第四部:風岡夏純 2
「一人だったって。角田くん以外、そこで下車した人は誰もいなかったそうだけど」
そう答えて、茜は話せることに区切りがついたのかそのまま口を閉ざす。
「時間帯が違うとは言え、二人揃って同じ場所に行ってるってことはその降りたバス停の近辺を調べれば何かはわかるんじゃねぇのか?」
背もたれに身を預け、腕組みをしながら竜次が告げてくる。
「だね。あの辺なら、隠れられそうな廃屋や空き家くらい普通にありそうだし。それ以外にも、ほら、山の中とかによくあるじゃん? 変電所みたいなやつ。電力会社で管理してて、金網で囲われてるような小さい建物。ああいう場所だって、その気になれば身を隠せるはずだし」
「いや、ああいうのは普段鍵かかってんだろ?」
「窓とかあれば割って入れるでしょ? どうせ滅多に人なんて来ないんだろうし、暫く隠れるだけなら利用できるさ。もちろん、後先を考えなければって条件付きでだけど」
「ふん……」
男子二人の会話を聞きながら、わたしは貴秀のことについて考える。
バスで山神地区へ向かったという情報は、警察が絡んでいるのなら信憑性が高い。
そうなると当然、次はバスを降りてそこからどこに移動したのかが問題になるわけだけど、秋本 夢美と貴秀はどこかで合流したのだろうか。
そういった部分に関しても、何かしら目撃情報があれば更に有利な展開にできるかもしれないのだが。
「他には? それ以外には何か聞いてないの?」
期待を込めてわたしが訊くと、茜はちらっと瞳だけをこちらへ向け再び口を開いてきた。
「二人が降りた場所って、田んぼや畑くらいしかない、本当に寂しい所なの。ほとんど山間部みたいな感じで、土地勘のない人が無闇に山道なんかへ入っちゃったら道に迷うか、最悪の場合猪や熊に襲われる危険性もあり得るって、お父さんが言ってたわ」
「熊? マジにいんのかそんなもん」
突然出てきた言葉に、胡散臭そうに眉を寄せて竜次は茜を睨む。
「知らないわよ、そんなことまで私興味ないし。でも、お父さんが言うんだからいるんじゃないの?」
「お父さん、どこかに隠れられそうな建物があるなんて言ってなかった? 山の中に空き家があるとか、そういう話はない?」
竜次の視線を冷たく見つめ返す茜へ、わたしは更に質問を投げる。
「ほとんど何もない場所だって言ったでしょう? 誰も使ってない建物の一つくらいなら、どこかにはあるのかもしれないけど、そんなの警察が近所の人たちに訊いてもう目をつけてるわよ。……ただ一つだけ、少し気になったことは山中のどこかに山神地区を守る神様の社があるってことくらい」
「社? 神社のこと?」
「恐らくは。まぁ、年に一度地区の住民たちで大掃除をする程度で、後はずっと鍵を掛けて管理してるそうだからそんな所にはいないだろうってお父さんは言ってたけど、そこだってすぐに警察が調べるでしょうね」
じゃなきゃ、もう調べ終えてるかもしれないし。
そこまで言って肩を竦め、茜はまたカップに口を付けた。
「だったらどうする? そこまで警察が調べてんなら、俺らがでしゃばる余地があんのか? 仮に今からそのバス停まで行ったとしても、収穫なんかあるとは思えねぇ。むしろ、彷徨いてる警察に見つかって職質されて終わりだろ」
「……うん、それはあると思う」
言葉の内容ほど困った様子も見せない竜次に同意しながら、手をこまねいて考えを巡らす。
「もうさ、二人を探すのは諦めて、オレたちがしてきたことがばれたときの言い訳考えとく方が効率良くないかな?」
肩肘をテーブルに付いて全員を見回すように晴樹が言うも、わたしはそれを即座に否定した。
「駄目よ、いくらこっちが誤魔化したって、夢美が全てをばらせば警察はそれを調べる。ここまで行動を起こしてるんだし、その動機がわたしたちのしてきたことにあるって話されたら、捕まる確率の方が遥かに高いわよ」




