eternity
きれいに整列している物を……
いま、二人の心臓の中に温かい雪が降り積もって行っている。
まっ白で、汚れやすい。
やわらかく、それでいて世界で一番重たい真実。
「今度……いつ逢える? 良太」
水絵の真っ直ぐな長い黒髪を撫でながら、切なげに答える良太。
「約束はできない。でも、電話をするから、待っていてね、水絵」
「はい……」
うつむき、彼にしがみつく水絵。水絵を痛いほど抱きしめる良太。
良太には家庭がある。
水絵は知っていて、恋人になった。愛おしい人・愛人になった。
――――二人は呑み屋の接客係と客、という関係が始まりだった。
水絵の勤めるラウンジに接待で良太がやって来たのだった。
いつでも良太が水絵とデートの約束をしないのは、自分に逢えると楽しみにし、急に仕事などでキャンセルになった時の、水絵の落胆を気の毒に思うからだ。
彼の誠実さの一面と言えるだろう。事実、これまで何回か水絵は、期待していたデートがなくなりシクシクと泣いた。
蓮の花が咲けば良いのにね。そうして、二人の顔が……蓮の花になれば良い。
『不倫』と後ろ指をさされる。
遊びごとみたいに流行した昭和や平成の時代とは違い、世間の目は冷たい。
ケダモノ呼ばわりされる。
ヒソヒソ話され、コソコソと逃げ回る。
でも二人は知っている。この純愛から逃れられない事を。
どちらかといえば良太は堂々としている。大らかだ。
あちこちの街へ麗しい水絵を連れ歩き、鼻高々と言う風だ。
――――ここまでは20年前のお話。
20年経過した。
いま、水絵は60才。良太は62才。
良太の子どもは成人し、とうに巣立って行った。そして、妻は病に倒れ、去年虹の橋を渡った。
妻を家族として大切にしていた良太。その気持ちを水絵はずっとわかっていた。
二人の心臓へと、月光に照らされた桜の花びらが降り積もる。
そっと……そっと、要らぬ事は黙っておくようにと。
それが水絵にとって必要なことであったとしても、水絵は愛に負ける。
「ネェ、いっしょにくらそうよ」
言えないように、口の中に透明なつららを作った。
蕩けさせる良太のキス。キス。キス、キス……。
でも、愛が勝ちつららは溶けない。
良太が手にしている亡き妻への思いを、水絵は抱きしめる。
真心は、恋は雪月花。
儚げで消え入りそうだが、嫋やかで強い。
壊した時に生まれる情愛がある。




