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第二章 ヴィーシニャ編 悲しみ

「!!……こ、こは?…」


 意識を失って何時間が経っただろうか、ヴィーシニャは外が清々しい位明るい時に目を覚ました。傍には哉雅が手を握っていた。


――なんでこんな事になっているんだ??ガルデーニアは?ここは一体どこなんだ?


 次々に浮かび上がってくる疑問。今自分が置かれている状況を把握しようと途切れる前の記憶を振り返っていた。


「んっ……」


 もそっと動いた哉雅にビクッと体を震わせる。


――えっ、え?!僕は誘拐されて気が付いたら僕を誘拐した張本人が横でスヤスヤと寝ていて…それで、それで…??


 考えれば考えるほど頭がグルグルになってきた。


「あぁ…起きましたか、」


 黒くオールバックだった髪が少し乱れた哉雅がそう聞いてきた。ヴィーシニャは、頷いてそれを見た哉雅がだったら行くぞ。とヴィーシニャの手を引いて布団から起き上がらせた。切られたはずの足は嘘のように痛みも不自由さもなかった。お陰で普通に歩けて自分より大きな身長の哉雅に早足でついて行く事が出来た。


「お待たせいたしました。嘉華様。」


 ぐいぐいと連れてこられた部屋の目の前には嘉華と呼ばれた16・7の少女がいた。


「ありがとう。でも哉雅、身だしなみはきちんとしなさい。」


「すみませんでした。登校の準備を整えてきます。それまでお二人でお話でもなさっていてください。」


 そう言い残して哉雅は部屋を出て行った。哉雅が部屋からいなくなると困るのはヴィーシニャの方だった。知らない少女と一部屋に置いてけぼり…服装は夜着ていた物のまま、所々跳ね返りの血やら切り傷やらで裂けていたりする服装のままだった。その姿を見て嘉華がヴィーシニャを手招きした。


「まずは自己紹介しましょうか、私は西田(にしだ) (よし)()。あなたは?」


「知っているくせに…」


「まあね、日本であなた達二人の指名手配をしたのは私だから知っているんだけど…私はあなたの口から聞きたいの。」


 ユックリ嘉華の傍へ歩み寄ってくるヴィーシニャに嘉華はそんなことを言った。どうりでてまあしが早かったわけだ…呆れた様にヴィーシニャは溜息をついた。


「……桜。」


「桜?私の聞いたのは違ったんだけどね。確か…ブィーシナだったけ?あんまり印象に合わないよね。」


「ВИШНЯ(ヴィーシニャ)だ!!桜はロシア語でヴィーシニャっつうんだよ!似合わなくて悪かったな!」


 何故か急にイライラしてきたヴィーシニャがちょっとした事できれてしまった。


「そう、ヴィーシニャっていうのね。桜……日野原(ひのはら) 桜…」


 嘉華が急にそんな事を呟いた。はぁ?とヴィーシニャは首を傾げた。嘉華はうん、それで良いか。と言ったかと思ったら傍にいたメイドに書類とペンを持ってこさせ何かを書く。


「何書いてるんだ?」


「あら、興味があるの?見るなら見れば良いわ。」


 そう差し出された書類に目を通すヴィーシニャ。そこには『編入届』と書いてあった。


「編入…?何それ?」


「ヴィーシニャには今日から私の通う高校に通ってもらうの。」


 嘉華の笑顔がなんか眩しい…何を考えているんだ?そう思っているだろうヴィーシニャの顔色が悪くなった。


「嘉華様。登校の準備が整いました。ヴィーシニャさんもこちらへ」


 哉雅がバッチリに決まった服装、髪型姿で部屋に入ってきた。


「そう、じゃあ行きましょうか。桜。」


 ニコニコ何かをたくらむ様な顔でそう言われた。


「誰が桜だ!僕はヴぃー…ムグッ」


 反論しようと口を開いたのは良いが、その口を哉雅に無理矢理塞がれた。何すんだと睨んだら『嘉華様が桜というのならあなたは今から桜です。反論したら腕へし折りますよ。』と耳打ちをされた。ヴィーシニャの腕は通常より細い、少しの力で折れそうな位だ。いつもだと反撃しおうとするが手でふさがれた口元がズキズキ痛んだ。


――この家にまともな奴がいない気がする。


 外に連れて行かれるや否や何処からか黒尽くめのリムジンがやってきた。異常な長さ、ヴィーシニャはそのリムジンの中にいた複数名のメイド達に強制的に服を着替えさせられた。学校に着くころにはヴィーシニャには騒ぐ気力も抵抗する力も残っていなかった。


「今日、このクラスに転校生が来ています。まず自己紹介をどうぞ。」


 そう先生から言われても一体何がなんなのやらわからないヴィーシニャは一応営業バージョンであいさつ。


「こんにちは、僕の名前はヴぃー…」


「先生!彼は私の親友の日野原 桜さんです!」


 教室の窓側一番後ろの席で挙手している嘉華。その目からは『本当の事言ったらどうなるか考えてね☆』と言っているように見とれた。そこでやっと理解した。今自分の置かれている状況と服装の意味を!


