第四部:風岡夏純 12
開けた場所へ出たことで安堵したか、竜次はわたしを追い越して前へ出るとすぐに周囲の確認を始める。
ライトで照らされる範囲を見る限り、思ったほど広い所ではないとわかった。
下草の途切れた土の中からは隆起した木の根が蛇のような曲線を描き、歪に絡み合っている。
そんな不可思議な空間の一角に、目を引くものが存在していた。
「あれ何だろ……?」
全員それに気がついた様子で、じっとその一点へ視線を固定する。
断層みたいになっている箇所の下に、人が一人ギリギリ通れるくらいの穴がポッカリと口を開けている。
秩序なく絡まり合う木の根たちも、まるでそこだけを避けるように左右へ分かれ、まるでここへ足を踏み入れた者を中へと誘っているかのように感じられた。
「人が歩いてた痕跡も、ここで途切れてるみてぇだな。たぶん、ここまで来た奴はその中に入ったんだと思うぜ」
光を吸い込む暗い穴へライトを向けながら、竜次が言う。
「入るのか?」
「……ええ。ここまで歩いてみて、そう頻繁に人が行き来した痕跡はなかったと思うの。だから、ここにはまだ警察も来てないのかもしれない。調べる価値は、絶対にある」
横目でこちらを見てくる竜次へそう答え、わたしはその穴へと向かい一歩を踏み出した。
そっと屈み込み、まずは中の様子を探る。見た目通りに狭いけど、進めないこともなさそうだった。
(これなら、大丈夫。足元にさえ気をつければ……)
地面は多少でこぼこしているけど、この程度は許容範囲。
「何が起こるかわかんないから、注意しなよ? なんなら、オレが先頭で行こうか? 後ろを竜次が守っても良いし」
「ん……じゃあ、お願い」
晴樹の申し出に素直に頷き、わたしは穴に入れかけていた足を戻し横へずれた。
「この中、結構音が反響しそうだね。なるべく静かに行動しよう。もし誰かが隠れてるとするなら、簡単にこっちの存在がばれちゃいそうだ。……まぁ、これが熊の家だったらお終いかもしんないけど」
そう告げて、穴の中へと入っていく晴樹へわたしも続く。
完全に無言となった茜とポーカーフェイスの竜次も中へ入り、警戒しながらゆっくりと奥へ移動していく。
最初は屈みながらの進行を余儀なくされていたけれど、徐々に天井が高くなり腰を曲げる必要がなくなっていった。
道はひたすら一本道。
わたしたちを包む土壁は湿り、ひんやりとした感触を掌へと伝えてきた。
「ん? 何かある」
「え?」
中へ入って、十分も過ぎた頃。
前を向いたまま足を止めた晴樹の声につられるようにして、わたしはライトの当てられた場所を彼の肩越しに窺った。
「……あれって、名前なんだっけ? 祠?」
通路の途中、少しばかり道幅が膨らんだ所に、ボロボロに崩れかけたミニチュアの神社みたいなものが建っていた。
近づいて、間近で観察する。
腐ったように黒ずみ、朽ちかけた祠。
大きさはどれくらいだろう。たぶん、一メートルくらいか。少なくとも、わたしの身長よりは全然低い。
「確かに、祠ってやつだねこれは。表にあった神社の旧式かな。取り壊すのが躊躇われて、そのままにされてるとか、そんな感じがする」
ブスブスになっている屋根部分に顔を寄せて観察しながら、晴樹が言う。
「だとしたら、これもこの地区を守ってる神みてぇなもんなのか? かなり古いが、風雨に晒されてるわけでもねぇ場所に建てられて、それでここまで劣化してるってのは、かなり年季入ってんじゃねぇか?」
「知らないわよそんなこと。かなり古いってことだけは確かだろうから、晴樹の言ったように昔使ってた神社の名残かもしれないけど」
それほどの興味も無さそうに訊いてくる竜次へ告げ、わたしも祠をじっと眺める。
気持ち悪いから触れて確かめはしないけど、朽ち果てていること以外は普通の祠でしかないように思える。




