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第一章 儚い願い

『日本』についた二人は11時間という長い時間を飛行機の中で過ごした。二人が『日本』の土地に足を踏み入れた時には夕日がもう見えなくなってしまいそうな時間だった。


「17時間ぐらいの時差…これはキツイ…」


 そうボヤいたのはガルデーニアの方だった。ヴィーシニャはというと…


「眠い…暖かいし…ここどこ?」


「日本の東京だって。」


 寒い気候の所から来た二人にとっては日本は暖かいと感じてしまうだろう。ヴィーシニャは眠気に負けない様に頑張っていたが、1時間も持たないだろうとガルデーニアは思った。そして少しウトウトしているヴィーシニャを見ていたらガルデーニアにも眠気が襲ってきそうだったので飛行機内で調べたホテルへ向かった。


「……では、306号室です。」


「どうも。」


 ガルデーニアはヴィーシニャの様に敬語が上手く使えないので大抵の関わりはヴィーシニャ頼みだったのだが…ホテルに着いた瞬間にヴィーシニャは夢へと堕ちて行った。お陰でガルデーニアは一人で対応をする事になってしまった。


――起きたら文句言ってやろうかな…


 そんな事を考えながら306号室に向かった。ツインベッドが付いた部屋に付くとヴィーシニャを窓側の布団に入れ自分はその隣の布団に入って寝た。旅の疲れを癒し切るまで……


「ふぁぁぁぁ…………なんか重い…」


 ガルデーニアが起きたのは既に次の日の夜中だった。目覚めと共に自分の身体の上に何かが乗っかっている感じが…


「おはよう。ガルデーニア、」


「ヴィーシニャ…重い。」


 ガルデーニアの上におにぎりを持っているヴィーシニャが馬乗りになって座っていた。ガルデーニアが起きたことを確認すると上から退きおにぎりを差し出した。


「何か変わった事あった?」


「皆頭がマゲじゃなかった。後、辺り一面黒い。」


「今が平安時代ではないのだから当たり前だよ。ちなみに侍とかもいないよ。」


「でも近代化しすぎて又時代が戻るかもって言ってたじゃん。」


「ん~そうなんだけど、地球温暖化で氷河期に戻るのは直だろうといわれてるしね、」


「僕らの故郷のところは火山で無くなったっていうし、」


 二人が10歳になっておじさんが殺された次の日二人は村を荒して出て行った。ざまみろ。と張り紙をして。その数日後に三人が暮らしていた山が噴火した。火山口もなかったのに…そのことは大したことではなかった。逆に最近は良くある事だった。だからニュースになったのは村の近くの町だけだった。二人は山裏の町に1泊していた時だったので知っている。その後は町・村・都と旅をしていった。お互いの気の向くまま。その旅から三年経った時に寄った都で一回だけ二人が牢に入れられた事がある。その所では赤が不吉だと言われてきてヴィーシニャが問答無用で放り込まれたが、ガルデーニアが都の王に脅迫をかけていた。『ヴィーシニャを牢から出さないと皆殺しにしてやる。』と、嘘ではないと近くにいた兵士二人を軽く剣で突き刺した。その脅しでガルデーニアは手足を拘束して牢に入れられた。冗談聞かないやつだね。と文句を牢の中で言いながらヴィーシニャの傍に寄り添った。二人で一緒にいればそれがどこにでもいい。それが二人の中の感覚だった。


「出掛ける?」


「そうだね、潰れる前の日本を観光しとく?」


 ヴィーシニャが新しく服を買ってきてくれてらしく下ろしたての服に着替える。


「で、チェックアウトしたのは良いんだけど…どこ行くの?」


「ヴィーシニャが行った所行きたい。」


「はいはい。コンビニと服屋ね。」


 それから歩き始めた二人だったが、コンビニはともかく服屋は既に閉店していた。どうする?と聞いたらコンビニ廻りしたい。とガルデーニアがいったので飽きるまでコンビニめぐりをした。おにぎりを食べたり唐揚げを食べたりジュ―スを飲んだり。二人は色んなコンビニを廻った。