「じゃあ日野原さんの席は西田さんの隣が良いわね。」


 そう先生が納得したように言うが、当の本人は表情に出さないが内心全く納得がいっていない様子。


「では、一現目の授業を始めます。…………であるから…なんたらかんたら……」


 先生が授業を始めたのと同時にヴィーシニャが小声で嘉華にきいた。


「何で僕の服装がおまえと同じなんだ?僕は男だぞ・・・?」


「良いじゃん。似合ってるし。男の子と一つ屋根の下で生活してるとバレたら学校が五月蝿いからね、」


「だからって……これは無いだろ?!短いスカートにタンクトップに似たデザインの制服ってっ!」


「さらにお腹周りも見えます。」


 ニヤニヤしながら丈の短い裾をチラッとめくって見せた。


「にゃっっっっ!!」


 慌てて自分の口を塞ぐが時すでに遅し。クラス中の注目をヴィーシニャは浴びた。


「日野原さん?どうしたんですか?大声(?)をあげて?」


 黒板に向かって問題を書いていた先生も振り返る。


「いえ…なんでもありません・・・!」


 落ち着いて席に座ろうとした時、ヴィーシニャの脳内に悪知恵が働いた。


――ここで具合が悪いと言ったらこの教室から解放される!


「日野原さん?どうしたんですか?早く席にt…」


「先生…お腹の具合が悪いので保健室に行ってきます。」


「そうですか…では付き添いに……あっ!保健委員の西田さんついて行ってくれますか?」


「分かりました。じゃあ行こう日野原さん?」


向けられた笑顔がヴィーシニャを笑っているようだった。廊下を二人して歩いていると色んな人が廊下を歩いていた。サボっている人が多い様だ。


「で、何考えて仮病使ったのかな?」


「……………」


「まあ、構わないけど…ここの学校の保健医って……」


 ガラガラと開けた先にいたのは昨日からヴィーシニャに色々色々やってきた哉雅だった。


「おや、西田さんと日野原さん、どうしたんですか?」


「保健医って……まさか………」


「保健医の哉雅です。よろしく。」


「誰もいないんだからそのモード止めなさい。」


「はい。嘉華様。で、お二人してどうしたんですか?まだ授業中だと思うんですが?」


「桜が悪知恵を働かせた結果。」


 ほほ~。とヴィーシニャを見る。


「これは、お仕置きが必要ですね。嘉華様は、授業に戻ってください。成績が落ちたらお父様に怒られますよ。」


 はいは~い。と保健室を出て行った嘉華。嘉華より苦手な男と保健室で二人きり。嘉華を廊下付近まで見送った後、ガチャリと鍵を閉める音が聞こえた。


「ぼ…僕教室に戻らないと…」


「嫌や嫌学校に来させられて今更勉強ですか…良い身分ですよね。弟さんが知ったらどう思うか…」


 哉雅のその言葉が忘れかけていたヴィーシニャの記憶が呼び覚まされた。


「ガルデーニア!……ガルデーニアは無事なのか?僕はアイツがいないと…」


 でもさっきまで忘れていた。そう思うと胸が痛くて苦しくて…何故か涙が流れて床に次々に墜ちて行く。


「まったく…お嬢様といいお前といいなんで最近の子供はこんな声を殺して泣くんだ?泣きたかったら所構わずに泣け。」


 そもそも僕達二人を話したのはあんただろ?と思っていても涙が止まらない。微かに声が震える。今すぐ大声で鳴きたい。そんな気持ちに陥った。


――こんな姿…ガルデーニア以外に見せるなんて…一人がこんなに辛いなんて


 はじめて感じる感覚・感情。いつもならガルデーニアが一緒にいて慰めてくれて沢山話して気持ちを紛らわすヴィーシニャだが、ココにガルデーニアがいない。


「安心しろ、ココは防音性教室だから大声で鳴いても俺にしか聞こえない。」


 自分が哉雅のいう通りにしてしまうのが嫌だった。だが泣きだしたらそう簡単にはその感情は消せない………

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