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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第四部:風岡夏純 ②
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第四部:風岡夏純 19

         5


「――出口だ!」


 すぐ前を進む晴樹の声に、わたしは息切れで呼吸を乱しながら下に向けていた視線を上げた。


 晴樹の持つライトが、ぽっかりと開いた穴を照らしている。


 この狭い空間からの解放を意味するその出口を中腰になりながら潜り抜け、二人で大きく息をつく。


「とりあえず外に戻れたけど、茜は先に行っちゃってるみたいだな」


 身体を駆け巡る熱を吹っ飛ばしてくれるような風を期待したけど、木々の密集するこんな場所ではそんな恩恵に授かるなど到底無理な望みだった。


 停滞する空気が漂うだけで涼しさはなく、穴の中にいた方がまだ気温は低かったかもしれない。


「ねぇ、竜次がまだ来ないんだけど、どうしたのかしら……」


 その狭い穴へと振り返り、わたしはすぐ後ろを付いてきていたはずの友人の姿を探す。


「……道に迷うなんてあり得ないし、どこかで躓いたりしたのかな?」


「そんな……もしあの二人に追いつかれてたらどうするのよ?」


「どうするって言われても……。オレだってここで何が起きてるのか見当もついてないんだよ? でも、ひょっとしたらさ、竜次なら案外返り討ちにしてくれてる可能性もありそうじゃないか? 腕っ節の強さはずば抜けてるし」


 希望を込めているようでもあり、空元気のようでもある晴樹の返答に、モヤモヤした気持ちを吐き出したくなるのを堪えて黙り込む。


 竜次は確かに、喧嘩は強い。


 晴樹や貴秀とは比較にならないくらいには。


 だけど、相手はもはや普通の人間ではない。


 貴秀と真美の妹。


 元はそうであったはずの、別の何か。


「……このまま、ここで待つの?」


 脳裏に浮かび上がる化物二人を押し戻す心地で、わたしは晴樹との会話へ意識を集中させる。


「オレとしては、そうしたいけど。竜次がいる方が心強いし」


「茜は? 放っておくつもり? 自分の彼女でしょ」


 先に逃げたメンバーの行方を探すように視線を巡らせつつわたしが告げると、晴樹はばつ悪そうに何かを言いよどむ。


 適当な台詞を考えるように数秒の間を空けてから、


「茜は、先に逃げてるだけまだマシだろ? 立場的にヤバイのはオレたちの方だよ」


 と、もっともらしく聞こえる言い訳を吐き出してきた。


 聞き方によっては、恋人より自分の身の安全を優先したいとも受け取れる発言ではと思いつつ、わたしは晴樹へ不審の目を向ける。


「それは確かかもだけど、普通もう少しくらい心配してあげても良くない?」


「そんなの場合によるよ。さすがに今は――」


 わたしの言うことに反論しかけて、晴樹はビクリとしたように唇の動きを止めた。


 その理由がわたしにも把握できたため、問い詰めるようなことはしなかった。


 自分たちの出てきた穴から、微かに嫌な音が聞こえてきていた。


「…………」


 水を叩きつけるようなその音は確実に音量を大きくさせ、こちらへ迫ってきていることを伝えてくる。


「これ、あの化物じゃ……」


 喉を震わせて呻く晴樹へくっ付くように移動しながら、わたしは小さく首を横に振る。


「嘘……まだ竜次中にいるのよ? それなのに……」


 それなのに、どうしてあの異形と化した貴秀たちが先に入口に来てしまうのか。


 その疑問は喉の辺りで停滞し、口から全て出し切ることはできなかった。


「夏純、走るぞ。ここに立ってたら駄目だ」


 わたしの肩をドンと叩き、晴樹はすぐさま踵を返して走りだした。


「あ、ちょっと待って――」


 急いでわたしも後を追い、あの道とは呼べないような茂みを掻き分けた跡を辿りはじめる。

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