6話 君の幸せを
焦ってつまずきそうになって
息が乱れて鼓動が速くなる
今もまだ胸は締め付けられてて
伝えたいけど怖いという気持ちもある
それでも君はもっと苦しんだから
戒めにもならないけど君より深い苦しみさえも欲しがるようになっていた
君の家の前にたどり着く
気持ちのままに君を呼ぶと
返ってきた言葉は門前払い
ここまで覚悟していた
招き入れてくれるなんて思ってない
僕はドア越しに謝った
何度も何度も
君に聞こえてなくても
伝わらなくても
言わずにはいられなかった
これさえも押し付けだと分かっていても止められない
目頭が潤んできた
苦しさに胸を抑えてまた頭を下げたとき
「何か用?」
君が姿を現した
僕を見ない君の視線
表情のない白い肌
胸には本を抱いていた
ごめんなさい、と頭を下げる僕に君はさっき聞いたと返す
そして僕が持っている本に目が止まる
「読んだ?それ」
そして君は初めて僕を見る
それだけで胸が高鳴って少し顔が熱くなる
顔を見てくれたのはいつぶりかもう分からない
嬉しくてしかたないのを必死に隠して
この本を読んだことはないことを正直に伝えた
すると、「じゃあ、返さなくていいよ」
と意外なことを言う
「貸してあげる。君に似合わないけど」
そして家の中に引っ込もうとする
それを全力で止めた
これ、と言ってあの押し花のしおりを渡す
それを見た君は目を少しだけ大きく開けた
少しだけ静寂が流れて君はゆっくり口を開けた
「いらない。もっといいの、探すから」
少しだけ微笑んでいるように感じた
そんな君に誘われて僕はついに言えた
「好きだよ」
震える言葉と身体をなんとか抑えてそれだけを言う
本当は言える資格もないと気づいてた
でも言わずにはいられなかった
前を向いて君と向き合えないと思った
「うん。でも、さよならだね」
君は胸に抱いてる本に更に力を込める
幼い残像を愛しく抱きしめるように
遠い日確かに二人がいたこと
遊んだこと、喧嘩したこと、
いじわるしたこと、笑ったこと、
楽しかったこと、傷つけたこと、
どれも二人だけの思い出だった
それは僕のせいで歪んで君を更に傷つけた
そんな狂ったように愛したことも確かにあった二人のこと
一瞬の間にやっぱり思い出したのは木漏れ日を背に受けた君だった
そしてゆっくり扉が閉まる
君の頬に滴が流れた気がした
扉が音を立てて閉まった瞬間
僕の頬にも滴がこぼれて落ちた
これが僕の初恋の物語。
以上にて完結です。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。




