第三部:風岡夏純 13
「一人だってば。何? ひょっとして怖がらせようとかしてる?」
子供の悪戯に呆れたような調子で言いながら、晴樹は背後を確認する。
「そんなつもりじゃなくて、本当に声がするの。聞き取りにくい低い声で、生贄がとかすぐに何とかかんとかって同じようなこと繰り返してるんだけど……」
「ひょっとして、混線とかかな?」
「スマホが? そんなことあるの?」
「知らない。何となく思いついただけで、聞いたことはないけど。とにかく、オレの側には誰もいないし、茜が見たとか言う変な人影? それも気のせいか何かじゃないのか? 貴秀のこともあるし、無意識のうちに神経が張りつめて疲れてるんだよ。今日は早めに休んだ方が良いぞ」
「ん……」
今一つ納得していないのか、歯切れの悪い返事をする茜へ晴樹は、
「オレ、今から晩飯買ってくるからさ。また明日ゆっくり話をしよう」
と告げてそのまま通話を切った。
話し相手の声がなくなった室内には、相変わらずの静寂が漂う。
「いきなりおかしなこと言うのは勘弁してくれよな……」
ぼそりと呟きながら立ち上がりスマホをポケットに捻じ込むと、晴樹は今度こそ夕食を買うために外へと出ていった。




