第三部:風岡夏純 16
「カメラとか、大丈夫かな?」
「カメラ?」
「町の中とか店にある色んな防犯カメラ。ひょっとしたら、あたしたちと真美が一緒に映ってる映像とかどこかに残ってたりするかも。当然、角田くんの姿も」
全員が、息を飲むように硬直する。
「いなくなった妹のことを探すとなると、警察がそういう部分にも目をつけることって、あり得るよね?」
「……それは考えてなかったな。あからさまに姿映ってたら、身元の特定なんか一瞬だろうね」
晴樹の眉間に皺が寄る。彼が本気で悩んでるときに見せる特徴だけど、今は悩みより焦りの方が強調されているかもしれない。
「ベストなのは、大人たちがいなくなった二人を見つけるより先に、オレたちが見つけだすことかな。でも、もし風岡さんが考えてるように夢美って子が貴秀を監禁しているとするなら、どのみち警察沙汰になって事情聴取をされるはず。そうなれば、オレらのしてきたことなんか全部ばれて終わりじゃないかって問題も出てくるけど」
晴樹の意見に同意を示すべく頷きながら、わたしは全力で頭の中を回転させる。
愛や晴樹の言うことは、一理ある。
わたし自身、警察の捜査なんて全くわからないのが実情だけれど、秋本 夢美の失踪が本格的な事件性を帯びてくれば防犯カメラの解析くらいすぐにやるだろうし、完全に一つの事件として認識されれば自分たちへ目を向けられるのはすぐだ。
「…………都合の良いことを言えばだけど、貴秀を無事に助けて尚且つ真美の妹の口を封じさえすれば、完璧よね?」
「口封じって、どんな?」
小首を傾げて、愛が訊いてくる。
「真美のとき同様、何でも良いから弱味を握るの。そうしてうまく従順にさせちゃえば、何もなかったことにできるかもしれない」
「理屈はわからんでもないが、弱味を握ってどうにかなるのか? 相手が自暴自棄にでもなってたら、それこそ通用しないだろ」
「じゃあ、これ以外に何か考えはあるの? 事態が把握できない、それなのに自分たちが追い詰められてるのは明確な事実。こんな状況、黙って耐え続けるなんてわたしには無理。だから、まず進行してる事態を少しでも理解しなくちゃいけないと思う。……茜、あなたのお父さんなら植染町のこととか警察の捜査状況なんかわかったりはしないの?」
竜次へ向けていた視線を横にスライドさせていき、茜の顔で止める。
「……今はお父さん仕事で東京。今日中には戻るけど、まだ事件とかそういうのは全然把握してないと思うわ。とりあえず、山神地区のことと合わせて訊いてはみるけど」
まだ不満そうな様子が滲むまま、茜はそう答えてきた。
「お願い。情報収集に関しては、この中じゃ茜が一番頼りになるから。明日、結果を教えて。どんな些細なことでも良いから、聞き出せることはなるべく多く聞いておいてもらえると助かる」
「好き勝手言ってくれるわね。まぁ、やってみるけど……」
「仕方ないでしょ? わたしたち、本当に後がないかもしれないんだから。もう少し危機感を持つべきよ」
警告、というわけでもなく単なる現実として吐き出した言葉だったけれど、そのわたしの一言にまたまた全員の表情が険しくなった。
目の前で明らかに進行している、掴み所のない異変。
そのことに対して、ほとんど把握すらできていない無力な存在の自分たち。
ジワジワと追い込まれていくような漠然としたプレッシャーが、重く背中におぶさってくる。
この重さは、ここに集まる全員が少なからず感じ取っているはずだ。
(……真美の妹、余計なことをしてくれるわ)
背中から染み込む重みが胃と食道まで浸透し、苦味となって口の中へ広がろうとするような不快感を、わたしは喉に力を込めて飲み下した。




