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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第四部:風岡夏純 ②
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第四部:風岡夏純 11

「……行き止まり? 何もないよね、これ以上」


「そう、ね」


 肩透かしをくらったように立ち尽くし、それぞれが好き勝手な場所を照らして辺りを窺う。


「茜が見たのは錯覚だったみたいだな。誰もいねぇ。誰かの影がライトの明かりに合わせて動いただけだったんじゃねぇのか?」


「ん……。でも、本当に見たような気がしたんだけど――あ」


 呆れたように竜次に言われ、納得のいかない様子で口元を歪ませかけた茜だったけれど、急に山の奥、木々の密集する方向へライトを向け動きを止めた。


「ねぇ、皆。これ……、ここ、何だかおかしくないかしら?」


「え?」


 茜の指摘した箇所を、わたしもライトを当てて確かめる。


 雑草が無秩序に伸び、道と呼べそうなものはどこにも見当たらない。


「ほら、ここをよく見て。まるでつい最近、誰かが掻き分けて通ったように雑草が左右へ傾いてるような気がしない?」


「……ああ、言われてみりゃあそんな痕跡があるな」


 一歩草藪に近づき、竜次が顔を寄せ調べながら頷く。


「ひょっとしたら、ここから奥へ逃げたのかも……」


「今見たって人影が?」


「ええ……」


 曖昧に首肯する茜と目の前の草藪を見比べ、わたしは僅かに眉根を寄せる。


 そんな一瞬で、この中を分け入って行けるものだろうか。


 仮にできたとして、音も立てずにはさすがに無理だと思うけれど。


 ただ、それとは別に気になることもある。


 この先に最近誰かが入っている形跡があることは事実。


 だとすれば、それが貴秀たちである可能性は否定できない。


(どうしよう……)


 道のない木々の先を見据え、進退を考える。


 わたしの言葉を待ってくれているのだろう三人が押し黙りながら立ち尽くす一時の空白に、ガサリという何かが枝葉を掻き分けるような音が正面の闇から漏れ出てきた。


「……今の、聞こえた?」


「うん、動物かな? 風とかではなさそうだけど」


 わたしと晴樹が、また藪の中へ光を当てる。


「やっぱり、誰かがいたのかしら……」


 茜の怖がるような呟きを耳に入れながら、わたしはお腹へ力を入れて覚悟を決めた。


「行ってみよ」


 音の正体はともかく、人が歩いた場所であるなら、確かめていく価値はある。今更悩むのも優柔不断なだけだろう。


 自分の中にこんな度胸があったのかと不思議に思いながらも、わたしの足は掻き分けた跡をなぞるようにして奥へ向かい動きだす。


「これさ、もし何かあっても簡単には引き返せなくなるよね。考えなしに動いたら、いざってとき逃げ道間違えて迷うことになりそうじゃないか?」


「んなもん、ここまで来て気にしたってどうにもならねぇだろ。ひとまず、行けるとこまで行くだけだ」


 ガサガサと鳴る音と共に、背後では男子が億劫そうに会話を交わす。


 問題のバス停からそれほど離れていない位置にあった、山へ入る小道。その終着点に建てられていた、古びた神社。


 さらにその裏手に続く、この人工的な獣道とでも呼べそうな謎のルート。


 客観的に見て、怪しくないとは言い難い。


 疲労や息苦しさによるストレスで、背後でしていた会話は十分程で途切れ、その後は微かな息切れの音だけが山の奥へと吸い込まれるようになった。


 二十分、三十分とひたすらに歩き、さすがにわたしもこのまま先へ行くのを躊躇い始めた頃に、


「あ……」


 足元にまとわりついていた下草の不快感がなくなり、停滞したように籠っていた空気がクリアになるのを察知し、わたしは動かしっぱなしだった足を止めた。


「どこだここは?」

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