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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第一部:秋本夢美 ①
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第一部:秋本夢美 5

 その途中、ほんの一瞬。


 先輩が、花の飾られた机を一瞥したのをあたしは見逃さなかった。


 このタイミングであたしがここへ来た理由。それに関して何かしら察するものがあったのか。


 笑いながらも笑えていない先輩の瞳を見つめ返して、あたしは遠慮がちに口を開いた。


「あの、ちょっとお話があるんですけど、良いですか?」


「え? おれに? ……別に良いけど、何の話?」


 人差し指で自分のことを示しながら言って、先輩はまた教室の中へ視線を飛ばす。


 その視線が、今度はお姉ちゃんの席ではなくて別の位置、教室の奥へと向いたことに気づいたあたしはさりげなく首を曲げその瞳が映す光景を追いかけた。


「……?」


 一番窓際の真ん中付近。


 そこに、四人の男女が集まり楽しそうに雑談をしている。


 このクラスの生徒だろうから過去に何度かは見ているはずだけれど、お姉ちゃんのクラスメイト全員にはそれほど関心を持ったことがないため記憶に薄い。


 全員、名前もわからない。


(あ――!)


 そう結論を下しかけたとき、一人だけ記憶にヒットする人物が紛れていることに気づいた。


 確かひと月ほど前だっただろうか。


 お姉ちゃんに会うためここへ来た際に、教えてもらったことがある。


 下の名前は度忘れしてしまったけれど、名字は覚えている。


 箱沢(はこざわ)。それで合っているはずだ。


 あたしが暮らすこの夜目沢市の市長、 箱沢(はこざわ)光世(みつよ)の次女。


 そう説明を受けていたことで、印象には残っていたのだ。


 でも、裏を返せばそれだけ。他に情報があるわけでもない。


 これ以上彼女たちを見つめていても話が進まないため、あたしは先輩へと顔を戻した。


「お姉ちゃんのことで、訊きたいことがあるんです。少しだけでも良いので協力していただけませんか?」


「……真面目な話、だよね?」


「はい」


 問い返してくる言葉に、小さく首肯する。


「とりあえず、ちょっと場所変えようか。ここじゃ色々まずいから」


 声をひそめるように告げ、先輩は階段の方を指差す。


 それに従うようにして付いていくと、三階を通り過ぎ屋上へ出るためのドアの前まで移動させられた。


 学校の規則として、普段屋上へ出ることは許可されていない。


 現に今も先輩が確かめるようにドアノブを回してみたけど、ガチャガチャと金属音が鳴るだけで先へ進むことはできないようだった。


 とは言え、先輩もそれは承知していたのだろう。


 さして気にする風でもなく手を離すと、くるりと身体の向きを変えあたしと対峙してきた。


「さて、具体的な用件は何?」


「……」


 屋上の立ち入りは禁止でも、階段の掃除は毎日誰かがやらされているのだろう。


 話の切り出し方を考えるために足元へ落とした視線の先は、人の往来がない場所にも関わらず全然埃が積もっていなかった。

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