第四部:風岡夏純 10
色々なリスクを背負い、怖気づきたくなる気持ちをほんの僅か抱えながら歩いていると、
「おい、これ見ろ。山ん中入れるぞ」
先頭を歩いていた竜次が道の横を照らして足を止めた。
その光の先へ目をやると、確かに狭い横道が存在している。
歩き始めて、四、五分程度。
今が日中なら、停めた車も確認できるのではというくらいの距離だ。
「ここ行くの?」
気後れする、と言うより本当にここで良いのかと問うような口調で晴樹が問う。
「行くだけ行ってみよう。もし途中で迷いそうな感じだったら、その都度考えて判断していくしかないと思う」
ぐだぐだ悩む時間は、そのまま無駄な時間へと化けていく。
意を決し、今度はわたしが先陣に立ち狭い山道へと足を踏み入れる。
木々の生い茂る空間に変わったからか、肌に絡みつく空気の質が変化したのがわかった。
地味な不快感に苛まれながら、足だけは止めずに歩き続けた。
後ろに付く三人も、愚痴をこぼすわけでもなくただ黙々と歩を進めている。
入り込んだ山道は、ただひたすらに一本道だった。
果たしてどこに繋がる道なのかという疑問と、こんな単純な道なら真っ先に警察が立ち入り調べ終えたハズレのルートではないかという、萎えるような気分が胸中に膨らみ混在してくる。
(これは、別の道を探した方が正解だったかな)
そう思い、自分の判断に後悔しかけたタイミングで。
突然視界が開け、オープンな空間へと抜け出した。
時刻を確かめると、十時十分を表示している。
山道に入ってから、かれこれ三十分近くは歩いていたということだ。
「何だここは……神社か?」
正面に鎮座していた黒い塊を、竜次が照らし出す。
古臭い木製の階段と、真上にぶら下がる鰐口。
その先にある扉は閉ざされ、南京錠が付けられている。
「神社、で間違いないわね。でも、中には入れそうにないし、人が入って隠れることも……できないっぽいかな」
社殿へ近づき床下を覗き込んだりしながら、わたしは言った。
「まぁ、ここらへんはもう警察が立ち寄って調べたりしてるんじゃないかな? たぶんここがこの地区を守る神様祀ってる神社なんだろうし、近所の人も真っ先に疑った場所の一つでしょ」
「そうね……」
「ここはこれで行き止まりか? 三十分近くも歩いてこれじゃあ、完全に無駄足になっちまったな」
見える範囲をぐるりと照らし、竜次が舌打ちを鳴らす。
「――え? やだ、ちょっと!」
突然、ずっと黙って付いてきていた茜が神社の横を見つめて驚いた声を響かせた。
「どうしたんだ、茜?」
「岩沼くん、そこ、もう一度照らして! 今誰かいたような……」
心配する晴樹を無視し、茜は見つめたままの空間を指差し竜次へ声をかける。
「あ?」
言われた竜次が即座にライトを傾ける。
だけど、全員で注目するその先に、人の姿はなかった。
あるのはただ鬱蒼と生い茂る草木のみ。
「誰もいないけど。気のせいじゃないのか?」
強張りかけていた肩の力を抜くように息をつきながら、晴樹が言った。
「ううん、絶対そこに誰かが立ってたの。ライトを向けた瞬間逃げるようにその、神社の横へ移動するのが視界の端に見えて……」
「横? 裏に逃げたってことか?」
茜の説明を聞いた竜次が、ずんずんと前へ歩いていき人影が消えたらしい場所を覗き込む。
社殿と生い茂る草木の間。
神社の裏側へと続いているのはわかるけど、その先がどうなっているかまでは想像できない。
「道、続いてるの?」
「さぁな。こっからじゃよくわからねぇ。行ってみるか?」
わたしの問いかけに応じながら、竜次は一人で裏へと向かい始める。
慌ててその背中を追いかけるも、竜次の足はすぐに止まってしまった。




