第四部:風岡夏純 6
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想定していなかった事態が発生したのは、夜の七時を十分程過ぎたときだった。
茜たち三人と貴秀探しの段取りを立て終えたわたしは、その後真っ直ぐ家に帰宅した。
五時半頃に愛へ電話をかけても相変わらず反応はなく、仕方ないと留守電とメールを送り返信を待つことに留めていたが、一向に連絡がくる気配はなかった。
父親は夜勤で、家の中にはわたし一人。
適当に買い置きしていたもので夕食を済ませ、簡単にシャワーくらいは浴びておこうかと立ち上がりかけたとき、スマホに着信が入った。
一瞬、愛からかと思いすぐに確認するも、相手は茜。
若干落胆しながら通話をタップし、わたしは電話にでた。
「もしもし、どうしたの?」
まさか土壇場にきて行きたくないとか言い出すつもりではと疑いながら、声をかける。
「あ、夏純? 私だけど……もうニュース観た?」
だけど茜はこちらの猜疑心になど気がつく気配もなく、動揺したような口調で意味のわからない言葉を返してきた。
「は? ニュース? そんなの観てないけど。……まさか、いなくなってた二人が見つかったの?」
咄嗟に浮かんだ最悪な事態を口に出し、ついスマホを耳に当てる力を強めてしまう。
「ううん、違う。そうじゃなくて……」
「え? じゃあ何よ、びっくりさせないで。事件のことで何か新しいことでも――」
「――死んだって」
脳裏から漏れ出そうになった望まぬ展開を即座に否定され、安堵するわたしの喋りを遮って。
「地元のニュース番組で、さっき取り上げられてた。夜目沢市に住む高校二年生、青柳 愛さんって、……一人しかいないわよね?」
茜は、震えるのを必死に堪えているような声音でそう言ってきた。
「……え? ちょっと待って。茜、何言ってるの? こんなときにからかってる? どうして愛が死んだりなんかするのよ」
「そんなこと、私にわかるわけないでしょう。でも、おかしいのよ」
「おかしいって、何が?」
「愛の死に方。全身が真っ黒になって変死してたって。今日のお昼頃に、家族が自室のベッドで死んでるの発見したらしくて、何が起きたのかはまだ全然判明してないみたい。あんまり詳しく放送してなかったから情報が足りないけど、ねぇ、これ、どう思う?」
「……」
そう問われても、わたしにはさっぱり状況が理解できない。
いきなり電話をかけてこられ、昨日までヘラヘラして元気に笑っていた愛が死んだと告げられた。
それも、死因は不明で全身が真っ黒になっている状態で。
(意味わかんな過ぎじゃん……)
こちらを驚かせる作り話だとしても、もう少しまともなことが言えるはずだろうに。
「……あ! 夏純、テレビ、すぐに点けてみて! ニュースやってる局あるから、そこを観て! 今中継してる!」
「は? 中継?」
急かされるようにして、わたしはテーブルに置かれていたリモコンを掴みテレビを点ける。
適当にザッピングしていくと、すぐに茜の言うニュース番組を発見した。
「あ……」
テレビの中には、若い男性リポーターがバインダーのような物を片手に早口で何かを喋っている。
そして、その背後には見知った光景が映し出されていた。
過去に数回だけ行ったことのある場所。
そこは間違いなくわたしたちメンバーの一人、青柳 愛の自宅前だった。
画面に映し出されたテロップには、白い文字で<一体何が? 女子高生謎の変死>と記されている。
《亡くなっていたのは、この家に住む長女の青柳 愛さん。高校二年生。今日の昼頃、いつまで経っても起きてこない愛さんを不審に思い家族が部屋へ行き、そこで愛さんの遺体を発見しました。遺体はベッドの上に仰向けの状態で寝ており、身体の全身が変色でもしたかのように黒くなっていたそうです。室内の様子などから、何者かが愛さんの部屋へ入ったような形跡は低く、警察は事件性はあまりないものとしながらも、事件、事故、また愛さんに何らかの持病などがなかったかなどについても今後詳しく調べていく方針です。繰り返します――》
「…………」
これには、さすがに言葉を失った。
愛が死んだ。
テレビ局までわたしをからかうわけがない。
茜が言った通り、本当に愛は死んだ。
(どうして……)
「……ねぇ、夏純。覚えてる? 昼間、私が見せた植染町の歴史。過去に、あの辺りで多くの人が奇病を患って死んだ話」
「え……?」
呆然とテレビ画面を観ていたわたしは、茜の言葉に反応が遅れる。
「愛、全身が黒くなって死んでるって。これ……偶然かしら? 角田くんたちが失踪したのが植染の山神地区で、そこでは昔身体が黒くなる奇病が流行していて。……私や岩沼くんが黒い変なモノを見たのも二人が消えた後。挙句、愛がこれでしょ? こんな偶然、考えられる? こんなの、まるで……呪いみたいで気持ち悪くない?」




