5話 どうしようもない僕だけど
部屋に置いてある本を手に取る
あの日僕が奪った本
どうすればいいか分からなかった本
でも今なら分かる
君に返しに行けばいい
そして謝るんだ
何度でも何度でも
君が許してくれなくても
僕の想いが伝わらなくても
本を持ち上げたときに気がついた
しおりが挟んである
今まで気づかなかったそれに
興味を持ちそのページを開く
ほぼ真ん中の位置くらいだった
挿絵もない、字が縦に並んでいるだけ
目をひいたのは本の中身ではなくしおりだった
コスモスの押し花を厚紙に貼り付けリボンを付けたもの
今では色落ちして色素のなくなったコスモスの花
でも花びらは一枚も折れず消えず今も形を残している
僕はこれに見覚えがあった
幼いとき、相手をしてくれない君
いじけた僕はコスモスの花を一輪君の本に挟んだ
気をひきたいだけの嫌がらせだった
結果、コスモスを挟んでいたページは花で汚れてしまった
汁と花粉がこびりついてしまった
そのページを見た君は僕に言ったんだ
「綺麗だね」
僕は罪悪感から君の視線を反らして言った
「本を読んで」
今では遠い日、僕は確かにそう言った。
君の優しさが痛かった
そんな君に甘えてた
そして全部ほしくなって
この気持ちは好きに変わったんだ
少しは自惚れてもいいんだろうか
昔の君は僕を嫌ってなかったって
むしろ大事にしてくれてたんだって
この押し花で君に伝える勇気ができた
そしてさよならをする気持ちも
こんなどうしようもない僕だけど
今、僕は君の幸せを誰よりも願ってる。