「なんか塩分が高いものばかりだね…」


 ガルデーニアがそう言いながら食べているのは酢ダコの足だった。


「それを食べてるからでしょ?クリームパンは美味しかった?」


 ガルデーニアは寄る所寄る所で必ずクリームパンを1個買っていた。それを次の所に行くまでに食べて評価していた。


「どれもイマイチ。ヴィーシニャが作ったのが一番おいしい。」


「あーっと…ありがとう。肉マン食べる?」


「チョウーダイ…………ハムハムハム」


 口から足を吐き出してヴィーシニャの手から肉マンを貰う。


――あぁ…可愛い。閉じ込めておきたい。


 ヴィーシニャは自分に甘えていたりしている時のガルデーニアが一番好きだ。しばらくすると一口しか食べていなかった肉まんが終わりパクッとヴィーシニャの指先がガルデーニアの口の中に入った。その指をペロペロと舐めていた。余ほど美味しかったのだろう。


「美味しかったの?っというか僕の指…」


「うん。おいひはった……又買って。」


 可愛くねだるように言うガルデーニアのこの言葉にはヴィーシニャは酷く弱い。しょうがないなぁと言

いながら顔はとても嬉しそうだった。


「そろそろ帰りたい。」


 ガルデーニアのそんな我儘もヴィーシニャにとっては嬉しい事だった。ホテルに戻った二人を待っていたのは美味しい料理でも静かに二人だけでいれる空間でもなかった。荒された部屋、幸い貴重品は全て持ち歩いているが衣類は刻まれてフカフカな布団は綿や羽が辺りに散らばっていた。


「ヤラレタね…」


「久々の大惨事だね、」


「あの男が告げ口したのかな?」


「違うでしょ、着くのが早すぎる。」


 ガルデーニアの言うあの男とは前回来た刺客で小柄な男の事だ。あの男には言う度胸ありそうにも見えなかったし、と最後につけたした。


「だったら誰??」


 ガルデーニアが頭を傾げているとヴィーシニャが1枚の紙に気付いた。


「『日本の侍』…」


 そう呟いた。何の事?と近寄って紙をワクワクしながら見たガルデーニアがさらに目を輝かした。その紙は『予告状』と下手な字で書かれていた。


「日本人って字下手なのかな?」


「…日本人の中でも下手な人はいるでしょ?とりあえず、ロビーの方に連絡してくる。新しい部屋用意して貰わないと…ガルデーニア?」


 ガルデーニアに紙を渡してヴィーシニャは部屋を出て行こうとしたが何かを考えて動かないガルデーニアはほっとけない。


「……なんか、ヘン…」


 ガルデーニアがヘンと言えばその後は大抵必ずヴィーシニャにとって大変な事が起こる。しばらく緊張した空気が二人の間を流れる。時計の秒針の音が次第に大きくなってくるような気がした。


「ヴィーシニャ、部屋は良いから早くここから出よう。ここにいちゃいけない。」


「分かった。じゃあ行こうか、」


 ガルデーニアが紙を片手に部屋から出て行く。それに続いてヴィーシニャも部屋から出た。二人がロビーで部屋の現状をいってホテルを出て行った。少し歩いたらヴィーシニャ達が取っていた部屋が爆破された。後ろの方で派手に硝子の割れる音が聞こえ、ヴィーシニャはあららと苦笑いし、ガルデーニアは、飽き飽きした様にムッとした。


「その『予告状』、絶対『果し状』の間違いだよね、というか、何が書きたかったのか分からない内容なんだけど…」


「ん~…俺も分からないよ、そもそも読めない。字ぃ汚すぎ。」


「ハハハ、ガルデーニアに指摘されたらこれ書いた奴はお終いだね。貸して、読んであげる」


 ガルデーニアから紙を受け取って読み始めた。


「『今日、19時にヤマイ小学校校庭にて待つ。』だって。古典的だね。」


 これといって工夫が全くなくよく昔のテレビでの果し状と似た様なモノにヴィーシニャは愕然とするがガルデーニアはこれって決闘つう奴だよね?とウキウキしながら聞いてきたがその表情がなんとも微笑ましい事でつい笑顔が出てくる。


