第四部:風岡夏純 3
「ならどうするのさ? 警察が捜索してるような場所を見つからないようにしながら歩き回れってこと? それこそ、今竜次が言った通りに無謀だ。お手上げじゃないか」
「そうでもない……と思う」
呟いたのは、わたしではなく茜の方。
俯くようにして視線を落とし、じっとテーブルを見つめている彼女へ、全員の意識が集まる。
「場所が山でしょう? だから、警察とかも夜間の捜索は打ち切ってるみたい。二次被害みたいなことを想定しているんだと思うけど。……夜なら、誰にも見られずに山神地区を探索することは可能。でも、あの辺りは外灯もほとんど無いし、山中なんて何が出るかわからない。リスクは大きい。それに……」
そこで一度言葉を止め、茜は躊躇うような仕草を見せた。
「それに、どうしたの?」
「まだ言ってねぇことがあるなら、さっさと全部言っちまえ」
男子二人から急かされて、茜はそっとスマホを取り出し何やら操作を始めた。
二人を無視しているわけではなさそうなため、わたしたちはじっと茜の行動を見守る。
二十秒程の沈黙に耐えた頃、茜は操作していたスマホをテーブルの中央へと置いた。
「私、昨日お父さんと話をした後、植染について簡単に調べてみたの。少しでも役に立つことが載ってないかなと思って色々見てみたんだけど、そしたらこんなおかしな話があって……」
そう言ってスマホを指差す茜へ従うように、わたしたちは置かれたスマホを覗き込んだ。
「……何だこいつは? 小難しいことばっか書いてあるな」
小さな文字がびっしりと詰め込まれたそのページに、竜次が渋面を浮かべる。
「これ、植染の歴史かな?」
「ええ。もうずっと昔の話みたいだけれど、あの辺り天水田とか呼ばれていた時代があったらしいわ。そのときに、村の中で流行していた奇病があったみたいで……」
茜の説明を聞きながら、わたしは画面に羅列された文字を目で追っていく。
遥か昔の植染町、天水田で起きた原因不明の病。
発症した人たちが真っ黒になって死んでいくという、聞いたことのない症状。
そして、その病を神の怒りと考えた村人たちが、その怒りを鎮めるため若い命を生贄として捧げていたという実態。
それにより奇病は治まり平穏を取り戻すも、定期的な生贄の提供は続き、やがて何かの争いに巻き込まれた村はその機能を失い消えてしまった。
すぐ目と鼻の先にある地域で、こんな不気味な過去を持つエリアが存在したことにわたしは驚いた。
だけど、これはあくまでこの天水田と呼ばれた場所と時代で発生した問題であり、今わたしたちの抱えている事柄とは一切の関係性はないように思われる。
「……一応読んだけど、これがいったい何だって言うのよ? 貴秀たちの失踪と関連はないと思うけど?」
スマホから顔を上げ、深刻そうな表情を崩さない茜へ向き直る。
「二人の失踪って言うより、その奇病のこと。私が夜に見た黒い影を連想しちゃって。二人がいなくなった場所が昔奇病の流行した土地で、それとタイミングを合わせたみたいにおかしなモノを目の当たりにした。……何だか、角田くんと真美の妹が山の神様の祟りとかに巻き込まれたりしてるんじゃないかって思えたりして」
「はぁ? 馬鹿馬鹿しい。茜、あんた会ってからずっと様子変だなって感じてたけど、そんなくだらないこと考えて深刻ぶってたの? 何よ、祟りって。小学生じゃあるまいし、あり得ないでしょ。まぁ、ここに書いてある奇病っていうのは実際にあったのかもしれないけど、これ、江戸時代くらい前の出来事でしょ? そんな大昔の問題がどうして今更出てくるの。茜の見た影なんて、所詮悪戯か錯覚。気にしてるだけ時間の無駄よ」
茜らしくないあまりに幼稚な発言に、さすがにわたしも呆れてしまった。
「ああ……そう言やぁ」




