第一部:秋本夢美 8
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先輩から話を聞き終えた時点でわかっていたのは、箱沢 茜と角田 貴秀の顔と仲間たちの名前。
だからきっと、この二人を注意して見ていれば他のメンバーである四人やお姉ちゃんとの裏での繋がりを少しくらいは明るみにできるのではないかと、そうあたしは考えた。
さすがに授業中はどうすることもできないため、学校が終わるのを大人しく待つ。
「夢美、途中まで一緒に帰ろっか?」
こちらを気遣ってくれているのだろう紗由里が、昼休みと同じように声をかけてきてくれるけれど、あたしは苦笑しながら首を横に振った。
「ごめん、今日は一人で帰らせて。寄り道しなくちゃいけないとこがあるんだ」
「どこに行くの?」
断られるとは思わなかったのか、きょとんとしたように目を大きくする友人へさらに笑みを深めて見せ、あたしは即興で浮かんだ嘘を口にする。
「ちょっと親戚の家に。お母さんから頼まれてることがあって、どうしても寄らなきゃいけないの」
「……そっか。それなら仕方ないね」
特に怪しむ気配もなく、紗由里は頷いてくれた。
こちらを疑わずに信じてくれることに後ろめたい気分を味わわないわけではないけれど、今は気にかけているときではない。
気持ちを押し殺すようにして平静を装い、あたしは紗由里へ小さく手を振った。
「本当にごめんね。それじゃ」
教室を出て、そのまま昇降口へと向かい靴を履き替える。
それから急ぎ足で校門の側まで移動し、近くにある木陰へ身を潜めた。
ここで待てば、いずれ角田か箱沢が出てくるはずだ。
既に何人かの生徒が校舎から吐き出されていく光景を、スマホを弄るふりをしながら横目で観察する。
ほとんどの生徒はあたしに気づく様子もなく出ていき、たまたま気づいた生徒も特に興味を示すことなく歩き去っていく。
そんな停滞したような時間が十五分程過ぎた頃。
(――!)
校舎から現れた六人のグループを視界に入れ、あたしは咄嗟にスマホから顔を上げた。
角田 貴秀と箱沢 茜。あの二人が紛れている。
そして、それ以外の男女四人。条件としては、合致している。
(あの人たちが……?)
まだ明確な確証はない。だけど、可能性というだけなら限りなく黒に近いはず。
周囲のことなど気にする様子もなく、大声で笑いながら校門を出ていく六人。
手にしていたスマホをポケットにしまい、あたしは寄り掛かっていた桜の木から身体を離した。
「……」
あまり近づき過ぎぬよう注意し、距離を取って尾行する。
幸い、周りには人の姿が多いため自分の存在が目立つ危険性は少ない。
六人の中の一人、一番体格の良い角刈り頭の男子がポケットから煙草を取り出して火を点けるのを見つめながら、聞こえてくる会話に耳をすませた。
伝わってくる言葉は、今のところどうでも良いくだらない雑談ばかりではあるけれど、時折出てくる名前を聞く限りでは先輩から教えられた六人と断定しても良さそうではあった。