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灰の下の灯

灰の下で眠る炎は、やがて世界を焼くだろう。

ノクティスの静かな日常が、音もなく崩れ始める――。

 歴史の鐘が鳴り響く。

 だが、ノクティスの胸に安らぎは訪れなかった。

 記憶の残響が、冷たい霧のように心にまとわりついて離れない。


「大丈夫?」

 リラがそっと問いかける。

 彼女、カエル、フィンの三人が、ノクティスを囲むように歩いていた。


「……問題ない。」

 短く答える声は平静を装っていたが、その奥では小さな嵐が渦を巻いていた。


「顔、真っ白だよ。」

 フィンが歩きながら軽く笑う。

「まるで幽霊でも見たみたいだ。」


(……幽霊じゃない。生きた悪魔だ。)


「もしかして腹減ってるだけじゃねぇか?」

 カエルが陽気にノクティスの背中を叩いた。

「訓練して飯食えば、なんでも治るって!」


 その無邪気さに、ノクティスの口元がわずかに緩む。

 ――そんな些細な温かさだけが、今の彼を現実に繋ぎとめていた。



 訓練場は広大だった。

 青い魔力の光が空気を震わせ、学生たちの声が交錯する。

 その中心に立つのは、傷跡の多い老戦士――マスター・ギデオン。


「今日の課題は破壊ではない!」

 声が雷鳴のように響いた。

「力に飲まれる者は、力を持つ資格がない。

 ――お前たちの任務は、このマナ結晶を“安定”させることだ!」



 課題は単純に聞こえる。

 だが、制御こそが最も難しい。


 貴族のヴァレリウスが笑みを浮かべ、片手で結晶を浮かせる。

 青白い光が爆ぜ、周囲がどよめいた。

 ――だがその輝きは、過剰で不安定だ。


「見ろ、これが本物の魔力だ!」

 彼の声に、周囲の貴族たちが笑う。


 一方、カエルの結晶は震え、フィンの結晶はちらちらと点滅していた。

 リラだけが穏やかな光を保ち、杖を静かに支えている。


 そして、ノクティスの番が来た。


 彼は静かに右手を差し出す。

 詠唱はない。光も、気配もない。


 結晶が――ゆっくりと浮かんだ。


 音もなく、揺らぎもなく。

 まるで目に見えぬ棚の上に置かれたかのように、完璧な静止。


「……何だ、それは。」

 ヴァレリウスが鼻で笑う。

「光りもしないのか? 貧弱だな、平民。」


 ギデオンの目が細くなる。

 ――彼は知っていた。

 この沈黙こそが、恐るべき制御の証だと。


 無駄な魔力は一滴も漏れない。

 それは、熟練の魔術師でも到達できぬ領域。


(……見せる必要はない。見せるのは、終わらせる時だ。)


❖ 燃え残った火は、灰の下で最も長く生きる。❖



 一時間後、授業が終わる。

 カエルはまだ不満をこぼし、フィンは次の悪戯を考えていた。

 ノクティスは無言のまま歩き、ふと耳にした。


「……下層地区で“浄化”があったらしい。」

「またアルブライト侯爵の差し金か?」


 その名を聞いた瞬間、ノクティスの足が止まった。

 胸の奥が、静かに疼く。


(アルブライト……あの犬め。)


 視線を上げる。

 学院の外、遠くに見える王都の尖塔が夕陽を受けて輝いていた。


 その光の下に、腐った影が蠢いている。


 唇がわずかに動いた。

「――夜が来る。」


 風が吹き抜け、灰が舞う。


 そして、少年は静かに歩き出した。

 それは、影の名を持つ者――〈ニクス〉の始動だった。


❖ 日が沈み、復讐の灯が再び燃え上がる。❖

ご読了ありがとうございます。

本章では、ノクティスの冷静な才能と、影としての始まりを描きました。

次章では、“ニクス”としての最初の任務が語られます。

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