「今は…8時だからまだまだ時間あるけど何処に行く?」


「ゲームセンター。」


 二人は時間が来るまでゲームセンターにいようと考えたが二人が時間が来る前に飽きてしまった。


「なんか…あまり面白くなかった。」


 ガルデーニアが両手に抱えている大きな人形はヴィーシニャが取ってくれた。その他にも色んな人形やトランプ、お菓子など。お互いの好きな物を次々取ってきたらなんともいえないほどの荷物になった。


「ガルデーニア…やり過ぎたね。」


「そうだね、前いた所寄り簡単でついついやり込んじゃった☆」


「まあ、前の所はかなりかかったからね色々と。」


「そう言えば…もうそろそろ時間じゃない?」


 二人が時計に目をやると時刻は9時…やり込んだとガルデーニアが言ったが、1時間で何台のゲーム機を制圧(商品的な意味で)したのだろうか?


「約束はまだ先でしょ?」


「そうじゃなくて、僕達『ヤマイ小学校』の場所知らないから探さないといけないでしょ?」


「あ~そうだね、店以外は全く調べていなかったからね。」


 そう言って二人はゲームセンターを後にした。外の空気は冷たく嫌な臭いが紛れていた。


――これで空気が綺麗だったら気持ちいいのに…気持ち悪っ


 ヴィーシニャがそう思ったら不機嫌そうにガルデーニアが言った。


「空気悪い。気持ち悪い。」


「そうだね、用事を済まして早く次に行こうか、」


 自分と同じ意見。言葉にしなくても分かっている。何時でもお互いの事が分かる。たった二人だけの家

族だから。


「ねぇ、ガルデーニア。もし僕がガルデーニアを殺したいって言ったらどうする?」


 歩く足を止めて真剣な眼差しでガルデーニアに聞いてくるヴィーシニャ。ガルデーニアはそんなヴィーシニャの問いに質問で返した。


「じゃあ、俺がヴィーシニャが欲しいって言ったらどうする?」


 ガルデーニアが訊いた事は言葉はちがえどもヴィーシニャのと意味は同じだ。


「……言うはずがない。僕はそう思う。その意味がどんなものであれ僕は信じる。」


「それと同じ。俺はヴィーシニャに殺されたっていい。兄さんが本当にそう思うなら。喜んでこの命を捧げるよ。」


 笑顔でそう返された。こうゆう問いにはガルデーニアには誰も敵わない。例えヴィーシニャでも。さあ行こうと手をヴィーシニャに差し出す。その手はいつも自分を助けてくれた。何があってもいつも傍にいた手だ。その手を取るためだったら何を犠牲にしても取るだろう。そして今も


「そこまでしなくても良いよ。」


 ニコニコしながら答える。二人がそれからコンビニ歩き、服屋巡りをしながらヤマイ小学校を探して…いたはずだ。


「ねえ、ここどこ?」


 ヴィーシニャがふと足を止めて聞いた。


「何処って…静岡。」


「ちょっと待って!どんだけ歩いているの?僕等?!」


「だって、ヴィーシニャが『お菓子って地方限定とか有るんだよ』って言ったから。じゃあ全部食べてやろうって思って。」


「僕そんな事言ったっけ!まあ、まあそれは良いけど…僕達『ヤマイ小学校の校庭』を探していたはずだよね?」


「そうだね、結果的に見つけてないね。なかったんじゃない?見てないし。うん。そうゆうことにしとこ。」


 笑顔でそう言われたがヴィーシニャには19時までにそこに行かないといけないという予定が消えた事に対して少し混乱した。いや、そもそもそんな予定は無いに等しいものだったが…


「けど…収入源が…」


 二人のお金の収入源。それは大会などの償金、それに時々来る挑戦者達から巻き上げる挑戦料だ。大会の償金より金額は少ないが二人のストレス解消などにはもってこいのイベントだからそれが無くなると少し困る。


「だけど…もう少しで19時だよ?そもそも『ヤマイ小学校』なんて有るの?」


「僕もそう思った。聞いた感じだとヤマイって病って間違えそうじゃん?不吉っていうかなんというか…」


 二人がそう言いつつ周りを見回すと門が見えた。そこにはまぎれもなく『ヤマイ小学校』と彫られていた。


「ウッソ~」


「なんか本の中で起こってそうな話だよね…現実だけど…」


「はぁ~…………メンドウ。侍がいないなら()る意味がないんだけど。」


「じゃあ今回は僕が()ろうか?僕達がいた県の隣の隣を場所に選んだ奴らをこらしめてあげないと。」


 フフフと笑うヴィーシニャの笑顔が黒い。今にも誰かを殺してしまいそうな位の殺意を纏った。


「そっ、そうだね…たまには…良いかも…ね」


――ヴィーシニャに目が合わせられない!


