第四部:風岡夏純 14
「……? ――っ!」
そこから更に距離を詰め、わたしは反射的に足を止めると、漏れ出そうになった声を抑えるため口元へ両手を押し付けた。
「お、おい……。これって……」
距離を縮めたことで、横たわる物の正体がはっきりとなる。
全員が手にするライトの光は問題となるその一ヶ所に集約され、より明確にそこにある存在を際立たせてしまっていた。
わたしたちの通う滝竹高校の女子制服を着た、人間らしきモノ。
最初はうつ伏せに倒れているのかと思いかけたが、服の向きでそうではないことに気づく。
「……それ、人間なの?」
横たわるモノは、顔面が墨でも被せられたかのように真っ黒く染まっていた。
いや、顔だけではない。
微かに開いた口の中も、服の袖から出る両手も、見える全てが黒に変色している。
真っ先に頭に浮かんだのは、目の前のそれが時間をかけて腐敗した死体ではという、おぞましい想像。
だけれど、それにしては全く腐敗臭がしてこない。
生まれてから一度もそんな臭いを嗅いだことはないけれど、これだけ閉鎖された空間で無臭ということはあり得ないはず。
(これって……)
そして次に頭へ浮かんだのが、愛のニュース。
家のベッドで、黒く変色していたらしい友人。
(ニュースで聞いた死に方と似てるような……)
「おい晴樹、もうちょい近づけ」
「あ……ああ」
竜次に促され、晴樹は乗り気でない返事をして慎重に死体の側まで移動する。
わたしもまた、見えない糸に引かれるように先へ進む。
そうして、死体との距離がゼロになり改めてその正体を確かめたことによって、わたしたちの混乱は一気に増幅する羽目となった。
(う……そ……)
ここで何があったのか、それはわからない。
ただ、目の前にある死体の両目は驚きに見開かれ、口元は引きつったように歪んでいた。
眼球も口内も、全てが黒。
人間の形をした別の何かを目の当たりにしているような、異様な違和感。
だけど、そんな感覚以上にわたしを戸惑わせたのは、この死体そのものだった。
(これ……この顔って……)
色こそ変わり果てているものの、忘れたりはしない。
(間違いない)
足元で黒い死体となっているのは、わたしたちが探しだそうとしていた人物、秋本 夢美本人だった。
「ど、どうなってるんだこれ? この子、真美の妹だよな? 何でこんなとこで死んでるんだよ?」
困惑したように呻く晴樹。
「……その先、どうなってるんだ?」
及び腰になり、今にも尻餅をつきそうな晴樹を押し退け、竜次は死体を跨いでその先へと進んだ。
暗く広い、このおかしな空間の終着点と思われそうな場所。
そこへ向かい、中を覗き込もうとした瞬間に。
「――うぉっ!?」
竜次にしては珍しく慌てたような声をあげ、逃げるように大きな身体を後退させた。
「どうしたんだ?」
「……行き止まりだ。何なんだこいつは? すげぇ深い穴が開いてやがるぞ」
「穴……?」
足元を照らすようにライトを向ける竜次の元へ、わたしと晴樹が近づいていく。
チラリと振り向き茜の様子を確認すると、彼女は固い表情を浮かべ立ち尽くし全く動こうとしていない。
無理に呼ぶのも嫌がるかもと思いひとまずそっとしておくことにして、わたしは男子二人が覗いている広い空間に意識を戻した。
細い道の終着点は、まるで地面が切り抜かれたかのように、深く大きな穴が開いていた。
ライトの光を当ててみても、底が深くてよく見えない。
頭上から染みだしているらしい水滴が穴の中へと落ち、ピチャン、ピチャンと不気味な音を奏で続ける。
「ライトが無かったら、確実に落ちてたね」
すぐ横で、晴樹がゴクリと喉を鳴らすのがわかった。
「……底の方は、ありゃどうなってんだ? ぬかるみっぽくも見えるが、よくわからねぇな」




