屋敷といって案内させられた屋敷にはみんなの帰りを待っていた大勢の使用人がいた。
「新人の子ってどこどこ?」
やはり自分はこの屋敷で使用人の新人として働かなければならないらしい。と覚悟する。光輝が後ろの方で突っ立っているガルデーニアを前へと連れてきて、おまえの先輩たちだ。と挨拶を要求した。
「どうも、騙されて働くことになったガルデーニアです。」
「自己紹介の時ぐらい笑ったらどうだ?」
バシッと頭を後ろから叩かれたが、その男に反論ができない。
「まあ、名前なんてこれから変える予定だから顔だけ覚えといてやれ。」
当の本人は昔から使い慣れた名前を変える気は毛頭なかったが、どうやら仕事上、指名手配された名前は都合が悪いらしい。
「こいつは悪まで夜の仕事用だ。誰か暇なやつは面倒を見るようにあーっ後、怪しい行動をとったら容赦しなくていいぞ。はい、終わり。仕事に戻れ。」
時間は深夜を廻っていたが、使用人の仕事はまだ終わらない。ガルデーニアが殺しまくった人たちの処理の手配。さらに上司への報告……朝が明けるまでにやらなければいけない仕事が沢山ある。
「ねえ、俺はどこで寝ればいいの?」
バタバタと動いている使用人たちの指揮を執っている丈二海に聞いた。彼はそんなこと耳にも入っていないような口調で「光輝に聞け。」といった。その光輝は一体どこにいるのだろうか……周りを見渡すと光輝は部屋の端の隅で眠りに入りかけていた。
「ねえ、光輝……」
「んだよ…?」
目を閉じたまま返事をした。その声はとても眠そうな声ではなかった。
「俺の部屋どこ?」
そんなガルデーニアのことを無視して返事したまま答えなかった。しばらく待っていたが、やはり光輝は返事をする気がないのだろう。椅子に座ったままだった。そこにメイド服に着替えた仕事仲間がきた。
「あらら~光輝、寝ちゃったのね…ガルデーニア君光輝を部屋まで運んであげて。ここの3階南棟左から4番目の部屋だから。その右となり。今日はそのまま寝てもらっていいって丈二海さんがいっていたわ。」
ばたばたしている中親切に教えてくれたことに感謝する気持ちはあるが、丈二海に上手いように誘導されていっている気がしてならなかった。
部屋には鍵は掛けないのがルールらしく、扉は静かに開く。部屋の中にはキングサイズのベッドと黒いソファー、デスクにノートパソコン、クローゼット……いたって普通の物があり、その他に物はほとんど見られなかった。ゴミ一つない暗い部屋。
「生活感がない……」
いままでヴィーシニャと一緒に過ごしていた場所にはいつも何か落ちていたりする物だったのでガルデーニアには落ち着かない部屋だった。光輝を布団の上へ寝かせた後、メイドに言われた右隣の部屋へ行った。そこにもやはり鍵はついていなかった。その代わりに光輝の部屋では見られない男の部屋としてどうかと思う物が…色が目の前に広がった。
「…………これは…いじめか?」
そうガルデーニアが思うのも仕方がないだろう。それに、先ほど見てきた光輝の部屋と比べると明るいが……明るすぎだった。天井は白、壁紙ピンク、机白、クローゼットハート柄のハートの形。カーテン蛍光色ピンク、ベッド、純白。部屋の出入り口で固まってしまう。愕然として自分は部屋を間違えたのかと思い、逆の部屋の扉を開くと、大して変わらない光景が目の前に広がっていた。呆れたような見事にここの使用人たちに遊ばれているような……少しイラッとした。下にいる丈二海の側でどういうことだ?と抗議すると何ともない顔で『お嬢様の趣味だ。』といった。主の趣味は使用人にまで反映されるのか…?と疑問に思うところもあったが、慣れないことをして疲れたのか、それから反論する気力がわかなかった。
「改造は各自の自由だ。だが、お嬢様が来られたときはちゃんと命令に従っておけ。哉雅に怒られるのはごめんだからな。」
その後、ガルデーニアは部屋に戻った後特にどこの場所にも腰を掛けずに出入り口に立っていた。別にピンクが嫌いなわけではない。むしろ自分では好きな色の方に入ると思っている。なにせ、ピンクは大好きな兄の髪の色でもあるのだから。
「兄さんほどきれいじゃないけど……」
それでもないよりは精神的に楽だと無理矢理解釈した。
――ヴィーシニャのいない日々なんて苦痛で仕方がない。早くヴィーシニャに会いたい。
そんな思いがガルデーニアのココロを埋め尽くしていった。