 ついつい顔を背けて戸惑いながら答える。ガルデーニアはどうもこうなったヴィーシニャには何も出来ない。


「じゃあ、行こうかガルデーニア。」


 ウキウキした足取りで学校に入っていく。その後をガルデーニアが付いて行くが、その足取りがヴィーシニャより数倍重い。


「で、校庭の何処にいればいいのかなぁ?」


 とヴィーシニャが足を止めたのは校庭のド真ん中。スッカリ日が落ちて辺りが暗くなったせいだろうかガルデーニアからヴィーシニャが黒い影にしか見えない。


「多分、ここらへんで良いんじゃない?詳しく書いていなかったならそれはそれ好きな所にいれば良いと思うし、今までの経験から考えると広い場所を指定する場合は多数の的相手だし、」


「ガルデーニアがそう言うなら僕はここにいるよ。」


「けど、もう約束の時間は過ぎているはずだよね?気配はあるのに影が見えないって……臆病者(チキン)?それとも只スキを待っているだけ?」


「コラコラ、そう言うと今僕達の周りを囲みつつある臆病者(ひとたち)に失礼じゃないか。」


 そうヴィーシニャが言うとバッと校庭全般にライトが浴びさせられた。陰から陽へと変わった時二人は両目を覆った。


「侍じゃなくて悪かったな。そんなもんは遙か昔の話さ、いまは平凡な奴等が多い。銃刀法違反もあるし。」


 群れる中から二人の男女が出てきた。おそらくリーダとかそこらへんだろう。


「ん?そう言う事だと50(フィヒティー)/(/)50(フィフティー)、そっちが部が悪いでしょ?」


 ガルデーニアがムッとしながら言ったら女の方が、問題ないわよと答えた。


「二人とも『桜』と『梔子』って綺麗な名前ね、特に桜の子。私気に入ったわ。私の夜の相手にだったら歓迎よ?それに、私はあなた達の方が心配よ、こんな大勢の敵をどうやって二人で相手をするか…フフフ、アッハハハハハハハハ」


 高々に笑う女の声が夜空に響く。そんな言葉にガルデーニアとヴィーシニャはコソッと20点と言った。


「何が20点ですって?」


 さっきまで笑っていた女が凄い顔をして二人を睨みつけてきた。


「あなたの価値ですよ。僕や弟は品とかには五月蝿いので。」


 にこやかにそうヴィーシニャが答えた。


「なっ…なんですって!」


「だから、俺達は品がある奴しか価値がないと思っているんだよ。オバサンには興味ない。」


「オバっ…!言ってくれるじゃあないの…光輝(こうき)!何をしているの?さっさとこいつ等を黙らして!」


 そういって女は群れの中に消えて行った。光輝と呼ばれた男は周りの奴らにこいつ等を可愛がってやれと言い残して女の後を追って居なくなった。


「可哀相な人間が100人程度…こんなに良く集めたと感心だね。ヴィーシニャ、観賞していたいんだけど、道が無いから仕方がないよね。」


 一応ヴィーシニャに確認を取る。その言葉にヴィーシニャは一回頷くだけだった。


「さてと…じゃあヴィーシニャは右でね、ホラホラ!殺されてたくない奴はこっちに来る!兄さんは少し機嫌が悪いから、近くにいると死んじゃうよ~!」


 実際は少しどころじゃないが…そう思いつつ群がる奴等を二手に分ける。ヴィーシニャも右に歩き始めた。ガルデーニアは、ヴィーシニャのいる方を背にして立った。


「さあ、運動のお時間だ。」


 純白の髪を後ろに束ねて戦闘態勢に入ったガルデーニアの後ろでは、わーとかぎゃーとか悲鳴が止まない。


「さあ、まとめてきなよ。俺も少し機嫌が悪いんだよ。」


 いつもの高く可愛い声はガルデーニアの口から聴こえなかった。聴こえたのは低く、鋭い声だった。さあ、と相手を挑発する。敵は手ぶらと見えたがメリケンサック、ドスやチャカを持っていた。


