第四部:風岡夏純 1
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七月二日。土曜日。午後三時二十分。
夜目沢駅の裏へと回り、そこから狭い路地を暫く歩くと、小さなケーキショップがある。
コンビニより若干広い程度の店内には常にクラシック音楽が流れ、ゆったりした気分を提供してくれるのが一番の魅力だろうか。
チェーン店みたいなものではなく個人経営をしている店で、わたしが小さい頃には既に当たり前のように存在していたことを踏まえると、もうかなり昔から続く隠れた老舗みたいな存在とも言えなくはない。
そんな店を、わたしは待ち合わせの場所として指定していた。
「――もう約束の時間を二十分過ぎたけど、青柳さん本当に来るの?」
一番窓際の席に座り、時折通り過ぎて行く通行人を眺めていた晴樹が店内の時計を一瞥してそう問いかけてきた。
「さぁ。今朝皆と同じ時間に一斉メールしてあるから気づいてるとは思うけど、返信がないのよ。何か急用があって遅れてる可能性もあるし、これ以上待ってても仕方ないからわたしたちだけで話を始めよっか?」
スマホを確認しながらわたしは告げて、それから全員を見渡す。
竜次、茜、晴樹、そして自分。二人欠落したいつものメンバー。
「だな。いつまでも座ってるだけじゃ時間の無駄だ」
モゾリと尻を動かして姿勢を変えながら、竜次が代表するように同意を示した。
「メールに書いてた新情報ってのは、何のことだ?」
「うん、それはわたしじゃなくて茜から話してもらう。正直、わたしもまだ詳しいことは聞いてないから」
竜次の問いへ答えながら、わたしは暗い表情の茜を見やる。
今朝早く、わたし宛に届いた一通のメール。
<真美の妹と角田くんについて、お父さんから情報を仕入れたの。警察が既に植染町で二人を目撃した人から話を聞いてるって。これ、皆にも伝えた方が良い?>
これを読んですぐ、わたしはメンバー全員へ召集のメールを送信した。
待ち合わせ場所としてこの店を選んだのは、普段からそれほど客がおらず、落ち着いて話ができるから。
愛からは返信がなく気になっていたけれど、
「いやぁごめんごめん、後で返信しようと思って忘れてた」
というのが彼女の常套句でもあるためどうせけろっとした態度で姿を見せることだろうと深く考えていなかったのだが、このことに関してだけは失敗だったかもしれない。
とは言え、最悪このまま来なかったとしても明後日に学校で文句を言ってやれば済むことだ。
「え? 茜もう何かわかったのか?」
隣に座る彼氏の意外そうな顔にぎこちない苦笑を浮かべ、茜はコクリと首肯する。
「うん。昨日の夜、仕事から帰ってきたお父さんに話を振ってみたらもう色々事情を把握していたみたいで。出張先でも関係者なんかから電話をもらったりしてたみたい。それで、警察と繋がりのある人からも情報提供されてて、お父さんも事件の解決にはできる限り協力するって」
「そういう前置きはどうでもいい。わかったことは何だ?」
ポツポツと語りだす茜の喋り方に焦れた様子で、竜次が先を促す。
「いなくなった二人の足取りってことになるのかしらね。隣町で見かけた人がいたらしくて、警察がその事実確認をしてる最中らしいわ」
言って、茜は紅茶を口に運び唇を湿らせる。
「目撃情報……。それ、具体的にはどういった内容なの?」
「真美の妹の方は、いなくなる二、三日前にタクシーで山神地区のバス停まで移動していたらしいというのがまず一つ。それと、消えた当日に今度はバスで同じ場所まで乗っているのが確認されてる。時刻は昼過ぎらしいから、行方がわからなくなったタイミングと重なるわね。あと、角田くんの件。これも失踪した日の夕方にバスで山神地区に向かっているのが目撃されてるわ。きっと、学校が終わった後そのまま移動したんじゃないかしら」
「その、貴秀が目撃されたときは一人だったの? 他にも誰かが一緒だったりはしてない?」
思った以上に具体的な内容が飛び出し、わたしは僅かに身を乗り出した。




