3話 本の虫
「本の虫」とはよく名付けたものだ
確かに君はその名の通り大きくなるにつれ本に溺れていった
だがそんな君を慕う僕の姿こそ虫だったと今は思う
小さい頃、一冊の本に愛着を持った君
表紙を一時眺め、
装丁を優しく撫でた君の姿は今でも忘れられない
木漏れ日の中で一人
誰よりも暖かい君がいた
時が止まる錯覚
反らせない視線
忘れられるはずがない
慈しむように優しく触れた指先は
僕がほしくてほしくてたまらないものだったから。
君が学校に来なくなってからもう一年になる
休みがちになりついには学校に来なくなった
そんな君をクラスの皆は特に気にした様子はなかった
対象がいなくなっただけ
自分じゃなくてよかった
同情する言葉もなかったわけじゃない
ただどれも他人事
君を想っての言葉はないに等しかった
僕の野望は叶った
君は他人と関わることがなくなった
君を他人に見せることもなくなった
これで君を誰かに取られることもなくなった
本以外を除いては
僕の望みは叶った
これは喜ぶべきことなのに
どうしてだろう
胸が痛くてたまらない
苦しい
痛い
締め付けてる胸の奥
もがいても
振り払っても痛みはひかない
より酷く疼くだけ
思い出すのはいつだって君の横顔
愛しい手のひら
優しい眼差しに諭される
そして僕は気づいた
僕は君の幸せを願っていなかったことを




