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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第四部:風岡夏純 ②
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第四部:風岡夏純 15

「何にせよ、こんな所に落ちたら助からないね。竜次、危機一髪だったじゃん」


「だな。しかし、本気でわからねぇ。結局ここではどういうことがあってこんな事態になっちまってるんだ?」


 不気味な大穴。黒く変色した秋本 夢美の死体。未だ行方不明の貴秀。


 今更になってようやく、得たいの知れない恐怖が身体の芯から沸き上がってくる。


 自分の回りで、何が起きているのだろうか。


 竜次が口にしたばかりの疑問を、わたしも脳内で膨らませる。


 姉の自殺を理由とした、妹の復讐。


 そういったものを想定してここまで来たのに、その妹は目の前で変わり果てた姿となり死んでいる。


 こんな展開、予想していなかった。


「……きっと、祟りに触れたのよ」


 状況が飲み込めず呆然としているわたしたちに、茜がこぼした呟きがまとわりついてくる。


「……祟りだ? 茜、つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ。笑えねぇぞ」


 茜の呟きに反応した竜次が、不愉快そうに片目を細める。


「だって、こんなのそうとしか考えられないじゃない。ここ、絶対に昔儀式をやっていた場所なのよ。こんな所に入り込んだから、その子は祟り殺された。角田くんも、きっと……」


 震えるように告げて、茜はわたしたちの背後、巨大な穴を見据える。


「そんなこと、まさか……」


 その茜の視線が示す意味を理解し、わたしはつい頬の辺りをひきつらせてしまった。


 この下に、幼なじみがいるかもしれない。


 わけもわからず呼び出されたなら、貴秀はライトを用意していなかったかもしれない。


 当然、見通しは劣悪で足元に待つこの無慈悲なトラップになんか気がつくのは難しかったはず。


(違う。まだ貴秀までここに来たって決めつけるのは早い)


「おいおい、茜。頼むからこんなときにそういう不安を煽るような――」


 彼女の空気を読まない発言に無理矢理笑おうとしながら、晴樹が優しく注意をしようとするその声に重なって。


 ズチャ……ズチャ……という、水を含ませた麻袋を引きずるような異音が背後の穴底から近づいてきていた。


 全員が穴へ意識を戻し、息を飲む。


「……何の音だ? だんだんでかくなってきてるぞ」


 警戒するように闇を睨みつけ竜次が言い、わたしは真美の妹を踏みつけないよう注意しながら穴から離れて距離をとった。


 その間にも謎の音は大きくなり、すぐにでもその正体を見せるのではないかと焦燥感と恐怖心を煽ってくる。


「ちょっと、これ本気でヤバイんじゃないのか? こんな所から這い上がってくるようなのって、どんなのだよ」


 わたしの真似をするように下がってきた晴樹が、緊張で掠れたような呻きを口にすると同時に。


 ビチャッと、ひときわ大きな音を鳴らし、真っ黒になった人間の腕が穴から突き出しライトに照らされた。


 そして、同じように黒い頭がゆっくりと現れ、漆黒に淀んだ瞳をわたしたちへ向けてくる。


「――!」


 泥だらけの顔と歪な角度に捻れた首を見せつけながら、穴から完全に這い出ようとしているその音の正体。


 足元に転がる秋本 夢美同様、全身が黒に染まった元は人間だったはずの存在。


 その顔は、わたしの幼なじみであり、秋本 夢美と共に失踪していた貴秀本人のものだった。


「……貴秀? そんな、どうして……」


 驚きで思考が停止し、まともな情報処理ができない。


 黒い化物――としかこんなのは呼びようがない―― と化した貴秀は、わたしの声に反応してニタリと笑うと更に身体を引きずり、完全にその姿をさらけ出した。


 着ている服は、汚れが酷いものの学校の制服だと一目でわかる。


「貴秀、お前どうしたんだよ……。大丈夫か?」


 恐る恐る声をかけ反応を窺おうとする晴樹を、前に立つ竜次が腕を横に伸ばして制止する。


「竜次?」


「近づいたりするなよ。こいつは、よくわからんが何かマジにやばそうだ。もっと下がれ。これはもう、恐らく俺たちの知ってる貴秀じゃねぇ」

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