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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第一部:秋本夢美 ①
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第一部:秋本夢美 6

 そんな床を数秒だけ見つめてから、あたしはスイッと瞳を前に戻す。


「お姉ちゃんが自殺した理由について、何か知ってることはありませんか? どんなことでも良いんですけど……」


「そのことなら、学校でアンケート取ってるはずだけど」


「それはもちろんわかってます。結果、特に問題はなかったってことも。でも、そんなはずはないんです。お姉ちゃん、家の中では自殺するほど思いつめるようなことはなかったですし、塾とかバイトをしてたわけでもないからそういった場所で問題を抱えてたってこともあり得ません。そうなると、あたしにとってはやっぱり学校の中で何かしらのトラブルを抱えてたのかなって考えるしかなくて……」


 そう訴えるあたしの言葉を、先輩は目を逸らすことなく聞いている。


 まるでこちらの胸中を探るような表情の内側は、果たしてどんなことを思っているのか。


「学校で実施したアンケートなんて、何も知らないって一言書けばそれまでです。誰か、お姉ちゃんを自殺にまで追い詰めた犯人が嘘をついて紛れ込んでるんじゃないかって、そう思えて……」


 そこで、あたしは言葉を切った。


 そこから暫くの時間、重い沈黙が見えない綿雪のように降り積もる。


 階下から聞こえてくる生徒たちの笑い声がまるでラジオの音みたいに耳へ届き、近いのに遠い存在であるかのように感じられた。


 場の空気に耐えられなくなりはじめ、うなじの辺りがソワソワし始めた頃。


 先輩が、無理に喉を震わせるようにして呟きを漏らしてきた。


「おれは、当事者じゃないから一から十全てを把握してるわけじゃないし、誤認してる部分もあるかもしれないけど」


 前置きするようなその一言を皮切りに、先輩は誰も上がってくる気配のない階段を見下ろしながら話し出す。


「アンケート結果の何もないってのは、きみの言うように嘘で間違いないと思うよ。秋本さん、影で角田(かくた)たちに何かしらの嫌がらせを受けてたのは知ってるし。ただ、誰もそれを咎めたり暴露したりはできないでいるから、表面上は問題ないように見えてるけど」


「角田?」


 聞き覚えのない名前に、あたしは首を傾げる。


「ああ。同じクラスの角田(かくた) 貴秀(たかひで)。さっき教室にいたけど、見てない? この辺角刈りみたいにしてさ、うるさい声で喋ってた茶髪の奴」


 この辺と言いながら先輩が示したのは、自分の耳まわり。


 たぶんツーブロックみたいな髪形を言い表したかったのだろう。


 思い返せば、確かにそんな風貌の男子がいたような記憶がある。


 窓際の壁に背を付けて教室全体を見渡せるような恰好で喋っていた、いかにもチャラそうな男子。


「あの人がお姉ちゃんに何かしてたんですか? 誰も止めないでいたのはどうして? 先生も知らないんですか?」


 落ち着かなければと思いつつも、つい矢継ぎ早に質問してしまう。


「うん、確実に何かはしてた……と思う。毎日話しかけて、コソコソやり取りしてたのは見てたから。秋本自身、いつもすごく困ってるって言うか、怯えてるような顔しててさ。あ、これは影で何かやってるなって。でも、言い方を変えればそれだけなんだよ。周りで把握してるのは。暴力とか無視とか、そういうのは一度も見たことなくて。人前だから遠慮してたってだけで、裏では案外頻繁に痛めつけてたりしたのかもしんないけどさ。この件に関しては、先生はたぶん誰も知らない。皆さ、あのメンバーたちのこと怖がってるから。巻き込まれたくないって言うか、必要以上に関わるのを避けてる感じ。仲間の中に喧嘩慣れしてる岩沼や市長の娘もいるから。まともな証拠もなしに問題にして、敵に回したくなんてないんだよ」


「市長の娘って、箱沢って人ですか?」


「ああ、そう。知ってるんだ? まぁ、有名だもんね。箱沢(はこざわ) (あかね)の父親は政界との繋がりが広いらしくて、その気になればこんな学校やその辺の企業くらいいくらでも圧力かけられるって噂あるんだよ。あいつを敵にしたら家族にまでとんでもないしっぺ返しがくるんじゃないかって、皆普段から顔色窺ってるよ」

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