「おいおい、銃刀法違反とかじゃないの?」


「俺達には関係ねえんだよ!」


 パンパン乾いた音を鳴らして撃ってくる。それをメンドくさそうに避けるが、避けた先に待っているのは刃物。アブネェ!と言いつつヘラヘラしているガルデーニアに一発弾が当たった。当たったのは左肩。骨に弾がぶつかって貫通はしていないがそれなりの痛みがガルデーニアの身体を駆け巡る。


「っつ!…やっぱ飛び道具は卑怯だ。」


「何時までも余裕かましてるからんな事になるんだよ。」


 と嘲笑う。その声はなんて下品で汚いものなのか…


――あぁ~、気持ち悪い。もういいや、手加減してると本来の自分を忘れちゃうよ。もう手加減は止めた。


 地に膝をついたまま動かないガルデーニアを上から見下す。偉い事を言っていてもこれだけの力かよ。と、


「どうした?もう止めといても良いんだぜ?さすがに可愛い子供相手に大人が大勢寄って集ってやるべきじゃないよなぁ。」


 そんなことを言った男は屈んでガルデーニアの顔をマジマジと見る。


「はっ、日本人は慈悲深い…か、汚い顔で俺を見るな!」


 その男の首から血が噴き出した。


「気持ち悪ぃんだよ!テメェ等見てると虫唾が走る。」


「なっ!ガキだと思って甘くしてりゃあつけあがりやがって!やっちまえ!」


 次々とガルデーニアの方に襲いかかる。


「ねえ、ガキガキっていうけど、ガキって()える(おに)とも書くんだよ?」


「うっ!!たっ、助けてくれ!」


「餓えている鬼には誰も敵わない。さあ、美味しく料理されてよ」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


「さあ、次は誰の番?」


 自分の手に付いた血液を舐め取る。段々自分が誰だか分からなく狂っていく。


「ねぇ、俺の肩の利子、まだ足りないんだけど?フフフフさあ、死ににおいで!」


 次々と周りにいた敵を殺していく。狂気に身をゆだねていく。


「お…お前イカレてるぜ…」


 怯えながらそう言った男は沢山いた。その言葉にガルデーニアは『知ってる。』といって殺していく。自分でもわかってる。自制がきかないと。だけど止められない。何処までも堕ちていく……・・

 ヴィーシニャは右の方へ歩き校庭の端に着いたら何も言わさず素手で(あや)めていった。何も出来ないまま男達は倒れて行った。チャカを持っていても引金を引く暇さえなかった。


――久し振りだこの感覚。肉を割く感触、飛び散る血の音。なんて良いんだろう。あぁ、終わらないでほしい。僕が快感に思っているこの時が。


 そうヴィーシニャが思っていた時、ガルデーニアの方で嫌な感じがした。風に乗って来た血の匂いは無かった。きっと遊んでいるんだろうと思っていたが、その時漂ってきた匂いは硝煙と血の匂い。愛しいガルデーニアの匂いがした。


「ガルデーニア!」


 ヴィーシニャの動きが止まった。その時自分の足に痛みが走る。地に倒れている男が最後の力を振り絞ってナイフでヴィーシニャの足の腱を切った。


「っ~~!」


 言葉にならない痛み。その場に蹲る。遠くなっていく意識。静かになるヴィーシニャの周り、誰かのトランシーバーにさっきいなくなった女の声が聞こえた。


『そっちはどうなっているの?』


「二手に分かれて交戦していました(・・・・)。」


『いました(・・・・)?じゃあ、終わったのね。彼は?』


「片足の腱を切られたらしく、意識が朦朧(もうろう)としています。」


『そっ、じゃあ連れて来て頂戴。』


「承知いたしました。」


 ザーという音を立てて無線は切れた。まだ数十人残っている中一人の男がヴィーシニャを担ぎ上げた。


「僕に…触るな…」


「無理です。私はあなたを(よし)()様の所へ連れて行かないといけないので、」


「馬…鹿か、僕なんか連れて行って…何も出来ない…」


「……少し五月蝿いですね。薬でも飲んでもらいましょうか。」


 男はそう言うとポッケからカプセルを3・4出して自分の口に含んでヴィーシニャの口に薬を移した。それを反射的に飲み込んでしまったヴィーシニャはしまったと思った。そんな後悔も遅く、眠気がヴィーシニャを襲う。


