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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第四部:風岡夏純 ②
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第四部:風岡夏純 8

        3


(夜の駅って、考えてみるとあんまり来た記憶ないな……)


 午後九時を少し過ぎたばかりの夜目沢駅。


 駅自体、それほど頻繁に利用する施設ではないのだが、こうして時間帯を少しずらして足を運ぶとそれだけで何故か新鮮な感覚を味わえた。


 すぐ側に立つのは、茜と晴樹の二人のみ。


 駅の入口がある方向からはちらほらと人が歩いてきたりするけれど、誰もわたしたちを気にするでもなく市街地の方へと消えていく。


 離れた場所に見えるタクシー乗り場では三台ほどが客待ちをしているけれど、そこに近づこうとする人影は一人もない。


「あ、来たかな」


 駅前と繋がる道路を眺めていた晴樹が、静寂を破る。


 それにつられて彼と同じ方向を見やると、ちょうど青い一台の車がこちらへ近づいてくるところだった。


 三人並び、車へと近づく。


「やっぱりそうだ、竜次で間違いない。随分高そうな車乗ってきたみたいだけど、いつもこんなの乗り回してるのかな?」


 周囲のうら寂しい空間に響く、晴樹の声。


 わたしたちがすぐ側まで寄ると、助手席側の窓が開いた。


 運転席に座る竜次が身をのりだし、車内を親指で示してくる。


「とりあえず、さっさと乗れ。ひとまず移動するぞ」


 すぐ近くにある交番を気にしているのか、珍しくソワソワする竜次へ従い、わたしたちは車に乗り込んだ。


 一応、四人の中で一番植染に対する土地勘が強い茜が助手席へと座った。


「もう真っ直ぐ向かって良いんだよな?」


 バックミラー越しにわたしを見て、竜次が問いかけてくる。


 愛がまだ到着していないことに触れないということは、彼もまたニュースを観て事態を把握しているのか。


「……うん。良いよ」


 小さく頷いて了承を示すと、竜次は前方に視線を固定しアクセルを踏み込んだ。


 東京みたいな場所とは違い、外の景色は寂れた雰囲気を醸し出し、ここが地方の田舎に過ぎない事実を突きつけてくる。


 それでもまだ、夜目沢市を通る間は信号やコンビニ、遅くまで仕事をしている会社の明かりが散見できた。


 だけど、植染町に入り山間部方面へと近づくにつれ、光度の弱い外灯がポツポツと並ぶだけの寂れた光景に変化していき、無意味に心細さを膨らませられる。


「…………皆さ、愛のことはもうテレビで観た?」


 ずっと沈黙が詰め込まれていた車内に、晴樹がポツリと呟きを混ぜ込む。


「原因がいまいちわからないけど、いったい何があったのかな。昨日まであんなに元気だったのに……」


「……」


 竜次も茜も何も喋ることなく、じっと晴樹の声を聞いている。


「ニュースでは身体が黒くなってたとか言ってたけど、あれ、具体的にはどんな状態を言ってるのかもいまいちわからないし。……オレたち、こんなことしてて大丈夫なのかな? 少し不安になってきてるんだけど」


 いつもなら柔らかい口調を崩さない晴樹が、今はインフルエンザにでも罹ったかのように気弱な声音になってしまっている。


 だけどそれは晴樹だけではなく、前に座る二人も同じようなものだった。


 茜はずっと顔面を蒼白にして深刻な表情を張りつけたままでいるし、竜次も見た目こそ普段と変わらなく思えるが、道に迷っているかのように目元が険しくなっている。


「……わたしも、それは気になってるけど。今の段階ではそのことを考えてもどうしようもないと思うの」


 誰も口を開かないため、仕方なくわたしが晴樹と向き合う。


「愛のスマホには何度か連絡をしてメッセージも残してる。本人は当然、そんなことを確認できる状態じゃなくなってるんだろうけど、家族とかさ、着信とかに気づいて折り返しの電話とかしてくることもあり得ると思うんだよね。でも、そういうのが今のところないってことは、愛の家族にそこまでしてる余裕はゼロなんだって考えるべきだろうし、ひょっとしたらスマホ自体見てないかもしれない」

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