表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

悲劇の残響

失われた日常、そして心に刻まれた傷。

ノクティスの過去が、静かに姿を現す――。

歴史の授業ほど、退屈なものはない――そう思っている生徒は多い。

 だが、ノクティス・ヴェイルにとっては違った。

 それは、知識という名の刃だった。


 老教授エルムズワースの声が、静かな教室に響く。

 光の板が宙に浮かび、王家の系譜が映し出された。

 その光は淡く揺らぎ、壁に古びた影を落とす。


「第一王子アリステア。第二王子トリスタン。王女セラフィナ。そして――」


 一瞬の間。

 老教授は杖の先で最後の名を指し示す。


「第四王子、カシアン殿下。」


 その名が、ノクティスの世界を切り裂いた。


 胸の奥が冷たく、鈍く疼く。

 光の板に映る金髪の少年。

 青い瞳、冷たい笑み――忘れもしない顔。


 ノクティスの視界が滲む。

 教室のざわめきが遠ざかり、代わりに過去の音が蘇る。


◇ ◇ ◇


 夏の空。

 風の匂い。

 母の歌声、妹の笑い声。

 あの日、世界は穏やかだった。


 ――その瞬間までは。


 ラッパの音が鳴り響き、地が震えた。

 鎧の音、蹄の音。

 家の前に現れたのは、純白の軍旗と金髪の少年。


「頭を垂れよ!」


 父が俺を抱き寄せる。

 妹が小さな手を握りしめ、怯えた瞳で見上げた。


 少年は冷たく見下ろし、静かに言った。

「この村の者たちは、禁術の疑いがある。」


 周囲の兵が剣を抜く。

 父の声が震える。

「ち、違います! 私たちはただ――!」


「言い訳は不要だ。」


 冷たい一言。

 剣が閃いた。


 血の匂いが鼻を刺す。

 母の悲鳴、妹の泣き声、地に落ちる音。

 世界が赤に染まり、すべてが止まった。


 伸ばした手に、温もりがあった。

 それが消える感触を、今も覚えている。


 白馬の上の少年――カシアンが、静かに笑った。

 その笑みは、神にでもなったかのような無垢さを帯びていた。


◇ ◇ ◇


「ノクティス?」


 声が響く。

 リラの声だった。

 現実へと引き戻される。


 光の板が消え、授業が終わりの鐘を告げる。

 生徒たちが席を立ち、教室はざわめきに包まれた。


 ノクティスは机の上で拳を握りしめていた。

 爪が掌に食い込み、血の匂いが微かに漂う。


「……大丈夫だ。ただの立ちくらみだ。」


 リラが心配そうに見つめる。

 だが彼はそれ以上何も言わず、ゆっくりと立ち上がった。


 窓の外には青い空が広がり、遠くで鐘が鳴っている。

 その音は、皮肉にもあの日と同じだった。


(……あの笑顔。あの声。あの光景。)

(俺は忘れない。決して、忘れない。)


 ノクティスは静かに目を閉じた。

 胸の奥で何かが燃え始める。

 それは怒りではなく、誓いだった。


(必ず、終わらせる。あの日の続きを。)


 風が吹き抜け、紙片が舞う。

 光が差し込み、影が揺れる。


 少年は立ち尽くし、拳を握りしめた。

 影の中で、確かに何かが形を取り始めていた。


――それが、彼の「夜」の始まりだった。

ご読了ありがとうございます。

本章では、ノクティスの過去と「影」の始まりを描きました。

次章では、学院での模擬戦を通して、彼の中に眠る力が明らかになります。

よければブクマ・感想で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