「もう効いてきたでしょ。嘉華様特性の睡眠薬。」


 勝ち誇ったように笑みを浮かべる男の顔が霞んでくる。声も遠くなってきて一言しか言えなかった。


「ガル……デー…ニ、ア…」


 愛しい弟の名前だけ。呼んだら助けてもらえると思った。いつもみたいに自分の所に近寄って……笑顔で駆け寄ってくれると……

 ダランとなった体を落とさないようにしっかり抱え、男は生き残っている味方に時間を稼げ。と言った。つまり男がこの小学校から出るまでガルデーニアにヴィーシニャの事を探しまわれるとメンドクサイ事になると考えたのだろう。


「了解しました。この命に代えても…」


 その返答を聞いて男は足を進めた。ガルデーニアの方では男達が喚いていた。狂っている!と。


――弟の方は後で使えるな。

 

 男が校門の所へ出て行くと車が待っていた。


「嘉華様。御屋敷に帰られたのでは?明日は学校なのですから、早く寝て下さいと何度も言いましたよね。」


(さい)()、お願いだから私を子供扱いしないで。私はそこの彼を受け取りに来たのよ。明日から彼も私と同じ高校に通わせるの。だから採寸とか測らなきゃいけないでしょ?」


「ハァ…まあ良いでしょう。お召し物に血が付いてしまいますから私が抱えています。」


 車に乗った男…哉雅と嘉華が向かった先は全ての輸入品の通過点の本領西田(にしだ)グループの屋敷だった。嘉華は、西田グループの4人の末娘。末娘だけあって結構自由に生きてこれたがワザワザ上の姉、兄達と同じ道…いやそれより険しい道を辿って来た。グループを継ぐのは自分でないと分かっていてもついつい後を付いて行ってしまう。そんな自分が嫌になって色んな道に手を染めた。そんな事をやっていると裏の事に詳しくなってくる。表しか知らない上の兄姉を裏で操れる。そんな嘉華を幼少の頃から視ていたのが哉雅だ。


「嘉華様、どうなさいましたか?」


「何でもないの。ねえ明日学校休んで良い?」


「駄目です。学業が最優先事項です。」


 甘え声で言っても通じないのが哉雅だ。数時間車を走らせると屋敷に着いた。


「実験室に運んで。医者を用意して。明日までに歩けるようにさせるのよ。」


「承知いたしました。嘉華様はどちらへ?」


 欠伸をして屋敷に入って行く嘉華に哉雅が質問した。


「寝室よ。明日、学校に行かないといけないんでしょ?あ~それから制服と教科書の手配もよろしく。」


「はい。お休みなさいませ。」


 時刻は23時半、ヴィーシニャの手術が終わったのは深夜2時過ぎの事だった。麻酔と睡眠薬が効いてまだ寝ているヴィーシニャを明日から彼が使う部屋のベッドに運んだ。寝かし布団を掛け部屋を出て行こうとする哉雅の服の袖をヴィーシニャが掴んでいた。


「…何もしていなければ可愛い子供か、」


 よしよしと頭を撫でてあげるととても気持ち良さそうに笑った。その笑顔を見るとつい頬が緩んでしまう。そのままヴィーシニャの横で朝が来るまでズット寝顔を眺めていた。

 その頃、ガルデーニアは敵を全員倒してヴィーシニャがいるはずの所へ走った。きっと自分を待っていると思うから。だが、そこにあったのは屍の山だけだった。ヴィーシニャの姿が何処にもない。不安だけがガルデーニアの胸を一杯にする。


「兄さん…兄さん!!」


 辺りを隈なく探した。だが、ヴィーシニャの姿、消息さえも分からなかった。ガルデーニアは、まだ意識があるであろう人に片っ端から掴みかかった。


「言え!ヴィーシニャは…兄さんをどこに連れて行った!?」


 だが,誰一人として消息を口にする人はいなかった。


「チッ…!使えない奴らだ…兄さん…どこに行ったの?兄さーーーん!!」

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