第三部:風岡夏純 9
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「山神って、植染でも結構山間部の地区よ。あんな所と角田くんが本当に関係してるの?」
教室へ戻って早々に。わたしはたった今仕入れたばかりの話を晴樹以外の三人へ伝えた。
全員黙ったままわたしの言うことを聞き終え、真っ先に口を開いてきたのが茜だった。
さすがは市長の娘というべきか、こちらが問題の地名を述べてすぐ、ピンとくるものがあったらしい。
「茜はその場所知ってるの?」
「まぁ、一応ね。お父さん側の親戚が住んでるから、何度も連れていかれたことあるし。あの辺り、特に目立つようなものは何もないわよ? 植染自体が寂れてる中で特にその傾向が強いような地区だし。住んでるのはほとんど老人。後は農家の後継ぎで一緒に暮らしてる夫婦とか、そういう人たちばかり。……スーパーやコンビニもあそこら辺には無かったと思う」
わたしは、肩にかかる自分の黒髪をいじりながら頭の中にある知識を提供してくれる茜をジッと見つめ話を聞く。
「あそこまで行くには、徒歩や自転車じゃちょっときついわね。車で行くのが無難かしら」
「そもそもよ、あんな場所に角田が行く理由があんのか?」
普段からしているように腕を組み、目つきの鋭い顔を茜に向け竜次が問う。
「知らないわよ。だから私もそれを訊いてるんでしょ」
眼前を飛び回る羽虫を嫌うような表情でそう答え、茜はわたしへと視線を移してきた。
「大体、その聞いた話が角田くんの失踪と関連していると決定したとして、夏純はそれでどうしようと思っているの? 探しに行くつもり?」
言われたわたしは、僅かに首を傾け
「正直どうしていいかわからない」
と、素直に告げた。
「調べるにしても、おおよその場所がわかってるってだけで範囲は広い地区なんでしょ? 山間部ってことは、当然山の中とかもエリアに含まれてるんだろうし……。空き家とか、山の中にある廃屋なんかに閉じ込められてたりってことは、あり得ると思う?」
質問は、特に誰かを特定して発したわけではない。
誰でも良いから妙案を出してくれないかという、淡い期待を込めた台詞にすぎなかった。
「閉じ込められてさ、角田くんはどうしてるの?」
「そんなのは知らないけど、尋問みたいなこととか? 真美について、色々吐かされてるかもしれない」
不安げな瞳を向けてくる愛へそう返し、わたしは椅子の背もたれへと体重を預けた。
監禁され、尋問される貴秀。
頭の中に浮かぶ憶測に、現実味が薄いことはちゃんと理解している。
いくら弱味を握られたからって、年下の、それも華奢な女子に監禁されるなんて話は少し強引過ぎる。
それに、秋本 夢美が本当に貴秀をどこかへ閉じ込めたのだとしたら、それは既に犯罪だ。
そんなリスクを冒してまで、そう簡単に行動できるだろうか。
わたしたちのいじめを知って、それをどうにかしようと思ったのなら大抵は親や教師に報告するのが一般的な気がするし、それ以外でなら警察やいじめを取り扱う団体みたいな所へ相談するのが妥当だろう。
(……何か、腑に落ちないな)
貴秀を連れ出し、自分自身も姿を消す。
そんなことをした時点で、周囲の大人が心配して動きだすことくらい馬鹿でもわかる。
そして、発見されてしまったら軽い説教程度じゃ済まされないことも。
(そういったリスクを抱えてまで、秋本 夢美がやろうとしていることって何なの?)
まさか、貴秀を殺して自分も自殺とか?
一瞬そんな禍々しい仮説が脳裏を掠めて、わたしはその思考から逃れるようにして窓の外に見える葉桜へと視線を固定した。




